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技術者の直接交渉でインターネットを支える「ピアリング」、世界から大阪に集まったネットワークエンジニアは何を話す?
「Peering Asia 8.0」レポート、オプテージ福智氏に狙いを聞く
2026年11月9日 07:00
ネットワーク事業者やコンテンツ事業者などが集まり、アジア太平洋地域におけるピアリングと相互接続について話し合う国際イベント「Peering Asia 8.0」が、11月3日~5日にホテルニューオータニ大阪(大阪府大阪市中央区)で開催された。
「ピアリング」は私たちユーザーがインターネットを快適に利用するために大きな役割を果たしているが、専門家以外にはほとんど知られていない。だが、名前から「相互接続」のことかと想像がつくかもしれない。
はじめに、ピアリングについて簡単に説明しよう。インターネットは、複数の組織が持つネットワークを相互につないで構成されており、自組織を超えほかの組織と接続し、通信するための主な方法には「トランジット」と「ピアリング」の2種類がある。
トランジットは、所定の料金を支払い、事業者を通じてインターネット全体への接続性を得るもの。一方でピアリングは、組織同士が直接接続し、相互にデータをやり取りする仕組みだ。他の事業者による中継を減らすことで通信の流れを把握しやすくなる、相互の通信を高速化できる、トランジットに要していた料金を節約できる、などのメリットがある。
「Peering Asia 8.0」は、株式会社オプテージ、インターネットマルチフィード株式会社、NTTスマートコネクト株式会社の3社が共同ホストを務め、Asia Pacific Internet Exchange Association(APIX)の支援を受けて開催された。
Peering Asiaは、アジア太平洋地域のピアリングと相互接続の促進を目的とするイベント。ピアリングに関する講演に加え、参加者同士がネットワークの接続について直接交渉する場が設けられている。日本で開催されるのは、2017年に京都で開催された「Peering Asia 1.0」以来となる。
本記事では、初日のオープニングとチュートリアルを紹介するとともに、オプテージの福智道一氏(執行役員 ソリューション事業推進本部 副本部長、国際事業担当)に、ピアリングを取り巻く変化や大阪開催の狙いについて聞いた。
大阪がアジア太平洋地域のインターネットにおいて重要な場所に
オープニングでは、アジア太平洋地域を中心とする各国から集まった参加者を歓迎するあいさつや太鼓の演奏に続き、大阪府知事の吉村洋文氏と、慶應義塾大学名誉教授の村井純氏によるビデオメッセージが紹介された。
吉村氏は、AIやクラウドサービスの普及を背景に、データセンターやIX(インターネットエクスチェンジ)などのデジタルインフラの重要性が高まっていると説明。大阪がアジアのデジタルハブとなることを目指し、国内外の企業や人材が集まり、新たな連携やイノベーションが生まれることへの期待を示した。
村井氏は、アジア太平洋地域でインターネットへの接続をさらに広げる必要性や、それを支える国際的なインフラについて語った。また、大阪がこうしたインフラにおいて、日本だけでなく、アジア太平洋地域にとっても重要な場所になると語った。
会場では、ピアリングに関する講演が行われたほか、スポンサーの展示、ピアリングに関する個別の会議に利用できる場所が設けられていた。
また、フォトスポットには、法被や大阪をイメージした手持ちの撮影用小道具が用意されていたほか、休憩などで使われるコーヒースペースには、けん玉や福笑いなどの日本のおもちゃが置かれていた。海外から参加者が集まるイベントとして、講演やミーティングの合間にも日本らしさに触れられる会場となっていた。
ピアリングの基礎と実務を学ぶチュートリアル
会期初日の午前中には、ピアリングの初心者向け講座「Peering Tutorial」がオプテージのオフィスで開講された。日本語で開催された基礎編の講座では、通信インフラアドバイザーの川村聖一氏が「ピアリングの基礎」を解説した。
川村氏は、ピアリングのメリットとして、通信コストの削減や品質改善を紹介した。トランジットを経由する通信の一部をピアリングに切り替えることで、トランジットの費用を抑えられるほか、通信経路を短くできれば、遅延の改善にもつながると説明した。
接続方法としては、1対1の物理接続による「プライベートピア」と、IXを利用する「パブリックピア」が紹介された。パブリックピアでは、1つの物理ポートを使い、同じIXに接続する複数のネットワークとピアリングできる。
