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2023年に「空飛ぶクルマ」実用化へ――各地で進む「空の移動革命」の動き、福島・三重・東京・愛知・大阪が構想を発表
2019年8月9日 06:00
経済産業省および国土交通省が2日、地方公共団体による「空の移動革命に向けた構想発表会」を行い、福島県、三重県、東京都、愛知県、大阪府の5つの地方公共団体から「空飛ぶクルマ」に関する構想が発表された。
冒頭にあいさつした経済産業省の関芳弘副大臣は、「空飛ぶクルマは、都市部での活用だけでなく、離島や山間地域での活用、物流や災害地での活用も想定されている。新たな産業としても期待されている。2018年12月には、『空の移動革命に向けた官民協議会』がロードマップをとりまとめ、2019年の試験飛行、2023年の実用化という野心的な目標を盛り込んでいる。ロードマップのとりまとめ以降、保険商品の提供開始や民間事業者との提携開始など、国内における動きが活発化している。福島県と三重県のように、地方公共団体同士の提携の動きも活発化するだろう。ロードマップを実現するには、実証実験をどんどん行う必要がある。その結果を踏まえて、法整備や管理体制の整備について、官民で議論をすることが重要である。今回の構想発表会を契機として、地方公共団体や民間事業者の連携がさらに加速し、空飛ぶクルマの実現につながることを期待している。経済産業省と国土交通省がしっかりと連携していく。日本が世界の空のイノベーションを牽引していきたい」と述べた。
国土交通省の大塚高司副大臣は、「都市の渋滞を避けた通勤、通学、離島や山間部での新たな移動手段、災害時の緊急搬送や迅速な物資輸送などが空飛ぶクルマに期待されているが、実用化に向けては、将来の具体的なニーズに照らしたビジネスモデルのイメージを共有することが必要である。今回、空の移動革命構想に積極的に取り組んでいる福島県、東京都、愛知県、三重県、大阪府に構想を披露してもらうことで、地域社会のニーズを踏まえて、地域や地方公共団体が描く未来の姿と、民間事業者の創意工夫が融合し、実証実験や事業開始に向けて大きな一歩になることを期待している。国土交通省では、許可に関わる助言などを通じて強力に民間事業者とも連携し、試験飛行や実証実験を支援。議論を重ねて、安全確保を旨とした制度や体制整備に向けた検討を進めていく。空飛ぶクルマが、身近で手軽な移動手段として利用される社会の実現に向けて取り組んでいく」とした。
「空の移動革命に向けた官民協議会」は、空飛ぶクルマの実現に向けたロードマップの策定とともに、日本が取り組んでいくべき技術開発や制度整備などについて協議する有識者による組織だ。
都市部における渋滞を避けた通勤や通学、離島や山間部での新たな移動手段の創出、災害時における救急搬送や迅速な物資輸送など、空飛ぶクルマの研究開発が活発化している動きを捉え、それを日本における新たなサービスとして発展させるには、「民」の将来構想や技術開発の見通しをベースに、「官」が民間の取り組みを支援し、社会に受容されるためのルールを作ることが必要であると判断したことが発足の背景にある。
制度などに関する議論や、具体的なサービス提供を想定した実証実験などを行い、意欲的な取り組みを進めている地方公共団体による空の移動革命に向けた構想立案を支援。日本における空飛ぶクルマの実現を後押しすることになるという。
今回の発表会は、空の移動革命に積極的な地方公共団体と、事業者とのマッチングを促進するほか、空の移動革命に向けた動きを社会全体に広げ、実現を後押しするための狙いがあるという。
福島県に「空飛ぶクルマ」の試験飛行場――「福島ロボットテストフィールド」で拠点を整備中
ブレゼンテーションの最初に登壇したのは、福島県の内堀雅雄知事。「福島県は東日本大震災と福島第一原発の事故により大きな影響を受け、いまでも福島県全体の2.5%が避難指示区域になっている。だが、福島県の復興は着実に進み、製造品出荷額は震災前を超える水準になってきている。一方で、避難地域を含む福島県東側では、震災前に比べてわずか18%にとどまっている。そこで、国家プロジェクトである『福島イノベーション・コースト構想』を発表し、この地域の再生、産業構造の活性化に力を入れている。そのなかで中核の1つになるのが、世界に類を見ない『福島ロボットテストフィールド』である」とした。
