インタビュー

旅行会社がCEATECに出展し続ける理由、JTBは「地域の課題解決会社」へ

デジタル化の先に見据える未来のツーリズム、そして「第三の創業」

 10月15日に開幕するCEATEC 2019。その目玉展示の1つが、主催者企画による「Society 5.0 TOWN」である。2030年の街の在り方をテーマに、交通・インフラ・建設・防災など、電機製品業界以外からもさまざまな企業が出展する。

 旅行業最大手のJTBは、CEATECの出展を開始してから今年で4年目を迎えた。交通チケットやホテルの手配を主力としつつも、2018年には「第三の創業」を宣言。観光はもちろん、産業振興も含め、地域の課題解決に取り組む企業への転換を図るというその姿は、家電見本市からインターネット技術・IoTをも抱合した総合展示会へと変貌したCEATECのイメージとも重なる。

 旅行業以外のビジネスに取り組んでいることを、CEATECでまずは知ってもらいたい──出展の狙い・意図について、株式会社JTB 経営戦略本部の谷口邦彦氏(経営戦略チーム 経営戦略担当部長)、株式会社JTB総合研究所の徳政由美子氏(デジタルマーケティング室 副室長 主任研究員)に話をうかがった。(以下敬称略)

2018年には観光マーケティングの新基盤をデモ、地域のIoT事業にも導入されたArea Analyzer

──JTBのCEATEC出展は2019年で4回目となります。まずは昨年2018年の出展について、その反響なども含めてお教えください。

株式会社JTB 経営戦略本部の谷口邦彦氏(経営戦略チーム 経営戦略担当部長

[谷口氏]2018年は3回目ということもあり、関係各所から事前に期待の声をいただくことも多かったですね。具体的には「人と、人の望みをつなぐJTBのデジタル」をテーマに、出展内容をいろいろと決めていきました。

 ブース内には3つのゾーンを設けました。まず「Living Zone」では、お客様のご自宅のリビングで(店頭へ足を運ぶことなく)、どうJTBのサービスを使っていただけるかをアピールする構成でした。ここでは自宅のリビングからテレビ電話をする感覚で旅行相談ができる「My Travel Living」を参考展示しました。

 2つ目の「Forest Zone」は、旅行先のイメージです。旅行を手配したあと、どんなかたちでJTBがお役に立てるか、具体的な製品を使いながらデモンストレーションしました。

 その2つを繋ぐ位置付けが、3つ目の「Digital Marketing Zone」。ここでは直前に正式リリースした観光マーケティングを行うためのクラウド基盤「Area Analyzer(エリアアナライザー)」を出展しました。これは、観光のデジタルマーケティングを実行するためのさまざまな機能をカスタマイズで実現する情報基盤ですが、観光地を訪れた方にその場で(タブレットなどで)アンケートに答えてもらい、その結果をすばやく集計できる機能があります。これを実際にCEATEC会場でデモンストレーションしました。

[徳政氏]JTBといいますと、例えば旅行プランを設計したり、実際の観光地における受入整備について支援を行ったり……というイメージをお持ちの方は多いと思います。ただ、そうした業務を進めようにも、今はもうICT化が必須の時代になってきました。

 例えば、観光客からアンケートを収集するとして、それを1回1回専門業者に発注していては作業量的に非効率です。お客様のニーズにすばやく柔軟に対応するための基盤をJTBとしてご用意できないか。そう考えたのがArea Analyzer開発のきっかけです。

 CEATECの会場では、実際にArea Analyzerを使ってブース来場者にオンラインアンケートを行いました。その結果はリアルタイム集計されて、ブース展示にも即座に反映させました。男性が多いですとか、年代比もすぐに分かります。まさにその場で、それこそ女性だけに限定してクロス集計することなども可能です。こうした機能の活用で、例えば観光施設では、お客様からいただいた具体的な要望に対し、すばやく対処することもできるでしょう。

 京都府の南山城村ではArea Analyzerも活用したクラウド基盤についてご一緒に協議をしています。村の関係者の方にたまたまCEATECのブースに足を運んでいただいたことがきっかけで、2019年度の観光事業、地域IoT実装事業について検討が始まったのです。

