イベントレポート

BIT VALLEY 2019

渋谷への想い、ネット屋と○○屋の関係、さらにZOZO買収の裏話も?! ヤフー、LINE、DeNAのトップによる豪華対談

対談の模様

 学生・若手エンジニアらを対象としたITカンファレンス「BIT VALLEY 2019」で13日、国内の大手IT企業3社のトップによる、豪華な対談が実現した。ヤフー株式会社代表取締役社長/CEOの川邊健太郎氏、LINE株式会社取締役/CSMOの舛田淳氏、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)代表取締役社長/CEOの守安功氏が登壇。仕事を進める上での哲学、製品開発の裏話、そして成功を目指す若者たちへのメッセージを語った。聞き手は山口周氏(独立研究者/著作家/パブリックスピーカー)。

いきなり脱線?! ZOZOTOWN買収の狙いを聞かれてヤフー川邊社長は……

 対談が行われたのは9月13日。まさにその前日にヤフーによるファンション通販大手「ZOZOTOWN」の買収・子会社化が表明された直後だった。しかも、当事者の川邊氏が壇上にいるとあって、聞き手の山口氏は「時の人に聞かないわけにはいかない」とばかりに、いきなりの脱線(?)スタート。これには会場からも大きな笑い声があがった。

 川邊氏は苦笑いしつつも、会社としてのヤフー、そしてソフトバンクグループの中で「やるからには日本一・世界一を目指す」という価値観が共有されていることに触れた。「恐らく(インターネットの)メディアとしてはヤフー(Yahoo! JAPAN)、LINEが日本一といっていい。ただ、eコマースの分野では――今日の日経新聞にも書かれたが――万年3位。しかし我々の理念では、それが許せない。絶対日本一になって、ユーザーに新しいメリットを届けたいと思っているんです」(川邊氏)。

ヤフー株式会社代表取締役社長/CEOの川邊健太郎氏

 eコマースで天下を取るための一手がZOZOTOWN買収というわけだが、実際のところ、ヤフーのビジネスはファッション関連の開拓が未着手といってよい状況。子会社化による相乗効果は大きいとの判断も、少なからずあるようだ。

 川邊氏はこのほかにも、企業文化の異なるヤフーとZOZOTOWNという2社が、お互い刺激し合うことで、新たなeコマース像が生まれることを期待しているという。「ただ今日は会場にマスコミがいるし、それに金曜日なので、あまり株価に影響を与えそうな話題はしづらい。これくらい抽象的に話にさせてほしい」とぶっちゃけると、再び会場は笑い声に包まれた。

かつての「ビットバレー」ブームと、2019年のIT

 川邊氏が身を切るジョーク(?)を織り交ぜたこともあってか、対談は終始、リラックスムードで進んだ。まず最初のお題となったのが「今のIT業界について」。日本のインターネット産業は1995年前後が1つの端緒となっているが、そこから20年以上が経過した。山口氏の指摘によれば、新しい産業が立ち上がるかは「役に立つかどうか」が決定的に重要である。そうして産業が成立し、成長を続けていくと利便性をめぐる議論は落ち着いてしまい、今度は「個性」「意味性」などでの差別化が重要視されるようになる。その観点に立った場合、2019年の国内IT業界の現状を3氏はどう分析しているのだろうか。

 DeNAの守安氏は、大学院卒業後の1998年に日本オラクルに就職し、ITへの道へと入った。しかしその直後から米国のインターネット事情などに触れるにつれ、大きく心境が変化。そのタイミングで友人とともに起業し、エンジニアとして競馬サイトの開発などに携わったが、一方で成長の限界も感じた。そうしてDeNAに9番目の社員として入社した。

株式会社ディー・エヌ・エー代表取締役社長/CEOの守安功氏

 当時はまさにビットバレーが“第1期”としての盛り上がりを見せており、毎日が祭のようだったと振り返る。「当時20代だったが、上司もいない中、手探りで何事もやっていた。サイトを作れば文字化けばかりという状況だ(笑)。 ただそれでも『これからネット伸びるな』という期待感でやり続けていた」(守安氏)。

 そんな守安氏だが、今は“IT業界”という単独の業界ではなく、全ての産業がITをどう使いこなすかというフェーズだと指摘。また、DeNAについても、既存のゲームだけでなく、オートモーティブやヘルスケアの領域へ進出していることに触れ、「産業の多くがITと融合して、どう変革が起こっていくのか。IT業界・ネット業界が成し遂げられることはドンドン増えていくだろう」(守安氏)。

