イベントレポート
第22回東京国際ブックフェア
国際標準フォーマット「EPUB」の現在と未来
(2015/7/17 06:00)
電子出版の国際標準フォーマット「EPUB」を推進する国際団体であるInternational Digital Publishing Forum(IDPF)が7月2日、東京ビッグサイトで行われた「第22回東京国際ブックフェア」の会場内で、セミナー「EPUB NOW AND FUTURE」を開催した。講師はIDPFエグゼクティブディレクターでReadium Foundation代表のBill McCoy氏。
IDPFとReadium Foundationのバックグラウンド
現在、IDPFに参加しているのは45カ国からの359組織で、40%が北米、34%がアジア、21%がヨーロッパ。日本からは出版社、印刷会社、ベンダー、業界団体など27組織が参加。これはアメリカに次いで多く、IDPFにとって日本は非常に重要な位置を占めているとのこと。IDPFのミッションは、電子出版のグローバルスタンダードを作り上げていくこと。そして、スタンダードであることをベースとして、戦略的に世界のデジタルコンテンツプラットフォームへ寄与することだ。
EPUBはオープンな国際標準フォーマットだが、実際にビジネスの場で活用するための「実装」が壁だったという。そこで、本番レベルのオープンソースソフトウェア開発をミッションとしたReadium Foundationが立ち上げられた。こちらには現在50組織が参加。主要メンバーにはAdobe、IBM、Google、Koboなどのほか、HachetteやPenguin Random Houseといった大手出版社も加わっている。
モバイルデバイス対応の重要性
EPUBをベースとしたデジタルコンテンツのプラットフォームという思想の中で最も重要な要素は、モバイルデバイスをベースにした利用を実現すること、デジタルネイティブな子供たちにモバイルデバイスの中でコンテンツに触れてもらうことだとMcCoy氏。例えば、「リフロー」によってどんなデバイスでも文章を読みやすくすることを実現しているが、それはあくまでEPUBの機能のひとつに過ぎず、双方向性や動画など、さまざまなコンテンツの要素をEPUBによって実現していくことが重要だと語る。
2011年にEPUB 3の仕様が公開されたが、この際の最大の意思決定はHTML5との相関性を持つようにしたことだという。HTML5は、本に限らずすべてのデジタルコンテンツに対応できる。重要なのは、例えば「AdobeのFlash」のような1社のベンダーに依存する形ではなく、オープンな形で展開していくこと。EPUBが目指しているのは、ウェブ上のコンテンツをポータブルなドキュメントとして利用可能なものにすることだとMcCoy氏。
EPUBプラットフォームのビジョン
EPUBの特徴は、アクセシブルであること、グローバル対応、モバイルデバイスへの最適化、オーサリングの容易さ、相互運用性などのさまざまな要素を、包括的に取り扱うことができる点にあるとMcCoy氏は言う。EPUBを取り巻くさまざまな要素はオープンソースだけでは実現できないので、ベンダーが独自に開発しているプロプライエタリな領域も取り込んでいくことにしたそうだ。
それゆえ、EPUBを取り巻く環境や対象とする世界は、IDPFだけの話ではなくなっている。パートナーとしてW3C、IMS GLOBAL、DAISY、BISG、EDItEURとなどとアライアンスを組むことで、実現へ向けて進んでいるところだという。なお、Readium Foundationはこの相関図の中で最も新しい組織だ。
EPUBプラットフォームの現況
EPUBは世界的に、一般的な出版物に採用されるに至っている。それを以前に実現したPDFを超える存在になってきた。PDFを否定するわけではないが、EPUBはリフローも固定レイアウトも実現している。つまり、PDFが実現してきた環境を、ある意味、EPUBは取り込んでいる。EPUBは「一般的な書籍」を超えたところをターゲットできる立場にあるというのだ。
