インタビュー

タクシー会社のITベンチャー「JapanTaxi」は、どんなスマート社会を目指すのか?

配車アプリ、キャッシュレス、広告、翻訳……、そしてドラレコ撮影の車外データまで

 CEATEC 2019に初めて出展する企業として注目を集めているのが、JapanTaxiだ。

 タクシー配車アプリ「JapanTaxi」を開発し、このアプリを使うことで、全国47都道府県の約900社のタクシー会社が所有する約7万台のタクシーを呼び出して利用することができる。だが、同社の特徴はそれだけではない。タクシー業界のデジタルトランスフォーメーションを推進するとともに、2019年1月に発表した「JapanTaxi Data Platform」を活用した新たなビジネスの創出にも意欲的に取り組んでいる。

 CEATEC 2019においても、その取り組みの一端を紹介。新たなビジネスパートナーとの連携を模索する。JapanTaxi 次世代モビリティ事業部 事業開発グループビジネスプロデューサーの萩原修二氏と松本美里氏に、同社の取り組みやCEATEC 2019の出展の狙いなどについて聞いた。

タクシー会社からスタートしたITベンチャー「移動で人を幸せに」を掲げてITシステムをタクシー会社に提供

――まず、JapanTaxiの事業概要について教えてください。

JapanTaxi 次世代モビリティ事業部 事業開発グループビジネスプロデューサー 萩原修二氏

[萩原氏] JapanTaxiは、1977年8月に、日本交通の情報システム部門が独立し、日交計算センターを設立したのが始まりです。

 タクシー乗務員の給与は歩合制であり、給与計算が複雑化していました。その計算業務を行うのが当時の役割でした。1992年には日交データサービスに社名を変更。計算業務のほか、日本交通グループの情報システム部門のような動きとともに、業務支援システムの外販など、日本交通以外の全国のタクシー会社にも提供しています。

日本交通のタクシー。様々なIT機器が搭載されている
タクシー配車アプリ「JapanTaxi」。日本交通の配車リクエストは、現在、その8割がアプリ経由になっているという

 2011年1月には、初のタクシー配車アプリ「日本交通タクシー配車」をリリースし、同年12月には、日本交通以外のタクシーも配車できる「全国タクシー配車」をリリースしました。

 アプリの提供を開始した時期は、日本の全人口の約3割にしかスマホが普及していない段階でしたが、いち早くアプリを開発し、さらにクラウドを活用することで、全国のタクシー会社が採用しやすい環境を整えました。2015年にはJapanTaxiに社名を変更し、2018年にはアプリの名称も、「JapanTaxi」アプリに変更しています。

「JapanTaxiタブレット」。広告の配信機能や決済機能も搭載している

 昨今では、日本交通の全車両をはじめ、全国約1万台以上のタクシーに搭載される「JapanTaxiタブレット」によって、決済機能を提供するとともに、広告を配信し、これも新たなビジネスとして事業が拡大しています。

 また、2017年には未来創生ファンドから5億円の資金を調達したほか、2018年にはトヨタ自動車から75億円、未来創生ファンドから10億5000万円、NTTドコモから22億5000万円、カカオモビリティから15億円の資金を調達しています。2018年の資金調達額だけで100億円を突破し、同年のスタートアップ企業の調達額としては国内最大となりました。

 当社のミッションは、「移動で人を幸せに。」です。

 移動に関わるサービスを提供し、移動する時間や乗り降りの際の体験を高め、さらにはタクシー以外のあらゆるモビリティ手段と連携しながら、移動時間を「コスト」ではなく、「機会」に変え、喜びに感じる体験を提供することで、移動を通じて、人を幸せにすることを目指しています。

 タクシー業界は108年の歴史があります。しかし、全国規模で見れば厳しい事業環境にあるのは確かで、新たなテクノロジーへの投資が積極的に行いにくい業界でもあります。地方都市のタクシーでは、キャッシュレスでの決済ができない車両が多いことからもそれがわかると思います。また、少子高齢化で新たなドライバーが確保できなかったり、業界全体では減車傾向にあるのも事実です。

