イベントレポート
第17回図書館総合展
OverDriveが図書館に提案する、電子図書館成功への5つのポイント
(2015/11/13 06:00)
海外コンテンツの輸入と国内コンテンツの輸出
メディアドゥはOverDriveと2014年5月に戦略的業務提携をしており、「国内電子図書館事業の推進」のみならず、「多言語コンテンツの国内配信(輸入)」と「国内コンテンツの海外配信(輸出)」も行っている。
メディアドゥ取締役事業統括本部長の溝口敦氏は、「日本の電子図書館はまだまだこれからだと思っているが、国内の電子書籍市場がここまで盛り上がるのに10年かかったのだから、電子図書館も1年や2年で成り立つとは思っていない、これから盛り上げていきたい」と意欲を語った。
利用者に対し「何を提供するか」より「何ができるか」を考えることが重要
American Library Association(ALA:アメリカ図書館協会)会長のサリー・フェルドマン氏からのビデオメッセージでは、アメリカの公共図書館にはどのようにして電子図書館が普及していったかについての説明があった。
デジタル化の波が訪れる以前にアメリカの図書館が注力していたのは、物理的資料の保管や提供だったという。当時は、資料や情報の提供が不足しないよう必死だったそうだ。インターネットの登場により、情報が豊富な時代に突入。図書館もデジタルコンテンツの提供を開始したが、実際に利用者が増えたのは閲覧するリーダーの機能が向上してからだったらしい。
「図書館は学びの場だから、デジタルコンテンツを提供するだけではなく、その利用方法を教えていく義務がある」とフェルドマン氏。図書館は「利用者に何を提供するか」よりも「利用者のために何ができるか」を考えることが重要ではないかと語った。
全世界で3万4000館に利用されているOverDrive電子図書館サービス
続いて、OverDrive図書館営業責任者のクローディア・ワイスマン氏より、OverDrive電子図書館サービスの現況が説明された。
デジタルへの移行は、「ユーザー体験をいかに良くするかに尽きる」とワイスマン氏。アメリカではスマートフォンの爆発的普及で、2013年には端末普及率でPCを抜いて1番になった。つまり、公共図書館の課題は、スマートフォンユーザーをいかに図書館利用者へ引き込むかだという。
アメリカの電子書籍市場は、2006年当時は5400万ドルで書籍市場全体からすると1%に過ぎなかったが、2014年には34億ドルで26%を占めるまでに成長した。ただ、その成長には陰りが見えてきており、図書館向けなど小売以外が出版社の収入を押し上げる材料になりつつあるそうだ。
OverDriveの電子図書館サービスは現在、全世界で3万4000館に利用されている。アメリカ、カナダの公共図書館には90%以上、オーストラリアは85%に導入されており、アジアでもシンガポールやマレーシアで採用されている。
日本では、2014年11月に慶應義塾大学メディアセンターで実証実験を開始。2015年7月には龍ケ崎市立中央図書館、同9月からは潮来市立電子図書館への本格導入が始まっている。
2014年実績は、5000社の出版社から290万タイトルを預り、1億3700万回の貸出(対前年比33%増)、4億アクセス、25億ページビュー。2015年の貸出数は1億7500万回を見込んでいるそうだ。
電子図書館導入による8つの価値
ワイスマン氏は、図書館が電子図書館サービスを導入することには、8つの価値があると語る。
- 図書館を地域コミュニティにおけるイノベーター的ポジションにすること
- より一層の読者にリーチし結び付けること
- 場所やスタッフを増やすことなくリソースを拡張できること
- 技術と読書嗜好の進化に重要な役割を果たし続けられること
- いつでもどこからでも貸し出せること
- 利用者が文字サイズや背景色などの読書体験をパーソナライズできること
- 自動返却できること
- 本を盗まれないこと
以前は、アメリカの図書館の多くで、貸出回数がどんどん減少してたという。ところが電子図書館サービスの導入により、貸出回数は反転増したそうだ。年100万回以上貸出する“1 million checkout club”の図書館は、2012年には2館だったが、2015年には16館になるとのこと。
電子図書館成功への5つのポイント
また、電子図書館を成功させるには、5つのポイントがあるという。
- まず始めること
- コンテンツ
- テクノロジー
- トレーニング
- プロモーション
コンテンツが増えれば貸出数も増える。だから小さいところからでもいいので、まずは始めることが肝要だとワイスマン氏。現在ではほぼ出版業界全体のコンテンツがOverDriveのカタログに載っており、最近ではオーディオブックや映像まで網羅されている。
リーダーは一通りすべてのデバイスに対応し、ウェブ上の子供限定部屋なども用意している。図書館司書が利用するページでは、購入予算金額や、貸出回数報告、効率のレポートも確認できる。
また、過去10数年の経験から、すべてのプラットフォームの特徴を最大化させるためのトレーニングエキスパートを用意しており、どうすればユーザーに最大に楽しんでもらえるかというサポートもできる。
プロモーションも、例えばサン・アントニオ国際空港にさまざまなデバイスの急速充電ができるタッチパネル式キヨスク「OverDrive Media Station」を設置し、図書館カードを持っていない旅行者でも電子図書館サービスを利用できるようにしている。
また、電子図書館サービスは経験してもらわないとその良さが分からないということで、全米48州(ハワイとアラスカ以外)で移動図書館を実施している。楽天はこれを成功モデルとして参考にし、日本で「楽天いどうとしょかん」を展開している。
出向いて直接説明することが大切
楽天のOverDrive担当である高原耕一郎氏からは、北海道で開始した「楽天いどうとしょかん」で電子図書館サービスをスタートしたことや、楽天全社員向けの「楽天デジタルライブラリー」や、二子玉川の楽天新本社に付属する図書館といった取り組みが紹介された。
高原氏自身、OverDriveの移動図書館に帯同してみたが、やはり年配の方には「電子書籍」を読むことに対するハードルが高いと感じたそうだ。操作説明に1時間半くらい要するようなこともあったという。
また、アメリカの中学校に訪問して電子書籍の利用方法を説明する機会もあったが、かなり個人差があることも実感したそうだ。学校にはWi-Fiの設備があるのに、半分くらいの子が使えてないような現実もあったとか。やはり、出向いて直接説明することが大切だと高原氏。
最後にメディアドゥの溝口氏は、コンテンツを増やすことが電子図書館の利用促進に重要であること、コンテンツを増やすためには電子図書館の利用数増が重要であること、両方のスピード感が重要だとフォーラムを締めくくった。