インタビュー
玄関ドアの6割がもう電気錠を採用!YKK APは窓とドアでスマート社会を切り拓く
電源不要の戸締り通知「窓センサー」も携え、CEATECに初参戦した狙いを聞く
2019年10月11日 19:49
住宅やビルの窓やサッシ、シャッター、ドアなどを製造販売するYKK APは、その名を知る人も多いだろう、同分野の国内大手メーカーだ。2019年4月には窓の鍵の締め忘れを検知してスマートフォンにお知らせするIoTサービス「ミモット」を展開し、スマートライフの実現に向けた一歩を踏み出した。
そして同社は今年、初めてCEATECに出展する。出展エリアは「スマートライフ企画展」。同社が出展する狙いや今後の展望などについて、YKK AP株式会社の中谷 卓也氏にお話をお伺いした。
「無施錠」問題をIoTで解決、実はハードウェアだけでの解決は困難……
──今回、初めて「CEATEC」に出展されるとのことですが、出展の目的や狙いなどを教えてください。
[中谷氏] 私どもYKK APは2019年4月に窓やドアの鍵の締め忘れをIoTで防止する戸締り安心システム「ミモット」の販売を開始しました。これは「窓の戸締り」に関する課題をIoTによって解決することを目指した商品です。このミモットを多くの来場者に紹介したいと考え、出展することにしました。
ミモットは、窓やドアの鍵にIoT機器を搭載し、スマートフォンと連携することで鍵の閉め忘れなどの課題を解決するもので、これから住宅を建てる方や、窓やドアのリフォームを検討されている方にぜひ見ていただきたいと考えています。今後の日本のネットワーク社会は、一つの会社が囲い込むモデルではなく、自由にいろいろなところが繋がって一緒に形作っていくのだと思います。まずはいろいろなメーカーの方々にも「窓やドアがネットワークに繋がるようになった!」というところに気づいていただくことが重要だと考えています。
──ミモットは、窓やドアの鍵の締め忘れをスマートフォンにお知らせしてくれるサービスですね。センサーなどで窓が開いたことをお知らせするIoT製品もいろいろありますし、警備会社のサービスも昔からあります。そこにYKK APさんが新たなサービスを提供することにした背景には、どのようなものがあったのでしょうか。
[中谷氏] 窓を破壊して泥棒などが入ってくることもありますが、家のセキュリティを「窓」という視点で見ると、一番多いのは「締め忘れ」で、それは被害の半数近くに上ります。これまでにも「破壊に対して強い窓」、「不正解錠に強い窓」などハード面では取り組んできましたが、無締り(無施錠)は使用者が鍵をかけないことなので、メーカーとしては打つ手がありません。
しかし玄関や寝室の窓の鍵を締め忘れていることをその場で教えてくれれば、すぐに戻って施錠して出かけられます。こういうシステムができれば締め忘れのない安心した生活が送れるようになるだろう、ということで開発に着手し、約4年の開発期間を経て今年4月からサービスをスタートしました。
──開発面では、どういったところに苦労されましたか?
