インタビュー

SMBCグループが目指すイノベーションは「本質的な課題解決のため」、金融の枠を超える、歩みとビジョンとは

技術だけではない、コンセプトだけでもない、「事業を共創するためのCEATEC」

 三井住友フィナンシャルグループが、CEATEC 2019に出展する。今年で3年連続の出展だ。

 過去2回の出展では、ビジネスに直結する具体的なソリューションを展示。それが来場者の関心を集めていた。今年もその姿勢は変えないという。

 三井住友フィナンシャルグループ ITイノベーション推進部執行役員の中山知章部長は、「金融サービスの枠を超えるソリューションを展示する。CEATECを通じて、共創のきっかけを作りたい」と語る。三井住友フィナンシャルグループの中山部長に、CEATEC 2019の出展の狙いを聞いた。

成果につながった「ビジネスベースで話せる展示」昨年は1万人以上がブースに

――三井住友フィナンシャル(SMBC)グループは、2017年、2018年の2回に渡って、CEATECに出展し、いずれもメガバンクの出展として大きな話題を集めました。成果はどうですか。

三井住友フィナンシャルグループ ITイノベーション推進部執行役員の中山知章部長

[中山氏]

 ITイノベーション推進部は、⾦融サービスの枠にとらわれない新たなビジネスの創出を⽬指しています。そして、CEATECについては、ブースの来場者の⽅々に意⾒をいただいたり、わたしたちのソリューションのお客さまを⾒つけたり、新たなビジネスを創出するためのパートナーを見つけるといったことを⽬的に出展しています。

 実際、これまでのCEATECへの出展で、次のステップに進むことができたソリューションもありますし、わたしたちが持つ既存のネットワークではお会いできないような方々と出会うことができました。

昨年の展示の様子

 昨年は1万人以上の方々にお越しいただきましたし、「SMBCグループはこんなこともしているのか︕」と驚いていただける来場者も増えました。

 私たちが展示でこだわっていることは、それが「デモとして動いているもの」「サービス開始の目途がたっているもの」「商談ができる段階にあるもの」のどれかであるという点です。アイデアベースのものを飾って見せるということはしません。

 そして、各ソリューションで活用しているテクノロジーを前面に打ち出すような展示もしません。どのようなニーズや課題を解決するものなのか、をしっかりと来場者にお見せしたいと思っています。

――昨年の展示では、なにが注目を集めましたか。

次世代農業ロボット「DONKEY」の展示には注目が集まっていたという

[中山氏] 各ソリューションともご注目いただきましたが、グループ会社の日本総合研究所と開発した「DONKEY」という次世代農業ロボットは、農業分野において課題となっている人材不足や非効率経営を解決できるソリューションとして関心が集まっていました。

 また、将棋AIを開発しているHEROZとSMBC日興証券が共同開発した「AI株価見守りサービス」にも注目が集まりました。

 これは、ITイノベーション推進部が開催している共創プログラム「SMBC BREWERY」から生まれた協業です。すでに、「AI株価見守りサービス」に加えて、「AI株式ポートフォリオ診断」がSMBC日興証券からサービスとして提供されています。CEATECの会場でも、ぜひ使いたいといった声をいただきました。

 さらに、三井住友銀行とJSOLが共同開発した、各企業のトランザクションデータなどからAIを活用して企業の今後の業況を予測する「企業の業況変化検知システム」もすでに地銀数十行から引き合いをいただいています。そのほか、主催者であるJEITAとの連携によって、会場内4カ所で行ったAIチャットボットによる会場案内サービスも、多くの人に触れていただきました。

 また、生体認証サービスの「ポラリファイ」や、BPOサービスを提供する「NCore」の社員からも「自分たちのネットワークでは会えないような⼈たちと接点を作ることができた」という声がありました。CEATECの展示をきっかけにして商談が始まったという事例もありました。

 これまでに接点がなかった新たな企業や研究機関など、お客さま・パートナーとなっていただける可能性のある企業に多く会うことができたというのが、昨年の一番の成果ですね。

金融サービスの枠にとらわれず、「課題解決」を志向したイノベーションを

――新たなビジネスの創出などを目的に、2015年10月からスタートしたITイノベーション推進部は、この1年間において、どんな取り組みをしてきましたか。

[中山氏]

 すでに5年目を迎えたITイノベーション推進部ですが、それ以前からの活動を含めると7年半が経過しています。特にこの1年では、テクノロジー起点でのアイデア創出を超えて、「社会やユーザーのどのような課題やペインを解決するのか」、そして、「なぜそれに取り組むべきと考えているのか」、ということをメンバーに強く問いかけた年でしたね。