 LINEの舛田氏は、川邊氏・守安氏と世代はほぼ同じだが、「あまりにも寄り道が過ぎたため」(舛田氏)進学が遅れ、結果としてビットバレー第1期ブームを学生として外野から眺め見る立場だったという。「全てが混ぜこぜ。よい人も悪い人もいるカオス感に、何かが変わっていく期待があった」(舛田氏)。

LINE株式会社取締役/CSMOの舛田淳氏

 ビットバレーのブームはのちに萎んだが、期待が全てバブルで終わっていないこともまた事実。「この当時に、インターネットでできること、ITでできると考えられていたことが、実際問題、今ようやくできるようになった、あるいは、できようとしているのではないか」と舛田氏は分析する(編注:対談時は実例こそ挙げられなかったが、十分実用性の高いテレビ電話、ライブコマース、自動運転などは代表的なところだろう)。

 一方で「インターネットが狭くなってきた」とも感じるという。GoogleやFacebookなど、超大型IT企業が台頭し、プレーヤーも固定化。新顔が相対的に目立たなくなっているのがその論拠だ。「今までズッとワクワクのあったネット業界に……そうだなぁ、キワ(成長のゴール)が見え始めているような」(舛田氏)。

 これを打破しようという流れは、舛田氏の分析によれば2つある。1つめが、ネット産業による他産業との連携・融合。オンラインからリアル店舗へ送客するO2Oなどがこれにあてはまる。リアルとネットの融合をさらに深化させる意味で「OMO」という語を用いる例が、LINEをはじめとして近年増えている。

 2つめが、VR・ARなどに代表されるアプローチ。「土地がないなら、バーチャルの方向で増やせ」という発想だ。

 「こうした状況は、(ビットバレーに一度はあった)カオスを生み出している。ただ、言葉を選ばずに言うなら、『カオスならばワンチャンあるよ』。合理性と非合理性が混ぜこぜなので、例えば何十年勤めたからチャンスができるのではなく、勇気を持って踏み出すかどうか(が鍵)。面白いことになっていくのでは」(舛田氏)。

ネット屋と○○屋、その違い

学生・若手エンジニアらが対談を聞き入った

 川邊氏は渋谷区生まれで、大学も渋谷。その大学3年で起業した地も、渋谷区内の恵比寿ということもあり、「渋谷の街に育てられた」「渋谷に恩返しできるのだったら」という想いで、今回のイベントに出席したという。

 IT業界の現状を語るのための視点として、川邊氏は例えばフィンテックを例に「ネット屋がやる金融事業」「金融屋がやるネット事業」が似て非なる存在だと説明した。

 金融業は、インターネットが台頭するはるか前から存在する巨大産業である。それだけに「金融屋がやるネット事業」は、一度始まりさえすれば社会に与えるインパクトは、ネット屋がやるそれと比較して大きい。ネット屋との勝負は、それこそ最初から金融屋の勝ちが決まっていたようなものだ。

 ネット屋として20年近いキャリアを誇る川邊氏。だからこそのバイアスがかかっているとは前置いた上で、インターネット技術・産業の確かな成長によって、近年はこのネット屋と金融屋の勝負が実力伯仲の状態になってきたと、川邊氏は捉えている。また、守安氏が指摘するように、あらゆる産業がネットでのビジネスを始めるなど、大きなパラダイムシフトが起きている。

 「バイアスのかかった意見だと思って聞いてほしいが――恐らく今後、『○○屋がやるネット事業』は、『ネット屋がやる○○業』に負けるようになる。」(川邊氏)

(編注:対談中は、○○屋はホニャララ屋と呼称された。IT・ネット産業以外の産業を意味する。上述の例で言えば、不動産屋がやるネット事業、ネット屋がやる不動産事業といった意味合い全般)

 つまり、既存産業はネット屋の新事業にこれからはもう勝てないという主張だ。だからこそ、『ネット屋がやる○○業』は、スタートアップや若手起業家にとって成長のチャンスがある。

 もちろん、ネット以外の既存産業の経営者・従業員にもチャンスはある。「ネット屋になればいい。フィンテックで言うならば、三菱UFJ銀行が(金融屋から)ネット屋に変わわるようなことだ」(川邊氏)。

 こういった未来図のためには、経営者の決断も必要だ。いまの利益か未来の利益をとるのか、未来をとる以上は一度しゃがんででも“ネット屋への変貌”に力を注ぐべきとした。また、会場に多く詰めかけた学生・若手エンジニアらには、そうした転身を図ろうとしている企業かどうかを見極め、進路を選ぶべきだと助言する。

