インタビュー

老舗ゼネコンは超スマート社会とどう向きあうか? 竹中工務店が目指す「建物にアプリを追加する」アプローチとは

CEATECを共創のきっかけに

 「CEATEC 2019」が10月15日、いよいよ開幕する。これまでの家電・エレクトロニクス展示会から脱却し、開催テーマに「CPS/IoT」「共創」などを掲げた新ビジョン体制となってから今年で4年目を迎えた。

 各社が展示に工夫を凝らす中、主催者による特別企画展示「Society 5.0 TOWN」には、家電展示会の時代からはなかなか想像しづらかった、インフラ、エネルギー、防災、医療、建設など多様な業界からの参加が相次いでいる。

 株式会社竹中工務店も、まさにそのうちの1社だ。昨年に引き続いて2回目の出展となる同社に、CEATEC出展の狙い、昨年の反響、そして今年の見どころを聞いた。インタビューにお答えいただいたのは、執行役員エンジニアリング本部長の奥田 正直氏、環境エンジニアリング本部長の下 正純氏。

IoTで節電や快適な生活を目指した、竹中工務店の10年

──竹中工務店は2018年に続き、CEATECへの出展は今年で2回目となります。昨年は、どんな狙いから出展されたのでしょうか?

株式会社竹中工務店執行役員エンジニアリング本部長の奥田正直氏

[奥田氏] 当社では、BIMとIoTを組み合わせたソリューションを2009年からご提供しています。

 一番最初に手掛けたのが、“デジタルツイン”を具現化した「ミラーワールド」という製品で、これはBIM(Building Information Modelingの略。3D図面を元に、建物の建築・維持・補修などに関するあらゆる情報を集約したデータ)で照明ボタンを操作すると、実際の建物の照明をオン/オフすることができるというものです。

 ただ、2009年当時は、現在ほどBIMの利用が進んでいませんでした。とはいえBIMと設備管理の融合、サイバーとフィジカルの連携の第一歩となりました。

 次が「ビルコミ」です。建設業界でのクラウド活用をいち早く進めるべく、日本マイクロソフト様やNTTコミュニケーションズ様と共同で、ビル管理に必要なサービスのクラウドプラットフォーム基盤を開発しました。

 また、「ソトコミ」(ソトコミュニケーション)というシステムも開発しました。これは、「利用可能な屋外」や屋内ラウンジなどの共有スペースを“ソト”と定義し、気分転換やコミュニケーション、仕事、飲食等に適切な場所である“ソト”を選択し、利用するためのワークスタイルやライフスタイルをサポートするシステムです。例えば、オフィスでは、自席以外の場所を“ソト”と定義、建物内の共用スペースや、屋上スペース、屋外スペースなどへの移動を促すことができるシステムとなっています 。

 ソトコミは、執務者の健康支援にもなりますし、執務者が屋外に移動した場合には、照明や空調負荷も削減することができるので、省エネにもつながります。なお、実は高層マンションにも一部採用されています。居住者の方々に適切な情報を提供することで、外へ出ることをうながそうというアプローチです。

 それと「VPP(Virtual Power Plant、仮想発電所)」はご存じでしょうか? 建物1棟1棟の節電量はわずかでも、街単位でみればそれは非常に大きな電力量になります。3.11以前は、「電気が足りなければその分を大型発電所で発電しよう」という考え方でしたが、脱炭素の意味では環境によくありません。

 節電できた分を、つまり発電できた分と考え、街レベルで融通しようという考え方がVPPです。当社の東京本店周辺にあるグループビルを繋いで、実証実験を行っています。

 このようにIoTへの取り組みは10年近く継続してきました。以前のCEATECはエレクトロニクス・家電がメインの展示会でしたが、それも変わり、当社としてもこれまでの取り組みをキチッと発信すべきだと考え、出展に至りました。

 昨年は、主催者展示枠でIoT タウンという展示エリアがあるということで、当社の取り組みを広く発信すべきと考え、出展に至りました。当社は、点である建物を建設してきましたが、現在ではグループ一丸となり「まちづくり総合エンジニアリング企業」を目指しており、その意味でも大変良い機会となりました。

──昨年実際に出展されてみて、お客様の反応はいかがでしたか?