 金融サービスの枠にとらわれず、課題解決に必要であれば、金融サービスであろうとなかろうとやってみたらいいと言ってきました。

 人とモノが動けば、必ずお金が動きますから、そこには金融サービスが必要になります。モノを作るというよりは、新しいコトを起こして、人とモノの動きを捉えれば、結果として金融機関が必要とされるということですね。

 ⼀⽅で、この1年はPoCの件数には敢えてこだわらないことにしました。もちろんPoCが必要であればやりますが、PoCは目的ではないということです。

 その代わり、サービスをどのくらい出せたかという点にこだわりました。しかしながら、新しい事業は1000個に3個成功すればいい方です。だからこそ、良いアイデアをなるべくたくさん創るための仕掛けづくりに力を注ぎました。

――具体的にはどんな取り組みですか。

[中山氏] ひとつは、東京・渋谷に設置しているオープンイノベーション拠点のhoops link Tokyoです。

 設立から2年が経過した中、来場者数は延べ2万5千人、主催されたイベント数は460回以上にもなり、存在感が高まっていることを感じます。hoops link tokyoには、スタートアップ企業だけでなく、大手IT企業や官公庁、大学などからの来場が増えています。イベントを通じて世の中の課題を抽出したり、アイデアが生まれ、協業が始まるといったことが起こっています。hoops link tokyoがきっかけとなり、PoCなどが進んでいる例が多数あります。

hoops link FESの模様

 もうひとつは、東京・大手町の三井住友銀行本店を使って開催した「hoops link FES」です。

 これはSMBCグループの社員を対象にして実施したイベントで、開催日は日曜日だったのにも関わらず、グループ各社から500人近くの社員が参加しました。

 参加者は実に様々で、グループ各社各部で進めているデジタライゼーション関連の取り組みの展示や、スタートアップ企業や著名人の方々によるパネルディスカッションなども行いました。

「hoops link FES」当日に使われたパネル。グラフィックレコーディングにより当日作成したもの

 「hoops link FES」を開催した最大の狙いは、グループ役職員の啓発にありました。イノベーションや新事業の創出は、ITイノベーション推進部や本部だけが行うものではないと伝える一方で、すべてのグループ会社の社員が、自らいろいろなアイデアを出さなくてはならないということを知ってもらう場にしました。

SMBC BREWERYの模様

――日曜日にも関わらず、約500人のグループ社員が来場したことは、イノベーションに対する意識の高さを感じますが。

[中山氏] たしかに、自ら新しいことをやりたいと思ってくれている社員が多かったことは喜べる要素のひとつです。

 例えば、この日も共創プログラム「SMBC BREWERY」を会場内で開催したのですが、営業店に勤務している社員などが積極的に参加してくれました。また、新規事業創出にも活かせるスキルや意識を持った社員が多いことも改めて感じましたね。

 とはいえ、グループ全体では5万人の社員がいますから、「そのなかの500人だけ」という捉え方をすれば、まだまだともいえます。そういう意味では、「hoops link FES」は、今後も定期的に開催していきたいと思います。

 さらに、新たな取り組みとして、2019年4月にITイノベーション推進部内に、デザインチームを立ち上げました。

――デザインチームはどんな役割を担いますか?

[中山氏] クルマや洋服のデザインといったような「モノのデザイン」ではなく、「組織やサービスなどのありたい姿を描くためのデザイン」にフォーカスしたチームになります。デザインによって、本質的・潜在的な課題を抽出して、ソリューションを創造的に導き出し、外部企業との協業もデザインしながら実現させていきます。リーダーには、キャリア採用の社員を抜擢しました。

 デザインチームでは、デザインを実践する仕組みを作り上げながら、SMBCグループ全体へと伝播させる役割を担っています。

【“デザイン”による事業創出】

 なぜデザインが必要なのかというと、新たな事業になり得る良質なアイデアを生むためには、デザインのアプローチが大切だと、これまでの取り組みからわかったからです。私たちは新たなテクノロジーを使う組織ではなくて、新たな事業を創出するための組織です。そこには、ありたい姿を描くデザインという考え方が重要になるということです。

 デザインをSMBCグループ全体に広げ、各部、各社、営業の人たちも含めて、グループの社員全員が、このマインドやスキルを持ってほしいと思っています。SMBCグループの営業担当者がデザインを体得すれば、お客さま自身も気付いていない本質的な課題を見つけ、最適な手段で解決ができるようになります。もし、社員全員がこうした動きできるようになれば、極論ですがITイノベーション推進部は不要になるかもしれないですね(笑)。