 舛田氏は川邊氏の意見を補足するかたちで、「○○屋がやるネット事業」「ネット屋がやる○○業」では、価値観や発想が根本から違うと述べる。LINEの新事業立ち上げにあたっても、ネット産業以外の○○屋と話すことは多いが、前提となる知識、世界感のズレで苦心することが多いという。

 舛田氏は、乱暴な議論だと注釈を入れた上で「恐らく、ネット屋のほうが“本質的”なのだと思う。○○屋は既存のものを背負いすぎているのでは」と話す。川邊氏もそれに同意しつつ「Uber(配車サービス)で考えると分かりやすい。レンタカー屋がやるUber的なサービスは、(ベンチャーとしてのUberが現実にやっている)Uberとは全く違うものになるはず。レンタカー屋の場合、恐らくは法律対応や、支店網をどうするかという話が先にくる」(川邊氏)。

 川邊氏が孫正義氏(ソフトバンクグループはUberに出資している)に話を聞いたところによれば、Uberの経営陣は店舗網などの話をすっとばしていた。「世界中の車の稼働率が3割にしか過ぎないことに着目した。7割もの車が動いていないのはもったいない、これをネットの力で活用できれば、社会的合理性も大きいとだけ考えたという」(川邊氏)。

 守安氏は一方で「○○屋のネット事業」は、莫大なアセット(資産)を抱えつつも、既存ビジネスとの軋轢などから、中途半端に陥りやすいのが実情という。そこでDeNAでは、これら○○屋に対し、ネット屋としてのマインドを提供することもまた、有益な手段だろうと述べた。

 大企業・大産業においては、新規にネットビジネスへ進出する場合、既存市場から顧客を奪う“カニバリ”への懸念がつきまとう。山口氏は、日本で最初期に検索エンジンを提供したのはNTTだったとしつつも、恐らくはそうした問題から、Yahoo! JAPANほどのプレゼンスを獲得できなかったと評価する。書籍を中心とした流通業におけるeコマースへの挑戦も行われていたが、リアル店舗への影響を考えて「アクセルを踏みきれなかった」(山口氏)。

山口周氏(独立研究者/著作家/パブリックスピーカー)

DeNAとLINEの“モノづくり”流儀

 続いてのお題は「経営者としてのモノづくりの考え方」。話を向けられた舛田氏は、「本質的か」「ピュアか」を常に自問しているという。製品・サービス開発にあたっては当然、リサーチなどを重ねるが、それを積み過ぎてしまうと、当初の狙いからそれ、本末転倒になる恐れもある。

 「企画して、合理的なモノが一応はできあがった。そうしたら一度“疑う”。これが本当に、課題なりニーズを叶えられるものなのか。個人でもチームでも、そこはかなり時間をかける。」(舛田氏)

 舛田氏が言うには、LINEの開発方針は「ユーザーニーズがほほ全て」。商業的か、テクノロジードリブンかといった話は優先度が低く、ひたすらユーザーニーズを重視するのだという。

 「こうなったのは、以前の反省から。一時期、Googleライクなサービスばかりを狙ってしまい、エンジニア発想で作られたものばかりを高評価していた。しかしそんなとき、(LINE社の)CWOである慎ジュンホから『いやそれは違う、重要なのはユーザーニーズなんだ』と言われて。」(舛田氏)

 舛田氏は前職で、中国の検索エンジン「バイドゥ」の日本進出を担当していたが、そのバイドゥの創業者にも同様のことを指摘された。テクノロジードリブンでなくていい、レベニュードリブンである必要もない。すべてはユーザーニーズ――舛田氏は2人の金言を今も胸に刻み込んでいるという。

 守安氏は、「ゼロイチ」と一般的に呼ばれる、全くの無の状態からビジネスの種を生むインキュベーションの段階と、その種を大きく育てて花開かせるグロースの段階では、考え方を根本的に変えるべきだとする。

 「ゼロイチはとにかく少数精鋭(での開発)。今のゲームは2~3年開発にかかるので、よく確証が得られるまではチームを大きくさせず、“熱狂”の中で開発を進めてもらう。そうなった次がグロース。ここで営業、マーケティング、分析などの力をかけて、総力戦で伸ばす。」(守安氏)

実用サービスとゲームでは、開発哲学も変わる?

