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“ビットバレー”復活で、渋谷を技術者フェスの聖地に――地方の学生には渋谷までの交通費・最大5万円を支援

 9月10日に渋谷区文化総合センター大和田(東京都渋谷区桜丘町)で開催されるテックカンファレンス「BIT VALLEY 2018」において、地方の学生にも参加してもらえるよう、「学生支援プログラム」を実施することが決まった。首都圏以外に在住するエンジニアを目指す学生100人を対象に、会場までの交通費(1人3000円~5万円)を支給する。ウェブで申し込みを受け付けており、締め切りは8月31日13時。申し込み多数の場合は抽選となる。

 カンファレンスでは、渋谷に拠点を持つIT企業の経営者やエンジニアらによるトークセッション、AIやブロックチェーン、仮想通貨など各社の取り組みや技術について紹介する講演が行われる。「最新の技術・多様な働き方を知ることで、エンジニアを目指す学生やIT業界に携わる若手エンジニアにとって、これからのキャリアイメージを描くきっかけ作りになるとともに、今後のIT産業のさらなる発展に繋がることを期待している」という。

 このカンファレンスを企画したのは、株式会社サイバーエージェント、GMOインターネット株式会社、株式会社ディー・エヌ・エー、株式会社ミクシィという、渋谷に拠点を持つIT企業4社が立ち上げたプロジェクト「SHIBUYA BIT VALLEY(シブヤ・ビットバレー)」。

 ビットバレーとは、インターネット関連企業の集積地として注目されていた1999年ごろの渋谷を、米国のハイテク企業の集積地である「シリコンバレー」風に言ったもの。「渋い(苦い)谷」を英単語にした「bitter valley」と、デジタルデータの単位である「bit」が語源となっている。

 実にそれから20年近く経った今年、この懐かしい名称が、IT業界のエンジニアを目指す学生や若手エンジニアを対象としたカンファレンスの名称に冠されて復活したかたちだ。

“ITエンジニアとして働くことの面白さ”を伝えるムーブメントを渋谷で

 サイバーエージェント執行役員で技術政策室室長の長瀬慶重さんは、カンファレンス開催に至った背景として、地方の若いエンジニアや学生と会っている中で感じた「機会の格差」があると説明する。

 東京であれば、テック系イベントやミートアップ、コミュニティのほか、エンジニアを目指す学生がインターンとして職場を体験する機会も多くある。学生のころから複数の企業で就業を経験しているケースも珍しくないという。一方で、地方の学生は「リアルに触れる機会が少ない。知識という側面だけで見るとレベルが高い人でも、リアルな現場を体験する機会が圧倒的に少ない印象がある」。

 GMOインターネットでも、若い世代に対するIT業界としてのアプローチの必要性を感じていたと、同社次世代システム研究室シニアクリエイターの稲守貴久さんは語る。人材不足の中、IT業界においても若い優秀な人材が必要であり、そうした人材を育てる必要がある。そのためには、IT業界の面白さ・楽しさを知ってもらうことで、「将来、志すべき世界の選択肢の1つと思ってもらえる業界になりたい。若い人があこがれる業界にならないといけない」という。

 こうした潜在的な課題をそれぞれ感じていた各社が、サイバーエージェントの呼び掛けのもとで集結したのがSHIBUYA BIT VALLEYプロジェクトであり、「渋谷でエンジニアとして働くことは楽しい」をテーマに掲げて実施する今回のテックカンファレンスだ。

 「若い子は、エンジニアとしてIT業界・インターネット業界で働くことの楽しさやリアリティを感じていない。それは1社だとどうにもできないが、力を合わせれば、渋谷の魅力や業界の面白さ自体を伝えることができるのではないか。」(長瀬さん)

 長瀬さんは、そのために何か1つのムーブメントとして、「日本中のエンジニアが3日間あるいは1週間、渋谷に集まるお祭りがしたかった」という。「毎年、お祭りのように渋谷でテックカンファレンスが行われていて、そこに国内外から人が来る。そういうのって面白いんじゃないか?」。

 しかし、プロジェクトが始動したのは今年5月のこと。さすがに短期間でそのような大規模なイベントに漕ぎ着けるのは難しいと判断。まずは今年は「#0」と位置付け、SHIBUYA BIT VALLEYの狼煙を上げる意味で、単日のカンファレンスを開催することとした。