「ここを空飛ぶクルマの試験飛行拠点として、2020年春の全面開所に向けて整備を進めているところである。緩衝ネットで覆われた国内最大級の屋内飛行場では、開発初期段階の飛行機を安全に、確実に試験できる。また、南相馬と浪江を結んだ13kmの広域飛行区域では、各種レーダーによる情報収集と、地域住民の理解を得て、円滑な長距離試験飛行が可能になっている。さらに、さまざまな環境での離着陸を試験するために、市街地での離着陸試験をはじめ、土砂災害地、水害地を再現したフィールドを活用することもできる。試験施設の提供だけでなく、実証実験の仲介支援を行うワンストップ支援も展開している。ここでは飛行ルート付近の地区長への説明に至るまで手厚く支援ができる。すでに220社以上の試験誘致実績がある。なかには目視外飛行により、9km離れた場所への物流を行うなど、国内初となるチャレンジも数多く行われている。これらは、空飛ぶクルマの試験飛行にも生かせる」とした。
また、「開発環境の整備によって、福島ロボットテストフィールドがある浜通り(福島県東部の太平洋沿岸地域)には、ドローンを中心に多くの事業者が進出し、空飛ぶクルマについても、新たに2社の進出が予定されている」と紹介した。
さらに、「福島ロボットテストフィールドは、産学官連携でロボットの安全性を評価できるナショナルセンターを目指す」とし、「自動車にたとえると、自動車教習所や車検場で行う評価のルールを検討し、実際に評価できる拠点になることである。ドローンにおいては、主要業界団体や大学、国立研究開発法人と協定を締結。操縦、機体、運行管理の評価手法を検討し、ドローンの制度構築にも深く関与していくことになる。また、福島ロボットテストフィールドには東北大学やドローン関連事業者が入居することが決まっており、8月2日から追加の入居募集を開始している。一歩出れば試験環境があるフィールドが用意されており、この環境によって、開発サイクルを加速できる。被災地からイノベーションを起こすためにも、空飛ぶクルマの関係者に対する開発環境の提供や、制度構築の手伝いなどにも力を尽くしていく」と語った。
「空飛ぶクルマ」の機体ができたら三重県へ来てほしい――社会実装の場を提供
続いて登壇したのは、三重県の鈴木英敬知事だ。「三重県は、リアルとチャンス、社会実装を行う場を提供する」と切り出す一方で、「三重県は、1人あたりの製造品出荷額は全国2位、電子デバイスの製造品出荷額は全国1位。そして、県内総生産額は過去最高になっている。三重県でテクノロジーが発達するのは伝統と革新があるためだ。しかし、南部と北部との所得格差や人口減少などの課題もある。日本の縮図ともいえる県である」と語った。
三重県では、空飛ぶクルマに関しては、「離島・過疎地域などでの生活支援」「観光資源・移動手段」「防災対策・産業の効率化」という3点から活用する方針を示す。
「離島・過疎地域などでの生活支援」では、新たな交通手段として活用するほか、夜間の急患などの緊急時の対応、医師不在地での遠隔医療と薬の配送を組み合わせた医療サービスの提供、高齢者の地域内移動や買い物弱者への支援での活用を計画。「観光資源・移動手段」では、中部国際空港からの移動手段の活用、遊覧などの県内滞在時のスカイアクティビティとしての活用を想定。「防災対策・産業の効率化」では、災害発生時の移動や現地確認、救援手段としての活用、人手不足や生産性の低さが課題となっている物流面への活用、高低差や距離の克服、人が入りにくい山間地や海上での活用などにより、現場の省人化を実現するとともに、業界全体の生産性向上を高めることを目指すという。
さらに鈴木知事は、三重県内において、空飛ぶクルマに積極的な自治体の事例を紹介した。
鳥羽市には有人離島が4島あり、市営定期船が重要な生活交通手段となっている。空飛ぶクルマの導入によって、生活物資の運搬、交通需要に応じた輸送、夜間急患の搬送など、緊急時の対応などにも効果を発揮するとみている。また、志摩市では、モノや人の移動だけでなく、観光資源の1つとして娯楽的要素を含めた活用が可能だとしている。南伊勢町では、高齢者の移動や買い物支援、災害時の物質輸送での効果を期待。熊野市では、世界遺産の熊野古道に代表されるような自然が多くあるが、その一方で、交通の便が悪く、買い物場所の利便が悪く、福祉や医療が充実していないという課題があり、これらの課題解決に空飛ぶクルマを利用するという。