 こうしたなか、JapanTaxiは、自らエンジニアを抱え、新たな機器やアプリを開発し、これを全国のタクシー会社に提供することで、業界全体の底上げに貢献するという役割を担っています。1社の力だけではIT化が難しいというタクシー会社は少なくありません。

 日本交通の会長であり、JapanTaxiの社長である川鍋(=川鍋一朗氏)は、一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会の会長や東京ハイヤー・タクシー協会の会長も務めており、タクシー業界全体が抱える課題に向き合っています。そうしたなかで、JapanTaxiでは、タクシー会社からスタートしたITベンチャー企業として、タクシーおよびタクシー会社のデジタルトランスフォーメーションを進め、タクシー業界が持つ課題の解決に取り組んでいるところです。

「タクシーのIT化」で価値を向上、さらには負担軽減も……アプリ、キャッシュレス決済、音声通訳、車内サイネージ、乗務員向けサポートなど………

――JapanTaxiでは、どんな事業体制を敷いていますか。

[萩原氏] タクシーの乗車体験を向上させる「配車アプリ事業」、ITの活用によってタクシー会社の負担を軽減したり、付加価値向上をサポートしたりする「タクシーDX事業」、そして、未来の移動を見据えた研究開発を推進する「次世代モビリティ事業」の3つの事業で構成されます。

 配車アプリ事業では、先にもお話ししたように、800万ダウンロードを達成した国内ナンバーワンのタクシー配車アプリ「JapanTaxi」を展開しており、継続的な機能向上に加えて、国土交通省との実証実験への参加などを通じて、タクシーの新たなニーズを開拓するといった取り組みも行っています。

 たとえば、2018年1月には、都内949台を対象に専用アプリを利用した「相乗りタクシー」の実証実験に参加したり、2018年10月には、現在は一律となっている迎車料金を、アプリによって需給に合わせて変動させる、 「変動迎車料金」に実証実験にも取り組んでいます。2019年10月からは、事前確定運賃が開始されますが、それもアプリを活用することで利用できるようになります。

 タクシー配車アプリは、利用者の利便性向上という側面もありますが、タクシー会社やタクシー乗務員にとってもビジネスの拡大や効率化といった点で成果があります。

 「JapanTaxi」アプリでは、2020年までに配車可能なタクシーの台数を9万台にまで拡大するとともに、累計ダウンロード数を1600万にまで広げ、純国産の国民的タクシーアプリとしてのポジションを確固たるものにしたいと考えています。

 2つめのタクシーDX事業は、ITやデジタルを活用して、タクシーの価値を高めていく事業になります。

 たとえば、降車体験を変える「JapanTaxi Wallet」では、決済手段を登録した「JapanTaxi」アプリと、タクシー後部座席に設置されているデジタルサイネージ端末「JapanTaxiタブレット」を組み合わせて利用することで、タクシー車両のキャッシュレス化を進めています。

 アプリを使ったネット決済では、事前に支払い手段を登録・選択すると、目的地に到着した際に車内で支払いのやり取りをせずに降車でき、領収書もウェブでの発行が可能になります。ここでは、クレジットカードや電子決済サービスなどが利用できるようになっています。

 タクシーの支払いで現金を減らすということは、乗務員の作業負担を減らし、釣り銭を確保するために営業所に戻るようなロスを減らすといったメリット、防犯上の効果なども見込めます。現在、日本交通では、約6割が現金以外での決済となっています。

 また、「JapanTaxiタブレット」の画面に広告を流すことで、タクシー会社の新たな収益源を生み出すといった活用提案も行っています。これは2016年に行った大塚製薬のポカリスエットを題材にした「ポカリタクシー」が発端になっています。ポカリスエットのメリットを訴求するために、外装や内装、商品サンプリングに加えて、タブレットから商品の説明動画を表示したところ、利用者からも好評であり、高い訴求効果が行えました。「JapanTaxiタブレット」への広告表示は、この経験をベースに展開を広げたものです。

