インタビュー

JR九州が新幹線や「かもめ」をNFTにして販売するワケ

 九州旅客鉄道株式会社(JR九州)は、2023年7月19日、同社独自のNFTマーケットプレイス「JR九州NFT」をオープンし、第1弾の販売商品「“かもめ”シリーズ」を販売した。なぜ鉄道会社がNFTを販売するのか、実際の売れ行きはどうなのか。同社事業開発本部デジタル事業創造部の畑井慎司部長に聞いた。

 第1弾として販売された“かもめ”シリーズは、スライドムービー形式の動画で全6種類。西九州新幹線の「かもめ」、885系「かもめ」、787系「かもめ」、485系(赤色塗装)「かもめ」、783系「かもめ」、そして国鉄時代のエル特急塗装を復活させた485系「かもめ」だ。限定数はそれぞれ100個で、価格は税込3300円。

第1弾の“かもめ”シリーズ

独自のマーケットプレイスを選んだ理由

「JR九州NFT」を担当するのは、事業開発本部のデジタル事業創造部。事業開発本部は、駅ビルやホテルといった、鉄道以外のビジネスを扱っているが、畑井さんが率いるデジタル事業創造部は、クレジットカード(JQ CARD)や交通系ICカード・電子マネー(SUGOCA)、ポイントサービス(JRキューポ)、グループ企業のDX化、そしてメタバースやNFTといったデジタル領域の新事業を担当している。

九州旅客鉄道株式会社 事業開発本部デジタル事業創造部部長の畑井慎司氏

「昨年からWeb3と呼ばれる領域が話題になり、我々のグループで活用の可能性を探り始めました。NFTは鉄道に乗った記念や証明としての用途との相性が良く、思い出作りや、鉄道の旅の新しい体験価値につながるのではないかと、“JR九州NFTプロジェクト”を立ち上げました」

 かつては旅の記念として切符を保存する人が多かったし、乗車の権利としてではなく、純粋に記念切符自体を集める鉄道ファンもいる。考えてみれば、NFT(Non-Fungible Token)のToken(トークン)自体、地下鉄やバスに乗る際の代替貨幣や記念品といった意味を持ち、相性の高さや可能性は感じられる。

JR九州NFTのコンセプト

「例えば乗車記念のポストカードや駅のスタンプラリーも、NFTを使用することで新しい価値が加えられそうです。さらに、NFTの所有者が、かつてどの列車に乗っていただいたかということを、こちらで把握できる可能性がある。例えば特定の列車に乗ってNFTを持っていただいた方にはさらに特典で何かをお渡しできる。集めると特典でサービスが受けられる。配布・販売・特典の3つを実現したく今回の企画がスタートしました。そのためには、自前のマーケットプレイスを持ったほうが、自由度が高いと考えたのです」

 NFTの販売そのものは、JR西日本など他の鉄道事業者も手がけているが、既存のプラットフォームを利用している。JR九州ではNFTの拡張性を確保するために独自にマーケットプレイス自体を立ち上げたわけだ。

どの「かもめ」が人気?

 冒頭に書いたように、第1弾の“かもめ”シリーズは、2022年9月に開業した西九州新幹線(武雄温泉ー長崎)から、昭和世代に懐かしい塗装の485系まで、新旧6種類の「かもめ」号のスライド動画がNFT化されている。

「かもめは、主力の列車であることと、同じかもめでも最新の新幹線が人気なのか、逆に今はもう走ってない列車に注目が集まるのかといった反応も知りたくて、幅広い年代の車両を出しました。できれば今後もテーマを持って出したいと思っています」

 結果的には6種類で合わせて148枚が売れている(9月上旬現在)。6種類全てを購入すると特典としての「スペシャルかもめNFT」がもらえることから、約半数がコンプリートでの購入だという。売れ行きは想像通りだったのだろうか?

「下手すると全然売れないんじゃないかと思っていました。6種類のうち3種類は現在も走ってる列車なので、変な話、今でも写真は撮れますから。想像以上にアクセスいただき、実際購入もいただけたと思ってます」

 気になる一番人気は、西九州新幹線で、残りの5種類はほぼ拮抗した状態。各商品には、ナンバリングがされ、早い者勝ちで選択できる(例えば、西九州新幹線「かもめ」は000001〜000100、885系「かもめ」は000101〜000200といった具合)。

「番号にも意味を見出して買われる方が多い」という

「最初や最後の番号、ゾロ目などから売れていき、番号にも意味を見出して買われる方が多いと分かりました。ひとつ惜しかったのは、今回は新しい車両から機械的にナンバリングをしたため、485系が300番台と500番台になってしまった。もし485のナンバリングが485系に割り振られていたら、人気になったはずで、ちょっと知恵と経験が足りなかったと反省しています」

 価格が変動するNFTアートの世界では転売が前提だが、JR九州NFTではまだ転売の仕組みは備わっていない。

「転売も一つの楽しみ方だと思いますので否定するつもりはないですが、最初から転売や価格高騰を主軸に始めたわけではないので。転売の仕組みについては、今後の状況を見ながら考えていきます。現在は、NFTを購入されたお客様とその後もつながれるような方法を模索しているところです。所有者向けの限定イベントなどを通じて、お客様同士が交流を楽しまれるようになればうまくいったと言えるのかなとは思います。まだまだ先は長いですが」

 新幹線でもチケットレスが普及する今、NFTをダウンロードしたスマホで改札を通れるような仕組みも可能なのだろうか。

「改札を通れるようにするのは、越えなければならないハードルが多く、なかなか難しいです。これはアナログですが、例えば、車両基地で特定の列車の写真撮影会などのイベントで、NFTの画面を見せれば参加できるようなことはできると思います」

 現状、鉄道NFTの購入者は鉄道に興味があり、さらに新しい技術に興味がある(もしくは抵抗がない)人だろう。チケットレス化が今後も進むことも考えると、電子的な媒体が記念の品やコレクションの対象になっていくのは、自然な流れにも思える。スマホに蓄積される電子媒体であれば、紙の切符やパンフレットで保管するよりも簡単で場所も取らない。スマホのカレンダーやSNSに、自分の行動の履歴が記録されていくように、鉄道の旅の思い出がNFTとして蓄積されていく世界が来るのかもしれない。

駅での無料配布もスタート

 なお、2023年9月12日〜10月31日の期間で、駅名標をデザインしたNFTの無料配布が実施される

 入手方法は、対象の駅(博多、香椎、黒崎、小倉、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島中央の計10駅)を訪れ、ポスターなどに設置されたQRコードをスマホで読み取るだけ。10種類すべて集めると、コンプリート特典として「スペシャルNFT」がプレゼントされる。