また、事業者同士ではトラフィック交換の対価を支払わないことが多いものの、回線やIXのポートなどの費用はかかることも説明。長距離の接続では回線の費用が高くなり、トランジットを利用する方が安くなる場合もあるとして、必要な要素を分析し、コストやメリットを吟味して実施を判断することが重要だとした。
このほか、ビッグローブ株式会社の山口勝司氏は、ピアリングマネージャーの役割を紹介した。トラフィックや通信品質、コストの分析から、戦略立案、他社との交渉、接続後の効果測定までを担う仕事であり、ネットワークの技術に加え、ビジネスの知識やコミュニケーション力も求められると説明した。
インターネットマルチフィードの菊田一真氏は、ネットワークの接続情報や連絡先などを登録・参照できる「PeeringDB」を解説。ピアリングしたい相手の接続先IXやデータセンター、接続方針、窓口を調べる際に役立つことを紹介した。また、登録情報は自己申告であるため、ほかの情報源も併せて確認し、自社の情報も定期的に更新することが重要だとした。
今回の講座で投影された資料は、Peering Asia 8.0の「Peering Tutorial」のページで公開されている。
「関西を強くすることが、日本のレジリエンス向上につながる」
アジア太平洋地域を中心とする各国の事業者が集まるこのイベントを、大阪で開催することには、どのような狙いがあるのだろうか。今回の共同ホストの1社であるオプテージの福智道一氏に、これまでの経験と大阪開催に込めた思いを聞いた。
──まず、ピアリングに関わるようになったきっかけを教えてください。
福智氏:2025年にオプテージに来る前は、ソフトバンクに25年間いました。ソフトバンクでは、ブロードバンドのインフラの立ち上げやネットワークの運用に携わり、子会社のBBIXでは専務取締役兼COOも務めていました。
ピアリングの交渉に関わるようになったきっかけは、アイ・ピー・レボルーションで、技術の責任者としてISPの立ち上げに携わったことです。そのときに、IXにつないでピアリングすることで、トランジットのコストを下げたり、インターネットの通信品質を向上させたりできると知りました。
私はインターネットそのものの黎明期というより、ブロードバンドの黎明期の人間ですね。
──ピアリングを取り巻く環境は、当時からどのように変わってきたのでしょうか。
福智氏:インターネットの通信がどのように変化してきたか、ということが大きく関わっています。かつては、上位のプロバイダーからトランジットを買い、通信の経路はそこに任せていました。そこから、通信が多い相手と直接ピアリングすることで、コストと品質を改善しようとしてきたわけです。
その後、P2Pの利用が増えた時期には、ISP同士で交換するトラフィックが多くなりました。今は、大手コンテンツ事業者やコンテンツ配信ネットワーク(CDN)から届くトラフィックが多くなっています。ただ、この傾向がずっと続くかは分かりません。AIの普及などによって、トラフィックのパターンも変わっていく可能性があります。
──今回、大阪でPeering Asiaを開催するにあたって、福智さんにも熱い思いがあったと伺っています。大阪で開催したいと考えた理由を教えてください。
福智氏:日本のインターネットのトラフィックは、人口の分布に比べて東京に集中しすぎていると考えています。トラフィックの量と、インフラの容量や強靭性は関係しています。東京に集中し、大阪がそれに比べて十分ではないというバランスは、インターネットとしてよくないと思うのです。
このようなバランスになった背景には、日本のインターネットの接続拠点が東京を中心に発展してきたという歴史的な経緯もあります。
東京と大阪の両方への接続は、国内よりも海外の事業者の方が早く進めていました。海外から見ると、日本は地震の多い国ですからね。特に2011年の東日本大震災以降、海外の事業者は大阪への接続を強化しました。国内のISPも、ここ10年ほどで大阪への接続を進めていますが、トラフィックの偏りは残っています。
東京で大きな災害が起きたときに、大阪でしっかりと支えられるよう、容量や機能、オペレーションも含めて準備しなければいけません。大阪を中心に関西を強くすることが、日本のレジリエンス向上につながると信じて、私はオプテージに来ました。
オプテージは関西一円に光ファイバーやデータセンターを持っていますが、1社でできることには限りがあります。大阪をインターネット全体のハブとして盛り上げる、そのきっかけになればと思って、Peering Asiaの誘致に取り組みました。