株式会社竹中工務店環境エンジニアリング本部長の下正純氏

[下氏] もともと家電の見本市だったCEATECへの出展だったため、建設についてお客様にどう分かっていただけるか、当初は不安もありました。

 そこで、分かりやすい展示に努めました。脱炭素や人流の取り組みですとか、弊社で取り組んでいる「健築」──建物や都市空間を起点とする健康づくりと、IoTの関連などをご紹介しました。

 また、建設会社という立場からロボット施工、IoT施工などの事例も展示しました。

 開催期間中のトータルで見ますと、900人以上の方にブースへご来場いただきました。展示製品の担当エンジニアによるカンファレンスも、立ち見が出る盛況ぶりでした。

 来場者の皆様とお話しする機会も多く、「実際に製品を使ってみたい」「勉強会を開いてほしい」といった商談への展開も広がりました。IoTと建築、IoTと街という観点について、大変多くの方に興味を持っていただけたようです。

──初めての出展だったので、ご苦労も多かったのでは?

[下氏] ブースの全体企画など、やはり初めてで大変でした(笑)

 ただ、本当に色々な方にご来場いただきまして……。私が所属する部門はエネルギーマネジメントをやっているのですが、蓄電池が非常に重要な要素の1つなんです。そこに偶然、蓄電池メーカーさんがいらしてくれたり。こうしたコミュニケーションは、まさにCEATECならではの効果でした。

建てて終わりではない、「建物にアプリを追加する」ようなアプローチを

──IoTという言葉もだいぶ浸透してきました。建築主側から「こうしたIoT技術を使えないか」というような要望は増えているとか、傾向に変化はありますでしょうか?

[奥田氏] その前提として、建物のスマート化について説明させてください。つまり「スマートビル」という考え方ですね。そこでまず大事なのが、IoTのための各種センサーがどんどん低価格化していって、沢山取り付けられるので、さまざまな情報を集めやすくなっています。

 また、エネルギーの自由化により、電力の最安値での購入や再生可能エネルギーを選択して購入したりすることが可能となっています。他にも、気象情報と連動した制御やアグリゲータからのデマンドレスポンス要請への対応など、外部の情報と建物の情報を積極的につなげることが、大変重要になってきています。

 これまでの建物は、ソフト面において建設当初が最新の状態であり、その後は、徐々に陳腐化していくという傾向にありました。

 その一方、例えばスマートフォンに目を向けると、必要に応じていつでもバージョンアップしたり、新しいアプリケーションの追加ができる容易な拡張性や更新性能を備えています。

 つまり建物をスマートフォン本体に見立てた場合、「アプリで建物に機能を追加していく」ようなアプローチが求められているのではないかと、我々は考えています。

 そこでご質問へのお答えですが、建物のオーナー様が「では、自分の建物で何ができるのか」と考えたとき、明快な答えを出せる方はまだ多くないのが実情だと思います。

 ハードウェアとしての建物は非常に重要です。とはいえ、「建物で何ができるのか」というソフトウェア的な製品・サービスも当社として発信していかなければ、競合他社との差別化が難しくなるという危機感もあります。

[下氏] 建設業はひところ「建てて終わり」と言われてしまっておりまして……。最近は建てた後のファシリティマネジメント、その先の改修までもが建設会社の領分として、求められています。

 となると、その“運用”をIoTの力でどう効率化していくかが、当社としても鍵になってくると思います。

 一般論として、建物の構造体の寿命にくらべて設備の寿命は短く、設備の更新時期は15~20年ぐらいできてしまいます。。その設備を、交換のタイミングに合わせて最新のモノに取り替え、更にソフトを入れかえていけば、機能面では常に最新のものとすることができます。そこがIoTの潜在力だと思います。

「AIを使って建物を深化させる」展示

──10月15日には「CEATEC 2019」が開幕します。竹中工務店は2年連続の出展になりますが、今年はどんな展示になりそうでしょうか?

[奥田氏] 昨年出展した企画展示「IoT Town」は、今年「Society 5.0 Town」へと発展し、当社もそちらへ出展します。

 Society 5.0では、SDGs(持続可能な開発目標。2015年に国連で採択)も主要なテーマとなっています。昨年は、脱炭素モデルタウンというエネルギーを中心に展示しましたが、今年はそれに加えて、AIを活用した建物への展示を予定しています。

人とともに成長し、「生命が宿る建築」

 いまメルセデス・ベンツ日本様と協力して、東京・六本木ミッドタウンそばに「EQ House」という体験型の施設を建設しました。

 これは、メルセデス・ベンツ様の電動モビリティブランドである「EQ」をプロモーションすることを目的として、「CASE」が普及した未来のライフスタイルを具現化したものです。EQ Houseでは、建築にAIを採用したことで、人とダイレクトに繋がることを可能にしています。

