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キャッシュレスポイント還元はどう仕訳する? 複雑化したレシートのOCR処理は? 会計ソフトの消費増税対応はこれからが本番!?
弥生・岡本浩一郎社長が会計事務所向けセミナーで説明
2019年11月7日 08:00
弥生株式会社代表取締役社長の岡本浩一郎氏が「弥生 PAP カンファレンス 2019秋」に登壇。税理士事務所・会計士事務所の関係者らが多数聴講する中、消費税増税への対応、そして将来的な会計業務の在り方などについて語った。
「PAP(パップ)」とは、弥生が会計事務所との間で制定しているパートナー制度のこと。会計サービスを利用したい事業者(エンドユーザー)に対し、弥生と会計事務所が一体となって支援が行えるよう、さまざまな施策を展開。2019年9月末時点でPAP加盟事務所が9815社に達した。
また、会計事務所自体の経営安定・業務効率化の支援も、PAPの目標の1つで、セミナーなどを定期的に開催している。「弥生 PAP カンファレンス 2019秋」は全国7会場で展開する予定で、今回、11月1日に開催された東京会場のカンファレンスには、会計事務所の関係者らが数百名規模で集まった。
消費増税・軽減税率で終わらない、相次ぐ大規模法令改正
岡本氏はまず、同社の業績や、会計にまつわる国内・海外情勢などを説明。弥生の売上は5年連続で過去最高を記録、市場シェア調査ではデスクトップ版アプリ/クラウド版アプリ双方でシェア1位を記録するなど、非常に好調という。「会計事務所の皆さんが顧問先に会計ソフトを推奨する際には、安心して弥生をご選択いただける状況だと言える。ぜひ、『みんなが使っている会計ソフト』だとご説明していただければ」(岡本氏)。
好調な業績の背景にあるのが、大規模な法令改正の連続だ。「弥生の歴史は30年以上だが、これほどいろいろな動きが続くのは、過去を振り返ってもそうそうないのでは」と岡本氏が話すように、新元号、消費税増税および軽減税率制度への対応が相次いだ。また、2020年には青色申告特別控除等の見直しなどが控えている。
キャッシュレス決済のポイント還元制度は会計処理の「難問」
消費税増税については、10月1日にすでにスタートしたとはいえ、会計処理等の面で対応はむしろこれからが本番だ。特にキャッシュレス決済時の2%・5%ポイント還元制度は、コンビニなどでは即時値引き適用され、実際にレシートにも記載されるため、これをどう帳簿に付けるかは難問。レシートに記載された値引き総額から、値引き額を1点1点按分するのか、それとも還元額を“政府からの補助金”と捉えて雑収入扱いにするのか、事務処理負担などを考えて決めていく必要がある。
弥生では、レシートをOCR処理で読み込んで自動仕訳する機能を提供しているが、こうした消費税・ポイント還元などの複雑化によって、表記項目が増えた影響もあり、読み取り精度が悪化してしまった。現在、対処を進めているというが、OCRエンジンの改良以外に、レシートの表記統一などを他の会計ソフトメーカーと共同で国・事業者へ求めていく方向性なども、考えていきたいという。
2023年10月スタートの「インボイス制度」はどう影響?
そして会計をめぐるトピックで今後の大きな山となりそうなのが、「インボイス制度」の導入だ。正確な消費税計算のために、2023年10月から「適格請求書」と呼ばれる書類の発行が必要になる(編注:適格請求書の発行には税務署への登録が必須とされる。また、課税事業者でなければ登録を受けられない)。
このため、消費税が免税されている中小の事業者であっても、インボイス発行のために課税事業者にならなければ、大手企業などとの商流から排除されるのではないかといった懸念がある。また、当然ながら書類管理負担も増加する。よって、インボイス導入は“全ての事業者”に影響するだろうと岡本氏は指摘する。
「インボイス導入後に、そのやり取りを全て紙でやるというのは現実的ではないだろう。適格請求書の発行・受領ともにシステムでどうやって対応していくのか。おそらく会計事務所にとっては、請求書の処理はメインではなく、あくまで脇にあった存在。だが今後は真っ正面から向き合っていく必要が出てくる。弥生としても、今後全力で対応していきたい。」(岡本氏)
税務申告や、公的保険にまつわる申請の電子化も、今後、一層進んでいく。例えば個人所得税の確定申告にあたって、電子申告であれば控除額が優遇される等の措置が2020年分確定申告(2021年3月申告期限)から導入される。
これまで弥生のアプリで個人事業主が確定申告を行う場合、書類だけを作成して、税務署への送信には国税庁のソフトを使っていた。しかし、国税庁のソフトは使いにくいとの声も多いため、弥生の自社開発による確定申告用モジュールを今後提供するなど、電子化対応は着実に進めていくとした。
申告の検証方法が変わる? 海外で先行する「Tax Compliance by Design」
こうした各種業務の電子化・デジタル化は、会計事務所の将来を考える上でも大きなターニングポイントとなっていきそうだ。従来は「あくまで紙の書類が主体、一部のみ電子データ」だった状況が、「全て電子データ」へと変わる。こうした兆候は海外で特に顕著で、オーストラリアでは給与支払報告をデジタルかつリアルタイムで行う制度「Single Touch Payroll」が2018年7月に導入された。これにより、年金保険料の支払い漏れを検知できるという。
イギリスではやはり「Making Tax Digital(MTD)」が2019年4月に始まった。事業者への会計業務ソフトウェア導入を義務化し、税務申告までを一貫してデジタル処理させることが目的とされる。
さらに象徴的なのは、イタリアで2019年1月にスタートした「E-invoicing」である。インボイスの電子化が必須となり、かつ電子インボイス処理システムを国の歳入庁自身が運営している。
このように、納税システムの在り方は今後大きく変わっていくと岡本氏は指摘する。より具体的には、今までの納税システムでは「申告以降」が着目点であった。申告にあたって作成された書類が正しいかをチェックすることで、納税額の正確性などを確認してきた格好だ。
これに対して、海外で先行する事例の多くは「申告以前」を改革しようという動きである。正しい申告の為に必要なシステムを、あらかじめ作り込んでおけば、当然申告の正確性は高まるし、効率も良い。。
この考え方は「Tax Compliance by Design」と呼ばれ、OECDなどによって推進されている。ただ、2019年4月に行われた税制調査会総会の議論などからは、日本導入に向けた片鱗が伺えるという。「これがすぐに実現するとは思わないが、『実現したい』と考えている人がいるのは間違いない」(岡本氏)。
もし、この動きが現実のものとなれば、弥生のような会計ソフトメーカーはもちろん、会計事務所にも影響は大きい。イギリスのMTDは、言わば「取引の手入力禁止」であり、つまりは会計事務の業務縮小にも繋がる。また、イタリアのE-invoicingがより進化すれば、事業者の申告書を政府が作ることすら理論上は可能である。
とはいえ、こうしたシステムは一朝一夕で作り上げられるものではない。政治や行政だけに主導して決めさせるのではなく、ステークホルダーを巻き込んでいくことが重要だと岡本氏は指摘する。現にイギリスのMTDは、わずか3年間での全面刷新を標榜した結果、システムの浸透に苦戦。一方でイタリアは義務化の7年前から業界団体とのフォーラムを結成するなど時間をかけ、成果を上げたという。
対する日本においては、10年単位での議論・試行錯誤が必要だと考えられる。弥生では、こうした将来を見据えつつも、法令改正への着実な対応、そして機能強化による業務効率の改善――「業務3.0+α」の実現という両輪を、引き続き推進していくと岡本氏はアピールした。