 ただ、ゲームは、LINEのような実用系サービスとは異なり、「課題解決のために利用する」という概念がなく、プレーヤーの主観によって評価や共感のレベルが異なる。そんな状況に対し、“合理的な投資”を行うのは難しいのではないかと山口氏は心配する。

 守安氏は、ターゲット層のボリュームなどを考慮するのことはあるが、それでもやはり開発初期段階におけるユーザーからの反応を大事にしているという。また、舛田氏はLINEでゲーム系のコンテンツ開発を担当しているが、「スモールチーム開発はまさに(そうすべき)。ゲーム開発は合議制でやるものではなく、それこそ社内でプレーしてみて、ピュアでない(収益性への期待感など)意見も入れ込んでしまうと、まぁ大概失敗する」と語った。

 合議制の限界を感じさせるエピソードには、こんなものも――。LINEの人気ゲーム「ディズニー ツムツム」は、その開発中、担当者レベルでは一度リジェクトされたのだという。そこを無理矢理、舛田氏がフォローし、リリースにこぎ着けた。

 また、守安氏によれば、DeNAの「怪盗ロワイヤル」は当初、ゲームをやったことがない、開発したことがないスタッフによって作られたという。ゲーム愛好家からしてみれば信じられないが、だからこそ、普段ゲームをやらない層に訴えかけるものがあったのだろう。「パラダイムが分かるときは、既成概念を破っているのだろう。恐らくあのとき『ゲームはこうあるべし』という意見が入っていたら、怪盗ロワイヤルは生まれなかったと思う」(守安氏)。

 川邊氏はモノづくりを経営者視点で考える場合、「人に任せる」「自分で作る」――この2バターンがあると説明する。このうち「人に任せる」際に重要なのは、その人物のトラックレコード(過去の実績)。1000万ユーザーが利用するサービスを作ったか、それはゼロから1000万人にしたのか、それとも数百万ユーザーから1000万人に伸ばしたのか……そういった実績を加味して、人材を割り当てていく。

 「自分で作る」は、それこそ自身がエンジニアというケースが最も分かりやすいが、そのサービスを自身で徹底的に使い込んでみるというアプローチもある。決済サービスのPayPayの場合、それこそ経営層の人間たちも含め、よってたかって開発を進めていると川邊氏は明かす。

失敗事業とどう向き合うべきか

 山口氏はここで「○○屋のネット事業」について再び触れ、「成功させなければならない」というプレッシャーが異常に強いのではないか、という意見を出した。ネット屋ではない、それこそ大企業の場合、新規事業の担当者は失敗すると二度と出世コースに乗れないという噂は、確かによく聞かれるものだ。

 しかし、米国のAmazonですら、創業以来、80近い新事業を立ち上げたものの、現在も続いているサービスはその3分の1に過ぎないと山口は解説。残り3分の2は、いわば失敗案件なのである。失敗事業の担当者が再起するチャンスがあること自体、そもそもネット屋と○○屋の違いではないか、というのが山口氏の見立てだ。

 守安氏は「出した事業の3割が成功していれば結構な確率のように思える。ただ、終身雇用であるとか、そうした人事面の影響で(大企業内の新規事情担当者が)苦しいところはあるかもしれない」と話す。

 川邊氏は「そこは組織文化ではないか。ネット屋か○○屋かに関わらず、文化の力で変わる」と付け加えた。川邊氏は以前、動画配信サイト「GYAO!」の運営企業の社長を務めた経験がある。買収によってヤフー傘下に入ったが、赤字額が極めて大きく、「もう本当に失敗できない」と、社内では失敗を恐れる文化が強かったという

 そこで川邊氏は「今週のフルスイング賞」の制度を作った。成功したにせよ、失敗したにせよ、全力で振り切るかのように仕事をした社員を表彰するもので、これはまさに社内文化改革を狙ったというわけだ。ちなみに川邊氏は以下のようにも語り、会場の爆笑を誘った。

 「ヤフーは比較的、普通の会社なので、失敗を恐れる文化はある。しかし特異なのはソフトバンク。社内文化として、過去のことは成功しても失敗しても全部忘れる。昨日のことは全く覚えてない。未来しか見ていない。そういう組織文化の方がチャレンジしやすいですよね。何せ忘れちゃってるんだから、きれいさっぱり(笑)」。

 LINEもまた、さまざまな施策を数多く放ち続ける会社だと、舛田氏は説明する。「やはり、(何事も)成功するかはやってみないと分からない。経営側も正解は持っていない。もちろん失敗もあって、サービスを閉じるという判断を経営側もする。ただ、その失敗チームにペナルティを与えることは一切やっていない。成功した人を評価する、以上。加点法でしか人事はしない」(舛田氏)。

 失敗を許容する文化は、やはり会社にとっては必要だろうというのが舛田氏の立場だ。もちろん失敗を減らすため、特にOMO(O2O)のようなサービスを新規に手がける場合は、すでに実績ある大手事業者とパートナーシップを組むケースは今後増えていくだろうとした。

