イベントレポート

BIT VALLEY 2019

管理栄養士→エンジニアで採用のクックパッド、美大卒→デザイナー採用が少ないグッドパッチ

両社のCTOとCEOが対談、学生らに向けて語る「エンジニアの道・デザインの道」

(向かって右から)クックパッド株式会社執行役/CTOの成田一生氏、株式会社グッドパッチ代表取締役社長/CEOの土屋尚史氏

 クックパッド株式会社執行役/CTOの成田一生氏と株式会社グッドパッチ代表取締役社長/CEOの土屋尚史氏による対談「TECHNOLOGY×CREATIVEの可能性」が、「BIT VALLEY 2019」の中で9月14日に行われた。当初は「モノづくりにおけるテクノロジーとデザインの力」の副題で予定していたが、急きょ、学生に向けてキャリアについて語るセッションとなった。

将来ずっとプログラミングしていくものだと思って生きていた

 1つめのトークテーマは「キャリアの振り返り。学生時代の話」で、成田氏と土屋氏のそれぞれの学生時代までの経歴を振り返った。

 成田氏は、高専から大学の情報工学の学科に3年に編入し、大学院に進学したという。親が建築士だったので家にパソコンがあって、小学校のときからプログラミングのようなことをしていたとのこと。まだWindowsもない、プログラムをカセットテープで読み込む時代だった。

 「将来ずっとプログラミングしていくものだと思って生きてきて、それを疑いもしなかった。情報工学の大学生が進路を迷っているのを見て不思議に思った」と成田氏。「予想外だったのは、意外とエンジニア人生が短かく、いまやマネジメントの方が長い。セミのような(笑)」。

 一方の土屋氏は、本人いわく、大学で留年したのをきっかけにカラオケ屋のアルバイトに熱中したという。転機は21歳のときに大病を患い、入院生活を送って死を意識したこと。退院して大学に戻って、たまたま受けた授業がベンチャー起業家のケーススタディで、ソフトバンクの孫正義氏や楽天の三木谷浩史氏の話を聞き、「自分が生きているあいだに世の中に爪痕を残したい」と思って起業を決意したという。

成田氏と土屋氏の最初のキャリア

 2つめのテーマは「キャリアの選択。エンジニアの道、デザインの道」で、職に就いて以降の2人のキャリアが語られた。

 成田氏は最初、ヤフー株式会社(Yahoo! JAPAN)に入社した。「当時はウェブ系の会社で新卒採用しているところが数えるぐらいしかなく、その中でヤフーは新卒採用していた」というのが理由だという。当時の待遇について土屋氏が尋ねると「ソーシャルゲームブームでウェブ系の給与水準がぐんぐん上がる前のことだったので、給与額は普通の水準だった。また、当時はまだエンジニアがブラックな職業で3Kと言われていた中で、ヤフーは毎日家に帰れた(笑)」との答だった。

 当初はウェブのフロントエンド開発を希望していたが、配属されたのはYahoo!メールのバックエンドだった。コードもユーザー数もメール数もとにかく多く、1万人に一度発生するようなバグもどんどん遭遇するということで、面白みを感じたという。

 一方の土屋氏は最初のキャリアが営業だった。いわく「美大を出ないとデザイナーになれなかった時代」。そのあと先進的なスタートアップに営業で入って、それがきっかけでウェブの面白さに目覚めたという。

 そのあと事情により故郷の大阪に戻り、ウェブ制作会社に25歳で入ってデザインのディレクションの仕事に就いたという。「なので、私のデザインのキャリアは、最初からデジタルのUIだった」と土屋氏は語った。

 UIデザイン会社であるグッドパッチでは、新卒採用で美大出身は2人ぐらいだという。「グッドパッチではデザインとビジネスの隔たりをなくすことをテーマにしている。美大の教育ではビジネス寄りのことを教えないので、結果として、美大の人が最終選考に残るのが少ない」と土屋氏は説明した。

 一方、サービス会社であるクックパッドのエンジニアは、大学で情報工学を学んだ人の割合が多いという。「ただし、ときどき管理栄養士など、全然違うキャリアの人が入ってくることがある。視点が違うので助かる」と成田氏は語った。

マネジメントが嫌じゃないだけでも向いている

 3つめのトークテーマは「スペシャリストかマネジメントか」で、主に成田氏のエンジニアからマネジメントへの転身について話がなされた。

 成田氏はヤフーに2年在籍してクックパッドに転職した。まだクックパッドにエンジニアが10人程度のころだったが、Rubyも料理も好きで、クックパッドにあこがれがあったという。そんなときにヤフーの上司がクックパッドに転職したのをきっかけに、自身も転職した。

 成田氏は自分の行動について「計画的偶発性」という言葉で説明する。いわく「不確実だが、偶然チャンスが発生したときに自分が近くにいるというのは計画できるんじゃないか」ということだ。「クックパッドのCTOになったときも、前のCTOが外れるときに自分の仕事が評価された。それは計画できる」(成田氏)。

 その成田氏がエンジニアからマネジメントに移るのは早かったという。いわく「小さい会社だったので、順番が回ってきた」。

 エンジニアとマネジメントは大きく異なるが、成田氏は「嫌じゃないと思っていた。エンジニアはマネジメントをやりたがらない人が多い中で、嫌じゃないだけでも向いているのかなと思った」という。「自分よりプログラムを書ける人がわらわらいて、それを支援するのが面白い。自分がコードを書くと自分が限界になるが、チームはレバレッジが効く」。

 ここで土屋氏が「部下にマネジメントへの順番が回ってきたときに、やらせるかどうか」と質問。成田氏は「そんなことが多い。優秀なエンジニアでコードを書かせた方がいい人に順番が回ってくる。これは永遠の悩みで、状況に決めてもらう方がいいんじゃないかと思う」と答えた。

プロダクトを作る仕事は楽しい

 4つめのトークテーマは「サラリーマンで上に行くか、フリーランスになるか、起業するか」。

 成田氏は、フリーランスや起業を考えたことがあるかという問いに「ない」と答えた。「自分が作ったのでは、人生を10周してもクックパッドは作れない」というのがその理由だ。「プロダクトを作る仕事はめちゃくちゃ楽しい。楽しくない仕事でお金を稼いでいる人が世の中には多い。それに対して、世の中で需要が高いものを作って、選ぶ自由がある」。

 クックパッド社員からフリーランスになる人も多いが、長続きする人としない人がいるという。土屋氏も「コードを書くことに集中するならサラリーマン」と語った。

 一方、起業については土屋氏が語った。「いまは起業家に優しい時代で、資金調達が簡単になっている」という。「起業は辛いことも多く、振り返ると90%辛いことだが、残りの10%が生きていて良かったと思うようなこと」。

 その上で起業の勧めとして、「エンジニアやデザイナーが起業家になるアドバンテージは大きい」と土屋氏は主張する。デザインやエンジニアリングを理解していないと経営者になれない時代が来る、という意見だ。「意外にリスクは低い。借金を抱えても死なない(笑)。得られる経験は大きい。20代のうちに起業してみるといい」。

作っている人が主役

 最後のトークテーマは「今後のIT業界のモノづくりを担っていく人へ一言」。

 成田氏のメッセージは「楽しいです」の一言だった。「作っている人が主役になる世界なので、胸を張ってください」。

 土屋氏は、「日本はソフトウェアを作れなかったのが外国に対しての敗因だが、これからはソフトウェアが全てを飲み込む。そんなソフトウェアを作る仕事をしてほしいなと思う」とのメッセージを語った。