さらに、三重県には多くのチャンスがあることも訴求する。
「2033年には、神宮式年遷宮がある。これは8年をかけて行われるものであり、その間、多くの人が訪れる。それにあわせて、空飛ぶクルマを観光、生活、交通にも使いたい。リニア開通、大阪万博、アジア大会などのイベントと連動することもできる」とする。
「機体ができたがどうしたらいいのか、サービスを思いついたがどうやってこれで稼ぐのかと悩んでいる人は、リアルとチャンスがある三重県に来てほしい」と呼び掛けた。
東京都の「未来を拓くイノベーションTOKYOプロジェクト」で「空飛ぶクルマ」採択
3番目が東京都である。東京都戦略政策情報推進本部事業推進担当課長の藤林健太郎氏は、「戦略政策情報推進本部は、東京の成長戦略を推進する組織として2019年4月に発足した組織であり、東京都が目指す『稼ぐ力』に基づき、経済成長を推進することに取り組んでいる」とし、「先端テクノロジーの社会実装を重視し、実効性の高い支援策を用意している。そのために、気運醸成、実証実験、国家戦略特区による規制緩和といった活動が必要であると考えている」と述べた。
気運醸成では、都民を対象にした自動運転車両の試乗会や産業用ドローンの講演会などを通じてユーザーの理解を促進。実証実験の推進では、国と東京都が共同で設置した東京自動走行ワンストップセンターにおいて400件以上の相談があり、20件以上が実現していることや、世界初となる公道での営業走行を行った自動運転タクシーによる自動運転技術を活用したビジネスモデルの構築支援をなどを紹介した。また、国家戦略特区の推進では、セグウェイを活用した搭乗型移動支援ロボットの活用を提案。インフラ点検や警備など、公益性の高い事業での実用化を目指しているという。
「東京都は、社会課題の解決に資する先端テクノロジーの普及拡大に向けて、自動運転、ドローン、ロボットの3つに取り組んできたが、今後は、空飛ぶクルマをはじめとするエアモビリティについても対象に加えて、積極的に取り組んでいく。空飛ぶクルマは、渋滞解消や物流分野での生産性向上といった社会課題の解決につながる先端テクノロジーであると認識している」と述べた。
すでに東京都では、ビジネスプランコンテストの「TOKYO STARTUP GATEWAY」において、空飛ぶクルマのコンセプトが2014年に優秀賞を受賞。大企業とのオープンイノベーションによる製品開発を支援する「未来を拓くイノベーションTOKYOプロジェクト」においても、空飛ぶクルマが採択されている。
また、「都心部では通勤ラッシュの混雑緩和、西多摩地域では交通不便、臨海部では交通の結節点の特徴を生かした価値の向上、島しょ部では船舶中心の移動手段からの脱却といった点でエアモビリティの活用が期待できる。東京都では、多様なフィールドでエアモビリティよる課題解決が可能だ。さらに、東京2020大会の開催などビジネスチャンスも大きい」とし、「空の移動革命の実用化までの各フェーズにおける取り組みを推進。都内での実証フィールドの提供、社会受容性を高める取り組みや、ビジネスモデル構築に向けた検討も行っていく」とした。
想定している実装フィールドとして、臨海部では多様な交通手段との結節点を生かした高速移動サービス、西多摩地域では交通文地域での新たな移動サービス、災害時の物資輸送、人命救助を挙げている。
「ビジネスプランを随時相談してほしい。最適な実証フィールドの確保に向けた調整をしていく。空飛ぶクルマのビジネスプランを持っている人は、東京都に相談してほしい。一緒に考えていきたい」と締めくくった。
愛知県は「空飛ぶクルマ」の産業化を目指す――豊田市では実証フィールドも提供
愛知県は、経済産業局長の伊藤浩行氏が説明した。製造品出荷額が41年連続で日本一を誇る愛知県では、「次世代自動車」「航空宇宙産業」「ロボット産業」の3つを戦略的成長産業分野に位置付けており、自動車や航空宇宙は全国1位、ロボットでは全国2位の製造品出荷額を誇る。
