インタビュー
LIXILが目指す「宅配ボックスのAPI化」、「絹の泡シャワー」も展示するCEATECブースの「ツボ」を聞いてみた
ポイントは「住まいと社会の連携」、泡シャワー「KINUAMI」は行列必須?
2019年10月2日 07:40
超スマート社会の実現、というテーマで様々なイノベーションを実現している大手建材・設備機器メーカー「LIXIL」。
LIXILといえば、住宅やマンション、商業施設のトイレ、お風呂、キッチン、窓、エクステリアなど様々な製品を扱う日本最大級の建材・設備機器メーカーであり、一見ITとは無縁に思えるが、そこには明確なビジョンを持って未来の住宅を真剣に考える同社の姿がある。「個々のデバイスや端末がネットにつながる」という現在の社会から一歩進み、「住まいと社会サービスがネットを介して連携する」という社会が見えているという。
そして同社は、超スマート社会「Society 5.0」を旗印としたCEATECに3年連続で今年も出展。同社らしい目玉展示も用意しているという。
スマホと連携して荷物を何回も受け取れる「スマート宅配ポスト」や、「ただいま」としゃべるだけでシャッターなどの住宅設備や様々な家電が連動動作する「Life Assist」など、昨年も話題の展示があった同社ブースだが、今年は何を意図し、何を披露するのか?そのコンセプトを伺った。
宅配ボックスの「API化」や研究開発中の新コンセプト「トイレからのお便り」、そして泡を浴びるシャワー……「快適で健康な暮らし」「未来の暮らしを考える」「共創」が3大テーマ
――CEATEC3回目の出展、目玉の展示物がいくつかあると聞きましたが、どのようなものなのでしょうか?
[三原氏] 2019年のテーマは3つあります。ひとつは「快適で健康な暮らし」です。こちらは住まいと社会がトータルでつながる「Life Assist」というサービスや、「スマートエクステリア」などの製品を交えながら、LIXILが考える社会とつながる暮らしをお芝居で分かりやすく説明します。
また「トイレからのお便り」なる興味深い研究開発中の機能もご紹介いたします。これは、高齢化社会における取り組みとして、排便管理の重要性に着目し、高齢者施設の排便管理をAI技術でサポートするトイレの機能です。なにぶん「あれ」のお話ですので、見えないように工夫しますが、見ないと分からないというジレンマもあり、今、最終調整をしています(笑)。ご期待ください。
トイレについては、トイレの手洗いにポンと置く薬剤のような形で、トイレの利用状況で見守るというシステムも展示いたします。
ふたつ目は「未来の暮らしを考える」です。こちらはLIXILが考える未来の住まいと暮らしを映像でご説明します。Society 5.0にいちばん近い展示になりますので、その具体的なビジョンを見ていただけると自負しております。
最後は「共創」です。最近は、CEATECなどを通じて、まったくの異業種の方々と交流する機会も多く、LIXILだけでは到底できないサービスや製品のアイディアをいただくことも増えてきました。今年のブースでは、その共創の一例として、消防車の大手メーカーさまとLIXILの完全子会社であるNITTO CERAを活用して新感覚の泡シャワー「KINUAMI」を実際に体験していただけます。
暖かい泡を浴びる!新感覚のシャワー「KINUAMI」を体験展示
――消防車メーカーと共創した「KINUAMI」というのが非常に気になるのですが、どのような製品なのでしょうか?
[浅野氏] KINUAMIは絹のような泡がでる新感覚のシャワーです。
「暖かいシャワーを浴びる」というより、「暖かい泡を浴びる」という体験ができる製品で、手では泡立てることができないほど密度が高い泡をシャワーから出すことで、泡が身体に吸い付くように密着、熱が逃げるのを抑え、肌をやわらかくしながら角層すみずみまで、じっくりと保湿を促す、といった体験ができるものです。
これは、消防車のトップメーカーである株式会社モリタ宮田工業さまにご協力いただき、LIXILのシャワーや水回りの技術と共創したまったく新しい製品です。
きめ細かい泡を発生させる技術は、(科学)消防車の泡を発生させる技術を使っています。専用の石鹸を機械にセットし、シャワーを出しながら、本体のレバーを泡に切り替えると、暖かいきめ細かい泡が出てきます。泡を流したいときはレバーをシャワーにします。これで泡をサッパリ流せます。
また、LIXIL本体ではなく子会社のNITTO CERAを活用して、ここで製造販売を行っているのは、スピード重視の表れです。会社を設立し、資金もクラウドファウンディングで集めました。
