インタビュー

もはやビットバレー=渋谷の概念を超越、SHIBUYAテック縛りを自ら解き放ち、日本全体の“モノづくり”底上げへ

若者に向けたITカンファレンス「BIT VALLEY 2019」今週末9/13・14に開催、“大人向け”チケットはまだまだ余裕あり

 「BIT VALLEY」プロジェクトが9月13日・14日の2日間、カンファレンスイベント「BIT VALLEY 2019」をヒカリエホール(東京都渋谷区)で開催する。昨年の「BIT VALLEY 2018」に続く2回目の開催となるカンファレンスだが、前回に比べると、会期が2日間に拡大されたほか、対象をエンジニアからIT業界の“モノづくり”に関わる全ての人へと広げている点で方向性が変化した。その狙いや見所のセッションについて、BIT VALLEY 2019実行委員長である株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)常務執行役員兼CTO/システム本部長の小林篤氏に話を聞いた。

BIT VALLEY 2019実行委員長の小林篤氏(株式会社ディー・エヌ・エー常務執行役員兼CTO/システム本部長)

さまざまな職種が互いを知ってコラボレーションしていく世界に

――昨年、「BIT VALLEY 2018」を開催した結果はいかがでしょうか。

 昨年は“テックカンファレンス”として開催し、メディアも含めて反響を多くいただきました。多くの学生に参加いただけたのもよい結果です。成果は大きく残せたと思っています。

――昨年はビジネス系の人の参加も多かったようですね。

 カンファレンスの最初のキーノートに、各社の創業者が登壇[*1]したこともあり、ビジネス系の人にも多く参加いただきました。

 今年は、より現場の若手に向けたカンファレンスにしたいと思って方向性や内容を決めました。スピーカーの方も、エンジニア、デザイナー、プロダクトマネージャーなど、幅広く登壇していただき、その中に経営の観点のセッションも含まれるというかたちです。

[*1]……BIT VALLEYカンファレンスを主催/実行委員会を構成している“渋谷系メガベンチャー”4社の創業者。株式会社ディー・エヌ・エー代表取締役会長の南場智子氏、GMOインターネット株式会社代表取締役会長兼社長/グループ代表の熊谷正寿氏、株式会社サイバーエージェント代表取締役社長の藤田晋氏が登壇したほか、株式会社ミクシィ取締役会長執行役員の笠原健治氏は海外出張だったため、ビデオメッセージで参加した(2018年9月13日付記事『“ビットバレー”復活の狼煙を上げるカンファレンス「BIT VALLEY 2018」開催』参照)

――昨年は「渋谷でエンジニアとして働くことは楽しい」がテーマで、渋谷で働くことを呼び掛けていたように感じました。

 渋谷に集まることが正義というわけではないと思っています。インターネットの世界ではもう、どこか一極集中ということはないのではないか、と。土地だけでなく、リモートワークなどいろいろな働き方が広がりつつありますし。

 渋谷はムーブメントが生まれる中心的な存在ではあるのだろうと思いますが、今回のBIT VALLEY 2019を開催するにあたって、渋谷に限らず、日本全体のモノづくりがよくなるきっかけになればと思っています。

――BIT VALLEY 2019は、昨年から方向性やセッション構成などが大きく変わっているように思います。その意図などを教えてください。

 今回の開催テーマは「モノづくりは、新たな領域へ――テクノロジーとクリエイティビティが交差する世界」というもので、IT業界を軸としたモノづくりに寄せています。

「BIT VALLEY 2019」公式サイト。開催テーマに「TECHNOLOGY×CREATIVE」を大きく掲げる

 最近、東京近辺では普段から勉強会やテックカンファレンスが数多く開催されており、テックに寄ったカンファレンスをやっても違いが分からず埋もれてしまうと考えました。

 もう1つの意図としては、私の仕事の1つは会社から出るプロダクトのクオリティを高くすることなのですが、プログラミングなどのエンジニアリングだけがキーではないと感じています。デザインやプロダクトマネジメント、マーケティング、ビジネスなど、いろいろな要素が融合して、すばらしいプロダクトが作られます。そこで、そうしたいろいろな専門分野を集めようと思いました。エンジニアがデザイナーの話を聞いたり、デザイナーがエンジニアの話を聞いたりして、互いに刺激を受け、お互いを知ってコラボレーションしていく世界になればと思っています。

“デザイン”や”音楽”、“プロダクトマネジメント”もテーマに多彩なスピーカー

――具体的にどのような専門分野が集まっていますか。

 幅広い分野のセッションをご用意しました。とりわけ、エンジニアやデザイナーの方は楽しんでいただけるかと思います。

 例えば、いいものを作っているのになぜか評価されないと悩まれているケースもあるかと思います。でも実は、いいものを作ることは当たり前で、その“よさ”をどのように世の中やユーザーに伝えるかが重要だと私は考えています。それにはプレゼンテーションの技術が役立つはずだと考え、そうしたテーマのセッションも扱います。

