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ネットで「離婚調停」などを完結へ、泣き寝入りを防ぐためのオンラインで紛争解決する団体設立
2019年11月25日 06:50
オンラインで紛争を解決する「ODR」の普及に向けてオンラインでの個人売買トラブルの解消や、離婚調停も
「ODR」という言葉にはあまり馴染みがないかもしれない。
2者間での諍い(いさかい)が発生したとき、第三者が介入してその仲裁を行うことがある。互いに席を前に顔を突き合わせて交渉を行うこともあれば、公的機関でのやり取りを経て裁判所での裁定を待つこともあるかもしれない。こうした煩雑な手続きを省略し、より簡易な形でオンライン上のやり取りで仲裁を行う仕組みが「ODR:Online Dispute Resolution(オンラインでの紛争解決)」と呼ばれる。
今回、このODRの日本国内での普及や研究、2者間での紛争の調停を行う人員の育成を行うための業界団体として「一般社団法人ODR事業者協会(ODR Business Association of Japan)」の設立が発表された。
一般に、こうした紛争の解決には弁護士が介在することになるが、現状、紛争全体の2割未満のケースでしか司法サービスを活用できておらず、「2割司法」とも言われていると同協会代表理事の大橋良二氏はいう。
例えばアンケート調査で70歳未満の成人8325万人のうち直近1年間で1723万人が法律トラブルに巻き込まれているにもかかわらず、実際に弁護士に相談が行われたケースは2割程度だという。
さらに、よくあるケースでいえば、日々多くのユーザーが利用するECサイトでは4人に1人が何らかのトラブルに遭遇しているにもかかわらず、その多くが泣き寝入りだという。
米国などでは個人間マーケットプレイスとして著名なeBayを代表に、ODRの仕組みを活用して取引に関するトラブルを年間6000万件のペースで処理している。このほかにも、離婚調停をオンラインで行うODRなどもあり、世界ではオンライン上で紛争を簡易に解決するサービスが登場、活用が進んでいる現状がある。こうした世界での事例を研究しつつ、ODRという仕組みの存在を広く認知し、より多くの人々に活用してもらうのがODR事業者協会の狙いとなる。
各種手続きの電子化や規制緩和が背景に~内閣官房の川村尚永氏~
このようにODR活用が広がる背景に、各種手続きの電子化と規制緩和がある。
今回の協会設立にあたり登壇した内閣官房 日本経済再生総合事務局 参事官の川村尚永氏が、ODRのようなオンライン上で紛争手続きを簡素化する仕組みについて、政府自らが積極的後押しする背景について説明している。
身近な例でいえば、行政への各種手続きや手数料の支払いが紙や印紙ではなく電子的に行えるようになり、コストや処理のスピーディさの面でメリットを享受できるようになってきた。
法人設立では従来まで別々の省庁や関係機関に個別申請を行っていたものが、マイナポータルを通じて一元的にワンストップでの処理が可能になり、さらには法人の届出印についても実印ではなく電子証明書での申請を可能にするよう関連改正法案の審議が今国会で進んでおり、最終的にオンライン上の届け出で手続きを完結することができるようになる。
今回のODR推進についても、法改正をめどにオンライン上での紛争解決を可能にし、より司法サービスを活用するよう促すことが狙いにある。
従来の裁判手続きの問題として、関連書類を紙の形で裁判所へ提出し、それら書類を紙の状態で保管する必要があったほか、裁判の出席のために本人または代理人が実際に裁判所に顔を出さなければならない決まりがあり、時間やコスト面での負担が大きかった。また、収入印紙や郵便切手などの電子化が行われておらず、この点も処理の簡素化とコスト負担を阻んでいた。
裁判外紛争解決手続きも、現在は、対面や電話でのやり取りを経て進められており、さらに相談できるのは日中の営業時間に限られるなど、仕事を抱える人間にとっても負担も大きい。一連のやり取りの電子化が進んでいないのは先進国でも日本特有の現象であり、こうした問題を解決することが重要という認識が共有されつつある。
「2割司法」の解消にむけ、業界を巻き込んだシステム作りを
そして今回のODR登場となる。
「2割司法」の問題は手続きの煩雑さだけでなく、弁護士費用や物理的な移動や時間拘束といった原因もある。
例えば離婚時の養育費支払いで月2万円の差額について紛争が発生した際、その解決のために弁護士を雇ったことで、数年分の養育費が吹き飛ぶケースも考えられる。これは交通事故や器物損壊などのケースでもみられる。
また法人でよくある例として、海外企業との取引でトラブルが発生した場合、海外を相手に裁判を起こして実際に現地に赴くコストや時間的負担を甘受できるのかという話もある。
問題は2点で、弁護士費用が高価であるということ、そして解決までの一連のやり取りにかかる時間が長いという部分だ。そのときの選択肢として従来の裁判のほかにODRが存在すれば、少なくとも単純に泣き寝入りしないで済むことができるだろう。
ODR事業者協会が想定するODRの仕組みは、「紛争を抱える2者間の仲介を行うODRのシステム」を民間企業などが提供し、このプラットフォーム上で仲裁手続きを進めていく。
この2者間には調停人となる弁護士が必要で、ODR活用で必要になるスキル研修などのサービスをODR事業者協会が提供する形で成り立つ。
ODR事業者協会の立ち位置としては、情報収集や勉強会などを通じてODRを提供する事業者や調停人の弁護士の仲介を行ったり、システム改善提案を行ったりする役割を担う。現在扶助会員として損害保険ジャパン日本興亜が参加しているが、ODRを含む各種サービスを提供する事業者や会員を積極的に取り込んでいき、ODRの仕組みを日本に根付かせることを目標にする。
会見では、ODRの仕組みにおいても調停人として弁護士が介在することで依然コスト高になるのではという質問が出た。
この点について、同協会理事の早川吉尚氏は、日本の弁護士の現状について説明。独立した事務所ではなく、企業の法務部に在籍している弁護士も少なくないが、こうした多種多様な弁護士の新たな活躍の場になってほしい(※)という、協会としての思いがあるとのこと。
また、全てオンライン上で調停が完結することによる調停自体の効率化もあり、通常の(弁護士を雇い入れての)裁判と比較しても安価で手軽に利用できる場になる見込みという。
※(11/27 14:00更新)発表会での説明の発言趣旨について、追加の説明があったため、当初記事に含んでいた以下の発言部分を更新しました。【元発言部分】「独立した事務所を持てず企業の法務部に在籍して日々の糧を得ている弁護士は少なくなく、こうした弁護士のスキルアップや新たな収益源の場としても活用してもらえれば」