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海賊版サイトの“ブロッキング”、通信業界団体などから憂慮・反対の声

 海賊版サイトへのアクセスを“ブロッキング”することを、政府がISPに要請することを検討していると報じられたことを受け、11日、通信業界団体などから相次いで声明が出された。海賊版サイト対策が必要であることは認めた上で、それをISPへのブロッキング要請というかたちで拙速に進めることを憂慮する声が上がっている。

 以下、一般社団法人インターネットコンテンツセーフティ協会(ICSA)、一般社団法人モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)、一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)と主婦連合会、一般財団法人情報法制研究所(JILIS)の声明・提言のリンクを挙げる。

 ブロッキングとは、ISPが加入者の通信の宛先を監視し、特定のサイトにアクセスしようとした際に、ISPがこれを強制的にブロックして見られなくする措置のこと。通信の秘密を侵害する行為にあたり、電気通信事業法に違反するものだが、日本では児童ポルノに限り、ブロッキングが認められている。数年にわたる議論の末、被害児童の権利侵害の重大性などから、「緊急避難」(刑法第37条)に該当するとして違法性が阻却されるとの結論に達した。2011年より、通信関連事業者など民間の取り組みとして実行されている。

 なお、児童ポルノのブロッキングを「緊急避難」として許容するに至った当時の経緯は、弊誌の以下の記事などを参照してほしい。

 一部報道によれば、政府は、海賊版サイトのブロッキングも「緊急避難」として要請するという。

 この考えに対し、例えばICSAでは、「児童ポルノのときのような慎重なプロセスを飛ばして、著作権権利者団体と政府のみで拙速に結論を決めている点を深く憂慮致します」などとしている。また、「海賊版サイトは、あくまでも発信者への責任の追及や発信に利用されているサイトの閉鎖によるべきであり、仮にブロッキングという国民の権利に直接関係する手法を検討するのであれば、立法に向けた十分な議論がなされるべきです」としている。海賊版サイトのブロッキングはすでに世界42カ国で行われているが、ICSAによれば、「先行実施国におけるブロッキングは、いずれも法律または裁判所の命令に基づき行われている」という。

一般社団法人インターネットコンテンツセーフティ協会の声明文(全文は「著作権侵害サイトへの対策として立法プロセスを経ずブロッキング施策を要請することについて」参照)

 もちろん、きちんと立法プロセスを経て対応していくとすれば時間がかかり、その間にも海賊版サイトの侵害が拡大し、日本のコンテンツ産業に大きな打撃を与えるとの指摘がある。また、そもそも、日本の政府が立法措置を行ってまで海賊版サイト対策に本気で乗り出すことは期待できないとする声も、ブロッキング推進側の中からも聞かれる。今回、ブロッキングを立法ではなく、通信事業者による運用で迅速に実現させようとしている動きの背景には、こうした事情もあるようだ。