 音楽もモノづくりの1つです。IT関連ではガラケーがスマホに進化したように、音楽を届ける手法もレコードやカセットテープからCD、MD、ストリーミングにどんどん変化してきました。こうした変遷や進化をいかに乗り越え、乗りこなしていくかのヒントを、IT関係者は音楽分野から学べるのではないでしょうか。

 そのほか、開発をすると、バグが出たりなどいろいろな失敗が出ます。そのとき大切なのが、同じ間違いを繰り返さないことです。だからナレッジマネジメントを学問的に研究している方の話もご用意しました。

 このように、モノづくりに必要なさまざまな要素をピンポイントにピックアップして、それぞれの分野のスペシャリストやプロフェッショナルにスピーカーになっていただきました。

――そうしたスピーカーやセッションの中から、今回、特にこれは!というものをご紹介ください。

 それはもう、みなさん全員が面白い話をしてくれると思います。時間があれば全部出てほしいぐらいです(笑)。

――デザイナーの佐藤オオキさんや、ミュージシャンの亀田誠治さんなども登壇されますね。

 デザインオフィス「nendo」の佐藤オオキさんには、「POPEYE」編集長の松原亨さんとの対談形式で、「アイデアの20年」というタイトルで登壇していただきます。すでに世の中にはいろいろなものがあふれている中で、「いままでにないもの」を生み出していくのは難しいことです。そこで、「アイデア製造機」と賞賛されている佐藤さんがアイデアを出していくプロセスを、対談形式で深掘りしていって、アイデアを出すためのヒントを知るというセッションになる予定です。

 ミュージシャンで音楽プロデューサーの亀田誠治さんには、音楽業界の変化をご自身のキャリアとあわせて語っていただける予定です。以前、亀田さんが「日本の音楽業界はCDに重きを置いていて下降トレンドですが、欧米ではV字回復している」とおっしゃっていました。日本では変化できていないことが、海外では変化できている状況で、その違いは何か、何が変化していて何が変化しないコアか――といったことを学べればと思います。

 そして、実は「テクノロジーとクリエイティビティが交差する世界」という今回のカンファレンステーマを決めるきっかけになったのが、初日9月13日金曜日の10時50分より登壇していただく、ソニーのクリエイティブセンター・センター長の長谷川豊さんです。こちらのセッションはキーメッセージとしてぜひともお聴きいただければと思います。

 以前、ミラノサローネ(ミラノで毎年開催される家具の国際見本市)に行く機会がありました。そこでソニーさんがインスタレーションをしていて、テクノロジーとアートが融合した世界を演出されていたのですが、とても感銘を受けました。そのときのテーマが、ロボットと人間がいかに共生するかということで、例えばロボットは無機質で怖いけど、それを補うのがデザイン、というものです。テクノロジーの弱点をデザインで補ったり、より効果を高めたりするという発想に感銘を受けました。長谷川さんにはそういったことをお話していただく予定なので、ご参加いただくみなさんと感動を共有できるとうれしいなと考えています。

 プレゼンテーションについては、自分が取り組んでいることを知ってもらうにはどうしたらいいか、ということを、澤円さんに話していただきます。

 ナレッジマネジメントについては、NPO法人「失敗学会」副会長で「失敗の研究」などの著作がある東京大学の中尾政之教授にお話しいただきます。ナレッジマネジメントを体系立てて研究されていて、そうしたことを知るきっかけにしていただければと思います。

「BIT VALLEY 2019」公式サイトより、スピーカーの紹介ページ(この画像にあるのはその一部)。ITに限らず、幅広い専門分野から登壇者を登壇者を迎える

――プロダクトマネージャーに関するセッションもありますね。

 プロダクトマネージャーは、最近注目されていますね。プロダクトが誰のものなのか、何のためにやるのか、どうやるのかといったことを体系立てて考えて、プロダクト作りに生かすのが重要だと思われているからだと思います。

 そこで、及川卓也さんには、日本のプロダクトマネージャーの先駆者として、体系立てた話をしていただけると思います。

 また、サイバーエージェント、DeNA、GMOインターネット、ミクシィの各現場のリアルをお伝えする「BIT VALLEY 4社プロダクトオーナーが語る これからのモノづくりとは?」というセッションもあります。こちらのセッションでは、チームをどう導いて、どういうことを大切にしているのかなど、実プロダクトをベースにした生々しい話をお届けする予定です。

――業界に入る前の学生にとっては、プロダクトマネージャーの重要性が分かりづらいかもしれません。

 プロダクトマネージャーを知ってもらい、モノづくりを行う上で重要であることを感じてもらうことが大切だと考えています。プロダクトマネージャーに限らず、私が今回思っているのは、「一度に全部を理解する必要はない。セッションで聴いたことがみなさん自身の体の中を1回通ってもらえればいい」ということです。

