児童ポルノのブロッキング、「緊急避難」として許容の余地?


 「安心ネットづくり促進協議会」は30日、あらかじめ用意されたリストに基づいてWeb上の児童ポルノをISPが遮断する「ブロッキング」と呼ばれる手法について、「通信の秘密」との兼ね合いなど法的問題を検討した結果をとりまとめた。

 ブロッキングは、アクセスしようとしている先のホスト名やIPアドレス、URLなど通信内容の一部を、機械的とはいえ、加入者の同意なく検知して判定する仕組み。通信の秘密の侵害に該当するが、刑法37条の「緊急避難」としてならば違法性が阻却され、児童ポルノのブロッキングが許容される余地があると結論付けた。

ブロッキングは、検挙や削除が困難な場合に限定されるべき

 検討は、同協議会の「児童ポルノ対策作業部会」のもとに設けた「法的問題検討サブワーキング」で行い、今回、作業部会の中間報告書として公表した。サブワーキングには、通信業界団体や弁護士、刑法学者、憲法学者などが名を連ねている。

 報告書では、緊急避難の要件として、1)自己または他人の生命、身体、自由または財産に対する現在の危難があること(現在の危難の存在)、2)危難を避けるためにやむを得ずにした行為であること(補充性)、3)避難行為から生じた害が、避けようとした害の程度を超えなかったこと(法益の権衝)――の3つがあることを説明。

 まず、1)の現在の危難の存在について、「児童ポルノがWeb上に流通し得る状態に置かれた段階で、被写体である児童の権利等に対する侵害が生じているものとして、肯定する余地がある」とした。

 また、2)の補充性と3)の法益の権衝についても、「検挙や削除が著しく困難な場合に、より侵害性の少ない手法・運用で、著しく児童の権利等を侵害する内容のものについて実施する限り、満たし得る」としている。

 例えば、検挙や削除といった対策は、侵害性が少なく、効果の面でもブロッキングよりも適切な対策といえる。すなわち、ブロッキングが緊急避難として許容されるのは、児童ポルノのあるサーバーが海外にあり、管理者が海外にいる場合あるいは不明な場合など、検挙や削除が困難な場合に限定されることになる。

 報告書ではまた、「ブロッキングは、適切な内容を含む通信全般を監視し、不適当な内容の通信を遮断するというものであり、事実上の私的検閲行為であり、その実施対象については、児童ポルノに限定し、他に拡大することがあってはならない」とも述べている。

諸外国で導入済みのブロッキング、その効果は?

 安心ネットづくり促進協議会では、4月中をめどに児童ポルノ対策作業部会としての最終報告をとりまとめる予定だ。同部会のもとには「諸外国調査サブワーキング」も設置、すでにブロッキングを導入している国の調査を行っており、その結果も作業部会へ報告される予定だ。

 前述の補充性などを考える上では、検挙や削除で対応できない児童ポルノの比率や、ブロッキング導入後の児童ポルノの流通状況の統計データなど、導入済み国におけるブロッキングの効果についての報告が期待されるところだ。

児童ポルノ対策作業部会・法的問題検討サブワーキング報告書は、安心ネットづくり促進協議会の公式サイトで公開されている

 安心ネットづくり促進協議会は、民間企業や学識経験者、各種団体などが参加して2009年2月に設立された。総務省が2007年11月から2009年1月まで開催した「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」の最終報告を受け、民間主導によるインターネット環境整備に向けた活動を展開している。

 一方、児童ポルノ対策を検討している取り組みとしては、警察庁の「総合セキュリティ対策会議」2008年度報告書の提言を受けて設立された「児童ポルノ流通防止協議会」がある。こちらにもインターネット関連企業大手や通信業界団体、学識経験者などが参加しており、Web上の児童ポルノのリストを作成・管理する「児童ポルノ掲載アドレスリスト作成管理団体」の運用ガイドラインなどを検討してきた。

 また、「ブロッキング検討委員会」も設け、通信の秘密や表現の自由にかかわる法的問題や技術的問題についても検討。通信の秘密との兼ね合いについては、違法性が阻却される「正当行為」(刑法35条)にあたるかどうかで意見が分かれ、引き続き議論が必要としている。また、緊急避難にあたるかどうかについても、さらなる議論が必要だとしている。

 なお、安心ネットづくり促進協議会の法的問題検討サブワーキングでは、ブロッキングを正当行為とみるのは困難と結論付けている。同サブワーキングと、児童ポルノ流通防止協議会のブロッキング検討委員会では、構成メンバーの重複も多いが、通信の秘密との兼ね合いについてはトーンの異なる報告を出したかたちだ。

 今後、仮に国内でもブロッキングの効果や影響を本格的に検証するということになれば、実証実験などを行う必要も出てくるが、安心ネットづくり促進協議会事務局によると、今のところ児童ポルノ流通防止協議会との連携は予定していないという。


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(永沢 茂)

2010/3/31 20:00