イベントレポート
BIT VALLEY 2018
“ビットバレー”復活の狼煙を上げるカンファレンス「BIT VALLEY 2018」開催
学生や若いエンジニアを中心に千数百人が集まる
2018年9月13日 06:00
9月10日、渋谷区文化総合センター大和田(東京都渋谷区桜丘町)で、テックカンファレンス「BIT VALLEY 2018」が開催された。BIT VALLEY 2018は、渋谷を本拠地とする株式会社サイバーエージェント、GMOインターネット株式会社、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)、株式会社ミクシィという、IT企業4社が立ち上げたプロジェクト「SHIBUYA BIT VALLEY」によって企画された。
“ビットバレー”っていったい何?
“ビットバレー”とは、渋谷がインターネット関連企業の集まる地として注目されていた1999年ごろに、渋谷=渋い谷=Bitter Valleyとデータの単位「Bit」から、Bit Valleyという呼び名が提唱され、インターネット関連企業の急成長とともにビットバレーという言葉も広まった。その後、ITバブルが弾けたことやリーマンショックなどもあり、株式投資的な文脈で使われることが多かったビットバレーという言葉を見聞きすることもなくなっていった。
今回、ビットバレーという名前を再び冠したイベントを行うことになったのは、“渋谷でITエンジニアとして働くことの面白さ”を伝えることが目的だという(8月24日付記事『“ビットバレー”復活で、渋谷を技術者フェスの聖地に――地方の学生には渋谷までの交通費・最大5万円を支援』参照)。今回のカンファレンスは「#0」として位置付けられており、来年夏には、1週間程度の会期で本格的なカンファレンスを開きたいとのことだ。BIT VALLEY 2018は、1000人前後の参加者を想定していたが、インターネットによる事前受付だけで1300人を超え、セッションによっては会場が満員になるほどの盛況であった。
BIT VALLEY 2018では、AIやブロックチェーン、ゲーム開発など、多岐にわたるセッションが行われたが、ここでは、オープニングのあいさつと基調講演、囲み取材の内容について紹介する。
渋谷区も「BIT VALLEY 2018」を後援、長谷部健区長が開会のあいさつ
カンファレスではまず、渋谷区長の長谷部健氏が開会のあいさつを行った。
「最初にこの話を聞いたときにとてもわくわくした。渋谷駅周辺は、IT企業がたくさん集まっており、20年くらい前にビットバレーという言葉が誕生した。ビットバレーがなくなったわけではないが、最近あまり聞こえないなと思ってたが、当時よりももっとたくさんのIT企業が集まり、もう一度ビットバレーという言葉を聞くようになったのはうれしいと思っている。渋谷区は、多様性、ダイバーシティを意識して、20年先の街作りを行っている。渋谷区は教育の分野でも、タブレットを小中学生全員に貸与して、プログラミング教育をいち早く取り入れている。先日、エストニアに見学に行って来たが、エストニアは行政機関のIT化が進んでおり、職員がほとんどいなかった。また、小学生もブロックチェーンの技術を学んでいた。渋谷区も、そうした先進的な国に負けないようにキャッチアップしていきたい。皆様も、一緒になって渋谷区を盛り上げていただきたい。」(長谷部氏)
老舗メガベンチャー3社が見た渋谷の20年、DeNA南場会長・GMO熊谷社長・CA藤田社長が「渋谷×新規事業論」語る
続いて、基調講演として「渋谷×新規事業論」というタイトルのパネルディスカッションが行われた。モデレーターを務めたのは、株式会社技術評論社クロスメディア事業室室長の馮富久氏。パネリストは、DeNA代表取締役会長の南場智子氏、GMOインターネット代表取締役会長兼社長/グループ代表の熊谷正寿氏、サイバーエージェント代表取締役社長の藤田晋氏が登壇。ミクシィ会長の笠原健治氏は、他のイベントのため出席できず、最後にビデオレターとして登場した。