「SHIBUYA BIT VALLEY」プロジェクトのミーティングが週1回、各社からメンバーが出席して行われている

2019年に渋谷に移転するGoogle日本法人も参加、“渋谷系の創業者”3人のトークも

 カンファレンスの登壇者としては、今や大手企業となった4社の若手エンジニアはもとより、スタートアップのCTOやCEOらを含む、渋谷の他のIT企業の面々も名を連ねている。これには、クックパッド株式会社、スマートニュース株式会社、株式会社スタートトゥデイテクノロジーズなどが含まれる。さらには、2019年に渋谷へのオフィス移転を予定しているGoogleの日本法人からも登壇する。

 基調講演では、藤田晋氏(サイバーエージェント代表取締役社長)、熊谷正寿氏(GMOインターネット代表取締役会長兼社長)、南場智子氏(ディー・エヌ・エー代表取締役会長)が「渋谷×新規事業論」と題してトークセッションを行うなど、「技術者でなくとも面白い」(長瀬さん)プログラムが組まれており、むしろ、往年のビットバレーをリアルタイムで知る“若くない人”ほど参加したくなるはずではないか、とも。カンファレスへの参加申し込みは7月末より受け付けているが、この“渋谷系の創業者”の3人の顔ぶれもあってか、エンジニア職だけでなく、ビジネス職の参加申し込みも多い模様だ。

 実際、7月末にBIT VALLEY 2018の開催が発表された際も、予想以上に大きな反響があった。「当初は1000人も集まるのかと心配していたが、すでに会場があふれ出るほどの参加申し込みをいただいている」(サイバーエージェント技術政策室広報・PRの関本育久さん)というが、その一方で、課題も見えてきた。

 カンファレンスの参加費自体は無料だが、いちばん来てほしいエンジニアを目指す学生からすれば、地方在住者では参加したくとも旅費の面でハードルがあるという声が寄せられるようになったのだ。

 そこで地方から参加する学生の交通費を負担してくれるスポンサーを募って実現したのが、学生支援プログラムである。株式会社サポーターズがパートナー、iYell株式会社、株式会社ウィルゲート、スマートニュース株式会社、株式会社デジタルガレージ、株式会社VOYAGE GROUP、株式会社LiB、レバレジーズ株式会社、ログリー株式会社、ユナイテッド株式会社がスポンサーとなって、計10社が協賛している。

 交通費は、実際の交通費にかかわらず、居住エリアごとに一律額を支給する。北海道が5万円、東北/中部が2万円、近畿/中国/四国が3万円、九州が4万円、関東が3000円(渋谷までの交通費が往復3000円以上の人のみ)。

来年のビットバレーは、渋谷縛りでなくなる可能性も?

 SHIBUYA BIT VALLEYの公式発表では、今後、「テックカンファレンスの開催を中心に、渋谷のIT企業のコミュニティ強化、交流の活性化を目指し、中長期的に継続して活動するとともに、渋谷区との連携強化を含め、協議を進めていく」としているが、前述の通り、今年はまだ「#0」のフェーズ。来年から本格的な活動をスタートしていく予定で、具体的な方向性はまだ固まってないという。他のIT企業からも参加を希望する声があるというが、運営体制をどうしていくのかも含めて未定だ。BIT VALLEY 2018の終了後、同カンファレンスの協力・参加企業と課題を持ち寄りながら探っていくことになるとしている。

 「来年の話はこれからみなさんと詰めたいが、お祭りのような感じになるといいな、と僕は思っている。それは、会場が渋谷というだけで、(参加企業の)エリアに関係なくできたら面白い。1社でできることは本当に少ない。垣根を超えてできることをやっていきたい。SHIBUYA BIT VALLEYプロジェクトについてネットの反応を見ていると、『こんな動き、渋谷にくくらなくていいじゃん!』という声はけっこうあった。確かにそう思った。でも、収拾がつかないのでどうしよう(笑)。」(長瀬さん)

しかしなぜ、こんなお若いみなさんが集まって「ビットバレー」なる懐かしい名前に? 当初は「テックバレー」という案もあり、「ビットバレー」については「若い子が知っているのか?」など賛否あったという。「知らないからこそ使いたい」という意見もあり、二転三転して「ビットバレー」に決まった。ちなみに稲守さん自身、この言葉は知っていたが、流行っていたときはまだ学生だったという