インタビュー

電力会社がなぜCEATECに出展するのか?関西電力が「CEATEC 2019」に初出展する狙いとは

登録500万件のWebサービスから家電をスマート化!既存エアコンのシナリオ制御や熱中症予防も

取材 2019年9月24日 13:00

 関西電力が「CEATEC 2019」に初出展する。

 同社は、2015年3月から「はぴeみる電」のサービスで家電サポートの提供を開始。家電製品の情報を登録すると、買い替え時期を提案したり、スマホアプリで取扱説明書を提供するサービスを行ってきた。さらに2018年8月からは、スマートフォンやスマートスピーカーを通じて、家電の遠隔制御を行う「はぴリモ+」を提供。2019年8月からは「はぴリモ+」の新たな機能として、快眠や熱中症予防などに対応した、エアコン向けのシナリオ制御機能を追加した。

 今回のCEATEC 2019では、これらのサービスや機能を紹介することで利用者の拡大を狙うとともに、ビルダーや工務店などへの提案強化につなげる考えだ。関西電力株式会社営業本部リビング営業計画グループ課長の松井玲次郎氏、副長の中谷直樹氏に、CEATEC 2019への出展の狙いを聞いた。

じつは関西電力、首都圏でも電力を販売していた!

――関西電力の事業概要について教えてください。

関西電力株式会社営業本部リビング営業計画グループ課長の松井玲次郎氏

[松井氏] 関西電力は、1951年5月に設立し、関西エリアを中心に、関西電力グループ一体となって電気事業、熱供給事業、電気通信事業、ガス供給事業などを行っています。安心、快適、便利で、経済的なエネルギーサービスを幅広く提供している企業が関西電力です。2018年度実績で、連結売上高は3兆3076億円となり、小売販売電力量は電灯向けが377億kWh、電力向けが801億kWhとなっています。

 現在、2021年度を最終年度とする中期経営計画に取り組んでおり、お客さまの立場に立ったサービスを幅広くお届けすることで、くらしとビジネスのべストパートナーとして信頼され、選ばれることで、国内外において成長を続けながら、エネルギー分野における日本のリーディングカンパニーとしての役割を果すことを目指しています。

 また、関西電力では、オール電化や関電ガスなどお客さまに最適な料金メニューをご提供しておりますが、中でもイチオシは電気とガスをセットにした「なっトクパック」です。これは、使用量が少ないお客さまにも多いお客さまにもメリットがあるセットメニューとして好評です。2019年4月1日から提供を開始した「はぴeタイムR」は、エコキュートなどを設置したお客さまに加入いただけるメニューで、季節や時間帯によって電力量料金単価が異なり、割安な時間帯に電気の使用をシフトしていただくことで、電気料金がよりお得になるというものです。また、IHクッキングヒーターを設置していただくと、「電化割引」が適用され、電気料金がさらに5%もお得になります。


首都圏における家庭向け電力販売も行っている

 2016年7月からは、首都圏における家庭向け電力販売を開始しており、電気料金メニュー「はぴeプラス」を提供しています。2025年度末には、首都圏を中心にした関西電力管外で100億kWhの販売目標を掲げています。

 そのほか、情報通信事業にも取り組んでおり、関西地域を対象としたコンシューマー向け情報通信ビジネスに加え、全国をターゲットとした「mineo」ブランドによるモバイルビジネスおよびソリューションビジネスを展開しています。

提供するのは電力だけではない、家族の見守りサービスや家電製品の取説も提供

――関西電力では、電気・ガスに関する多くの付加価値サービスを用意していますね。

関西電力株式会社営業本部リビング営業計画グループ副長の中谷直樹氏

[中谷氏] 関西電力では、「はぴeみる電」の名称で、電気やガスの料金や使用量をウェブで確認できたり、メールでお知らせしたりするサービスを提供しています。すでに500万件以上の登録があります。月別や日別、時間帯別でも電気の使用量を確認でき、使用量が設定値を超えるとアラートメールなどでお知らせします。

 さらに、暮らしに役立つ情報やサービスを提供するために、2015年3月からは、所有している家電の購入年月や型番といった情報を登録すると、当該製品のリコール情報や、最新家電への買い替えによる電気料金のメリットをお知らせするサービスを開始。2017年には、スマホアプリの「トリセツ」と連携して、家電製品の取り扱い説明書の提供も開始しました。


はぴeまもるくん

 一方で、関西電力では、離れて暮らす家族の生活リズムをお知らせする「はぴeまもるくん」、水道の故障や窓ガラスの破損、鍵の紛失時などの緊急時の駆けつけサービス「はぴe暮らしサポート」、電気やガスを使ったり、はぴeみる電を利用することでポイントがたまる「はぴeポイント」、電気の困りごとが発生した際に駆けつける「でんきの駆けつけサービス」を用意しています。

