インタビュー

「自作ホームオートメーション」はこう作った! ~電気工事士の視点、IT技術者の視点

「動き始めてからが面白い」 ~生活に合わせてプログラマブルに変えていけるHAシステムの魅力

 クラウドや特定企業に依存しない、真に自由なホームオートメーション(HA)を実現したい――その思いから、自身が経営する眼科の診療所を丸ごとHA化し、HAシステム「CL-System」を開発する会社「クリティカ」まで立ち上げてしまった川畑善之氏。

CL-Systemを設置した分電盤と、工事を担った下栗氏

 弊誌では「自力で診療所をホームオートメーション化した“マニア”は何を目指すのか」と題して氏をインタビューし、そのビジョンを語っていただいた(前編/後編)。

 その後、製品も発売され、レビュー記事もお届けしているが、机上で試すだけならいざ知らず、家庭や事業所へ本格的に導入するとなると電気配線の工事は避けられない。

 電気工事士の資格を持つ人ならばともかく、一般のユーザーであれば専門知識を持つ工務店に依頼することになるだろう。

 しかし、現状、電気工事士にCL-Systemの設定を頼むことはできない。システムの構築や運用は専門外だからだ。ユーザー(施主)が思い描くHAシステムを実現するには、ITエンジニアの手を借りるか、あるいはユーザー自身がシステムの構築・運用をマスターする必要がある。

CL-Systemの構成部品。

 つまり、施主、電気工事士、ITエンジニア、メーカー(クリティカ)の役割分担を明確にし、協力関係を構築することが必要となる。

 そこで今回は、川畑善之氏が経営する医療法人川畑眼科医院のHA化に携わった電気工事士の方に、実際の工事の様子を伺ってみた。

 HA化にあたり、通常の電気工事と異なる点はあるのか? どこまでを電気工事士に任せられるのか? 予算規模はどの程度になるのか?。また、電気工事士から見たホームオートメーションの展望についても語っていただいた。

 お話をお伺いしたのは、電気工事士の下栗氏。インタビューには、メーカーであり、今回は施主でもあったクリティカ取締役の川畑氏、同社スタッフの秋田氏も同席してもらった。


電気工事士から見た「自作ホームオートメーション」

[柳]それではまず、簡単に自己紹介をお願いします。

電気工事店「ぐりでん」を営む下栗氏。いつもは、照明やコンセントの配線・取り付けなど、ごく一般的な電気工事をしているとのこと

[下栗氏]下栗(しもぐり)と申します。電気工事の会社を営んでいます。ごく普通の「地元の電気工事店」というイメージで良いかと思います。メインの仕事は、照明やコンセントの配線・取り付けなどで、皆さんが新築やリフォームをされる際などにお宅にお邪魔して工事をしています。

[柳]川畑眼科さんとのお付き合いは長いのでしょうか。

[下栗氏]川畑眼科さんとは新築のころからお付き合いが始まり、今に至ります。15年ぐらいですね。

[柳]その頃からHAシステムはご存じで、導入に取り組まれていたのですか?

[下栗氏]いや! 新築のころは、図面で見ても普通の建物って感じだったんですけど。川畑先生が「C-Bus Control Systems」というHAシステム(オーストラリアのClipsal社が開発)を持ってきて……それでこうしたものがあるというのを初めて知りました。私はパソコンのことも何もわからなかったんですけど、こうしたシステムに触れるにつれて、パソコンにも段々慣れてきました。

 当時、こうしたHAシステムの導入に取り組んでいるところはあまりなく、ほとんど日本で初めてぐらいでしたけど、その後その「C-Bus」の会社がなくなってしまって――そうしたら、川畑先生が「ないものは自分で作るぞ!」と言い始めて……。

CL-Systemが導入された川畑眼科医院

[柳]それで、本当に作り始めてしまって(笑)

[下栗氏]ですね(笑)。で、去年の10月か11月ぐらいに川畑先生がCL-Systemの試作品をもってきて、今あるもの(C-Bus)と入れ替えてくれ、と。それでこうなりました(笑)

[柳]川畑眼科にCL-Systemを導入するにあたり、具体的にはどういうお仕事をされたのでしょうか?

