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東芝とNEC、NICTが世界初、IOWN APN向けの量子鍵配送(QKD)システムを共同開発

 株式会社東芝、日本電気株式会社(NEC)、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は7月28日、量子暗号通信の分野において、量子鍵配送(QKD:Quantum Key Distribution)システムをIOWN APN(IOWN All Photonics Network)向けのシステム環境で多重伝送し、鍵生成を行う実証実験に世界で初めて成功したと発表した。QKD専用の光通信インフラを新たに構築することなく、通信キャリアの基盤ネットワーク上にQKDネットワークを構築できる可能性を示す結果であるとしている。

 QKD技術は、暗号通信に必要となる「鍵」を安全に共有できる技術。量子力学の原理によって安全性が担保されており、伝送路中の盗聴行為を確実に検知することで、安全な鍵共有が可能となる。この活用のためには主要都市間レベルのQKDネットワークを構築する必要があり、鍵生成速度を最大化するため、単一光子レベルのQKD信号を理想的な条件で伝送する専用のダークファイバを利用した独自のインフラが構築されてきた。

 しかし、このような専用インフラは、ダークファイバの確保や特殊な管理・保守手順が必要となり、導入・運用コストが高いことが問題で、規模拡大や普及の制約となる懸念もある。今回の実験は、通信キャリアによって広く展開されているデータ通信用光ネットワークに共存・多重化するかたちでQKDネットワークを実現するアプローチを実証するもの。

 実験では、IOWN Open APNの構成機器としてNECが提供するオープンな光トランスポート装置「SpectralWave WXシリーズ」を使い、通信キャリアで使われるC+Lバンドに対応したROADMシステム(Reconfigurable Optical Add/Drop Multiplexer:波長多重分割技術を用いて伝送容量を拡大させる、光波長信号の多重分離化装置)をNICTの試験環境に構築した。このシステムを利用して、通常の高速データ通信に加え、東芝とNECがそれぞれ開発した2つの異なる方式のQKD信号を、同じ伝送区間で同時に伝送する実験を行った。

 この2種類のQKD信号と、それらを制御するための光信号は、光が伝わる方向が異なる2本の光ファイバーにそれぞれ送られた。さらに、実際の通信キャリアが使用する基幹ネットワークの環境を再現するため、CバンドとLバンドの全域にわたって、+17dBmの光出力で、伝送速度47.2Tbpsに相当するダミーのデータ通信用光信号とQKD信号を多重して伝送。この際、それぞれの信号の波長が互いに干渉しないように精密に調整しながら、25kmの伝送を行った。

 以上の条件下で、8時間連続して東芝とNECの異なる2つのQKD方式で同時に鍵を生成することに成功した。また、CバンドおよびLバンドの帯域に配置された1波長あたりの伝送速度400Gbpsおよび800Gbpsの高速データ通信の実信号が、単一の光子レベルで送られるQKD信号と共存できることも確認された。

実証実験の構成イメージ

 今回の実証は、IOWN Global Forumにて公開されたOpen APN Functional Architectureリリース3ドキュメントに新たに記載された「One-span PtP Wavelength Pathサービス」(Open APNの光中継伝送路に特定の信号の挿入・分岐を可能にするサービス)のユースケースとして位置付けられる。実証実験の結果により、IOWN Open APNにおいて複数の異なる方式を同時に適用してより可用性の高いQKDを実現できることが示され、高信頼かつ広域なQKDネットワークが低コストに導入できることが期待されるとしている。