プロモーションとしてのクラウドファンディングではなく、本当に「世に問うてみよう」ということで挑戦したのですが、おかげさまで100人の支援者の方々に1人4万3千円でファンディングいただき、無事に製品化する運びになりました。当初は個人向けの予定だったのですが、エステ関係やホテルなど、我々の想定外のとこからも引き合いがあったので、これからの展開も思案中です。
設置については、水栓交換などの工事はまったく不要で、シャワーのホースを本体につなぎ、本体に空気を送るコンプレッサをつなぐだけです。ただコンプレッサはコンセントに差し込むので、脱衣所に置いていただき、エアーを送るホースのみをお風呂場に引き込みます。
CEATECのブースでは、このKINUAMIのシャワーを実際にご体験いただけます。さすがに全身で、というわけではなく、手でご体験いただく形になりますが、今までにない新しい感覚をご体験いただけると思いますので、ぜひご来場いただければと思います。
【さっそく体験してみた】
インタビューのついでに、「KINUAMI」の体験もさせていただいた。
思わず「はぁ~」と漏らしてしまうほど気持ちイイ。女性には伝わらないが、床屋さんで髭剃りをしてもらうとき、暖かいシャボンを塗ってくれるあの感覚!でもシャボンの細かさは、スプレー式のシェービングクリームのように細かいので、ずっと肌にまとわり付いて泡のガウンを着ているような感覚。専用の石鹸には、アロマや美容成分などが配合されているので、お肌もスベスベになる。実際、手が乾いてから取材を再開したとき、指がツルツルでメモ帳のページがめくれなくてあせったほどだ。これ、本当。
「宅配ボックス」をAPIでシェア、サービス連携でエコシステムを……
――最近力を入れている宅配ボックスですが、今年はさらに進化すると聞きましたが……。
[向中野氏] はい。昨年発売した「スマート宅配ポスト」は大反響でした。宅配ボックスとしては、少しお求めやすいモデルや、スマホと連動できないお手軽モデルなども発売し、ラインナップを充実させています。
でもいちばん売れているのは、スマホと連動できる最上位モデルなんです。また多くのメディアさまにも「IoT家電」として取り上げていただきました。「これ家電になるんだ」と不思議な感覚でしたが、話題になって大変うれしく思っています。
そこで次の段階として、クラウドサービスと連携することで、「社会とつながるIoT」として「シェア」というキーワードを盛り込んだ新たな取り組みを始めています。
――「社会とつながるIoT」とはどういうことなのでしょうか?
[向中野氏] 世の中には、「生活に根差した社会サービス」というものが既にたくさんあります。たとえば、宅配業者さんの配送通知や配送希望時刻サービスがそうですし、他にもハウスメーカーさまのサービスや、クリーニングやEC業者さまのサービスもあるかと思います。
こうした社会にあるいろいろなサービスと連携できる、オープンエコシステムにするべく開発しています。他のサービスと相互にデータをやり取りできるAPIを公開し、相互のサービスを連携しよう、というわけです。
[佐々木氏] 具体的に言うと、準備しているIoTクラウドサービス基盤を使うことで、(現在のスマート宅配ポストでは)個別にスマートフォンで応対しないと受け取れない複数の荷物も、宅配業者さんなどの荷物を届ける方にワンタイムパスワードを発行、応対なしで、複数荷物を受け取ることができます。荷物が届くとAlexaが教えてくれます。また、宅配業者さんでは、配達の記録として配達伝票に受領印を受取人にもらっていますが、QRコードをデジタル印鑑として使うことで、伝票処理などが簡略化できる機能も持っています。
これらの機能はすべてIoTクラウドサービス基盤で実現していて、その機能は随時拡張できるものにしています。
また「シェア」というキーワードを先ほど挙げましたが、社会サービスを提供するクリーニングや自社配送をしているEC業者さま、お隣さんなど個人の方とも同じ宅配ポストを「シェア」して、「荷物の受け渡し」という行為をスマート化するという考えです。
これ以外の弊社の製品………例えば外構をスマート化しているスマートエクステリアも「シェア」という考えで、発展させていくことができるでしょう。外構は「家と社会をつなぐ接点」ですので、デジタル的な意味でもゲートウェイになって行くということです。まずは色々な社会サービスからLIXILのオープンエコシステムを使っていただくため、システム開発に尽力しています。
「特に異業種の方に来てほしい!」~共創を求めて具体的な展示を
――なかなか話題を呼びそうな展示が目白押しですが、どんな来場者に見て欲しいとお考えでしょうか?