[下栗氏]川畑眼科自体にはもともとこういうシステム(C-Bus)があったんで、ほぼ機材の取り換えのみですね。配線の変更はせず、整線(きれいに配線をまとめること)作業などを行いました。


「100Vをショートさせたらドーンと行きますからね!」

分電盤に取り付けられたCL-Systemのターミナル
点検の様子

[柳]どの機材をどこに設置するかは、川畑眼科さんの方で決められてたんですか? 川畑眼科(施主)さんとの役割分担はどのようになっていたのでしょう。

[下栗氏]うーん……基本的にはすでにHAシステムがあったんで、古いのを取り除いて、新しいのを設置しただけですね。もし何もない状態から始めるのであれば、また違ったかもしれませんが、川畑眼科さんのケースでは取り換えるだけでした。これが一般的な住宅やテナントであれば、どうするかっていうのはまた相談する必要がありそうですね。

[柳]CL-Systemを提供するクリティカさんとの役割分担はどんな感じでしたか?

[下栗氏]クリティカさんとの関係は、開発したソフトと機材をいただいて、それを取り付けるだけでしたね。機材を取り付けて工事を行うのは免許がないとしてはならないという法律(電気工事士法)ですので。机の上で試すだけなら要らないみたいなんですけど、建物内の、いわゆる強電関係といわれる工事には免許が必要となります。

 100Vをショートさせたらドーンと行きますからね! 火花半端ないですよ。

[柳]なるほど…………趣味でCL-Systemを試す分には免許は不要だけど、本番環境に設置するにあたってはかならず電気工事士を通さなければならない、と。

 つまり、電気工事士、クリティカさん、そしてCL-Systemを設定するITエンジニアの3者で役割分担をするのが基本になりますね。工事にはどれぐらいの期間がかかったのでしょうか。

[下栗氏]結構長いですね……11月に話をもらって、試作品の提供を受けて……4月ぐらいまでかかりましたね(笑)

[柳]それはそれは……どうしてそんなにかかったんでしょう。

[下栗氏]CL-Systemがまだ開発段階というのもありまして。川畑眼科さんもその間営業していますし、1週間に1個、2個というペースで少しずつ変えていきました。


工事そのものは「普通の電気工事」

[柳]クリティカさんが作っては、下栗さんが付け……って感じだったんですね(笑)。作業的に難しいところや独特なところはあったんでしょうか?

[下栗氏]ない! ないですね。まぁ、電気工事の免許を持っているプロであれば、説明を受ければ難なく理解して、設置できるはずです。リレーがスイッチの役割を果たしているだとか。「どうやってリレーを叩かせる」とか、そういうHAシステムの話は関係なしに、ただリレーがON/OFFをしているだけなんだね、という感じで電気屋さんなら理解できるはず。

[柳]今回は機材の入れ替えということで、設計のフェイズは必要なく、単に設置作業だけだったわけですが……設置作業としてはどれくらいの規模だったのでしょうか。

[下栗氏]えーと、基板だけで36枚あって。それぞれが8チャンネルあるので、240接点ぐらいあるんですかね。川畑眼科の営業を止めるわけにもいかないので、一挙には変えられず、少しずつやっていきました、

[柳]その240接点規模の工事をもし一度にできるとしたら、どれぐらいかかるのでしょうか?

[下栗氏]取り付けの作業としては、一日当たり100から150接点ほどできれば普通なので……2日か3日ぐらいになりますね。普通の新築であれば、電線があって、ターミナルをつけていって、すべてをつなぐのは2日か3日ぐらいでできます。

[柳]それ自体には難しさは……。

[下栗氏]ない。普通の電気工事ですね。

[柳]一般の工事では使わないようなモノを設置するようなことも……。

[下栗氏]ないですね。配電盤の中にすべての配線が来ていることが前提になりますけれど。一般のお宅だとスイッチが分散していますが、これが1カ所に集中している必要がありますが。

[柳]HAシステムの電気工事にかかる費用は、一般の工事に比べてどれぐらいになるのでしょうか?