伊藤氏は、「空飛ぶクルマは、次世代自動車、航空宇宙、ロボットという愛知県が誇る製造技術や要素技術が集約したものになる。また、現場のリアルなノウハウとデータが蓄積し、新たなイノベーションを起こすポテンシャルがある地域である。自動運転やドローンの実証実験でも豊富な支援実績がある。ドローンの実証実験の支援実績は、60社以上、400回以上に達している。空飛ぶクルマに関しても、豊田市に実験の拠点を作ったり、実証フィールドを提供したりといったことが始まっている」とした。
豊田市では、CART!VATORやSkyDriveと連携して、2015年から、廃校となった小学校などを利用した実験を行ったり、空飛ぶクルマの開発で連携したりといったことが行われたりしている例を挙げた。
ビデオメッセージを送った愛知県の大村秀章知事は、「愛知県は日本一のモノづくり県であるが、今後も日本、世界をリードしていくためには、斬新なアイデアや最先端技術を、モノづくりの強みと結び付け、次々とイノベーションを創出していく必要がある。空飛ぶクルマは愛知県の特性と合致している。この地で生まれたSkyDriveを、世界をリードするイノベーターになるように支援するとともに、新たなイノベーションを創出するプレーヤーを歓迎する」とコメント。
また、同じくビデオメッセージを寄せた豊田市の太田稔彦市長は、「豊田市は、5年前からCART!VATORやSkyDriveを応援し、機体の研究開発拠点の提供、飛行実験場の提供を行っている。2019年5月には、事業化・産業化を視野に入れて、CART!VATORおよびSkyDriveと協定を結んだ。豊田市はクルマの街である。クルマの未来に向けてチャレンジするベンチャー企業を応援するのは豊田市の使命である」などとした。
株式会社SkyDrive代表取締役の福澤知浩氏も登壇。「SkyDriveは、愛知県、豊田市から強力な支援を受けており、愛知県内に4カ所の活動拠点を持っている。ロードマップに示された2023年の事業化に向けて取り組んでいきたい。また、グローバルの企業とも連携を図り、空飛ぶクルマの産業化を目指す。日本においては、リニアモーターカーと空飛ぶクルマの組み合わせによって、あらゆる場所に1時間半で移動できるようになるだろう。今後、空飛ぶクルマの離着陸ポイントが日本各地にでき、日常的に空飛ぶクルマを活用できるようになる。鉄道や自動車とともに、空飛ぶクルマが選択肢の1つになる。空飛ぶクルマの大衆化に向けて努力をしたい」と述べた。
最後に再び登壇した愛知県の伊藤氏は、空飛ぶクルマの実証実験に活用できる新たなフィールドの調査を開始していることを示しながら、「モノづくり県である愛知県は、空飛ぶクルマの開発、生産拠点を目指す。空飛ぶクルマの研究開発を全力でサポートする」と語った。
大阪にはバッテリー/センサー部材メーカーが集積、開発拠点としてもポテンシャル
プレゼンテーションの最後に登壇したのは大阪府だ。大阪府商工労働部成長産業振興室副理事の中原淳太氏は、「For Our Future Osaka」と題して説明を行った。
大阪府は、北の伊丹空港から、南の関西国際空港まで約40kmの距離があり、それを中心線として円を描くと、東に八尾空港、西に神戸空港があり、空港に囲まれた都市であることが分かる。その中心部には、ベイエリアがあり、舞洲、咲州、夢洲があり、ヘリポートなども用意されている。空とは密接な関係がある都市だ。
中原氏は、「大阪府は、実証事業都市を掲げている。実証だけでなく、あくまでも事業を視野に入れたスキームであることが特徴である。公共で持っているフィールド、協賛してもらう民間事業者が持つリソースを提供し、どんなことをしたいのかといった事業者のニーズに合わせた場所を提供したいと考えている」とし、「ビジネス展開を考えているのが前提。関西には2000万人のマーケットがあり、IR(統合型リゾート)の誘致も行っている。さらに、バッテリーやセンサーなどの構成部材のメーカーが集積しており、開発拠点としてもポテンシャルがある。大阪府では、金融機関やベンチャーキャピタルなどの民間事業者と連携した産業化開発センターと、バッテリー関連産業の大阪府への進出を支援するバッテリー戦略推進センターがあり、この掛け合わせでさまざまなことができる。協賛してもらう事業者は幅広く募りたい。大阪府でどんなビジネスができるのかということをみなさんと一緒に考えたい。また、それぞれの自治体にも得手不得手があり、お互いに連携できる。大阪府への提案をぜひお願いしたい」と語った。