 さらに、日英中韓の多言語表示に加えて、タブレットに音声通訳機能を搭載し、外国人観光客の決済をサポートしたり、乗務員とのコミュニケーションをサポートし、満足度を高めることができます。現在、日本交通京都営業所の65台のタクシーで音声通訳の実証実験を行っています。外国人観光客に、「夕日が見られる場所を回ってみてはどうか」といったように、観光提案でき、満足度を高めるとともに、単価を高めるといった効果が見込まれます。

 現在、「JapanTaxiタブレット」は約2万台のタクシーに搭載されていますが、2020年までに全国5万台のタクシーに搭載したいと思っています。

 最近では、ユーザーのアプリ配車体験を向上させ、乗務員の負担を軽減する、乗務員向けアプリ「JapanTaxi DRIVER’S」もスタートしています。アプリからの配車注文を複数車両に直接飛ばすことですばやい配車成立を実現したり、高精度ナビゲーションシステムにより、効率的なルートを走行したりといったことが可能になっています。

――次世代モビリティ事業ではどんな取り組みを行っていますか。

[萩原氏] 次世代モビリティ事業では、ドライブレコーダーを活用したリアルタイムでの道沿い情報収集や、トヨタとの連携により、人工知能を活用したタクシーの配車支援システムなど、多岐に渡る活動を行なっています。

 タクシーを活用した「IoT見守りサービス」はそのひとつです。ottaが提供している「otta見守りサービス」では、見守り端末を所持している児童や高齢者などが基地局を通過した際、家族や保護者が持つスマートフォンやPCに、居場所を伝えるサービスですが、JapanTaxiでは、タクシー車両に設置されている「JapanTaxiタブレット」を、動く基地局として利用し、よりきめ細かな見守りを可能にするといったことを行っています。24時間365日走っているタクシーだからこそ、実現できるサービスだといえます。

 2019年1月に発表した「JapanTaxi Data Platform」では、タクシーが収集するデータを活用して様々なサービスを創出するといったことに取り組んでいきます。タクシーだからこそ取得できるデータがあります。たとえば、車両のワイパーの状態からリアルタイムの天気の状況がわかりますし、センサーを活用することで、路面の状況や渋滞の状況、花粉の状況なども知ることができます。

「ドライブレコーダー4.0」で現地の映像をリアルタイムに収集「1週間で9割の道を通行する収集力で、ビジネスを創出したい」

――JapanTaxiが、今回のCEATEC 2019に出展する目的はなんですか。

JapanTaxi 次世代モビリティ事業部 事業開発グループビジネスプロデューサー 松本美里氏

[松本氏] JapanTaxiの次世代モビリティ事業では、「JapanTaxi Data Platform」によって、タクシーによるデータ収集の基盤構築に取り組んでいるところです。収集したデータを活用して、新たなビジネスを創出したいと考えています。

 とくに、今回のCEATEC 2019では、ドライブレコーダーによって取得するデータの活用を提案します。

 タクシーは、24時間365日稼働していますし、バスやトラックが決まったルートや幹線道路を中心に走行するのに対して、タクシーはお客様の目的地に向けて走りますから、あらゆる道路を走行することになります。

 日本交通の4600台のタクシーだけでも、1週間で都内の9割の道を通行しているほどです。これだけきめ細かく走行しているタクシーが収集する鮮度の高いデータを、タクシー業界とはまったく異なる企業が活用したり、なにかと組み合わせることで、新たなビジネスにつながったりといったことを想定しています。

 JapanTaxiでは、2013年からドライブレコーダーを発売していますが、ドライブレコーダー4.0と呼ばれる新たな製品を2019年8月から発売しています。

新型のドライブレコーダーは、従来よりも映像の解像度が高くなり、新たに通信モジュールを搭載しています。この改良により、AIによる映像解析を可能にし、映像データの収集基盤も構築しやすくなります。

