イベントレポート

BIT VALLEY 2019

IT企業のプロダクトマネージャー/プロダクトオーナーってどんな職業?

(左から)モデレーターを務めたGMOインターネット株式会社の稲守貴久氏、株式会社サイバーエージェントの上野千紘氏、株式会社ディー・エヌ・エーの黒澤隆由氏、株式会社ミクシィの小野里浩司氏、GMOペパボ株式会社の山本稔也氏

 学生・若手エンジニアらを対象としたITカンファレンスイベント「BIT VALLEY 2019」が9月13日・14日にヒカリエホール(東京都渋谷区)で開催された。14日に開かれたセッション「BIT VALLEY 4社プロダクトオーナーが語る これからのモノづくりとは?」では、サイバーエージェント、GMOペパボ、DeNA、ミクシィの4社からプロダクトマネージャー(PM)/プロダクトオーナー(PO)が登壇。PM/POに求められるものや、現場から見たプロダクトづくりに必要なことなどについて議論された。

 モデレーターを務めたGMOインターネット株式会社の稲守貴久氏(次世代システム研究室/デベロッパーリレーションズチーム)が、冒頭に壇上から会場に挙手を求めて調べたところによると、聴衆はエンジニア系が多く、また、PM/POについてイメージのある人が少ない傾向だった。そうした若手や学生に向けて、実際の仕事の現場が語られた。

モデレータのGMOインターネット株式会社の稲守貴久氏(次世代システム研究室/デベロッパーリレーションズチーム)

それぞれのPM/PO観を語る

 まず、自己紹介とともに、各自がPM/PO観を語った。

 株式会社サイバーエージェントの上野千紘氏(Lulucos by.Sプロダクトマネージャー)は、コスメのクチコミサービス「Lulucos by.S」を担当する。新規事業を複数経験しており、社内のPMのスキルや評価を体系化する組織であるPMU(PM Union)でも活動しているという。

 上野氏は、サイバーエージェントでのPMについて「明確な定義というより、ほかのスキルセットに合わせて柔軟に対応する力が求められる」と説明。PMに最も大切なことについては「世の中にないものを作るので、自分で正解を決めて、それに向けて努力し続けること」と語った。

株式会社サイバーエージェントの上野千紘氏(Lulucos by.S プロダクトマネージャー)

 株式会社ディー・エヌ・エーの黒澤隆由氏(オートモーティブ事業本部プロダクトマネジメント部部長)は、タクシー配車アプリの「MOV」などを担当する。もともと製造業のエンジニアからキャリアチェンジしてきて、PMの育成にも携っているという。

 黒澤氏はPMの素養について「比較的、楽観的な人が向いているんじゃないかと思う」とコメント。「思い当たるリスクには対応していくのが当然だが、あまりに些末なことにとらわれる人には向いていないかなと思う。目標に向かって押さえるべきポイントを押さえて判断できる人が向いている」と語った。

株式会社ディー・エヌ・エーの黒澤隆由氏(オートモーティブ事業本部プロダクトマネジメント部部長)

 株式会社ミクシィの小野里浩司氏(KARASTAプロダクトマネージャー)は、カラオケ動画コミュニティ「KARASTA」を担当する。EC企業からミクシィに移り、ずっと新規事業創出の仕事をしているという。

 小野里氏は自身のPMの仕事として「自分の場合は全部やるタイプのPM。企画も、開発も、マーケも、営業も、CSも、全部やっている」と説明。PMに求められる資質として「『くじけない』かなと思っている」と答えた。

株式会社ミクシィの小野里浩司氏(KARASTAプロダクトマネージャー)

 GMOペパボ株式会社の山本稔也氏(minne事業部マーケットグループマネージャー)は、ハンドメイドマーケットの「minne」を担当。もとはデザイナーで、そこからPMにシフトしたという。

 山本氏は自身の仕事について「最初はユーザーリサーチや機能開発といったことをするが、徐々に抽象度の高い部分に軸足が移る。また、予算まわりのような役割も」と説明。PMの素養としては、「事業において、いまどこに穴があいているのか、どうすればいちばんうまくいくかを常に見るような、俯瞰する力が必要と思っている」と語った。

GMOペパボ株式会社の山本稔也氏(minne事業部マーケットグループ マネージャー)

ユーザーとビジネスのバランスは時間軸で変わる

 まず最初のお題は「ユーザーファースト? ビジネスファースト?」。これについては一同、「バランスの話」「時間軸のステージによる」という意見で一致した。

 山本氏は「立ち上げ時期にはユーザーに使ってもらって定着させることを一番大切にするが、徐々に事業として継続することになるとビジネスの部分が増えてくる」と答えた。

 それを受けて黒澤氏は、「ユーザーのことだけを考えているフェーズは幸せだが、チームメンバーにはビジネスパートナーやユーザーマーケティングなどもいる。各々の主張することはそれぞれの現場では正しい。その落としどころを探すのもPMの仕事かなと思っている」と語った。

