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多摩美が“デザイン経営”のビジネススクール、「TCL」2020年4月開講

「多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム(TCL)」では、「デザインの方法論でビジネスをドライブさせる“デザイン経営”を社会実装させ、グローバル環境における競争力強化に欠かせないブランド力向上やイノベーション創出などに貢献することを目指す」という

 学校法人多摩美術大学は21日、ビジネスパーソンを対象とした講座「多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム(TCL)」を2020年4月に開講すると発表した。“デザイン経営”人材を育成するための授業を3カ月(10週間)にわたって実施するもので、カリキュラムの詳細は年明けに発表する予定だが、これに先立ち第1期(2020年4月18日~6月20日)の出願エントリーを11月下旬~12月にウェブサイトで受け付ける。定員は30名で、受講料は35万円(税込)。受講会場は、東京ミッドタウン・デザインハブ(東京都港区)および多摩美術大学上野毛キャンパス(東京都世田谷区)。

 TCLが提供するプログラムの全体概要イメージは、以下の図の通り。

 また、以下のような視点とテーマを掲げている。

 履修期間中は10週にわたり、毎週土曜日の午前にゲスト講師による講義、午後にはグループに分かれ、現状分析、課題発見、コンセプト設定、アウトプット作成までを行う“Project Based Learning(PBL)型”のプログラムを実施する。こうした対面授業66時間のほか、eラーニングも2時間以上実施する。

 対象としては、非デザインバックグラウンドのビジネスパーソン、企業の経営を担う人材やその次世代の候補者、経営企画や新規事業開発部門の人材、UI/UXが重要と思われるスタートアップ企業――などを挙げており、以下のような意識を持つ人を想定しているという。

  • 0から1の新たな価値を創出することに興味関心を持っている人
  • 広い視野を持ち俯瞰で状況把握する能力を身につけたい人
  • 深い観察に基づいて課題発見及び課題設定する思考方法を身につけたい人
  • チームビルディングや説得力のあるプレゼンテーションの能力を身につけたい人
  • 文字や言葉以外に考えを伝える手段を見つけたい人

 また、TCLで身につけられる力としては、以下のような項目を掲げている。

  • 美意識(美しいビジネスを生んでいく)
  • 認識力(あるべき未来を描いて、プロセスを可視化できる)
  • 思考力(ロジック偏重ではなく、感性に基づく思考もできる)
  • リーダーシップ(共働、共創の場をファシリテートできる)
  • 課題力(問いを立てることができる)
  • 表現力(深い人間洞察に基づいて発想、判断できる)

 経済産業省・特許庁による「産業競争力とデザインを考える研究会」が2018年5月に発表した「『デザイン経営』宣言」によると、デザイン経営とは「デザイン責任者が経営チームへ参画することやデザイナーが事業戦略の最上流から参画することを通じて、デザインを企業価値向上のための重要な経営資源として活用する経営」のこと。

 TCLのエグゼクティブスーパーバイザーに就く多摩美術大学統合デザイン学科教授/株式会社HAKUHODO DESIGN代表取締役社長の永井一史氏は、グローバル企業においてデザイン経営の重要性が認識されており、デザインを担当する役員として“CDO(Chief Design Officer)”あるいは“CCO(Chief Creative Officer)”が設置されることが多くなっていると説明。AppleにおけるJony Ive氏、NikeのJohn Hoke氏、TeslaのFranz von Holzhausen氏、AirbnbのAlex Schleifer氏を挙げたほか、CDOやCCOといった名称ではないが、日本でもMUJI(無印良品)の立ち上げからアートディレクターとして参画した田中一光氏の名前を挙げた。

 永井氏は、「経営の中に“デザインの力”を取り入れることで、不確実性の高いこれからの時代に、経営をより力強く推進していくこと」が重要だとし、「デザイン経営を社会実装できる人材・スキルが日本の企業に強く求められている」と、TCL開講の意図を語った。

 一方で、最近は“デザイン思考”など、ビジネスパーソンのデザインに対する関心が急速に高まった反面、「方法論のみが先行しており、型通りにやれば創造性が生まれるという誤解も広がっている」と指摘。「デザインについての正しい知識と理解を促すことが急務になっている」という。

 また、「デザインには知識創造と具現化の両面があるが、“デザイン思考”の浸透によって、産業界においては知識創造への偏りがあり、具現化の重要性も伝えていくことが美術大学の大きな役割だと考えている」とした。

21日に行われた記者発表会で。(向かって右から)多摩美術大学統合デザイン学科教授/株式会社HAKUHODO DESIGN代表取締役社長の永井一史氏、多摩美術大学学長の建畠晢氏、学校法人多摩美術大学理事長の青柳正規氏、多摩美術大学教務部長の和田達也氏

 TCLでは「受講したことが結果ではなく、それぞれの事業に持ち帰り、学びをどう生かして、結果や成果を出すかを重視する」とも述べ、TCLの修了者に対しては、修了3カ月後に1日間のフォローアッププログラムを実施し、向き合っている課題や問題意識の共有を行う。また、修了生によるコミュニティ「TCLアルムナイ」を構築し、情報交換や交流、デザインの自社への導入などをフォローできるようにする人的ネットワークも整備するという。

 TCL第1期の受講生は、年内の出願エントリーののち、書類審査および面接(2020年1月実施予定)により選考、2月上旬に決定する。選考基準については、出願者が自身の企業・組織においてどのような課題を認識しているか、それに対してTCLのカリキュラムが貢献できるのかといった面も考慮するとしている。

 第1期のあと、9月12日~11月14日の第2期、2021年1月9日~3月13日の第3期と、年間3期の開講を予定。さらに段階的にプログラムを多様化させ、3年間で約400人の修了生輩出を目指す。

 講師陣としては、永井氏のほか、同大学から深澤直人氏(統合デザイン学科教授)、久保田晃弘氏(情報デザイン学科教授)、濱田芳治氏(生産デザイン学科教授)、丸橋裕史氏(特任准教授)が参加。また、元IDEO Tokyoデザインディレクターの石川俊祐氏、株式会社BIOTOPEのCEOで「直感と論理をつなぐ思考法」「21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由」の著者である佐宗邦威氏、元アクセンチュア株式会社チーフ・マーケティング・イノべーターの加治慶光氏、株式会社スマイルズ代表取締役社長の遠山正道氏、「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか?」の著者で独立研究者・著述家の山口周氏ら、各業界の最前線で活躍する実務家を招く。