[中谷氏] YKKグループにはファスナーを作る「ファスニング事業」と、「Architectural Products(建築用建材)」を扱う「AP事業」の2つの事業があります。ファスナーや窓、ドアなどのハードを作っている会社で、ITやネットワークなどに長けている会社ではありません。当然、自社だけですべて開発することは難しいこともあり、いろいろなベンダーの方と協業しました。
──セキュリティ用に後付けする窓センサーというとバッテリーの問題がありますが、ミモットは自家発電して通信するんですね。
[中谷氏] 「クレセント」と呼ばれる鍵を回したときの力で発電し、特定小電力の電波で受信機と通信する仕組みになっています。センサーはクレセントを操作したときにだけ微小な電力で通信するため、取りこぼしがないように複数回送信する仕組みです。
ここに電池を付けると、電池が切れたときに交換しないといけないので、実装はなかなか難しいところだったのです。窓の機構と連動させなければいけないですし、家は使用期間が長いため、ハード作りのハードルはかなり高くて大変でした。
玄関ドアの6割で「電気錠」を導入
──今回はCEATECの「スマートライフ企画展」に参加されるわけですが、スマートライフやスマート社会の実現に向けて、YKK APはどのようなものを提供・提案されるのでしょうか。
[中谷氏] 窓やドアといった住宅の開口部がネットワークとつながることで、新しい価値を提供できることを、皆様にお伝えできればと考えています。
──中谷さんはミモットのサービス開始と同時に「ネットワーク商品企画グループ」を立ち上げられたそうですが、ミモット以外にはどういったことに取り組まれているのでしょうか。
[中谷氏] ミモットというのは窓の鍵の締め忘れを防止する製品・サービスですが、その前に玄関ドアの「スマートコントロールキー」、いわゆる「電気錠」の開発に取り組んでいました。
センサーを使って人にお知らせするサービスというのは窓に限らず、さまざまな企業が提供しています。ドアや窓の鍵の締め忘れを外出先まで来てから教えられてもどうにもなりません。教える術はあっても、いつその人に伝えれば良いのか、という起点が難しいのです。
我々が今回、このサービスに取り組もうと思ったのは、玄関ドアの電気錠の採用が約6割を占めているという実績が背景にあります。住宅におけるスマートライフを考えたときに、電気錠とITを繋ぐことで、玄関の鍵を閉めた直後にその信号を受け取ってお知らせするような起点となるサービスができるのではないか、と開発を進めました。
──IoT製品では、スマートフォンのGPS情報で家から数百メートル離れたところで電気を消すといったことができる機器もありますが、電気錠が起点になるというのは大きいですね。
[中谷氏] そもそも玄関の鍵を締め忘れたら起点になりませんので、GPS情報で締め忘れをお知らせする機能も搭載しています。ただ玄関の鍵をかけるときに、子供部屋や寝室の窓の鍵を締め忘れていても、分かりません。そこで、電気錠をミモットと連動して教えるようにすることで、住んでいる方に知らせる起点になるだろうと考えました。
そうすると今後は照明や空調の消し忘れにも使えるかもしれない、などと発想が広がっていきます。我々の製品を知ってもらうことによって、スマートライフの実現を考える上での一つの起点として使えるのではないかと、皆さんに気づいていただけたらうれしいですね。
窓は「スマートロック化」だけではなく「電動シャッター」がおすすめ
──現在販売されている電気錠というのは、いわゆる「スマートロック」とは違うのですか?
[中谷氏] はい、機能的に異なっています。タッチで使うICカードや、車のキーレスエントリーのようにポケットに入れておくだけで開けられるリモコンなどを使うタイプです。外出先のスマートフォンとの連携(施解錠)は今のところ単独のシステムとしては行っていません。
電気錠そのものも進化しなければなりませんので、スマートロックと呼ばれるような機能は今後搭載していく予定です。今回、CEATECに出展するものでは、窓用の電動シャッターとの連携を参考出品します。窓用の電動シャッターはスマートフォンとの連携で遠隔操作が可能です。
ガラス窓の外にもう一つシャッターというレイヤーを設けることで、セキュリティ面だけでなく防災面でも大きく役立ちます。
先日の台風でも大きな被害が出ましたが、1枚の雨戸があるだけでも被害の度合いはすごく変わってくるので、そういう面でもシャッターをつけると安心です。閉めたら静かになりますし、断熱性能も上がります。窓の性能を高める上でも有効ですね。
窓の無締りをスマートフォンで確認できる、デモをCEATECのブースで実施
──CEATECでは、ミモットや電動シャッターを実際に体験することができるのですか?
[中谷氏] 玄関ドアとミモット、電動シャッターとの連携を実際に体験することができます。スマートフォンアプリで実際に電動シャッターを動作させることも予定してます。それに加えて、勝手口ドアも展示します。そこも同じようにセンサーを仕込んだものになっており、無締りを監視できます。勝手口ドアも窓用と同じで電池がいらない仕組みになっています。
またご来場いただく皆様に向けてミモットを紹介するだけでなく、近い将来にYKK APが家の中でどのようなネットワークをご提供するかなどのインフォメーションも行います。
他社のプラットフォームとも積極的につながり共創していく
──このサービスは他社のサービスと連携するという構想はありますか?