 例えば、「はぴeまもるくん」は、スマートメーターを活用して30分ごとに電気の使用状況を把握し、そこから起床時間や就寝時間などの生活リズムを推定します。いつもと生活リズムが異なる場合や、電気の使用量に一定の変化がある場合には、離れて暮らしている家族に対して「一日の始まりがいつもと異なるようです」といった通知をメールやLINEでお伝えするサービスであり、IoTを活用した電気会社ならではのものだといえます。また、はぴeポイントは、電気やガスの料金の支払いや、他社ポイントへの交換、400種類以上の商品への交換などが可能になっています。

[中谷氏] 「はぴeまもるくん」は、無料で利用できるサービスであり、離れて暮らす家族にとっては非常に有用なサービスだといえますが、まだスマートメーターがすべてのご家庭に設置されていないことから、広く、多くの方々にサービス内容を告知しにくいという側面があります。スマートメーターの広がりにあわせて、このサービスを知っていただき、浸透をさせていきたいですね。

普通のエアコンをスマート化してシナリオ制御&熱中症予防CEATECのブースで疑似体験

――今回のCEATEC 2019への出展では、どんな展示を行いますか。

はぴeみる電
はぴリモ+

[松井氏] CEATEC 2019に出展するのは、営業本部リビング営業計画グループです。この組織は、個人向けに電気・ガスの販売を行う役割を担っています。その付加価値サービスとして、「はぴeみる電」を提供しています。

 CEATEC 2019のブースでは、「はぴeみる電」のサービスの1つとして、2018年8月から開始した「はぴリモ+」を中心に展示を行います。

 「はぴリモ+」は、Nature Remo(ネイチャーリモ)のスマートリモコンを使用して、スマートフォンやスマートスピーカーから、エアコンやテレビ、照明を遠隔制御できるサービスです。家電を制御する場合、新築時に専用機器やHEMSの導入が必要ですが、約1万円のスマートリモコンを利用することで、既設の家電製品でも手軽に制御ができるようになり、広く、多くの方々に利便性の高い使い方をしてもらえるようになります。

 さらに2019年8月には新機能として、シナリオ制御機能によるエアコンの高度利用を可能としました。

 ここでは、2つの機能を用意しています。1つは「快眠エアコン」です。夏の寝苦しい就寝時に、エアコンの冷房温度や風量を自動制御するものです。寝苦しい夜は、就寝時間の数時間後にエアコンが切れる設定をしたり、朝方には稼働するようにタイマー設定をしたりといった使い方が多いのですが、快眠エアコンでは、時間によって室温を1度ずつ変化させるなど細かくシナリオ制御することで、就寝時から起床時まで快適な環境を実現します。いまは3つのパターンの運転モードを用意して、そこから選択して快眠をサポートしています。

 もう1つは、熱中症予防です。スマートリモコンで温度と湿度を計測して、一定の温度や湿度を超え熱中症の危険性がある場合には、それをプッシュで通知したり、エアコンの冷房を自動的に稼働させるといったことが可能になります。近年の夏の猛暑からも分かるように、熱中症はいまや社会問題の1つであり、それを解決するためのソリューションといえます。

[中谷氏] 熱中症予防は、利用者や家族が自宅にいる際に必要な機能ですから、スマホなどのGPS機能を使って、いまいる場所を判断し、家にいない場合にはエアコンが勝手に動いて無駄な電気を使うことがないよう配慮しています。また、稼働する際には、お部屋の温度と湿度をもとに、アメリカの国立気象局(NWS)が採用しているヒートインデックスを用いて判定しています。

[松井氏] これらのシナリオ制御機能は、最新の高機能エアコンには搭載されている機能ではありますが、Nature Remoのスマートリモコンを使用することで、赤外線リモコン対応エアコンであれば古いエアコンでもこのサービスを利用できます。シナリオ制御機能は、スマートリモコンの機能に関西電力独自の新機能として追加したものでもあり、当社にとっても差別化した提案の1つになると考えています。

 CEATEC 2019の関西電力ブースでは、これらのシナリオ制御機能を疑似的に体験してもらえるようにします。

――「はぴリモ+」において、こだわっている点はどこですか。

[中谷氏] お客さまとの接点はアプリになるので、そこにはこだわっています。ユーザー視点に立って、どうしたら使いやすいのかといったことを念頭に置き、実際にお客さまの声を聞きながら開発を進めています。シンプルに見やすく、直感的に使用でき、押しつけがましくないような(笑)、インターフェースを目指しています。

CEATEC参加でさまざま産業と接点、今年の「Society 5.0 Townに」でANAとも連携

――ブースには、どんな方々に来てもらいたいですか。

[松井氏] 「はぴリモ+」に関しては、当社サイトなどを通じて利用者に対する告知をしているのですが、CEATEC 2019では、そうしたBtoCの訴求だけにとどまらず、BtoBとしての訴求も行いたいと思っています。

 例えば、新築物件の建築はハウスメーカーだけでなく、ビルダーや工務店が行う例も多いのですが、工務店などでは高価になりがちなHEMSまでは取り扱っていないケースが目立ちます。その際に、我々が提案できる安価なスマートホームサービスを活用してもらいたい。工務店をはじめとする住宅業界の関係者に訴求をしたいですね。