EPUB 3の採用状況について。書籍に関しては世界中でほぼ実現し、ビューアーでEPUB 3の採用が進んでるだけでなく、オーサリング環境もEPUB 3対応になりつつあるという。ちなみに、ちょうどこのセミナーが行われる前日に、Appleの「iBooks Author」がEPUB 3出力に対応という発表があった。
IDPFのお膝元であるアメリカでは、最近まで「EPUB 2で十分」という意見が強かった。ところが、数カ月前くらいから、大手出版社がEPUB 3での制作へ切り替えるようになってきたそうだ。ISOの技術標準にもなった。また、DAYSYの仕様はすべてEPUB 3に取り込まれている。
デジタル教科書の世界標準「EDUPUB」
McCoy氏は今後の課題として、世界的にはまだ固定レイアウトのEPUB採用が進んでいない点を挙げた。一般書だけでなく、雑誌や教育分野にEPUBをどう採用してもらうかが大きな課題になっている。デジタル教科書の世界標準「EDUPUB」は、 ワークショップをすでに5回行い、一般書籍と異なる仕様を作り上げている最中だ。注釈をどう表現するか、Widget APIをどう作り上げていくか、すでに存在しているLMS(Learning Management System)をどうやって統合していくか、などが重要な要素になっている。
仕様はあくまで仕様であり、いかに利用してもらえるようにするかが重要。その「実装」がReadiumに繋がるのだとMcCoy氏。EDUPUBでは規格、仕様、実装とともに、正しさ(満足度)の検証もターゲットになっているそうだ。EPUBが全体のスタンダードで水平軸だとすると、教育や雑誌は垂直軸で、必要なものはさらに掘り下げていかねばならないという。
次世代バージョンEPUB 3.1とReadium
EPUBの新しいバージョンである3.1は、ようやく着手したばかりだが、1年半で公開する予定。コミック、科学、教育書、企業内書類など、さまざまなコンテンツへの対応を進めていくという。EPUB 3からの拡張なので、過去の資産ももちろん使える形になる。IDPFへすでに参加しているメンバーはもちろん、まだ参加していない方も、ぜひEPUB 3.1の制定作業に加わっていただきたいとMcCoy氏はアピールした。
Readiumのプロジェクトは、主に以下の3つ。
Readium SDKは、ネイティブアプリ向けEPUBレンダリングエンジン。Adobe RMSDKも、すでにReadium SDKを使用している。
ReadiumJSはJavaScriptライブラリで、クラウドのブラウザーアプリ向けEPUBレンダリングエンジン。Chromeウェブアプリとして、アクティブユーザーが46万人いる。
そしてもう1つがReadium DRM。DRMは大きな課題とMcCoy氏。Readiumは、簡易なDRMシステムを推奨している。オープンという考え方からするとDRMは対立する概念のようだが、「実用的」という観点からすると今はまだ全くDRMなしというわけにはいかないだろうと語る。
ReadiumのDRMプロジェクトは立ち上げたばかりだが、今ここで定めていき実装していくモデルが世界のさまざまなビューアー関連ビジネス企業に影響を与えていくことをご認識いただきたいとMcCoy氏。Readium Foundationにはまだ日本からの参加が少ないので、ぜひ関心を持っていただきたいと強調した。
というのは、オープンソースとはいえ、単にメンバーになるのとコントリビューター(貢献者)になるのとでは、扱える範囲が違うから。汗をかいた人間とお金を払った人間の意見が強くなるのは、デジュール(標準規格)の世界のスタンダード。完全なオープンにしているとお金が回らないので、どうしても主要スポンサーの意向が優先されるのだそうだ。
仕様としてのEPUBと、ビジネス化のためのReadium。Readiumの活動にかかわっている日本人が少ないので、ぜひ皆さん自身が参加し、その意思を反映していただきたいと締めくくった。
【お詫びと訂正 13:30】
記事初出時、「Bill McCoy氏」の名前が「Bill MacCoy氏」になっておりました。お詫びして訂正します。