[中谷氏] はい、それが主軸になると私たちは考えています。YKK APだけで家全体のネットワークサービスを提供して、照明までの連携や空調のコントロールもすることはあまりイメージできません。
逆にそういうことを得意とする会社はいくつもあると思います。そのような会社は戸締りまでの開口部のサービス、またはデバイスをお持ちでないと思います。そこに戸締り確認ができる我々の窓やドアをご提供し、繋げていくというのが我々の考えるネットワークの展開です。
いろいろなサービスプラットフォームをホワイトリスト化して、我々が必要に応じて提供していきます。ただし、スタンドアローンでもいろんな用途展開ができるという、2系統で考えています。
──例えば工務店やホームビルダーで先進的な取り組みをしているところからAPIを提供してほしいという話が出たら、提供されるのでしょうか。
[中谷氏] もちろん連携したいと考えています。APIの公開より、現在流通しているAPIに乗っかるというイメージですね。
ケースとしては、そういうことを熱心にやろうとしている工務店や住宅メーカーさんには、ITやネットワークを手がける会社がサポートされていると思います。窓やドアもネットワーク化したい時には、我々はAPIの公開などでご協力していきます。
まだ新築がメインですが、窓やドアはお客様が選んで指定する率が低く、住宅会社が何を採用するか決めることが多い部位だと思います。お客様に情報をお伝えするためには、まず初めての事業者の方に知っていただくための取り組みも進める必要があると考えています。
結露を防げる窓のリフォームや電気錠へのドアリフォームの実施にも期待
──ミモットは起点となる玄関の電気錠がなくてもスマートフォンのGPS情報を用いて窓の鍵の締め忘れをお知らせしてくれるわけですが、やはり電気錠を利用した方がさらに便利に使えるわけですよね。
[中谷氏] はい、そのとおりです。今後の展開として考えているのが、昔の住宅にお住まいの方のリフォームです。古い住宅では「結露」に悩まされていること多くあり、結露防止のために断熱性の高い窓にリフォームする際にミモットというサービスも合わせて付けて頂いて、戸締りをしっかりと確認できるような環境を提供できればと考えています。
日本で付いている窓はほとんどが1枚ガラスのものなので、断熱性の高い複層ガラスなどを導入することでお住まいの環境を良くしていただき、その上で無締りなどがないようにしていく。
さらに、電動シャッターで大型台風などにもしっかり備えていただくなどといった商品やサービスを提供し、お住まいの方の住居を守っていくのが我々の存在価値だと思っています。
データの利活用や住宅以外の施設への展開も見通す
──CEATEC初出展への意気込みを教えてください。
[中谷氏] 出展会社の企業名を見ると、この世界のプロフェッショナルな企業ばかりです。我々YKK APは新参者ながら、その中に埋もれないように、しっかりとよそにはないオリジナリティを皆さんにご覧いただければと思います。
ミモットのサービスをスタートするまで、当社は生活者であるお客様と直接接する機会はあまりありませんでした。しかし、ミモットでは「お客様が毎日玄関や窓をどのように使用されているのか」という情報も集まってきます。そのデータ活用についても、何か考えられるかもしれません。
──住宅以外への展開なども考えられているのでしょうか。
[中谷氏] 窓などに設置するセンサーには電池を搭載していないため、いろいろな使い方に応用できるかなと思っております。まだ商品化はしていませんが、遠隔地に住んでいる両親の家、例えばトイレなども含めてさまざまな場所にセンサーを付けることで、電池を交換しなくても見守りができるようになると思います。
今回は住宅ですが、学校などの施設も視野に入れています。窓は日本中の住宅や施設にたくさん付いていますので、ミモットはさまざまなところに転用できると期待しています。
CEATECに訪れた来場者の方は、ぜひ私たちYKK APのブースに足をお運びいただいて、ミモットをはじめとした安心を届けるさまざまなソリューションに触れていただければと考えております。
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