イベントレポート

Japan IT Week 春 2014

スキルギャップはクラウドで解消すべき~Google講演

「Web&モバイル マーケティング EXPO 春」基調講演レポート

 5月14日から16日まで、東京ビッグサイトにて「2014 Japan IT Week 春」の1イベントとして「Web&モバイル マーケティング EXPO 春」が開催されている。15日はグーグルの阿部氏が登壇し、ビッグデータやクラウドといった最近のトレンドに対して、グーグルがどういった取り組みを行っているのか、それらがマーケティング活動においてどう影響するのか、丁寧に解説した。

データサイエンティストに頼らない方法を

グーグル株式会社 エンタープライズ部門 阿部 伸一氏

 「Googleが解き明かす最新マーケティングプラットフォーム事情」というタイトルで講演したグーグル エンタープライズ部門の阿部氏は、昨今のビッグデータの流れをかつての産業社会になぞらえて説明した。工業の発展段階では付加価値のある商品が次々に生まれ、暮らしが豊かになるとともに公害などの問題も顕在化したが、現在のネット社会もデータ量が増えてきたことで使えるデータ、使えないデータが出現してきている。しかしそのデータを「いかに活用していくかが大きな鍵になってきていることは確か」だとした。

 Googleでは、すでにビッグデータとして意識することがないほど、ビッグデータとされる大量のデータを日常的に扱っている。YouTubeでは1分間に72時間分の動画がアップロードされ、Gmailは5億ものアクティブユーザーが存在し、膨大なメールデータを日々さばいている。モノのインターネット(Internet of Things)という言葉も聞かれるようになったが、同氏は「ネットにつながっているモノはまだ1%未満と言われている」とし、今後さらに多くのモノがインターネットに接続することで、新たなデータが生まれてくるだろうと話した。

 そのように世の中がインターネットに向かう中で、これまではインターネットと直接関係なかった業種、業界も無関係ではいられないと阿部氏。たとえばオンラインショップはリアル店舗のチームとは独立して仕事していたかもしれないが、商品の仕入れから販売まで、リアルとネットが業務を融合させるような動きも見られる。「この融合によってデータはかけ算で増えていくことになるだろう」とし、それに合わせて「オンライン、リアルの世界の情報を掛け合わせて分析しようというニーズが必ず出てくる」と話す。

 データの取り扱いについては、これまで企業の中ではIT部門のスタッフがカバーしてきた。ただ、データの処理・集計、データの管理・保管といった点はITスタッフが行えるが、同氏が最も大切だと考えるデータの“分析”はITスタッフではカバーしきれない。実際の企業活動を行うマーケティング部門や営業部門の人間の手が必要だ。しかしこれにも課題はある。

 ある調査によれば、2017年には、マーケティング部門が情報技術関連に投資する金額は、従来のIT部門より大きくなるだろうと見ている。つまり、マーケターもITに関する専門知識が必要になってくるわけだが、そこにはどうしても“スキルギャップ”が生じやすい。マーケターが大量のデータを効率的に分析できるほどのIT知識を身につけられるとは限らないからだ。

 ITスタッフに手助けしてもらうにしても、その協力で得られる成果を上回る膨大なデータ量が押し寄せる可能性もあると阿部氏は指摘する。基本的な仕事のやり方が根本で変わっていかないと、そのスキルギャップがビッグデータやオンラインマーケティングに本格的に進む際に、大きな足かせになるだろうとも予測している。

 一方で、“データサイエンティスト”という立場も新しく生まれ始めている。しかしながら、「誰がなるのか」と阿部氏。「統計学の専門家で、マーケティング部門とIT部門の間に入って翻訳してつないでいく人と言われるが、そういう人がたくさんいるとは思えない」と一蹴する。同氏は「データサイエンティストに頼らずどう現場の力を上げていくかが大きな課題、克服すべき試練」と見ている。

今後のマーケティングはクラウドの活用が基本

 マーケティング活動を行う人間にとって、今後増大するデータの分析に必要とされるITの知識やデータサイエンティストの視点は、どう考えていくべきなのか。阿部氏は「クラウドをもっと活用していけばいい」とシンプルな答えを口にした。「慣れ親しんだ技術を手軽に、専門性なく使えるものを採用することが、実際の現場力の向上につながる」だろうという。

 その1つのヒントがGoogleやGoogleのサービスにあることを同氏は示唆する。Google検索は実際には裏で複雑なアルゴリズムによって動いているが、一般ユーザーがそういった複雑な仕組みを考える必要はなく、シンプルなインターフェースで必要な情報を一瞬で得られるようになっている。ビジネスの現場で1人1人が確実にデータを使えるようにするには、「シンプルなインターフェースで、背後にしっかり技術力のあるものにしなければいけない」というのだ。

 また、いずれは「逆にクラウドじゃないと扱えないデータ量になる」とも同氏は考えている。現在は自社サーバーやホスティングサービスでビッグデータを扱っているところもあるが、処理ピークに合わせた高性能サーバーを準備するのは無駄が多いうえ、本来重視すべき本業に予算をかけられず、ビジネス機会の損失にもつながりかねない。この場合「並列処理や無限に自動拡張可能なクラウドが、非常に魅力的な選択肢になってくる」はずだ。

 このようにクラウドを選択すると、大きな初期投資は不要になるだけでなく、ビジネスの急拡大にも耐えられるため、アイデアを即実行に移せるのもポイントだとした。「失敗するのであればすぐに失敗した方が次に進めやすい。失敗を恐れずに繰り返せるか、そこを簡単にできるのもクラウドの魅力」だという。

 さらに、Googleが世界各地に設置している巨大なデータセンターや、それらをつなぐ高速なネットワーク、使用した分だけ課金される仕組みもGoogleサービスのメリットだとした。最近Googleが本格展開を始めた「Google Cloud Platform」に含まれるApp EngineやCompute Engineといった数々のサービスも、それらのハードウェア・ネットワーク基盤で動いており、ムーアの法則と同じように性能向上にともなって価格を下げていることも改めて説明した。

 同社がもつクラウド分析基盤BigQueryについても言及した。350億行ものデータを数十秒でスキャンできるリアルタイム分析の仕組みを、一般企業やユーザーが気軽に使い始められるとし、たとえばGoogle Analyticsのデータと社内情報システムのデータを掛け合わせた形で瞬時に分析できる機動性をもっていることも利点だとした。

 阿部氏は、世の中のデータの4~8割に位置情報や地理情報が付加されているとも話し、そういったデータの管理・分析にMaps Engine Proのような位置情報を簡単に見える化するツールを活用することも提案。「ビッグデータを扱うための道具を、いかにみんなが使えるようにするか、それをどうビジネスに活かしていくのか」を第一に考え、クラウドを迅速に導入すべきだと来場者に訴えた。

(日沼 諭史)