 例えば、サーバー系の開発をする人でも、スマートフォンアプリ開発に一度でも触れておくことで、「こういうことも大切」ということが肌で分かるようになります。それと同じように、エンジニアがデザインのセッションを聞いてよく分からなくても、デザイナーがこういう働き方・考え方をしているのかと、ちょっとでも知るきっかけになればいいと思っています。このイベントで、覚醒したかのように直ちに学びを得る必要はないと思います。

――セッションは2トラックが並行するのですよね。

 メインホールとサブホールとで2トラックが並行して開かれます。さらにその裏側でワークショップもあります。

 また、今回工夫したのが、Ask The Speakerセッションです。最近のカンファレンスではAsk The Speakerコーナーが設けられ、登壇したあとのスピーカーに質問ができるようになっていることがありますが、長い行列になったりしてちょっともったいない。そこで、専用の部屋を設けて、メインホールのセッションの一部のスピーカーに講演後に来ていただき、双方向のやりとりができればいいなと思っています。

 そのほかに意識したのが、日本のカンファレンスは時間割がタイトで、セッションの間の10分で次のセッションに行くようになっていることです。そこで、BIT VALLEY 2019では、あえてセッション間に20分~30分の時間を空けるようにしました。この時間で、周りの人とコミュニケーションをとったり、ブースを回ったりしてほしいと思います。

多くの若手や学生に参加してもらいたい、「海の広さを知ってもらえれば」

――今年の参加申込者の傾向はいかがでしょうか。

 昨年との違いとしては、開催が1日増えて2日間の開催になったので、参加者が必然的に増えました。また、属性でいうと、デザインやクリエイティブ系の方の申し込みが増えています。前回はテックカンファレンスなので、デザイン系の方は多くなかったと思います。

 ちなみに、DeNAの社内でBIT VALLEY 2019に参加したい人を募集したところ、経理部社員も手を上げました。これは極端な例かもしれませんが、いろいろな領域の人が興味を持ってくれていると感じています。

 年代でいうと、6~7割ぐらいが30歳以下ですね。なるべく多くの若手に参加してもらいたいと考えています。無料の「学生チケット」を多く発行しているほか、「一般チケット」と、30歳未満の「U30チケット」を明確に分けています[*2]

――協賛企業が学生の交通費を1人最大3万円支給する「学生支援プログラム」の反響はいかがでしょうか。

 満員の応募がありました。

 ちなみに、私がエンジニアになったときと比べると、プログラミングを若いころから行う人も多く、仕事として始める人に比べて有利です。ただ、もっとあらゆる経験を身に付けて広い世界を知りたいが、なかなか機会がないと感じている学生にとって、今回のイベントで海の広さのようなものを知ってもらえるのではないかと期待しています。

 「日本からGAFAが生まれない」と言われることがありますが、その理由の1つとして、技術やデザイン、ビジネスなどが一緒になってプロダクトを作る機会がないことがあると思います。これらが融合すれば、もっといいプロダクトができて、日本のモノづくりを底上げできるのではないかと考えています。それが回り回って、社会全体がよくなればいいな、と。

――来場者に向けて、アピールをお願いします。

 今回ゲストスピーカーで登壇するのは、いろいろな場所で講演している方々ですが、これだけ多種多様なスペシャリストが一度に集まる機会はなかなかないと思います。このような豪華登壇者が集まる、この貴重な機会をぜひ活用していただきたいと思います。

 あとは、参加する方はぜひ朝から参加して欲しいですね(笑)。朝9時から受付開始と朝食提供を実施しますし、実際、1日いても飽きないと思います。

――ありがとうございました。

[*2]……本稿執筆時点で「早割チケット」の販売期間はすでに終了しているが、通常のチケットはまだ多少の空きがある。「学生チケット」は無料、30歳未満が対象の「U30チケット」は3000円、誰でも購入できる「一般チケット」は5000円で、いずれも2日間通しチケットとなる。

さらに、2万円の「サポーターチケット」もある。このカンファレンスイベントを資金面からも支援してくれる人に向けたチケットで、特典として、メインホールの全セッションで前列部の座席が確保されるほか、初日の夜に行われる懇親会にも招待される。

なお、懇親会は、開業前の「渋谷スクランブルスクエア 東棟」15階にある「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」を特別に借りるかたちで開催。「まだ誰も見たことのない角度から見下ろす渋谷の中心街を背景に、異分野で活躍する方々との新たな交流をお楽しみください」としている。

懇親会は別途申し込みが必要で、「学生チケット」は無料、「一般チケット」が1000円。

※価格はいずれも税込