[下栗氏]そうですね、通常の1.2倍ほどぐらいですかね。通常と違い、配電盤の中にすべての配線を集中する必要があるので……その関連で配線の長さが20%ほど長くなるかな、と(紙で簡単な配線を図示)

【一般家庭の配線図】
一般の家庭では、ホーム分電盤から分岐(ジョイント)を介し、複数のスイッチや照明が接続される

【CL-Systemを導入した場合の配線図】
CL-Systemで集中管理する場合は、全ての回路がターミナルに集まる形になる

[下栗氏]また、こうした配線を行うために、天井に点検口を設けたりするのであれば、建築士さんを交えた相談が必要になります。

[柳]大変そうですね。

[下栗氏]いやぁ、電気工事としては普通でしたね。「試作品を逐次設置する」というのは独特でしたけど(笑)

 ただ、こちらも勉強になりますし、システムが進化する過程を見守るのも面白いなぁ、と。

[秋田氏]気づいたら夜中の3時だったり(笑)

[一同]あはは(笑)

[柳]やっぱり熱中しちゃったりするんですか?(笑)

[下栗氏]そうですね。配線はあってるのに、原因不明で機材が動かなくなったり……そういうことも多々ありましたね。でも、川畑先生を呼ぶとなぜか動かなかった機材が急に動くようになったり(笑)

[秋田氏]川畑先生が悪いんじゃないかなぁ(笑)

[一同](爆笑)

[川畑氏]当初は説明書も何もなかったしね(笑)

[柳]その状態でも工事には支障はなかったんですか?

[下栗氏]いえ、説明されればすべてわかったので問題はないです。

[柳]苦労した点などはありましたか?

[下栗氏]現場作業はそりゃ大変ですよ! 天井裏に上ったり……もうサウナ状態ですから。でもそういうのは普通の電気工事でもあることで、CL-Systemだから電気的に苦労するということはまったくなかったですね。

[柳]なるほど。

[下栗氏]川畑眼科にはすでに「C-Bus」があった関係で、CL-Systemのターミナルを設置するスペースも十分にありましたから。

 けれど、一般の家庭や事業所でネックになりやすいのは、多分この「場所の問題」ですね。新築でしたらたいてい大丈夫ですけど、古い建物を改修工事(リフォーム)する場合は考慮しておかなくてはいけないかもしれません。設計の段階で考えておいた方がいいですね。

 一般家庭であれば点滅数(電気配線の回路数)はそんなにないので、CL-Systemのターミナルも1つか2つあれば十分で、ホーム分電盤のそばに場所を確保すれば大丈夫です。

 けれど、事務所では1つの部屋でも複数のスイッチを設けて、節電のために部屋の一部だけ灯りをつけられるようにしたりと、点滅数が多くなる場合があります。その場合は、必要なターミナルの数も増えますね。

導入についての役割分担は?家主=したいことを決める、クリティカ=購入相談、電気工事士=電気工事、IT技術者=設定・運用

分電盤での施工は電気工事士が請け負う部分

[柳]意外と普通の電気工事と変わらないということはよくわかりました。一般のお宅や事務所に入れる場合、「家主さん」「クリティカさん」「IT技術者さん」「電気工事士さん」の協力が必要になるわけですが、「電気工事士さん」としては免許の必要な電気工事を担当すると。

[下栗氏]そうですね。電気工事士は「配線をつなぐ」「ターミナルの取り付け」などが実際の作業になります。

 ですので、工事の費用はリフォームより新築時に導入する方が若干安くなります(既存の配線を外す作業がない)。リフォームで導入する場合は、建物の構造上、ターミナル1カ所へ配線を集中できるかどうかもカギとなります。

[柳]ここからはクリティカの川畑さんや秋田さんも交えてお話を伺いたいのですが、クリティカとしてはどのような役割を担うことになるのでしょうか。

[川畑氏]基本的には弊社は「機器を売る」ということに専門化したいですね。そのうえで、導入に当たって相談したいこと……例えば、機器構成をコンサルティングしたり、配線を行う電気工事士さんをお探しするお手伝いなどもすることになると思います。

 また、工務店や電気工事店から取り付けに関する問い合わせがあれば、専門的なご説明をすることもできます。

 それを超える業務、たとえば設計などの業務に関しては、別途、費用をいただいての対応になるかと思います。

[柳]機材の販売と導入相談はクリティカさん、配線工事は電気工事士さん、そのあとの環境構築や運用はユーザー(家主)、もしくはITに明るい技術者さんという感じですね。家主さんとしては、CL-Systemを導入に当たっては、どのようなタイミングでご相談すればよいのでしょう。

[川畑氏]新築の場合は、設計の段階から関われるので、工務店を介してご相談ください。リフォームの場合も、工務店があるならばそちらを介してお願いします。CL-Systemの設置だけを考えている場合は、業者を探すところからご相談に乗ることになるかと思います。

[下栗氏]出てこいと言われれば、わたくしの方(鹿児島)からどこへでも参りますよ(笑)


家主さんがIT技術者だと色々できて便利?

