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水中環境は次世代の新経済圏、「水中LAN」を推進するALANコンソーシアム

 一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、広範囲な社会課題の解決に向けたあらゆる産業・業種の企業やベンチャー企業との“共創”を推進し、新たな市場を創出することを目的としたプログラム「JEITA共創プログラム」を、2018年5月に創設した。そして、そのJEITA共創プログラムの第1弾として設立された「ALAN(Aqua Local Area Network)コンソーシアム」について、設立の経緯や、研究開発が進められる技術の概要、将来の市場性などについて説明を行った。

 冒頭、JEITA理事兼事務局長の井上治氏が、JEITA共創プログラムなどの取り組みについて説明した。

 現在、JEITAは、「Society 5.0」の実現を基本方針として掲げ、あらゆる社会課題を解決するために、様々な産業・業種の企業やベンチャー企業に参加してもらい、共創を推進する、課題解決型の業界団体を目指しているという。そういった中、2018年5月に「JEITA共創プログラム」という制度を作り、その第1弾として採択したのが「ALANコンソーシアム」となる。井上氏は、「今後、海洋マーケットでITエレクトロニクスが活用され、新たな産業として実を結ぶことを期待しています」と、ALANコンソーシアムの今後の活躍について期待感を述べた。

JEITA共創プログラムの取り組みについて説明する、JEITA理事兼事務局長の井上治氏

海中での光を使った計測や無線通信技術の開発に取り組む

 続いて、ALANコンソーシアムの設立をJEITAに提案するとともに、コンソーシアムの中心的な存在として活動している、株式会社トリマティスの代表取締役CEO、島田雄史氏が、ALANコンソーシアムの設立に至った経緯や、取り扱われる技術の概要、今後目指している市場の姿などについて説明した。

 ALANコンソーシアムは、2018年5月21日にJEITA共創プログラム第1弾として正式に採択され、6月21日にコンソーシアムの設立および旗揚げが行われた。コンソーシアムには実行委員会が設けられ、その下に2つの部会を設置してスタートする。

 ALANコンソーシアムでは、海中を代表とする水中環境を、ひとつのローカルエリアネットワークと位置付け、現在では音波など限られた手段しか使えない水中環境で、光無線技術を駆使して、陸上や空間に準じた通信環境を実現するとともに、海中光技術で世界をリードし、新たな市場を創出することを目的としている。具体的には、レーザー光を利用して測距を行う「LiDAR」と呼ばれる技術を海中に応用し、海底の測距や海中建造物などの検査、養殖場の観測などの実現を目指しているという。

 現在、海底探査を行う場合には音波を利用することが多いが、音波では細かな情報が取れないという問題がある。しかし、LiDARを応用した光センシングでは、非常に細かな情報が3D情報として得られるようになる。また、青色半導体レーザーを利用した高速水中通信技術も応用し、水中でも無線でデータを高速に転送できるようにすることで、自由度も大幅に高められる。こういった仕組みによって、海中資源の探索から活用までを容易にし、新たな海洋市場を創出したいとする。

 そして、ALANコンソーシアムが目指す世界の実現に必要となる要素技術は、これから新たに研究開発するのではなく、すでにそろっているという。「ALANコンソーシアムに参画いただいた大学や研究機関に、すでに様々な技術があります。その、いろいろなところに散らばった技術を、いかに束ねていくかが今後の課題です」と島田氏は述べたが、基礎技術がそろっているからこそ、3年後をめどに技術の飛躍的進歩と新たな産業の創出を目標として掲げる理由となっている。

ALANコンソーシアムの経緯や技術概要などを説明する、株式会社トリマティスの代表取締役CEO、島田雄史氏
ALANコンソーシアムは、2018年6月21日に設立。実行委員会が設けられ、その下に2つの部会を設置してのスタートとなる
ALANコンソーシアムは、海中を代表とする水中環境をひとつのローカルエリアネットワークと位置付け、光無線技術を駆使して陸上や空間に準じた通信環境を実現し、新たな市場を創出することを目的としている
自動運転などで欠かせないレーザーを使ったセンシング技術「LiDAR」を水中に応用
水中での高精度な3Dセンシングを実現することで、新たな産業を創出する
水中LiDARで海底をセンシングし、水中光無線給電技術でセンシングデータを無線で送出。無線のセンシングロボットの実現で自由度を大きく高める
最終的には、船から有線で中継拠点を水中に置き、レーザーで光無線通信や光無線給電などを実現する
ALANコンソーシアムが目指す世界に必要となる要素技術は、すでにそろっている

