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日立、ピクシーダストテクノロジーズの消音設計技術「iwasemi」を採用した新型テレワークブースを発表

ピクシーダストテクノロジーズが開発した「iwasemi」(透明部分)

 日立製作所は、9月20・21日の2日間に東京・有明の東京ビッグサイトで開催した年次イベント「Hitachi Social Innovation Forum (HSIF)2023 JAPAN」において、開発中のテレワークブースを公開した。

 同社の制御プラットフォーム統括本部大みか事業所(茨城県日立市大みか町)で開発したもので、2023年10月末以降に発売する予定だ。

 メディアアーティストとしてなど、さまざまな分野で活躍する落合陽一氏が率いるピクシーダストテクノロジーズ(PxDT)が開発した独自の吸音設計技術である「iwasemi(イワセミ)」を採用。さらに、日立製作所の独自技術によって、天井部分が開いた構造にしながら、外からの音を抑えるとともに、内部からの音が外に漏れないようにし、静かな空間でテレワークが行えるようにしているのが特徴だ。

Hitachi Social Innovation Forum 2023 JAPAN会場に展示された開発中のテレワークブース

「空気は通すが、音は通さない」特許申請中の新技術を採用

天井部の様子。外の文字が見え、天井部が開いていることがわかる

 取材時には、展示会場に多くの人が訪れ、賑やかな環境であったが、テレワークブース内に入ると、天井部分が開いているにも関わらず、ヘッドフォンなどを用いずに、遠隔地を結んだ対話ができる環境を実現していた。また、テレワークブース内で大きな声を出しても、外には聞こえていないようだった。

 日立製作所の外岡智行氏(制御プラットフォーム統括本部大みか事業所 生産統括本部モノづくり統括設計部 主任技師)は、「空気は通すが、音は通さない技術」と位置づけ、「天井を開口している部分の技術は特許申請を行っている。天井部に複数の板を渡し、そのなかに空洞部分を作ることで、音を吸収する。ブース内でしゃべっている声を減衰して外に出し、外の音を減衰してなかに入れることができる構造であり、電気は使用していない。大きな声を出しても外には聞こえない」と自信をみせる。

 PxDTのiwasemiは、音響メタマテリアル技術を採用しており、特定の周波数帯域だけの吸音率を高めることができる特徴を生かし、人の声の周波数帯域の共鳴をなくすことができる。

 iwasemiは、透明な樹脂を使用するとともに、吸音に最適なデザインを施しており、それがブース内部のプライバシーを守ることにつながっている。日本においては、先行して、このテレワークブースに採用されることになるという。

透明だが、デザインによりプライバシーを守ることができる

オフィス分野の製品で日本初の「環境ラベルCFP認証」を取得した環境配慮を継承

空調設備も完備している

 展示会場に設置されたテレワークブース内では、日立製作所が開発した汎用デジタル窓口技術を活用したデモストレーションを実施しており、遠隔地のオペレータと結んだ対話を実現し、公共サービスなどでも利用できる環境を提案した。さらに、二酸化炭素測定器も設置し、ディスプレイに二酸化炭素濃度のほか、熱中症指標やインフルエンザ指標も表示。適切な換気対応を促すことで、感染症対策も可能になるという。

 また、テレワークブースの本体は、軽量アルミフレーム構造となっているため、搬入作業や移動作業が容易であり、短期間での設置を可能にしている。

 ここでは、リサイクル材料も使用しており、従来モデルでは、オフィス分野の製品としては初めて、経済産業省の「環境ラベルCFP(カーボンフットプリント)認証」を取得。今回の製品でも、それを継承している。透明扉もリサイクルすることを可能にしているという。

 環境配慮に力を注ぐ企業に対しても、最適なテレワークブースになると述べた。

テレワークブース内部の様子

天井部分の工夫で消火設備を省ける

 さらに、天井部分が開いていることは、設備の簡素化や設置の容易性にもつながるという。

 これまでのテレワークブースのように、天井部分が閉まっていると、オフィスや施設に設置する場合に、ブース内に熱感知式の消火設備や排気ファンなどを装備する必要がある。だが、天井部が開いているため、こうした設備が不要になるほか、音を完全に遮蔽しないため、テレワークブースを設置したオフィスや施設で災害があった場合にも、施設の非常ベルの音を聞き取ることができる。

 「テレワークブースを設置する際にも、消防署への届け出が不要になり、設置の柔軟性が高まる。ブースひとつひとつに消火設備を設置しなくて済むため、コスト削減も可能になる」という。

“サステナブルなテレワークブース”の提案へ

 新たなテレワークブースは、大みか事業所で生産を行うことになるが、設計の工夫により、ほかの事業所でも生産できる柔軟性を持たせているのも特徴だという。また、オフィスや施設などのさまざまな環境に設置する際にも、工場である大みか事業所が持つ設置作業のノウハウを生かした提案が可能になるという。

 価格は未定だが、2022年10月から発売している既存のテレワークブースと同等水準を想定している。

 オフィスにおける新たな働き方が模索され、モバイル環境で仕事をするシーンが増加するなか、テレワークブースに対するニーズも多様化している。天井部を開口し、収音性に優れた環境を実現できる独自技術を活用することで、新たなテレワークブースの提案を可能にしている。

 日立製作所では、今回、参考展示したテレワークブースを、「環境と人に配慮したサステナブルなテレワークブース」と位置づけ、「リモートワークが浸透したいま、働き方が多様化し、個と組織のパフォーマンスを最大化する働く空間の確保が社会課題となるなかで、オンラインとリアルのハイブリッドなワークプレイスを実現し、知的生産性を向上させることできるテレワークブースになる」としている。