[柳]施主さんとしては、HAシステムのイメージだけもってもらって、あとは必要に応じてクリティカさんのコンサルティングなども利用していただくと。

CL-Systemの理想と可能性を語るクリティカ取締役の川畑氏。「自分でできる人は自分で安くやる。できない人には有償でサポートを提供する」そうした理想を実現していきたいという。

[川畑氏]はい、購入にかかわる相談であれば、無償でお受けします。それ以上のことに関しても、見積もりを請求していただければ、何をしたいのか、どれぐらいの規模があるのかを伺って、どれぐらいの機材が必要か、どのように配置するのか、どれぐらいお金がかかるのかを出すことはできます。場合によっては電気工事士さんも紹介すると。

 本来、こうしたシステムを導入すると非常に高価になってしまうのですが、設計や環境構築、運用など、自分でできる範囲のことを自分でやれば、それだけ安くなる。パッケージにないことを自分で実現できる柔軟性もある。

 ハードルは少し高くなるかもしれないけれど、その人のスキル次第で安く済ますこともできれば、自由にカスタマイズすることもできる。私たち(クリティカ)が提供するのは、そうしたインフラ、プラットフォームだけ。

 もしユーザーが電気工事士の免許を持っているのであれば、機材を買うだけで安価にHAシステムを構築できる。そうしたら、全然お金かからないですよね。また、電気工事士にソフトウェアの設定の知識があるならば、うちから機材を購入して自分でビジネスを展開することもできる。

[柳]ユーザー(家主)さんがIT技術者の属性を持っているだけでも、構築と運用が自分でできるのはコスト面でメリットですね。

[川畑氏]高い初期費用と、毎月のメンテナンス費用を支払ってシステムを導入するのもいいのですが、自分でできる人は自分で安くやる。できない人には有償でサポートを提供する。それが私の理想だし、社会がどんどん発達して、技術が向上していくためにはあるべき姿かな。

 日本人の悪いところで、あまりにも簡単に「パッと付けられる」ようにしちゃうと動くのが当たり前と思っちゃうというか……たとえば、医療業界でよくあることなのですが、プリンターのインクが切れただけなのに電子カルテメーカーに電話して、「印刷ができん」と文句付けちゃう。

[一同]あっはっは(笑)

[川畑氏]でも、実際そういうのよくある(笑)

[柳]“消費者”がもう少し賢くなれば、そうした無駄なことも減る……。

[下栗氏]でも、ある程度使いやすくもないと、誰も扱えないですよ(笑)

CL-Systemは、ハードウェアだけでなく、ソフトウェア面もしっかり作りこんである。(詳細はレビュー記事を参照のこと)

[川畑氏]だから、こういうのを作ってる(笑)

 みんなが少しずつ勉強して、片手間でもビジネスでやれるようになれば……うちの製品が売れる(一同笑)。これで“食う”人たちができてほしい。

 まだ概念が浸透していないけれど、基本は「MQTT」というプロトコルを使っているだけで、設定だけなら簡単なんだ。デバッグもしやすい。

 新しいものを導入するのだから、もちろん最低限のことは学んでもらわなければならないといけないけれど、PCをまったく触れない人ならばともかく、「Excel」のマクロが組めるレベルであれば、習得は比較的容易だと思います。

[秋田氏]:そこまで簡単ですかね?(笑)

[川畑氏]CL-Systemでは「MQTT」プロトコルのトピックを“Area”と“Place”の2階層に絞ることで、理解しやすくしている。いくらでも階層を増やすことはできるけれど、最低でも2個かな、と。エンドポイントも状態を取得する“state”と、コマンドの送り先である“command”に統一している(詳細はレビュー記事を参照のこと)。

コントローラやM5Stack、スイッチのの設定はIT技術者の領分となる

[柳]施主が自分でHAシステムの構築に挑戦したり、もしIT技術者さんに任せるなら、それを学習すればいいわけですね。ベースとして、どのようなスキルがあればよいのでしょうか。

[下栗氏]IT技術者さんっていうんだから、なんでもできるんじゃないですか。

[川畑氏]そうとは限らないですよ。IT技術者っていっても範囲は広いし、レベルも様々なので。Webサイトに説明書は準備しますけど、さすがに「どんな人でも理解できる」というレベルのものではないので、それをざっと理解できないと、使いこなしは難しいかもしれない――「全然わかんないんだけど」っていうのは厳しい。