 EQ Houseには、多数の各種センサーを設置しておりまして、400項目のデータを収集しながら、1000点以上のデータがクラウドで管理されています。

 クラウドで処理されたビッグデータは、AIがビッグデータ学習を行い、リアルタイムに設備制御コマンドを発行します。EQ Houseでは、「アーキフィリアエンジン」と名付けたAI解析を活用することで、住まい方に合わせて、進化していく家を実現します。AIには、協業実施しています将棋ソフトで有名なHEROZが提供する
「HEROZ Kishin」を利用しています。

 EQ Houseは「住宅」として建設したものですが、今後はオフィスビルにもこの様な考えが広がっていくかもしれません。「AIを使って建物を進化させる」という訳です。

[下氏] 昨年に比べ、今年はブース面積を広げました。また、ブース設計全体がまずEQ Houseをモチーフにし、そこへ個別のソリューションを組み込む形になっていますので、そこもぜひご注目いただきたいです。

──他にはいかがでしょう?

[下氏] 「ソーシャルヒートマップ」にもご注目いただきたいですね。昨年は人流をヒートマップ化するソリューションを展示したのですが、「ソーシャルヒートマップ」は、街の人の行動をより多角的に分析して示すものです。

 昨年の「健築」からの発展版という意味では、「五感レスポンス」をご用意します。これは、画面を見ているとつい身体を動かしてしまいたくなるような仕組みになっていて、その反応に対して風が吹いたり音が鳴ることで、お年寄りも楽しんで健康づくりに取り組めます。

「建物そのものにITセキュリティが必要な時代に」

──IoTを考える上で、今後はどんな点が課題になっていくでしょうか。

[奥田氏] 情報セキュリティがまさに欠かせない部分です。外部のネットワークから意図的に停電を起こさせるような時代になっていますので、私どもとしても社内の情報エンジニアリング部門からセキュリティのコミュニティに人を派遣したり、マニュアルの整備なども進めています。

[下氏] これに関連して、SBテクノロジー様、サイバートラスト様と共同で、当社が実際に使っている施設を対象に、情報セキュリティの脆弱性診断を行ったところ、弱いという結果が出たこともありました。

 建物の空調や照明などを制御するネットワークはBA(Building Automation)と呼ばれ、それ自体完結していました。しかし近年は、外部ネットワークからBAにアクセスしたり、建物内のOA(Office Automation)系ネットワークからBAへアクセスするのも一般的になっています。そこでもし脆弱性があると、外部から色々制御できてしまいます。

 BAの制御機器はどんどんクラウド化されていて、建物外のデータセンターに置かれる例も増えています。BAのセキュリティは今後大きな問題になっていくかもしれません。当社の本業である建築の分野にも関わっていくだけに、対策を進めていきます。BAセキュリティについても、CEATECで展示を行う予定です。

「CEATEC出展を“共創”のきっかけにしていきたい」

──間もなく開幕するCEATECですが、竹中工務店のブースにはどんなお客様に来ていただきたいとお考えですか?

[奥田氏] 当社に建築をご依頼いただける方に多く来ていただくのが、もちろん理想ではあります(笑)

 一方でIoTといいますと、当社だけで到底やりきれるものではなく、企業連合を作るアプローチが増えています。ベンチャー企業も多い分野です。よく「共創」という言葉が叫ばれますが、当社のブースがまさにそんな交流の場になってほしいと考えています。当社の取り組みに共感していただき、ぜひ一緒にやっていこうというベンチャー企業ですとか、アライアンスを組めるところが見つかることも期待したいですね。

──出展にあたっての意気込みもぜひお聞かせください。

[奥田氏] 当社はこれまでにも10年間、IoTに取り組んできましたが、これから先の10年間はデジタル全体が指数関数的なスピードで進化していくはずです。

 来年には5Gがスタートし、付随するサービスも増えるでしょう。弊社としてもそこで何ができるか、ぜひ考えていきたいです。

 また2045年にはAIのシンギュラリティが訪れるとも言われます。全く予想もつかないような進化を辿るでしょうし、当社1社で全てまかなえるとはとても思えません。

 竹中工務店が、これからも日本の建築業界におけるリーディングカンパニーであり続けるために、他社とも協力しながら、ハード・ソフトの両面でさまざまな事に今後取り組んでいくためにも、ぜひCEATECを活用していきたいです。

[下氏] (展示責任者として)まずは昨年と似た展示にならないよう、今年もまたお客様に新しい発見をしていただけるように、最後まで企画を頑張っているところです。

 そして「着実に進んでいるね」と思っていただけるようにしたいですね。IoTの進化はもの凄く速いですが、そのスピードに当社が追いつき、さらに先を見据えているのだと感じてもらえれば嬉しいです。