 そのほか山本氏は、「ユーザーファーストビジネスファーストのバランスもあるが、長期的視点と短期的視点のバランスもある。複合的に考える必要がある」と付け加えた。

最初のお題「ユーザーファーストか? ビジネスファースト?」

ITで実社会に影響を与えるためには

 2つめのお題は「IT産業の変化とこれからのモノづくりとは?」。これについては、それぞれのサービスの立場ごとに、実社会とサービスとの関係が語られた。

 KARASTAの小野里氏は、「音楽の世界で、ライブをする場所が少ないことで才能がつぶれる問題がある。それに対しKARASTAは、表現の場を作る立場にあり、置き換えるというよりプラスするものだ」と語った。

 Lulucos by.Sの上野氏は、「デパートの化粧品売り場をうろうろするようなワクワク感をネットで表現できると、コスメ業界も盛り上がると思う」と語った。

 minneの山本氏は、「表現の幅が広がってきている。そのため、売り買いを含めた作り手の支援が必要だと思う」と答えた。

 MOVの黒澤氏は「タクシーや交通業界は、社会インフラを担っているため、リスクをとって変革するのが難しい。そこにITが入り始めたたので、ITで解決できることが多いのではないかと考えている」と回答。そのための入り方について「タクシー業界の例が分かりやすいが、乗る人だけでなく、乗務員の幸せも考えることも大事」だとした。

 さらにプロダクトを考えるにあたって「左脳的に(ロジックだけで)考えていると失敗する。実際の声を聞く必要があるので、乗務員さんの横に同乗させてもらって体験したし、配車センターの見学もした」と語った。

2つめのお題「IT産業の変化とこれからのモノづくりとは?」

ロジカルな考えと想像力の両方が求められる

 3つのめのお題は「ユーザーから愛されるプロダクト開発とは?」。これについては、ロジカルなものと自分の主観的なものとの両方が重要で、そのバランスが必要ということをそれぞれが語った。

 小野里氏は愛されるプロダクトを恋愛にたとえて、「相手の好みに合わせるだけでなく、自分独自の魅力を作らなくてはならない。プロダクトでも同じ。自分はこうしたいという自己中心的なポリシーを持つことが愛される理由になることもある」と語った。

 山本氏はそれを受けて「自分たちの芯みたいなものがあって初めて、ユーザーの声が生かせる」と発言。そしてユーザーの声を聞く方法として、施設の「minne LAB」を設けて、作家個人個人のリアルな悩みを聞いていることを紹介した。さらに、「ユーザーの声を聞くのは、すでに見えている課題を解決するにはいいが、そもそもユーザーが何を望んでいるか分からないという状態には向かない。そして、そういう分からない領域こそチャレンジする領域だったりする」と語った。

 上野氏も「ユーザーテストやアンケートはするが、その声をいかに反映するかが腕の見せどころだと思っている」と答え、「自分の強みを持つ必要があるが、それででうまくいくかどうかは不安がある」と語った。

 黒澤氏は「ロジカルに考えて説明するのは大切だが、納得感が強くて疑わなくなるのが危ない。話では『すごい』『いい』と言ってもらえるが、実際に出すと使われないことになる。ロジカルに考えつつも、ユーザーが使うところを想像する想像力が求められる」と語った。

 そのほか、「ロジカルだと人と同じになってしまう」(稲守氏)、「エンターテインメントの場合は、そもそも課題解決じゃないので、ほぼ想像することが多い」(小野里氏)、「PMの仕事はいかに打率を上げるかだが、常に成功するのは無理」(黒澤氏)といった意見が出された。

3つのめのお題「ユーザーから愛されるプロダクト開発とは?」

キャリアの選択肢としてのPM/PO

 最後のお題は「最後にひとこと」。それぞれが、主に学生に向けたメッセージを語った。

 上野氏は、「私はPMを目指したわけでなく、新しいサービスを作りたいと思って、たどりついたのがPMだった。チームメンバーと一緒に、自分たちの作りたいワクワクする未来を作り、まだ正解も分からないものを自分たちで正解にしていくところが楽しい。そういうものに興味がある人にはPMにチャレンジしてほしい」と語った。

 黒澤氏は、「エンジニアでもデザイナーでも、なんらかのバックグラウンドがあることが強みになるので、何にでもチャレンジしてみるといい。改めて自分を振り返ると、どんな経験でも今につながっているなと思う。PMは成功確率を上げる仕事だが、失敗の経験をしてなんぼなので、失敗が許容される場をわれわれが提供する」と語った。

 小野里氏は、「ITの魅力は、オフライン以上に多くの人に届けられることで、数百万人や数億人にも届く可能性がある。新しいことをやれて、いまの常識を覆せるのが面白いと思う」と語った。

 山本氏は、「今日登壇した人のサービスを全て使ってみた。プロダクトを作る人は、自分の好きかどうかにかかわらず、いろいろなものに触れることが大切だ」と語った。

最後にひとこと