――タクシーのデータの活用はどんなものが考えられますか。

[松本氏] それは、まだ模索中の段階です。これまでの発想でいえば、同業であるタクシー会社や地図情報の会社といったところでの利活用が想定されるだけですが、それ以外の企業ではどんな活用ができるのか。そこに、今回のCEATEC 2019に出展する目的があります。

 たとえば、ドライブレコーダーの映像から、駐車車両が多い場所がわかったり、混雑状況がわかったり、工事箇所の情報が収集できたりします。また、路面の状態なども分析することができます。さらに、画像のなかから、ガソリンスタンドの看板の料金を読みとったり、駐車場の「空」という文字を読みとって、分析したり、情報を取りまとめることも可能です。人気店に列ができている状況をタクシーのカメラが把握して、それをリアルタイムで、グルメサイトに反映するといったこともできるかもしれません。

 まだ、我々が気がつかないようなデータの利用方法が見つかることを期待しています。CEATEC 2019では、タクシーから様々な情報が収集でき、それを「JapanTaxi Data Platform」として提供しているということを、より多くの企業や団体、研究機関などに認知してもらいたいと思っています。

 ブース内には、タクシーの実物も展示し、タクシーが走行することで、どんなデータが収集できるのかといったこともお見せしたいと思っています。また、最新のタクシーに搭載されているタブレットや決済機なども見ていただくことができます。

 さらに、CEATEC 2019の開催初日となる10月15日には、社長の川鍋が、「移動で人を幸せに。」をテーマに基調講演を行います。ブースでの展示テーマのほかに、注目を集めるMaaSをはじめとするモビリティの未来に向けた取り組みを紹介する予定です。

[松本氏] 私たちが目指していることは、Society 5.0が目指すものと一緒だと考えています。いま直面している課題を解決することができる新たなソリューションにつなげることができるといいですね。既存事業の改革を進めている方々や、新規事業の創出に取り組んでいる方々には、ぜひブースに来ていだきたいですね。

 また、このエリアに出展している企業は同じような方向性を持っている企業が多いと考えていますから、Society 5.0タウンに意思を持って訪れる来場者は当然として、ここに出展している企業の方々との連携も期待したいですね。一緒になって、新たな市場を作りたいと考えています。タウンというコンセプトのなかに、タクシーが入る点でも期待していてください。

「今までにないタクシーのデータの活用で社会課題を解決したい」

――出展するエリアが、Society 5.0タウンとなりますね。

――JapanTaxiでは、Society 5.0に対してどんな取り組みをしていますか。

[萩原氏] タクシーが収集するデータを活用することで、社会課題の解決につなげるという点で、貢献ができると考えています。データの防犯への利活用や、目的地までの効率的なルート選択することで、環境に配慮したりといったことも可能になります。また、地方都市の公共交通の継続性が課題となっていたり、効率的な運行システムやサービスなどの新たなモビリティが求められたりといった点でも貢献できると考えています。

――「JapanTaxi Data Platform」は、今後、どんな広がりを見せることになりますか。

[松本氏] いまはデータを収集するところに関心が集まっているものの、それをどう利用し、どんな成果を得るのかといったところにつながっているものが少ないと感じます。

 タクシーを通じて収集したデータを集積、分析することで、どんな課題を解決できるのか。「JapanTaxi Data Platform」を利用して、社会課題の解決に取り組む当社の役割に注目をしてもらいたいですね。人々の生活が向上したり、楽しくなったりといった際に、実は、タクシーのデータが使われていた、というような仕組みが作られればいいですね。

[萩原氏] そのためにも、データの利活用を通じた、他分野の事業者との協業により、新たな価値を提供したいですね。24時間365日、街を走り続けるタクシーだからこそ集められる鮮度の高いビッグデータがあり、様々な企業とのコラボレーションを通じて、タクシーの新たな活用の可能性が生まれると考えています。データの活用によって、タクシーの価値を最大化することを目指します。