イベントレポート
CEATEC 2025
ソニーは異例のコンセプトでCEATECに出展、社内外のスタートアップを支援、イノベーション促進へ
2025年10月16日 11:43
ソニーグループのCEATECへの出展を振り返ると、2023年は「アクセシビリティ」、2024年の「イメージング/センシングテクノロジー」といったように、テーマを絞り込んだブースづくりが、毎年話題となってきた。そのソニーグループが、今年のテーマに選んだのが、イノベーション支援制度「Sony Acceleration Platform」である。通称は「SAP(サップ)」だ。
2014年にスタートしたSAPは、イノベーション創出支援と、オープンイノベーションの促進を目的としたプラットフォームだ。スタート時点では、ソニー社内の新規事業促進プログラムに留まっていたが、2018年10月からは、社外にもサービスを提供。2024年からは、新規事業支援だけでなく、経営改善や事業開発、組織開発、人材開発、結合促進など、事業開発における幅広い課題を支援するとともに、ソリューションの拡充に向けて、外部パートナーとの連携強化に取り組んでいるところだ。
これまでに27業種、約300社の組織や企業の事業開発を支援しており、業界や国の枠を超えたネットワーキングを実現してきた経緯がある。
特徴的なのは、ソニーグループが持つ技術やソリューションとの連携によって、新たな事業を創出するための仕掛け作りが用意されている点だ。さらに、アイデアの創出から、人材開発までをワンストップでサポート。事業開発支援や、組織・人材開発支援も行う。
「イノベーションの社会実装に、ソニーグループがどう貢献できるのか」
CEATEC 2025のソニーグループブースのテーマは、「Beyond the boundaries」である。
ソニーグループでは、同社の10 年後のありたい姿を描いた長期ビジョン「Creative Entertainment Vision」を掲げ、その実現に向けた最大のドライバーを、クリエイターやパートナー、社員、ソニーグループの多様な事業を、組織の壁を超えて有機的につなげ、新たな価値を創造する「バウンダリースパナー(Boundary Spanner)」としている。
SAPは、多様なパートナーとの連携や協働を実現する事業開発のプラットフォームであり、感動を創出、育成、拡張する場を作る「バウンダリースパナー」として、境界を超えたイノベーション支援を行うことになるというわけだ。
「イノベーションの社会実装に、ソニーグループがどう貢献できるのかを、ブース展示を通じてアピールする。CEATEC 2025のテーマである『Innovation for All』を実現するブースづくりを目指した。SAPの取り組みを知っていただき、参加してもらえる企業を増やしたい」と述べた。
電機大手としては異例のスタートアップエリアへの出展Sony Acceleration Platformをアピール
実は、ソニーグループは、電機大手としては異例ともいえる出展方法を採用している。
CEATECにおいて、電機大手が出展する場合には、基本的には、「General Exhibits」のエリアが対象となる。だが、ソニーグループが今年出展したのは「ネクストジェネレーションパーク」であり、いわば、スタートアップ企業や大学研究機関、企業内新規事業開発部門が出展するエリアなのだ。
そのため、ソニーグループの展示ブースの前には、スタートアップ企業などの小さなブースが並び、見方によって、ソニーグループがこれらのスタートアップ企業の総元締めのような雰囲気すらある。
つまり、CEATEC 2025のソニーグループブースでは、出展テーマの「Beyond the boundaries」で掲げたように、境界を超えた価値創造(バウンダリースパニング)の事例や、Sony Acceleration Platform がグローバルにイノベーション支援を行う仕組みやサービスを、展示ブースで紹介。「ネクストジェネレーションパーク」の出展者だけでなく、「ネクストジェネレーションパーク」に出展しているスタートアップ企業や研究機関に関心を寄せる来場者に対しても、SAPを訴求していくことを狙っている。
唯一の展示品は、ウェアラブルサーモデバイス「REON POCKET PRO」「Sony Acceleration Platformで生まれた製品」として
展示内容にあわせて、あえて、「ネクストジェネレーションパーク」に出展することを決断したのが、今年のソニーグループのこだわりであり、電機大手の出展方法としては、これまでにないものになった。
展示ブースを入ると正面に展示しているのが、ウェアラブルサーモデバイス「REON POCKET(レオンポケット)」である。ソニーグループブースのなかでは、唯一の製品展示だ。
REON POCKETは、SAPが主催した社内起業プログラムを経て、2020年に事業化し、一般販売を開始。2023 年にスピンオフして、現在は、ソニーサーモテクノロジーが、22の国と地域で事業展開している。ブースでは、2025年5月に発売したハイエンドモデル「REON POCKET PRO」を展示した。