 今回、展示するものは、未来の技術ではなく、すでにサービスを開始しているものですから、工務店の方々に実ビジネスのなかでどう活用してもらうのか、あるいは広くスマートホームを提案していくにはどうしたらいいのか、という観点から展示を行い、工務店の方々などとの協業を模索できればと考えています。

――ただ、「はぴリモ+」が関西電力の契約者向けの「はぴeみる電」サービスの1つであることを考えると、首都圏で開催されるCEATEC 2019での効果は限定的なのではないでしょうか。

[松井氏] 関西電力は、関西エリアだけでなく、首都圏でも電気の販売を行っています。首都圏は、関西電力にとって大きな市場でもあります。

 「はぴeみる電」は関西エリアだけでなく、首都圏における関西電力の契約者であれば無料で利用できますし、「はぴリモ+」もNature Remoのスマートリモコンを購入すれば、あとは無料で利用できるサービスです。工務店などとの連携によって、関西電力の契約者を関西エリアだけでなく、首都圏でも増やすきっかけになればと考えています。

 もちろん、来場者の方々はご自宅で電気をお使いですから(笑)、関西電力のサービスを知ってもらい、新たに契約をしていただくということも狙っています。

 実は、昨年のCEATECのセッションに関西電力の役員が登壇しました。

 電力会社は、これまでエリア独占でビジネスを行ってきた経緯がありますし、関西エリア以外の企業と連携したり、他の産業の企業と積極的に連携するということは少なかったといえます。しかし、電力自由化の動きや、新たにサービスを拡張するという上で、業種の枠を超えた企業との連携が避けられなくなっています。昨年のCEATECのセッションをきっかけに、これまでつながりができなかった産業の方々との接点もできましたし、他の産業の取り組みも知ることができました。今後、「はぴリモ+」を家電機器との連携だけでなく、住設機器と連携させる方向での開発も進めています。そうした点からも、「はぴリモ+」の次の新サービス創出に向けたパートナーとの連携が始まるきっかけづくりになることも期待しています。

 私も関西電力の中では長くIT関連の仕事をしていることもあり、CEATECの会場には何度も足を運んでいます。

 かつては、エレクトロニクス業界の展示会でしたが、いまはその形を変え、昨年のCEATECを見てもその変化が伝わってきました。全国から、さまざまな業種の方々が集まるイベントであるCEATECに出展することは、いまのわれわれにとっては効果があると期待しています。関西電力が出展する「Society 5.0 TOWN」にはさまざまな業種の企業が参加しますから、そうした企業とも接点を作りたいと考えています。エネルギー産業からCEATECに出展する企業は、私たちが初めてと聞いていますが、いまは関西電力が出展しても違和感がない展示会になっていると感じています。そして、私たちにとっても、どんな企業がどんなことを考えているのかといったことを勉強することができ、ヒントを得る場になると考えています。

――CEATEC 2019では、共創の事例も展示しますか。

[松井氏] 同じくSociety 5.0 Townに出展するANAさん、SoundUD推進コンソーシアムさんとは連携しています。これらも初めての試みであり、どんなものをお見せできるかという点では私たち自身も期待をしているところです。あわせて、今後のサービスにどうつなげることができるのかという点も模索したいですね。

電気料金の安い時間に暖房しておく「予備暖房」機能もリリース予定暑がりの人・寒がりの人向けに、AI学習・カスタマイズも?

――「はぴリモ+」は今後、どんな進化を遂げていきますか。

[松井氏] 今後の家電制御サービスの拡充は、遠隔制御する対象機器の拡大と、機器制御の高度化の2つの軸で検討を進めていきます。

 2019年度中には、シナリオによる制御機能として、冬場のエアコン制御機能のリリースに加えて、エアコン以外の機器を含めた複数機器の制御の高度化の実証を予定しています。冬場のエアコン自動制御機能は、室温が一定の水準にまで下がると自動的にエアコンを稼働させる「低温警報」と、早朝や夜間の電気料金が安い時間帯に暖房を入れて室内を暖める「予備暖房」のリリースを予定しています。料金プランと連動して、自動制御を行うことも電気会社らしいサービスだといえるでしょう。これらのサービスは、CEATEC 2019のブースでも紹介する予定です。

 今後は、機器の遠隔制御の対象を家電機器にとどまらず、住設機器にも広げたいと考えています。

 さらに、将来的にはお客さまごとの生活スタイルにあわせて機器の自動制御をカスタマイズすることも目指していきます。すでにサービスを開始している「快眠エアコン」についても、暑がりの人や寒がりの人にそれぞれに合わせたカスタマイズできるようなものを提供したいですね。また、AIを活用して、学習しながらカスタマイズをしていくといったことも想定しています。

 これらは、Society 5.0への対応といった大きな方針のもとで行っているサービスではありませんが、熱中症対策以外にもヒートショック対策などは社会課題の1つであり、そこに最新技術を活用して、課題を解決するといったことが可能になると考えています。Society 5.0 TOWNへの出展によって、共創の可能性を模索しながら、Society 5.0を視野に入れた取り組みも行っていきたいですね。