水中光技術を農林水産業分野、測量・点検・整備分野などで活用

名城大学で研究開発されている、青色LD(レーザーダイオード)を利用した端面発光レーザーや面発光レーザーの技術、青色LDの短パルス動作技術を利用して、水中間でのデータ通信を実現
トリマティスが手がけるLD直接変調技術と、早稲田大学および国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が手がけるLD外部変調技術を組み合わせ、高い制御性と低コスト性を備える大容量通信技術を実現
水中LiDARや水中光通信の高制御性、高信頼性などを実現するために、国立研究開発法人産業技術総合研究所が研究開発しているシリコンフォトニクス技術を応用
千葉工業大学が取り組んでいる高効率可視光ファイバレーザー技術を応用し、青だけでなく緑や黄色の光源を実現し、海中のあらゆる環境に対応させる
水中LiDARの実現は、トリマティスが取り組んでいる空間で利用するLiDAR技術を応用し、水中で展開できるように基礎データを集積している
山梨大学が研究中の、ギガビット級の高速水中無線通信技術や、東海大学が手掛ける光を利用した空間通信技術、東北大学が研究している水中での無線中継伝送技術や無線ネットワーク構成技術などを応用し、水中での光無線通信技術を構築する
東京工業大学が研究中の、光ビームを利用した無線給電技術を応用し、水中での光無線給電技術を確立する
千葉工業大学が研究しているAIロボティクス技術を応用し、水中スキャンや水中通信に必要となるロボットの水中移動プラットフォームや姿勢安定制御システムを構築する

 そして、ALANコンソーシアムが取り組む水中光技術の応用は幅広い分野で考えられるとしつつ、まずは農林水産業分野、測量・点検・整備分野、セキュリティ分野など、産業に近い部分をターゲットに考えているという。中でも、河川の橋脚や水中建造物の検査や点検、船底の点検、養殖場監視などの用途では、現時点でもニーズが見えているとのことで、島田氏は「現在、(それら産業では)潜水士不足が深刻な問題となっており、それをロボットとLiDAR技術で置き換えることで、それらニーズに応えられる」と説明した。

水中光技術は幅広い分野での展開が考えられるが、まずは農林水産業分野、測量・点検・整備分野、セキュリティ分野をターゲットにしたいという
河川の橋脚や水中建造物の検査や点検、船底の点検、養殖場監視などの用途では、現時点でもニーズが見えており、期待も高いという
2020年の東京オリンピック以降、老朽化した水中構造物の検査需要が大きく伸びるとし、その要求に応えたいという
採る漁業から育てる漁業へと変革が求められている水産業では、養殖の需要が伸びるとし、養殖魚の自動計測や監視などの技術を実現したいという

3年後をめどに、水中での光無線通信技術や光無線給電技術を実現

 最後に島田氏は、3年後をめどに、50mの距離から1cm以下の分解能でスキャンできる水中LiDARの実現、距離1~100mで数10Mbps~1Gbpsの速度を備える水中光無線通信技術、距離1~10mで10W以上の給電能力を備える水中光無線給電技術を実現し、海底地形や水中構造物の調査、海岸施設や養殖施設の監視・管理、海洋エネルギー調査などの分野での新ビジネス創出を目指すと説明。また、ALANコンソーシアムが青色光無線技術に特化した世界で唯一のコンソーシアムであるとしつつ、既に実績のある要素技術がそろっているため、ゼロからのスタートではないと強調。学術と産業の両面アプローチによって、青色光無線技術を応用した、光デバイス、機器、ネットワークの分野で新しい垂直統合を実現することで、新産業を実現したいと強い意欲を示した。

ALANコンソーシアムは、3年後をめどに、水中LiDAR、水中光無線通信技術、水中光無線給電技術を実現したいという
学術と産業の両面アプローチによって、青色光無線技術を応用した、光デバイス、機器、ネットワークの分野で新しい垂直統合を実現し、新産業を実現したいと強い意欲を示す