[下栗氏]クリティカさんで一式プログラミングしたものを送った方が早そうですね。

[川畑氏]そうかもしれない。それも有償でやるつもり。でも、それだと「自分でやれば自由に、安くできる」というメリットがなくなってしまう。「ユーザーの使い方を開発者が規定するな」っていうのが私の理想ですね。お金を出してやってほしいという人にはそうするし、自分でやりたいという人も排除したくない。「やってほしいけど、お金を出さない」という人はご遠慮願いたいけれど(笑)。バカみたいにお金を取るつもりはないけれど、技術や知識は有料だというのはわかってほしい。

僕の本当の理想としては、グリちゃん(下栗氏)がうちの機材も扱えるようになって、勝手に機材売って、工事してくれればいい。

[下栗氏]できるかな(笑)

[川畑氏]でも、そこまでいけば理想。

[下栗氏]そこまではできなくても、電気工事は地場の業者に任せて、ユーザーが設置・運用するのは十分可能ですよ。メインの顧客は個人よりは、なにかしらの企業さんだったり、病院さんだったりはすると思いますけど。

[柳]施主さんか、電気工事士さんのどちらかが、ソフトウェア環境の構築・運用まで行えるのが理想、と。

[川畑氏]もしダメなら、ITエンジニアや電気工事士さんとの橋渡しはしますよ。今は理解者や協力者を募ってる段階ですが、ある程度普及するまでは弊社も機器を売るだけでなく、相談やコンサルティングなどにも積極的にかかわっていくつもりです。まずお問い合わせください。どうやったら実現できるのか、一緒に考えていきましょう、と。


導入にあたっての具体論

[柳]電気工事士さんが配線をし、クリティカさんが機材の販売をし、ユーザーかITエンジニアさんが環境の構築と運用をするという役割分担はよくわかりました。最後の環境構築・運用に関しては、まだできる人が少ないので興味を持って参加してほしいし、クリティカさんも相談に乗ってくださる。

 では、具体的に一般の家庭に導入する場合、コストはどうなるのでしょう。

CL-Systemをスムースに導入するためには、家主、電気工事士、IT技術者、メーカーの4者の役割分担が必要だ

[川畑氏]一般の家庭であれば、リレーターミナルが2個もあれば十分かな?

[下栗氏]16点滅……ぐらいですかね。

[川畑氏]エアコンまで制御するなら、もう一つ。コントローラーにする“M5Stack”なども買うとしても、機材だけなら10万もかからない。工事費は2日ぐらいでやるとして、6万ぐらいかな。

[下栗氏]もうちょっと行くかもしれませんけど。

[柳]あとは「OpenHAB2」「MQTT」のサーバーにする機材ですか。まぁ、これは古いPCでもいいんですよね。

[川畑氏]なんなら“Raspberry Pi”でも(笑)。ウチの病院の規模だと無理かもしれませんが、一般の家庭であれば十分。2階建ての一軒家でも、必要なのはそれぐらいかな。

[柳]HAシステムを導入したい場合は、どのプロセスで相談したらいいのでしょう?

[川畑氏]照明をどこにつけるかといった、設計の図面ができる段階で参画できるのがベスト。「コンサルタントとして見積もりをください」とかではなくて、「こういう規模なのだけど、何がいくつ要りそうか」という問い合わせであれば、購入の相談ということになるので無料です。

[下栗氏]新築の場合であれば、建物の設計の段階でHAシステムの導入を織り込めば、余計な出費はないはずです。

 リフォームば現場を見て判断することになりますね。配線の一部変更で済ませるか、内張まではがして徹底的にやるか。

[川畑氏]回路を図面にひいてからだと、無理だよね。

 一番大事なのは、家主がビジョンを明確に持っておくことだよね。配線が露出でもいいから安く済ませるか、将来のことも考えてコストをかけてやるか。既存の物件でスイッチを増設している場合だと、初期の配線図通りに配線されていないこともある。

[下栗氏]そういうのも織り込み済みですけど、調査してからの施工になりますね。

[川畑氏]天井や内張を全部はがしてやるのが一番簡単なんだろうけど……。

[下栗氏]その場合は、建築士さんも絡めたコミュニケーションをしなければいけないし、施工費も上がるかもしれない。窓口は電気工事士でいいですが。

[柳]CL-Systemを導入する段階は……?