[三原氏] やはり異業種の方にご来場いただきたいですね。
今回のテーマのひとつが「共創」なので、LIXILの持っている製品やノウハウを使っていただき、また、みなさまがお持ちの技術やノウハウとあわせて、KINUAMIのようなまったく新しいものを共創したいと思っています。
LIXILは大きな会社ですが、腰が重いなんてことはありません。そんなLIXILのアグレッシブさを体験していただける展示をぜひご覧ください。「社会とつながるサービス連携」するためには、まず私たちも積極的に異業種の方とつながり連携したいのです。
[三原氏] 実際、昨年も多くの会社さんから技術などのご提案をいただき、そのうち数社さんとはディスカッションや協業検討も行っています。
ただ、昨年は漠然とした展示も多かったので、今年は具体的な展示を増やし、「我々としてどのようなコラボレーションをしたいのか?」を積極的に打ち出しています。
我々が具体的例を展示することで、それを実現できる製品や技術をご提案いただける、ということがわかってきたので、(開発段階のものを含め)具体的な展示に注力しよう、ということです。
昨今スピードが求められる時代なので、技術を持っている異業種の方と協業して開発期間を短くするというスタンスです。ぜひみなさんと一緒に、共創、協業したくお待ちしております。
「LIXILが考える未来」を会場で披露
――話は前後しますが、今回のCEATECで3年連続、ということになります。出展している意図についてうかがわせてください。
[三原氏] CEATECという「未来を考え共創する場」は、「LIXILという会社が、未来の暮らしを真剣に考えている会社である」ということを皆様にご理解いただく場として最適だと考えているからです。メディアでの反響も大きいですし、年々来場者数も増えていますので、それだけ多くの方に見ていただけている、という実感もあります。出展する効果は大きいと考えています。
また昨年は、人の流れが非常に多く、我々が普段お付き合いしている同業種さまだけでなく、異業種さまからの注目も非常に高かったと感じています。
住宅向けの展示会で既に出展したものでも、様々な方が来場されるCEATECという場で出展すると「ああ、LIXILってこんなことをやっているんだ」と感じていただけるお客さまが非常に多かったのが印象的です。
またハウスメーカーやビルダーさまも多く来場されていて驚きでした。それを考えると、業界の垣根を越えて住宅業界もCEATECに注目しているのかも知れません。
――今年のCEATECでは「IoT TOWN」がSociety 5.0 TOWNに変更され、“2030年の未来の「まち」を考える”という大きなテーマが設定されました。LIXILさんは「住まい」を考えるメーカーとして、Societyという「社会」まで視野を広げて、未来を考えていらっしゃるのでしょうか?
[三原氏] 昨年は「IoTタウン」ということでもあり、スマートエクステリアや宅配ポストなど「モノと住まいのIoT」をテーマにしていました。今回の大きなテーマは少し広がって「社会と住まいのつながり」です。これからSociety 5.0の社会になっていく中、「住宅が社会の中のどいういう位置づけになっていくのか?」を表現するためにいい場所、いいテーマだと感じています。繰り返しになってしまうのすが、いろんな異業種が集まる実験の場として最高だと思います。
――昨年から今年にかけ、Soceity 5.0の具体例や「デバイスとAIと社会」のサイクルの輪郭が見えてきた印象があります。LIXILの考える「Society 5.0」も、かなりピントが鮮明になってきたのでしょうか?
[三原氏] そうですね。より鮮明になってきましたね。
Society 5.0という視点で考えた場合は、「住まい」という限定的な環境ではなく、住まいが属する「社会とのつながりを軸に」考えるようになってきました。
つまり、住宅の玄関やガレージなどの外構は、リアルの世界で社会との接点、「ゲートウェイ」になっています。しかしSociety 5.0の社会になると、ドローンが荷物を届けたり、各種サービスをするロボットが家に入ってきたりしますし、宅配ボックスも様々な業者やサービスが利用するでしょう。住まいには、人に限らずいろんなモノが出入りするようになるはずです。
社会が変化していく中、玄関やガレージなどの外構も、それに合わせて変わらなければなりません。そのときLIXILの建材は、それにどう寄り添っていかなければならないのか?を考えていく必要があります。
そのための第一歩がオープンエコシステムです。まずはバーチャル(ネット)にある、様々な社会サービスとのインターフェースを用意し、LIXIL製品との接点を構築していきます。
また、セキュリティの考えも大きく変わっていきます。例えば、介護のデイサービスの方が来訪された際は、その方が入室できる範囲は決まっているわけです。でしたら、それに関するゾーンごとのセキュリティがあったほうがいいでしょう。それは「家の玄関」という単一の鍵ではなく、ゾーニングができるスマートロックのシステムが必要になるでしょう。こちらはリアルのハードウェア開発から進める必要があるでしょう。
このようなコンセプトやビジョンを元に、どのように実現するか?という技術開発に落とし込んで、LIXILは動き始めています。
近年までは「住まいの中をIoTで暮らしやすく健康に、そして安全にする」ことがメインでしたが、現在は以前の目標に加え「住まいと社会サービスをネット(仮想空間)で連携し、住まいや玄関という現実(リアル空間)と連携する製品を作る」というより大きな視野で動いています。
こうした社内ビジョンやコンセプトは、これまでなかなか外に出さなかったのですが、今回は、異業種のみなさまと共創していきたいと思い、しっかりした小冊子を作り、会場で配布する予定です。会場では、来場した方が気軽にみていただけるよう、小冊子をベースにしたビデオを大型スクリーンで流しますので、ぜひ皆さんに見ていただきたければと思います。
まとめ
――最後に来場される方にむけてメッセージなどあればお願いします。
[三原氏] 「Society 5.0」は、なにぶん「社会」の話なので、我々1社だけでできることではありませんし、AI部分などは、技術的にも我々単独で行うことはなかなか困難です。我々として「住まいはこう変わるだろう」という具体的なビジョンを示すことで、我々の持っていない技術を持っているみなさんから、ぜひご提案いただければ、と思っています。
「CEATEC 2019」出展者インタビュー
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