津田大介氏「Twitterがもたらしたのは賛否両論の可視化。Facebookは賛ばかり」


 アジャイルメディア・ネットワーク株式会社(AMN)主催で15日に開催された「ソーシャルメディアサミット2011」の最後のパネルティスカッションは、IT・音楽ジャーナリストの津田大介氏、電通の佐藤尚之(さとなお)氏、博報堂DYMPの森永真弓氏、日立コンサルティング(POLAR BEAR BLOG)の小林啓倫氏という、インターネットやソーシャルメディアに関する論者が登壇。徳力氏が「個人の立場で、雑談っぽく」と紹介するとおり、ジョークをとりまぜながら、各自の意見が飛び交った。

「ソーシャル革命は“動員の革命”」

 徳力氏の「ソーシャルメディアとは何か」という問いかけに、津田氏が資料をスクリーンに映しながら話した。「去年は鳩山で始まり流出で終わった」という言葉をツカミに、「Wikileaks以前と以後で、メディアの役割が変わる」と語った。

津田大介氏

 そして、ソーシャルメディア革命として、モルドバ、イラン、中国、タイ、チュニジア、エジプトでの革命や社会運動を挙げた。津田氏は、「ソーシャルメディアが革命を起こしたというのは多分ちょっと違う。ソーシャル革命は“動員の革命”であり、それがソーシャルメディアの本質だ」と論じた。また、Twitter以前を「出る杭」(やる気がある人のもの)に例え、ソーシャルメディアを「納豆」(飛び出す人間を追いかける人間が出てくる)に例えた。

 さらに、動員の先にあるものとして「動員×マイクロペイメント」を挙げ、社会運動が無理に継続せずに必要が終わったら解散するような効率化が本当の意味での社会革命であり、動員から社会の結節点が生まれるまとめた。

「ソーシャルにリアルタイムが加わると強力」

 津田氏に対して徳力氏が「そう思った体験」を尋ねたことから、各自がソーシャルメディアの力を感じた体験が語られた。

小林啓倫氏

 津田氏は、自著『Twitter社会論』が出たときのことを話した。発売前日に紀伊国屋のTwitterアカウントのツイートで入荷を知り、「買いに行く」とツイートしたところ、ブックファーストのTwittterアカウントも入荷したと反応。さらに、まわりのみんなが反応して買った。さらに、みんなで感想文をTwitterに書いてRTも飛び交い、今でいうソーシャル読書会状態となったという。

 森永氏は、コミケの同人誌体験から、「クライアントからソーシャルメディアは“マス広告の次”と言われるが、同人誌のサークルのようなもの。リアルの口コミの単価を下げているのがFacebookやTwitterで、それはマス広告で欠けているもの」と語った。

 小林氏は、昨年4月にスペイン旅行に行ったところ、アイスランドの噴火で帰れなくなったときの体験を紹介した。情報が入ってこないので、iPhoneからTwitterに日本語で情報を求めるツイートをしたところ、情報が集まったほか、同じく足止めをくらっている日本人とも会えたという。また、地続きで帰れるヨーロッパ内で、車のシェアや電車網の情報を流す「#getmehome」というハッシュタグが自然発生的に広まったという。このとき、ソーシャルにリアルタイムが加わると強力と思い、著書『リアルタイムウェブ―「なう」の時代』を書いたと紹介した。

 佐藤氏は、鳩山元首相のTwitterの話を紹介。反響をモニタリングしていたところ、ポジティブな発言が多かったという。そして糸井重里氏が数年前に言っていた「賛成運動」を思い出し、「賛成できるんだ」と思って「ぞわっときた」という。

 そして、自身のブログ「さとなお.com」に書いた「たぶんボクたちは飽きているのだ」というエントリーを引きながら、「長くウェブをやってきて、ようやくここに来た」と語り、「評論家の『流行るの?』『世の中変わるの?』というのには興味ない、世の中をどう変えるかを話したい」と論じた。

 徳力氏も、Facebookが「今年来るかどうかはどうでもよく、魅力をどう伝えるかを考えたい」と発言。一方、津田氏は「ハプニング性など面白さを伝えるのが難しい、説明すると新興宗教か自己啓発みたいになる」と苦笑し、「広めるより自分が楽しそうにやるのが重要ではないか」と語った。小林氏も、Facebookに好意的なことを書いた人が、裏でお金をもらっているんじゃないかと揶揄されたことを憂いた。

「Twitterのリアルタイムで、昔楽しんでいた感じに戻った」

 佐藤氏はさらに、メディア論を展開。マスメディアによる情報のトップダウンから、インターネットのボトムアップになったが、「その時代でもトップダウンが前提にあったと思う」と語った。そして、ソーシャルメディアでそれがソーシャルメディアでフラットで対等になり、本当のコミュニケーションが始まると論じた。

佐藤尚之氏

 森永氏は、マスメディアを鉄道にたとえ、かつては荷物を運べるのが大きい会社による鉄道だけだったが、道路が発達して車や自転車でみんなが荷物を運べるようになったという比喩で説明した。

 また、2000年ごろのインターネットブームで「つまらなくなった」と語る森永氏や佐藤氏に対し、津田氏は「僕は、そのときどきに応じてインターネットが面白いと思っているまま」と受け、ただし、Twitterでインターネットがリアルタイムとなって、「1995年ごろの学生時代に楽しんでいた感じに戻ってきた」とつないだ。

 リアルタイム性について森永氏は、ニコニコ動画もTwitterも擬似的なリアルタイムであとから参加できるものだと指摘。一方、小林氏と徳力氏は、リアルタイムがいちばん労力がいるとしながらも、リアルタイムの面白さとして、ワールドカップのテレビ中継を見ながらTwitterで盛り上がったケースなどを紹介した。

「TwitterがFacebookへの地ならしをしている」

 津田氏がTwitterのオープン性とmixiの安全圏指向を比較し、mixiが実名登録を推奨しなくなったのが方針転換だったと語ったことから、実名論議となった。

森永真弓氏

 小林氏は、欧米でもデジタルネイティブ世代で実名OKが増えて、今いる場所などのプライバシーを公開することと引きかえの面白さを感じていると紹介した。

 森永氏は、「プロフ」を使っている世代に2種類あり、アルバイト先での悪さを書いてしまうようなインターネットを使っている意識のない子供が実名を怖いと思っておらず、共通の趣味の人を探している子供がハンドルを使っていると説明した。

 津田氏は、実名のメリットとデメリットを考えると、日本ではデメリットのほうが大きかったが、Twitterで「実名でやっている人がいるようだ」ということで、実名で入る人が増え、Facebookへの地ならしをしていると指摘した。

 佐藤氏は、ソーシャルメディアを風呂に例え、「水着を着て入る人やタオルで隠している人の中に、裸じゃないと気持ち悪いという人がどんどん出てくると変わってくる」と話した。

「情報は流れたがる」

 最後に、各パネリストがひと言ずつメッセージを語った。小林氏は、MITの石井裕教授の「情報は流れたがる」という言葉を引き、情報をためこんで終わるのではなく、シェアする必要性を説いた。また、森永氏は、「Twitterで実況してみて楽しさを感じてほしい」と語り、佐藤氏は「ソーシャルメディアを自分の親に教えてほしい、それが孤独な社会を違う方向にシフトさせる」と提案した。

 津田氏は、「Twitterがもたらしたのは賛否両論の可視化」と語り「あえて強い言葉でも書くのがソーシャルメディア。Facebookは賛ばかりでキモい」と話をひっくり返して、パネルディスカッションが終わった。


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(高橋 正和)

2011/2/16 12:48