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弥生、「記帳代行支援サービス」提供開始、会計事務所向けに
2020年9月28日 11:50
弥生株式会社は28日、会計事務所向けの新サービスとして「記帳代行支援サービス」を提供開始したと発表した。会計事務所が顧問先の企業から預かった紙の領収書などを電子データ化してアップロードすると、弥生側で処理し、仕訳データとして返ってくる仕組みだ。利用には、弥生の会計事務所向けパートナープログラム(弥生PAP)への入会が必要。
17日にオンラインで開催された「弥生 PAPカンファレンス2020」では、同社営業推進部の加藤健一氏が記帳代行支援サービスについて解説したほか、同サービスのベータ版開発に協力した会計事務所による利用実態の解説もあわせて行われた。
紙の領収書をスキャンしてアップロードすると、センター側のオペレーターが処理
加藤氏によれば、会計事務所からは人手不足に悩む声が多く寄せられているという。会計事務所では、顧問先となる企業から領収書などの書類を預かり、これを帳簿化する「記帳代行」が重要な業務となっている。数字を扱う以上、その入力にはミスが許されないが、一方で単純作業でもあるため、せっかく採用した人材が定着しづらいという。
こうした状況では、有資格者やベテラン社員が記帳代行の実務にあたらざるを得ない。新規顧客の獲得などに手が回らず、会計事務所の経営に悪影響が出る恐れすらある。今回発表した記帳代行支援サービスは、会計事務所のリソースを最小限に抑えつつ、記帳代行を請け負うためのサービスとして企画・開発された。
新サービスの特徴は大きく3つ。1つめが「オペレーターを介した紙証憑のデータ化」だ。会計事務所側では、スキャナーを使って領収書や通帳コピーなどを電子化し、これを弥生のサーバーへとアップロードする。データは、弥生が運営する入力センターでオペレーターによって処理され、通常であれば1~3営業日以内にデータ化が完了。あとは会計事務所はソフトウェア「弥生会計」の「スマート取引取込」機能で帳簿に同期すればよい。
2つめが「顧問先データの自動取込」。これまでは会計事務所・顧問先どちらも弥生会計を使っていれば、顧問先の銀行取引データ、クレジットカード利用履歴、POSレジデータなどを取り込めていたが、制限を緩和。顧問先が弥生会計を使っていなくても各種データを取り込めるようになった。
3つめが「自動仕訳データの直接取込」。センターで仕訳されたデータは直接、弥生会計に取り込まれる。各種データには元となった証憑画像が紐付き、画面操作で簡単に確認可能。さらには重複仕訳などの恐れがあるデータについては専用の付箋が付けられる。これによって、データが正しく処理されたか把握しやすくなった。
デモンストレーションでは、証憑をアップロードして自動仕訳するまでの一連の流れが披露された。証憑はPDF/JPEG/PNG形式で保存ができ、フォルダー単位で一括アップロードも可能。また、1つのPDFに2枚以上(2ページ以上)の証憑が保存されている場合は、自動で分離処理されるという。
自動仕訳されたデータには5種類の付箋のうち、いずれかが付く。これをもとに仕訳の確認ができるが、あわせて証憑画像データを呼び出せるため、勘定科目の修正が容易に行える。また、マルチディスプレイのPCを使っていれば、一方に帳簿、もう一方に証憑画像を表示させられる。
料金は月額1万円+1明細18円の従量制
記帳代行支援サービスの月額基本料金(税別)は1万円で、これには10顧問先分のライセンスが含まれる。追加ライセンスにはボリュームでディスカウントが適用され、1顧問先あたり月額500~900円。
証憑のデータ化料金(税別)は完全従量制で1明細あたり18円。また、明細に小書きが加えられていて、これもデータ化したい場合は1明細あたり25円。
無料体験プラン(3カ月・5顧問先まで)や、サービス開始記念の割引キャンペーンも実施する。
申し込みはPAP会員の専用サイトから行う。ただしサービス開始当初は、需給状況を見極めるため、想定を超えた申し込みが殺到した場合は提供開始時期をコントロールする可能性があるとしている。
また、加藤氏からは、今後のサービス強化方針も明かされた。「サービス開発にあたっては一部の会計事務所と協力して開発を行ってきたが、さらなる磨き込みも進めていく。直近では、部門別の管理機能、対応する証憑の種類なども増やしていく予定だ」。
開発に携わった会計事務所はどう評価?
カンファレンスでは、同サービスの開発に協力した会計事務所を代表して、KVI税理士法人(大阪市)の担当者が講演を行った。
同法人の代表社員である岡森久倫氏は「経営者にとってかけがえのない相談者になる」をモットーに、日々顧客対応にあたっている。そのためには記帳代行や申告書の作成にとどまらない関係を顧問先の間で築かなければならないが、働き方改革、ダイバーシティ、そして新型コロナウイルス問題にも関わってくるリモートワーク推進など、多くの課題を抱えているという。
西村修斗氏からは、記帳代行支援サービスのベータ版を実際に利用してみての導入効果などが語られた。KVI税理士法人では、もともと記帳の効率化には積極的に取り組んでいて、弥生会計にすでに搭載されているスマート取引取込機能はもちろん、他社の記帳代行サービスも部分的に利用してきた。
スマート取引取込は、利用にあたって追加費用がかからず、導入が簡単な一方で、日付・金額・適用がOCR処理で入力される都合上、その全数を担当者が確認しなければならない。
また、他社の記帳代行サービスは、弥生会計にデータを直接取り込めず、CSV経由でインポートさせなければならない。データの修正に必ずウェブブラウザーを使わなければいけないのも面倒な点だったという。
この点、弥生の記帳代行支援サービスは、弥生会計に直接データが反映される。オペレーターを介しているので入力内容も正確で、会計事務所側では基本的に勘定科目を確認するだけ。コストも他社サービスと比較して若干割安だったと、西村氏は高く評価した。
「弥生の『記帳代行支援サービス』であっても、基本的には全ての仕訳データに目を通す必要はある。ただ、簡単なボタン操作で証憑画像を呼び出せるため、サクサクと確認できるのは魅力的。」(西村氏)
一方で、さらなる改善も望んでいる。過去に類似取引がない仕訳についての細かな挙動のほか、証憑アップロード機能のスマートフォン対応なども検討してほしいという。
岡森氏もサービスを実際に導入してみて、記帳業務の時間短縮に一定の効果があると評価。残業を抑制しながら、より付加価値の高い業務へのシフトを図る上での大きな手応えを得たとしている。
KVI税理士法人ではRPAなどの手法も組み合わせ、顧問先企業に対してより素早い月次決算情報の提供を目指すという。