──大阪での開催ですが、関西の事業者の参加が多いのでしょうか。
福智氏:関西だけというわけではありません。日本の参加者を見ると、東京から来ている方や全国規模のISP、ケーブルテレビ事業者など、全国の主要な事業者が集まっていると感じます。
そうした皆さんに、大阪、関西を今後の重要な拠点にしていきたいということを伝える。その意味でも、大阪で開催することが大切でした。
──会場では、参加者が入れ替わりながらミーティングをしています。具体的には、どのようなことを話し合うのでしょうか。
福智氏:事業者同士の状況によりますが、初めて会う相手なら、お互いのネットワークの状況やトラフィックを確認して、どのようにピアリングするか、といった話をします。
ISPからすると、コンテンツ事業者などと直接ピアリングしたいわけですが、希望すれば誰とでもすぐに接続できるものではありません。相手がどのような事業をしているのか、どのようにネットワークを運用しているのか。そうした背景を知り、意見を交換して、相互理解ができて初めて接続できるのです。
例えば、ISP側から相手のトラフィックがどのように見えているか、逆に相手から見るとこちらへどれだけ流れているかを確認する。その上で「では、ここでピアリングしましょう」と話しているのだと思います。
また、メールや文章だけでやり取りするより、顔が見える関係をつくることが大切です。インターネットでは、接続が切れたり、障害が起きたり、トラフィックが他の経路に回ったりすることがあります。そのときに「どうしたの」「いったんピアを切るね」「復旧したら戻すね」といったコミュニケーションが必要になります。こうした運用の話をする上で、お互いを知っていることがとても重要になります。
Peering Asiaで顔を合わせてコミュニケーションすることが、普段のお互いのオペレーションを助けることにもつながります。それぞれの会社には、どのようなお客さんに、どのような通信やサービスを提供したいかという意思があります。その意思を理解し合って初めて相互接続ができるので、コミュニケーションはとても大事です。
──アジア太平洋地域の中で、日本や大阪にはどのような役割があると考えていますか。
福智氏:日本は、太平洋を横断する海底ケーブルと、アジア域内の海底ケーブルが集まる場所で、アメリカへの経路という点でも重要です。ただ、東京に集中しすぎているので、冗長性やネットワークの堅牢性を考えると、分散させる必要があります。
また、アジアには、日本や韓国に比べて、インターネットの普及率がまだ低い国もあります。人口が多く、これから利用が広がるという観点で、東南アジアは今後のインターネットにとっても重要だと思います。その地域とアメリカをつなぐ中間の役割を担うことも、日本の役割です。
──AIの普及は、インターネットの通信にどのような影響を与え始めているのでしょうか。
福智氏:見えにくいところですが、機械が情報を取りに行くための通信は重要になってきています。人間がウェブサイトを見に行くだけでなく、クローラーがアクセスして情報を集めるわけです。AIが情報を取りに行くための通信は、動画をずっと見続けるような通信とは性質が違います。今後は、こうした情報収集のための通信も重要になってくると思います。
ウェブサイトを作る側も、人間に見てもらうことに加え、クローラーが情報を取りに来たときに、きちんと必要な情報へたどり着けることを意識するようになるでしょう。通信を使う主体が変わることで、ウェブサイトの構造にも変化が出てくると思います。
──30年後を見据えると、インターネットはどうなっていくと思いますか。
福智氏:AIによって、インターネットの形はかなり変わると思います。ただ、どう変わるかに明確な答えはないでしょう。人間が使うだけでなく、機械同士の通信が増えることでも、インターネットの形は変わっていきます。
今のような通信の流れや、それを支えるビジネスモデルが、30年後も同じとは限りません。お金の流れも通信の流れも、利益が生まれる方向に動いていきます。変化は30年先の話というより、これから数年の間にも起こるでしょう。その先にどのような形ができあがるのかは、まだ分かりません。
──そうした変化の中でも、今回のPeering Asiaのような、人と人が顔を合わせる場は大切だということですね。
福智氏:そうですね。インターネットは1社では完結しません。これは大きな通信事業者でも、大手のテクノロジー企業でも同じです。最後に大切になるのは、やはり人と人のコミュニケーションです。