REON POCKETは、首元に装着して本体接触部分で、身体の表面を直接、冷やしたり、温めたりすることのできるデバイスで、REON POCKET PROは、2つの独立したサーモモジュール(DUALサーモモジュール)を初めて搭載。従来モデルと比較して冷温部面積が約2倍に増大したほか、新開発の放熱ファンを搭載し、バッテリー容量を増加することで、従来比最大約2倍の吸熱性能と、最大約2倍の駆動時間を実現している。
様々な視点でのベンチャー支援を展開、課題解決やマッチング、資金調達も
一方、ブース壁面に設置されたディスプレイでは、SAPの設立の背景や、これまでの活動、存在意義、今後の戦略などについて紹介している。
具体的には、SAPを構成するサービスとして、事業開発における課題解決を支援する「Acceleration Service」や、2025 年 1月から提供を開始したビジネスマッチングプラットフォームサービス「Boundary Spanning Service」を展示。Boundary Spanning Serviceは、すでに利用登録組織数が1000件を突破。これらのなかから、協業事例の紹介したほか、2026年3月までは無料で提供しているサービスを、2026年4月以降は無料プランに加えて、有料プランも提供と、サービスを本格化する予定であることも示していた。
また、ソニーのコーポレートベンチャーキャピタル「Sony Innovation Fund」と、SAPの連携によって、出資から育成までを行い、スタートアップのイノベーションを支援する仕組みや、2024年から開始したソニー・ミュージックソリューションズ(SMS)によるSAPを通じたエンタテインメント領域でのイノベーション創出支援についても説明。提供しているサービスや支援事例を紹介した。
さらに、SAPのグローバル展開についても紹介。2016年から、スウェーデンにも拠点を設置し、国際機関や大学、スタートアップと連携しながら、欧米、アフリカ、アジアなどでも支援を進めてきたことを示している。
デジタルツイン「Mapray」やIP活用の事例も紹介
ソニーグループが提供するサービスとして、デジタルツイン開発プラットフォーム「Mapray(マップレイ)」も展示した。
Mapray は、地形、衛星・空撮画像、3D都市モデル、点群、ベクトル地図などの様々な情報を集約し、高度なデータ活用や分析を可能にするプラットフォームで、SDKやAPIを通じて、Maprayを利用し、サービスやアプリの開発が可能になる。多種多様かつ大容量のデータを高速および高品質にレンダリング可能なグラフィックスエンジン「maprayJS」と、最適化された高品質な 3 次元データと、地理空間データを生成、管理、配信する「Mapray Cloud」で構成されており、デジタルツインを活用した柔軟なサービス開発環境を提供する。Mapray による新たな価値創出のために、パートナーや顧客を探索しているという。
さらに、ソニーグループでは、「Creative Entertainment Vision」を掲げ、IP の価値を最大化する取り組みを推進しており、その代表的な事例として、サバイバルアクションゲーム「The Last of Us」を紹介していた。 HBOでのオリジナルドラマシリーズ化や、CES 2025 におけるロケーションベースエンタテイメント体験の実証実験など、ゲームの領域を超えて事業展開しているバウンダリースパニングの事例と位置づけている。
ブースは今年もエコ仕様、グリーン電力に籾殻原料のユニフォーム
一方、CEATEC 2025では、出展ブース評価制度として、「CEATEC 2025 エコ&デザインチャレンジ」を新たに設けており、ソニーグループは、第1回目の優秀賞として選ばれた4社のうちの1社となった。
「CEATEC 2025 エコ&デザインチャレンジ」は、サステナブルで、創造的な展示ブースづくりを推進している出展者を表彰するもので、一般社団法人日本イベント産業振興協会(JACE)の協力のもとに実施。脱炭素や資源循環といったブースにおける環境配慮のほか、デザイン性、革新性の観点から総合的に評価し、主催者である一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が表彰するものだ。
ソニーグループブースでは、木材による設営を少なくし、展示台にも間伐材や再生材料を使用。展示の説明に使われる紙にも、ソニーが開発した再生紙素材であるオリジナルブレンドマテリアルを使用した。また、ブース全体を覆う素材にも布を使用し、材料の廃棄量を減らしている。展示に使用しているディスプレイも、ソニーグループ内で使用しているものを流用しているという。さらに、スタッフが着用しているユニフォームにも、籾殻を原料とした多孔質カーボン素材である「Triporous(トリポーラス)」を使用しているという。
CEATECのソニーグループブースは、環境に配慮した展示でも先行してきた経緯があるが、今年のブースづくりでもその姿勢には変わりがなかった。