 グループ全社にデザインが浸透した企業は非常に強くなると思います。実際にデザインを取り入れた部門では、今まさに大きく変わろうとしています。

CEATEC 2019の展示は、様々な「X-tech」を開幕直前に発表会場で体験できるものも

――今年のCEATEC 2019では、どんな展示を予定していますか。

[中山氏] 今年は、私たちが目的としている「世の中の本質的な課題やニーズを捉えたソリューション」を提案できているかどうかを来場者に感じてもらえるかどうかが鍵になると思っています

 展示会では、ややもすると「へー、面白いもの出しているね」だけで終わってしまうこともありますが、SMBCグループのブースでは「確かにあったら社会が良くなるよね」と感じていただきたいと考えています。

 例えば、高齢化が進んだ社会や、プライバシーの意識が高まった社会で生まれる課題に対する解決のコンセプトをお見せします。体験形式で課題のリアリティに共感していただきつつ、先端テクノロジーを活用したコンセプトをご紹介する予定です。ただし、コンセプトだけで終わるものではなく、ある程度の実現可能性が見込めるものを展示することにはこだわっています。

 また、ブース全体ではSMBCグループ各社から約20件の展示を予定しています。昨年展示したサービスのアップデートや新しいサービスも含まれますし、金融サービスの枠に留まらないものも多数あります。「X-tech(クロステック)」といわれているように、あらゆる領域のものを展示することになりそうです。

 たとえばポラリファイ社は、犯収法(*1)改正に対応した生体情報によるオンライン本人確認サービスとして「e-KYC」をお見せします。これは様々な業種での本人確認にご利用いただくことを想定しています。

 2019年2月に設立したSMBCバリュークリエーションは、RPAソリューションの展⽰を予定しています。

 また、現時点では詳細はお話できないのですが、展示するものの⼀部は、CEATECの開幕直前に発表し、CEATEC会場ではそれを体験していただけるようにします。

 加えて、昨年の展示で、いろいろな方に驚きを持って見ていただいたものに「未来マップ」がありました。
これは、わたしたち、ITイノベーション推進部が想定する未来の7つの変化を示したものです。

【未来マップ】

 この未来マップから、解決すべき課題、充足すべきニーズの抽出を目指しています。「テクノロジーがあるから新事業を創る」のではなく、Society 5.0やSDGsのように、現在そして未来はどんな世の中であり、どんな課題があるのかといったところから新事業を創出したいと考えています。実際、未来マップのパネルは写真を撮影する⼈も多く、そこからいくつも共創のきっかけが生まれました。

 今年は未来マップについて、最近の象徴的な動きを入れた形で更新しました。引き続き、来場者のみなさんと未来を共に創るきっかけとしたいですね。

 今年のブースでは、わたしたちなりに想定した未来に対するソリューションを見ていただき、それが社会課題を捉えているのか、本当に必要だと思っていただけるのかどうかを、確かめたいと思っています。

 もしかしたら、やり方が間違っているのかもしれない、あるいはアイデアをもっと詰めていかなくてはならないといった結果になるかもしれません。しかし、そうしたことをしっかりと検証していく場にしたいですね。

*1 「犯罪による収益の移転防止に関する法律

「“SMBCグループとなら、スピーディに一緒にできそう”と感じてほしい」

――それでは、最後になりますが、どんな方々に来てもらいたいでしょうか?

[中山氏]

 まずは、わたしたちの新しい事業を創る取り組みについて、いろいろなヒントをいただきたいと考えています。業種は問いませんし、学生でもシニアの方でも、ユーザーの立場でもいいですから、ぜひブースに寄っていただき、ご意見をいただきたいですね。

 CEATECは、規模も大きいため様々な方に出会えるのが特徴です。サービスを使ってもらったり、ヒントをいただいたり、さらには新たな事業を⼀緒に創るきっかけが生まれる場としたいですね。ぜひ「SMBCグループとなら、スピーディに⼀緒にできそうだ」ということを感じてもらいたいと思います。

 ブース自体も、「これがメガバンクグループなのか!?」と良い意味で驚いていただけるものを準備したつもりです。

 「イノベ―ティブなSMBCグループ」「挑戦するならSMBCグループとぜひ一緒に」そんなメッセージを受け取っていただければ嬉しいですね。