──CEATECのブースが本当に良い出会いの場になったというわけですね。

株式会社JTB総合研究所の徳政由美子氏(デジタルマーケティング室 副室長 主任研究員)

[徳政氏]はい、大変感謝しております(笑)

[谷口氏]ほかには、包括業務提携を結んでいる株式会社Strolyのオンラインマップ「Stroly(ストローリー)」を展示しました。観光に役立つさまざまな情報が落とし込まれていて、GPSとも連動するのが特徴です。

 Strolyについては金沢市の観光協会からお話しをいただき、実際に活用されています。

旅行会社がなぜCEATECに出展するのか?その反響は予想外だった

──CEATECに出展してみて、ほかにはどんな反響がありましたか?

[谷口氏]JTBは昨年までに3回CEATECに出展しているのですが、それでもやはりまだ「なぜJTBが(家電見本市のイメージが強い)CEATECに出展しているの?」と、よく聞かれました(笑)

 ただ、そうおっしゃるお客様方に、JTBもデジタルの取り組みをしっかり進めていますよというメッセージをお届けし、今お話ししたような成果にも繋がり始めています。

──CEATECですと、勤め先とは関係なく個人でいらっしゃる方も多いと思いますが、そういった方々からの反応はいかがですか?

[谷口氏]そうですね……。昨年で印象的だったのは、学生の来場者が非常に多かったんです。学生とJTBの接点と言えば、やはり修学旅行ですので、そうした世代の方はJTBを旅行会社だと思っています。ですから、相当意外そうな反応でしたね。

 ですが、今後JTBが地域との関係を深めていく中で、学生のような若い世代も巻き込んでいく必要があります。そうした意味では、CEATEC出展が予想外の効果を生んだと言えます。

旅行会社から「地域の課題解決」会社へ、企業イメージを転換中のJTB

──2019年はどんな出展を予定されていますか?

[谷口氏]今年は弊社の田川博己(株式会社JTB 代表取締役 会長執行役員)が「ツーリズムで地域を元気に」というテーマで基調講演を行いますので、その内容とも連動した展示を行います。

 また「なぜJTBがCEATECに?」というお客様の疑問に対して、きちんと説明することも重要だと考えています。そもそもの話になりますが、ツーリズム産業は裾野が非常に広く、観光や宿泊を担う業者以外にも、さまざまな業者とお付き合いがあります。

 例えば農業です。観光とは直接関係ありませんが、作物の地産地消は1つの接点です。苺狩り、梨狩りなどの観光農園を営んでいない農家であっても、農業体験で実際に人がいらっしゃれば、観光の訪問先となります。ですから、ツーリズムは地域経済へ貢献できるのだという、この“絵”をしっかりお伝えしていきます。

旅行・ツーリズム産業は、その他の産業との接点が多い(同社資料より)

「旅行者にデジタルでサービスする」だけが本義ではありません。IT以外のさまざまな業界・業者とJTBが組んでいく方向性なのだと、まずは感じていただきたいですね。

 そしてさらにその先には、「デスティネーションエコシステム」の実現を、JTBでは目指していきます。

──具体的にどんな考え方なのでしょうか?

[谷口氏]ツーリズムの課題は地域によって複数あるケースがほとんどです。例えば○○温泉のエリアでは、飲食店が足りないので土日だけキッチンカーを呼びたい一方で、交通手段が少ないのでシャトルバスを運行しなければならないといった課題があり、それらに“個別”で対応していました。JTBではこれまでもそうした要望に対し、受託業務的に請け負うという、言わば“点”での対応が中心でした。

 しかし地域の課題を、全体の“面”で解決しようというのがデスティネーションエコシステムの考え方です。1つ1つのソリューションを用意しつつも、繋げることでエコシステム化していく。観光だけに限らない、地域のグランドデザインを定め、現地を盛り上げていこう、という発想です。

「デスティネーションエコシステム」の概念図(同社資料より)

──例えば、ピストン輸送のバスを出す、手荷物をホテルまで配送するという2つの施策を、それぞれ別の会社がやっているとします。しかし、これらを単独で考えるのではなく、それこそ「ピストン輸送のバスで一緒に手荷物配送をする」というような、大きな視点をもつイメージですか?

