イベントレポート

BIT VALLEY 2019

美大生・芸大生も来る今年の「BIT VALLEY」が開幕、ITプロダクト開発は「技術だけでは成しえない」

 主に若い人をターゲットとしたITカンファレンスイベント「BIT VALLEY 2019(ビットバレー2019)」が13日、ヒカリエホール(東京都渋谷区)で開幕した。IT業界を目指す学生やIT企業の若手エンジニアら“U30”層を中心に、約1700人が参加登録。ITプロダクト開発に関わる多様な領域の専門家らによる講演やワークショップが、14日までの2日間にわたって行われる。

 ビットバレーとは、ネット企業の集積地として注目されていた1999年ごろの渋谷を、米国のハイテク企業の集積地である「シリコンバレー」になぞらえて呼んたもの。「渋い(苦い)谷」をそのまま英単語にした「bitter valley」と、デジタルデータの単位である「bit」を掛け合わせた造語だ。

 それから20年ほどたった昨年2018年、この名称がカンファレンスイベント「BIT VALLEY 2018」として復活。渋谷に拠点を置く株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)、GMOインターネット株式会社、株式会社サイバーエージェント、株式会社ミクシィの4社が「SHIBUYA BIT VALLEY」プロジェクトを結成して主催したかたちだ。

 今回、昨年に続いて2度目の開催となったが、昨年とは大きく変わった点がある。

 まず、扱う領域が大きく拡大した。昨年は“テックカンファレンス”を掲げており、主にエンジニアを対象としていたのに対し、今年はIT業界の“モノづくり”に関わる全ての人へと対象を広げ、開催テーマには「モノづくりは、新たな領域へ――テクノロジーとクリエイティビティが交差する世界」を掲げた。「技術だけでは成しえない、人の感性に訴え、共感を呼ぶサービスを創造するために必要な、気づきを得られるカンファレンスイベント」だとしている。

BIT VALLEY 2019実行委員長の小林篤氏(株式会社ディー・エヌ・エー常務執行役員兼CTO/システム本部長)

 カンファレスの冒頭にあいさつしたBIT VALLEY 2019実行委員長の小林篤氏(DeNA常務執行役員兼CTO/システム本部長)は、今年は「テクノロジー」に加えて「デザイン」「プロダクトマネジメント」「音楽」「アイデア」など多彩なテーマのセッションを設けていることを説明。IT業界では、よいプロダクトを生み出すためにこういったいろいろなものが組み合わされていることし、テクノロジーだけでなく、多くのものを知ってもらって、モノづくりに携わるときに生かしてほしいと呼び掛けた。なお、ITカンファレンスで「音楽」は珍しいかもしれないが、BIT VALLEY 2019では、ベーシスト/音楽プロデューサーの亀田誠治氏が2日目のセッションで登壇する。

 参加登録者1700人のうち、学生は約900人。東京以外の学生には、協賛企業の支援によって交通費が支給される制度もあり、実際に大阪や広島などから駆け付けた学生もいた。やはりエンジニア系が中心であるものの、今回はエンジニアリングだけでなくさまざまな領域にフォーカスしていることもあり、デザイン系の教育機関などにもイベントの開催を案内。その結果、美大生・芸大生など、エンジニアリング以外の領域の学生も多く参加しているということだ。「学生らにいい刺激・気づきを持って帰ってもらえれば」という。

今年の参加状況などについてコメントした、BIT VALLEY 2019運営事務局4社の責任者。(向かって左から)GMOインターネット株式会社次世代システム研究室シニアクリエイター兼事業本部デベロッパーリレーションズチームの稲守貴久氏、株式会社ディー・エヌ・エー常務執行役員兼CTO/システム本部長の小林篤氏、株式会社サイバーエージェント取締役(技術開発管轄)の長瀬慶重氏、株式会社ミクシィ人事本部人事部カルチャーコミュニケーショングループマネージャーの澁谷高広氏

 もう1つ大きな変更点は、ビットバレーとはいうものの、“渋谷縛り”ではなくなったことだ。主催するプロジェクトの名称からも「SHIBUYA」の文字がなくなり、単に「BIT VALLEY」プロジェクトとなっている。

 「日本のモノづくりをよくしていきたい、強化していいきたいという思いがあって、それは渋谷だけということではない。渋谷はITの中心ではあると思うが、渋谷に限らずにやっていきたいという思いがあった。昨年、SHIBUYA BIT VALLEYをやったとき、渋谷以外の企業の方からも何かお手伝いしたいという声をいただいていた。ならば、渋谷という枠はとっぱらってもいいだろう、と。」(小林氏)

 今年も主催プロジェクト自身は渋谷系ベンチャー4社で構成しているものの、イベントのスポンサー企業には、日本マイクロソフト、アマゾンウェブサービスジャパン(Game Tech)、ソフトバンク、日本アイ・ビー・エム、デルなど、渋谷系ではないIT大手が名を連ねている。また、東京都も後援しており、BIT VALLEYの枠組みが着実に広がっているとしている。

展示コーナーの一画に設けられた「ASK THE PROFESSIONAL」のコーナー。「BIT VALLEY 2019」の見所、IT業界の求職事情にとどまらず、IT業界の人生相談・恋愛相談まで、各社の担当者に質問できるようになっていた

DeNA、“デザイン×AI”の成果「fontgraphy」をBIT VALLEY開催に合わせて公開

 会場には主催4社やスポンサー企業の展示コーナーが設けられているが、各社の事業内容からしてクラウドサービスなどの技術系プロダクトの紹介が中心だが、その中で、今回の開催テーマを象徴するような少し変わった展示をDeNAが行っていた。BIT VALLEY 2019の開幕に合わせるたちで13日に公開したばかりだという「fontgraphy」だ。スマートフォンのウェブブラウザーから利用できる。

 これは、ひとりひとりの声からオリジナルのグラフィックを生成するもので、「私のディーエヌエーを作ってください」と話し掛けると、その声質に応じた「DeNA」の文字のフォントと背景イメージ画像が選定されて合成表示される。

 fontgraphyを開発するにあたってDeNAでは、同社の社員800人の音声データを収集し、その印象を人手によって分類。これと並行して、Monotype社のフォントについても分類を行い、これらのデータをAIに機械学習させることで、声の印象に合わせたフォントや画像をAIが選定できるようにしたという。

「fontgraphy」
来場者が実際に「私のディーエヌエーを作ってください」と話し掛け、「fontgraphy」のグラフィックが生成されるのを体験できるようになっており、DeNAのAIチームのスタッフとともに同社の若手のデザイナーが説明対応していた
生成されたサンプル画像のステッカーも配布

 「fontgraphyは、声からグラフィックを生成するクロスモーダル生成の試みで、これまでDeNAが行ってきたデザイン×AIの成果。より多くの人にAIを身近に感じてもらうため、一般公開した。」(DeNA)

DeNAでは同日付の報道発表資料で、横浜DeNAベイスターズのA.ラミレス監督(左)と山崎康晃選手(右)の「fontgraphy」グラフィック画像も公開している