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AIによる生成物は「著作物」にあたるか? 文化庁が「AIと著作権」セミナー映像と資料を公開

 文化庁は、6月19日にYouTubeライブで実施したセミナー「AIと著作権」のアーカイブ動画とセミナーで使用したスライド資料を、多くの要望を受けためとして公開した。動画はYouTubeの文化庁チャンネルで視聴できる

 ここではスライドの内容をもとに、セミナーのポイントを紹介する。セミナーは2部構成で、第1部は著作権に関する基礎知識を確認する内容、第2部はAIと著作権の関係について解説する内容となっている。

裁判例が示す侵害の要件は「類似性」と「依拠性」

 第1部は「著作権制度の概要」として、著作権法の目的、保護対象や著作者の持つ権利など、AIに関する解説の前に、著作権に関する用語や考え方といった基礎知識を解説している。

 これらの内容については既知の読者も多いと思われるが、AIと著作権について考えるにあたり、あらためて確認しておきたいポイントが、著作権侵害の要件だ。セミナー資料では「類似性」、「依拠性」を順に検討することで、著作権侵害か否かが判断されると説明している。

著作権侵害の要件。類似性と依拠性を順に検討するとしており、以降で詳細が解説される

 「類似性がある」「既存の他人の著作物と同一、又は類似している」とするには、他人の著作物の「表現上の本質的な特徴を直接感得できること」が必要とされ、「創作的表現」が共通していることが必要だという。

 依拠とは、「既存の著作物に接して、それを自己の作品の中に用いること」をいい、既存の著作物を知らず偶然に一致した場合などには、依拠性はないとされる。これまでの裁判例では、後発作品の制作者が既存の著作物を知っていたかどうかや、同一性の程度、後発作品の制作経緯などから総合的に判断されているという。

AIと著作権の関係は、開発と利用の2段階での検討が必要

 第2部のタイトルは「AIと著作権」。生成AIには「AI開発・学習段階」と「生成・利用段階」の2段階が存在していて、著作物の利用行為の性質が異なり、適用される著作権法の条文も異なってくるとして、各段階での解説を行っている。

AI開発・学習段階での著作物利用は、限定された条件において許諾不要に

 AI開発・学習段階の著作物利用に関しては、文化審議会著作権分科会による検討を経て、平成30年改正で著作権法第30条の4(権利制限規定)が導入された。これにより「AI開発・学習段階」での著作物利用について、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用行為」を、原則として著作権者の許諾なく行うことが可能になった。

AI開発・学習段階での著作物利用は、30条の4における「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用行為」と考えられる

 ただし、著作物を学習用データとして収集・複製して学習用データセットを作成する場合や、情報解析用に販売されているデータベースの著作物をAI学習目的で複製する場合など、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」は、30条の4の対象とならないとしている(30条の4ただし書)。

著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、30条の4の対象とならない

生成・利用段階での侵害は通常の著作物と同様に判断

 生成・利用段階に関しては、人がAIを利用せず絵を描いた場合などの、通常の場合と同様に「類似性」及び「依拠性」によって侵害の有無が判断される。

生成・利用段階での著作権侵害の判断

 AIによる画像生成や、生成した画像などをアップロードして公表したり、生成した画像などを製本・データ化して販売することは、30条の4(権利制限規定)の対象とならず、既存の著作物の著作権者による許諾なく行った場合は、著作権侵害となる。

既存著作物の権利者やAI利用者の対応を助言

 著作権に関して疑問を持った既存著作物の権利者が、どのような対応を取ったらいいかの解説も行われている。AIは、自身の著作物と類似したAI生成物が利用されている、AI生成物は自身の著作物に依拠したと思われるなどの場合、著作権侵害として、利用行為の差止請求・損害賠償請求といった民事上の請求や刑事処分を求めることができる。「海賊版対策情報ポータルサイト」や相談窓口など、文化庁もサポートを行っている。

 一方で、AI利用者は、行おうとしている利用行為(公衆送信・譲渡等)が、権利制限規定に該当するか、既存の著作物と類似性のあるものを生成していないかどうか注意を払い、著作権侵害を防ぐ必要があるとしている。

人が道具としてAIを使用した場合は「著作物」に該当する

 AI生成物を含む「コンピュータ創作物」は、「著作物」に当たるか否かの議論は各所で行われており、本資料では、文化庁の見解が示されている。AIが自律的に生成したものは、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作物の定義にあてはまるもの)ではなく、著作物とはいえないとするのが、同庁の見解だ。

 しかし、人が思想感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使用したものと認められる場合には、作成物が著作物に該当し、AIを利用した者が著作者となると考えられるとした。

AI生成物そのものは著作物に当たらないが、人が思想感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使用した場合、その生成物は著作物に該当する

 人がAIを「道具」として使用したといえるか否かは、人の「創作意図」があるか、及び、人が「創作的寄与」と認められる行為を行ったかによって判断される。

 「創作意図」とは、思想又は感情を、ある結果物として表現しようとする意図を指している。またどのような行為が「創作的寄与」と認められるかについては、個々の事例に応じて判断することが必要で、生成のためにAIを使用する一連の過程を総合的に評価する必要があるとした。

 同庁では、今後もAIの開発やAI生成物の利用に当たって整理すべき論点について、知的財産法学者・弁護士らを交えた検討を進め、本内容と合わせた周知・啓発を行っていくとしている。