最初のテーマは、「渋谷、再発見 ~渋谷発老舗メガベンチャーが見た20年」である。
熊谷氏はまず、参加者に対して「ビットバレーという言葉をこのイベント以前から知っていた人」に手をあげるように促したところ、手をあげた参加者は2割程度であった。次に、「エンジニア志望の方」と問いかけたら、半数以上の参加者が手をあげ、「起業家志望の方」と問いかけたら、1~2割の参加者が手をあげた。最後に「エンジニアかつ起業家の方」と問いかけたところ、1割くらいの参加者が手をあげた。
「自分達は最初、南青山で起業したが手狭になったため、渋谷にオフィスを移した。そのときは都落ちのように感じたが、それからの23年間を振り返ってみると、渋谷のさまざまなパワーに助けられて今に至ったと感じている。渋谷の多様性がGMOグループの成長を支えてくれた。23年でグループのパートナーは5600名になった。ビットバレーの第1回の会合は、20人くらいのベンチャーが集まって、弊社の会議室で行われたことを昨日のことのように覚えている。その後、ジャスダックに上場させていただいた。」(熊谷氏)
「DeNAは、来年の3月でちょうど20周年を迎えます。私は生まれも育ちもずっと渋谷で、私にとって渋谷は特別な場所というより、DeNAにとってもホームなんです。会社に寝袋を持ってきて寝泊まりしたり、中には住民票を会社に移してしまった社員もいました。すべてが渋谷での出来事なんです。」(南場氏)
「サイバーエージェントは1998年3月創業なので、ちょうど20周年を迎えた。最初のビットバレーのブームが1999年から2000年にかけて起きたが、当時はネットバブルで、株式市場の異様な株高を背景にVCや証券会社が集まった。当時のバーティーはヴェルファーレを借り切ったり、いわゆるパリピ感があった。しかし、今日集まった皆さんはパリピ感はない(笑)。バブルではなく、しっかり地に足がついた技術を背景にしたものになっていると思う。ビットバレーという言葉で、再度やっていこうというのは絶妙なタイミングだと思う。」(藤田氏)
再開発が進む渋谷駅前へ、Googleもオフィスを移転予定「同じ志を持った人が渋谷に集まり、イノベーションが起こる」
2つめのテーマは、「渋谷発世界行 新しい価値創造・価値提供を目指して ~人材・コミュニティ育成と企業文化の醸成」というものであった。
「昔は渋谷の坪単価が驚くほど安かった。それがどんどん会社が増えていって、新たな供給がされなかった。それが一気に変りつつある。なぜなら、東急さんがものすごくたくさんビルを作っていて、それが出来上がると一気にビジネス都市として渋谷が突出する。もう1つ欲しいのは、ビットバレーを象徴するような施設やインスタ映えするような聖地のような場所があれば、さらに盛り上がっていける。」(藤田氏)
「DeNAのDNAは、挑戦なんです。挑戦をやめたらDeNAではない。DeNAはやっている事業がどんどん拡大していて、当初はEコマース専業だったのか、新しい事業の柱を追加していってます。それはこういう事業に挑戦したいというメンバーの熱量を事業にしてきたかたちです。その熱量を失ったら、DeNAではないと思います。自分達を永久ベンチャーとして、エスタブになりたくない。出来上がった会社になりたくない。あまり意識しないでずっと渋谷にいるといいましたが、そういった我々の企業文化、DeNAのDNAは渋谷の雰囲気に合っていたのだと思います。だから、渋谷にエスタブになって欲しくないと思います。人の敷いたレールの上を粛々と走るのではなく、そこからあらがって自分のアイデアをかたちにしたいという熱量を持った人が集まる街でいてほしいと思います。また、横浜にも拠点があり、横浜と渋谷を結ぶ沿線を熱くしたいと思っています。」(南場氏)