[川畑氏]電気的な配線が完了して、引き渡しの間ですね。別にCL-Systemだけで動作テストをしておいて、持ち込みさえすれば完了という状態にすることができる。

 CL-Systemはプログラマブルなので、いつでも好きなように変えられる。ノウハウがわかれば自分で管理できるようになるし、住みながら変えていくことになるでしょう。

[下栗氏]そこに一般の電気工事士が関わることはないです。照明がちゃんと点くようになった時点で終わり。あとは施主やIT技術者さんがCL-Systemを構築・運用していくことになりますね。


CL-Systemに感じる可能性「もっと簡単になれば、電気屋さんが営業できるようになる」

[柳]さて、そろそろまとめなのですが。電気工事士さんからみてCL-Systemはどう感じられましたか? 可能性みたいなのは感じられましたか?

[下栗氏]可能性……可能性は無限大ですね! 何でもできちゃいますね。照明だけじゃなく、他のものもいろいろ連携させられますよね。

 電気工事店としては、「電気がつきさえすれば同じ」という側面はありますが、クローズドなシステムと違って、「あとからアレを足したい」といったような拡張性が非常に高いのが興味深いですね。川畑医院ではセキュリティ的なこともやりました。人感センサーを取り付けて、ブザーをつけて、リレーからブザーを鳴らす。そういう後付けのシステムも比較的簡単にできるんで。

[川畑氏]思いつくことならたいがいはできる。プログラムで解決できることなら、配線を大きくいじる必要はない。スイッチなんかもWi-Fiで繋いでるんだから、供給する電源さえあればいい。

 たとえば「電話とつなげたい」みたいなカスタマイズは、大手のソリューションでは対応できなかったり、できたとしても無茶苦茶高かったりする。だけど、ウチのCL-Systemであれば対応はできる。“無限大”という言葉が妥当なのかはともかくとして(笑)。他社のHAの機械であっても、たとえば「OpenHAB2」とモジュールさえあればすべてと連携できる。

 「何ができるの?」って聞かれたなら、逆に「どうしたいの?」って聞きたいですね。

[柳]最初にターミナルへの初期配線さえクリアしてしまえば、あとの付け足しは簡単なんですね。もしまた「こういうシステムを導入してほしい」と機材を持ち込まれたらどうですか?

[下栗氏]工事施工だけなら一般の工事と変わらないけれど、CL-Systemの設定までしたい電気工事屋は少ないかな?

 でもそういうこともしていかないと、これからの進展はないかもしれない。もっと簡単になれば、電気屋さんが営業できるようになる可能性はある。

[柳]今回施工にかかわってみて、CL-Systemは電気工事士さんにとってどういうものでしたか?

[下栗氏]工事そのものは同じなんだけど、作っていく感覚は「別物」ですね。こういうシステムは他にはないし、モノを作っていく楽しみがある。

 電気屋がモノを完成させるっていうのは、やっぱり「スイッチを押して電気が点く瞬間」ですよね。それしかない。でも、このシステムだとその先があって、ITエンジニアさんがプログラムをして、スマホで電気がついたりする。電気工事とは違い、完成してから先、システムができてからが面白い。

[川畑氏]どうせそのうち(電気屋さんが)自分でHAシステムの導入したくなったりするでしょ(笑

[柳]HAシステムを導入するのを手伝っているうちに、自分の家がHAシステムになっていたり……ミイラ取りがミイラになるみたいですね(笑)

[下栗氏](笑)


まとめ

 今回は電気工事士さんからみたCL-Systemを伺った

 一般の電気工事とほとんど変わるところはなく、コスト面で若干の上増しはあるものの、とくに新築であればほぼ影響がないレベルという。これで「なんでも実現できるインフラ」が整うのであれば安いもの、といえるかもしれない。

 現状、ネックとなっているのは「自分で設定ができる」施主がなかなかいない点や、「代わりに設定してくれる」エンジニアとつながりを持つのが難しい点だろう。しかし、自分でできることは自分でやることでコストを下げたい、あわよくば習得したスキルでビジネスにしたいというユーザーには魅力的だ。

 そうしたユーザーが今後出てきてくれれば、「HAシステムの自作」も大きく盛り上がるのではないかと感じられた。

(協力:クリティカ)