[徳政氏]そうですね、個別の施策をコネクテッドしていくという意味では、まさにそうです。今まではバラバラで動いていたものを、JTBが最適化し、パッケージングしていこうと。また、そのパッケージを別の地域に展開していくこともできると思います。

[谷口氏]例えば臨時バスを運行するとして、デジタルのマーケティングデータを上手く組み合わせれば、それこそ何台用意すればいいのかを経験や勘ではなく、理論的なデータで決められます。JTBが強みとしている「ヒューマンタッチ」を活かしつつも、デジタルの力を融合させていきます。

 JTBではこれまで、地方自治体の観光課などとのお付き合いが中心でしたが、これからは産業振興課の方々とも、デスティネーションエコシステムの考えに基づいて、お話しを進めていきたいとも考えています。

地域のグランドデザイン作りのために、スタートアップへの出資も行う

[谷口氏]JTBでは地域のグランドデザイン作りをお手伝いする一方、具体的な資本投資も行っていく計画です。例えばCEATECでもご紹介予定の、沖縄でのエアポートシャトル運行に関しては、JTBが企画するだけでなく、実際に資本参加をしているんです。

 交通事業者に話を通して、JTBだけで独占的にチケットを売るという話ではなく、沖縄県の観光に携わる方ならどなたに取り扱っていただいて構いません。

──スタートアップ企業への出資なども積極的になさっているそうですね?

[谷口氏]はい。地域の課題解決には、やはりスタートアップ企業などと協力することでスピードは速まります。今年2月に資本業務提携を発表した、米国Peatix社のイベント告知・チケット販売ソリューションもCEATECでは展示します。

[徳政氏]Peatixというと、セミナー等イベントのオンラインチケット販売が思い浮かぶと思いますが、先ほどのデスティネーションエコシステムの考えを当てはめることができます。例えばオーバーツーリズム対策です。

 ある地域で渋滞が発生してしまっている。なぜか? マイカーが多すぎ、駐車場を探して道路をウロウロ回遊して、結局それが渋滞を引き起こしていると分かったとします。そうした時、限られている駐車場の枠をPeatixで事前予約してもらい、その方々にだけ、該当エリアへ入ってもらう……というような最適化ができます。真の意味での課題解決を達成するには、単なる手法の提供だけでなく、ソリューションの使い方や組み合わせ方をあらゆる面で検討していくべきでしょう。

 沖縄のエアポートシャトルも同様の考え方です。沖縄観光はレンタカー利用が多いのですが、あまりにも集中してしまって、飛行機到着後にそれこそ空港のレンタカーの受付窓口で大行列ができてしまう。下手をすると2時間待ちです。JTB沖縄、など地域に所在するJTBの支店、グループ会社は地域に関わる中で、そうした観光に関連する問題と課題を常に自分たちの目で見続けているのです。

 これをなんとかしたいと考え、レンタカーを利用せずに人気観光地へ行けるエアポートシャトルの運行を開始したんですね。もちろん、待ち時間を短縮させられれば、もっと観光客の消費を促せるはず、という地域側の課題解決も考えています。

[谷口氏]観光にまつわる問題は本当に複合的で、沖縄唯一のモノレール「ゆいレール」は空港アクセスに便利なのですが、観光客のスーツケースなどが一因で、本来の乗車定員を乗せきれないまま、運行せざるを得ない状況もあります。

 エアポートシャトルの運行は、旅行者のレンタカー問題だけでなく、地域の生活者にとっても必要とされるゆいレールの混雑緩和にも寄与できるのでは、と考えています。

 沖縄に限りませんが、訪日外国人観光客の増加によって、日本は「日本人だけが移動する国」ではなくなってきています。そこには案内の多言語化など、今までにはなかった課題も出てきます。

変化に対応できない企業は成長できない、目玉展示「Society 5.0 TOWN」への意気込み

──JTBがこれまで出展していた主催者企画展示「IoTタウン」が、今年からは「Society 5.0 TOWN」へと進化・発展しました。

[谷口氏]JTBとしては、これまで旅行業の取り扱いが中心だったビジネスから、地域により深く関わっていく方向への変化を目指しています。地域の魅力をどうやって引き出すのか、それを地域のビジネスとし、伝えていくにはどんな技術を組み合わせられるのか、追求していかねばなりません。