「みなさんがエンジニア志望であり、IT系、ベンチャー系志望であることは正しい選択だと思います。なぜなら、23年前にうちが創業したが、そのときに『インターネットは産業革命である』と周りの人に言っても誰も信じてくれなかった。この23年間で、IT革命が産業革命であることを誰も否定しなくなった。過去の産業革命は平均すると55年間続いている。したがってちょうど今、インターネット革命は、1日24時間にするとランチを食べているタイミングで、まだまだこれから美味しいディナーが待っている産業がこのインターネット産業であると確信している。さて、どこで務めるか、どこで起業するかということだが、それは紛れもなく渋谷が正しいと考えている。この渋谷が数年間でどう変わるかというと、東急さんが渋谷駅周辺に、特にIT企業向けのビルをたくさん建てる。駅の上には駅街区というビルが建つ。駅街区には、Googleが全部借り切って入る。ビルの上にはおそらく企業ロゴが入る。サイバーエージェントも駅のそばに集約されます。そしてGMOも、今はセルリアンタワーとその周辺にオフィスを5棟借りているが、駅の正面で建設中の東急プラザのオフィスフロアの全部をGMOで借りることになっている。来年末の予定だが、Googleと同じく、ビルの一番上にはGMOのロゴを出す。2年後の渋谷駅の周辺を見渡すと、全部IT企業が入っていることになる。同じ志を持った人が集まるので、必ずイノベーションが起こる。」(熊谷氏)
アウェイ感があるところでは、楽しく働けない?「渋谷は、エンジニアのみなさんにとってのホーム」
最後のテーマは、「世界的技術拠点としての“これからの”渋谷 ~現在と未来を支えるエンジニアたちに期待すること」である。
最初に、株式会社ミクシィの笠原健治氏のビデオメッセージが公開された。
「私は学生のころに起業して、ずっと渋谷でやってきている。その間、サービス作りをしてきたが、それがとても楽しかった。アイデアを思いついた瞬間も楽しいし、リリースした後にユーザーに支持していただくのもうれしい。それがやみつきになって続けてきた。今は『みてね』というサービスをやっているが、国内で300万人が使うサービスとなっている。北米でも今ちょうど当たり始めている時期で、北米でやってるとGoogleとかAppleとかFacebook、Amazonのパワーを感じることが多く、彼らは技術力、研究開発力が圧倒的に高い。一方、ベンチャーも毎年誕生している。一方で、日本の技術力も今後ますます高まっていくと思ってるので、ビットバレーの潮流も含めて、新しい未来を切り拓くためにぜひ頑張って欲しい。」(笠原氏)
「自分にとって幸せとは何か、考える時間がありました。1つは誰かの役に立っているという実感、もう1つは夢中になっているという状態です。この2つが私を幸せにする要素です。やっぱり精一杯何かに夢中になって、出来上がったものがお客様に喜んでもらえる、だからビジネスってたまらないなと思います。エンジニアに向けて期待することは、エンジニアだろうが何だろうが一緒で、基本的には使う人にとって素晴らしい体験を作る、そのために夢中で取り組み、試行錯誤することです。」(南場氏)
「仕事の楽しさというのは、ホーム感が大事だと思っていて、社会に出てアウェイ感があるところでは楽しく働けない。謎の権威であるとか、習慣とか、上下関係とか。この渋谷は、エンジニアのみなさんにとってのホームなので、世界に誇れるようなものが出てくるように、一緒に頑張っていきたいと思う。」(藤田氏)
「人間には寿命がある。みなさんが何に自分の一度きりの命を捧げるのか、まずそれを確認することが大事だ。それがやはり、エンジニアで楽しかった、ITベンチャーで楽しかったと思えるように、ぜひ、この渋谷でご活躍いただければうれしく思う。お金は大切ですが、それは目的ではなく、結果じゃなきゃいけないと常々思っている。自分の限られた命、時間と引き換えるのだから、多くの方に笑顔をもたらすような、そういう人生を歩むことが幸せだと思う。」(熊谷氏)