 とはいえ舛田氏は、企業文化がどうかに関わらず、失敗をそれほど恐れる必要もないのでは……とも語る。「社会も世論も、誰かが失敗したことをそれほど覚えてはいない。私自身、メチャクチャ失敗しているけれど、恐らく会場の皆さんは、私を『LINEの人だ』くらいしか知らないはず。そういうもんです(笑)」(舛田氏)。

未来を担う若手へのメッセージ

 対談の最後には、会場にいる学生・若手社会人に向けて、舛田氏、守安氏、川邊氏がそれぞれメッセージを贈った。

 「皆さんがこれから何かにチャレンジするというとき、『今までどうだったか』は気にしない、無視する(ほうがいい)。どうやって一歩を踏み出すか、そこに対してピュアであってほしい。そうすることで次に繋がるはずですし、それが許される社会になってきた。これは20年前にはできなかったアドバイス。これからの時代は個人の存在がもっと強くなるし、仲間の存在も強くなり、その都度、集めていけばいい。(中略)『勇気を持って』と言うとプレッシャーがかかるから、『遊び』というか『実験』というか……。人生はいつでもやり直せると個人的に思っていて、もちろん(成功への)ショートカットはあるでしょうが、山の登り方はいろいろ。一歩を軽やかに踏み出せることの方が、最終的な幸せに繋がるのでは。」(舛田氏)

 「学生さんへのメッセージというと……私が学生だったころを考えると、“社会”とか“仕事”って、よく分からなかった。だから、あんまり(将来について)考えすぎなくてもいいのでは? 今日の講演を聞きにくること自体、意識が高いわけだし、インターンのような制度もある。だから学生さんには『とことん遊べ』と言いたい(笑)。それくらい遊んでいれば、仕事をするとなったときのメリハリもつく。ただ私の場合、理系の大学だったが、当時イヤイヤやっていた実験も、その分析の仕方などがいまの仕事に繋がっている。仮説を立て、実際どうだったかPDCAで検証する基礎にもなった。学生時代はちょっとだけ勉強して、あとは遊ぶのもいいだろう。」(守安氏)

 「コンピューターは、もともと戦争の弾道計算に使われだし、冷戦中は月へ人を送るための計算に使われた。インターネットも、戦争で遮断されないネットワークの必要性から生まれた。どちらも、国家的な大きな力のために作られたが、これがあるとき変わって、研究者、個人のためのものになった。ITはPower to the People(民衆に力を)へと向かっている。LINE、DeNA、ヤフー、それこそGAFAにしたって、どこもその文脈に従い、個人をエンパワーメントするためにサービスを作っている。これを使わない手はない。

 昨日、(ZOZOTOWNの)前澤さんの涙の会見を間近で見ていて、『もし私が退任するとしたら、次に何をするだろう』と思わず考えてしまった。そこで感じたのが、この二十数年、『個人を解放するための力』をめぐる、死ぬほどツライ競争が世界中で続けられているのだから、これらを徹底的に使う側に回ってみたい。そうやって、世界最先端の『解放された個人』を目指そうかなぁ、と。恐らく、ホリエモンはそうなりつつあるかな(笑)――これはまぁフィクションで、社長を辞めるつもりはないが。

 今日の対談では、『社内文化を見て、よい組織に所属しようね』という話もしたが、本当はこれから先の人類は、そこ(解放された個人)を目指すべきではないか。リスクのない若者だったら、いきなりホリエモンを目指してみるのもいいかもしれない。エンパワーメントのためのITツールがあれば、コスモポリタン(世界主義者)というか――何か自分が意思を持てば、その場で世界の人々と繋がれ、未来を作れてしまう。その領域に達すると、『何がしたいか』さえハッキリしていれば、なんでもできる。われわれもしのぎを削ってエンパワーメントのツールを作っているので、それを使って世界最先端の人類になってほしい。」(川邊氏)

 最後に山口氏は、自身のコンサルタント経験などを踏まえ、社会で活躍する人に共通する条件は「仕事を好きでやっている」ことだと力説。好きで楽しんで仕事をしている人には、頑張って仕事をしていても、努力しても、最後の最後で勝てない。まさにその体現者である川邊氏、舛田氏、守安氏をお手本に、社会で勝ちたい、成功したいと思うならば、ぜひ好きなことをやってほしいと山口氏もアドバイスし、1時間の対談を締めくくった。

対談を終え、降壇する皆さんを投稿者は拍手で送った