 その意味において、他社の動向も非常に重要です。IoTタウンがSociety 5.0 TOWNへと変化したことで、より広範な展示が成されていくと思います。そうした点を学習しながら、JTBとして、もしくは共創して実現できることの範囲を広げていけるといいですね。

徳政:Society 5.0を国が提唱し、国際情勢や技術動向もその後どんどん変化していって、今やSociety 5.0に対応しなければ“(企業として)勝てない”段階に来ていると思います。

 とはいえ、我々も3年前くらいまでは、具体的になにをしていいか迷っていた部分もありましたが、年を追うごとに、特にITの力がなければ、お客様へ満足な提案もできない状況になりつつあります。

 例えば500万人のお客様がいるとして、そのお一人お一人にJTB流のていねいな接客を行うのも1つの考えですが、時間にもコストにも限界はあるし、なによりお客様自身を取り巻く環境の360度にICTが存在します。

 ICT化は企業としてもはや必須です。また、今なにが起こっているかを恒常的に把握するためには、IoTも重要な部分です。ICT、IoTを課題解決の中に手法として最適に組み合わせ実行しなければ事業の成長が見込めない───そんな危機感すら持ち始めています。

 地域のお客様の話を聞きますと、(人口減やコミュニティの不活性など)根深い問題がいろいろと浮かび上がってきます。それらを解決するためにも、ICT、IoTという道具をJTBがしっかり携えた上で、ご協力していきたいです。それこそ、データを活用して整備されたコンテンツが、その情報を必要としている方へ検索で正しく表示される、経験した人が発信するSNSを追いかけ、さらにその反応を分析するところまで。

──JTBがSEOを考える時代だ、ということですね。なかなかに象徴的な例です。

[徳政氏]最近ですと、Googleマップへの最適化という意味でMEO(Map Engine Optimization)も非常に重要になってきています。

「JTBって、こんなこともやってるんだ!」「第三の創業」への第一歩を見ていただきたい

──ブースの構成などは、どういった感じになりますか?

[谷口氏]全体で3つに分かれていまして、ディスティネーションエコシステムにつながる取り組みを紹介するスペース、実際に製品を体験してもらうためのスペース、そしてプレゼン用のスペースを設けます。プレゼン用のスペースでは、スタートアップ企業ですとか、JTBとして今後協力していきたい企業の担当者様などを招き、製品デモなどを実施してもらう予定です。

JTBブースの完成イメージ

──どういった方に来場していただきたいですか? また、どんな課題解決を望んでいる方に来場をオススメしたいですか?

[谷口氏]JTBがもう1つ力を入れているイベントとして、「ツーリズムEXPOジャパン」があります。こちらはCEATECの翌週、10月24~27日に大阪で開催されますが、「旅行のJTB」としての展示がメインになります。

 対してCEATECは、「なぜJTBが?」というお客様の疑問に答える格好の場と考えています。あらゆる業界・業種の方に来ていただきたいと思っています。

 ただ昨年までの実績で考えますと、地方自治体の方にご来場いただき、その後の展開へと発展するケースは多いです。

 また今年はCEATEC主催者のJEITAが学生向けの企画を実施するとうかがっています。昨年の例もありますし、学生さんに来ていただけると、いろいろな気付きがあるかもしれません。

──最後に、今後の目標、CEATECへの期待をお聞かせください。

[谷口氏]JTBでは2018年から「第三の創業」を掲げ、業態の変化に力を注いでいます。今後ビジネスモデルを変革させていくためにどんなことをやってくのか、その第一歩がCEATECでお披露目できると考えています。

 今回の出展は、どんな展示内容にするか最後まで悩みました。まずはJTBが今どんなことを考えているのか、ごく簡単にでも構わないので理解していただけるように、また、JTBで組んでいきたいと考える企業が1社でも増えるよう、頑張っていきます。

[徳政氏]南山城村の例もご紹介しましたが、CEATECではビジネスを広げるための出会いがこれまでに何度もありました。企業のデジタルトランスフォーメーション担当者のお悩みを聞くことも本当に多いです。そうした方々と触れ合って、JTBとしてもより“やる気”をいただく側面もあります。ぜひCEATECブースで「JTBって、こんなこともやってるんだ」と気付いていただけると、うれしいですね。