清水理史の「イニシャルB」

オプテージが「OC1」で目指す国内ネットワークの未来とは? 西日本への分散による“正しい姿”と10msを削る重要さ

オプテージの「OC1」内部に設置されたラック

 通信系のデータセンターが新設されると、家庭のインターネット環境はどう変わるのか? そもそもデータセンターで何がどうつながっているのか? そんな素朴な疑問を持っている人も少なくないかもしれない。

 こうした疑問を、大阪、曽根崎地区に“コネクティビティ”データセンター「OC1」を新設したオプテージに聞いてみた。通信を分散させる意義も大きいが、東京を経由せずに済むことでユーザーの普段の通信で「10ms」が短縮されるメリットは意外に大きい。

「10ms」を削る意味、ユーザー体験を変える「距離」の壁とは

 「10ms」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか? 0.01秒というわずかな時間だが、これはネットワークを隔てる東西の距離だ。

 ネットワークの世界において、「距離」は物理的な制約として立ちはだかる。いくら光ファイバーが高速だからと言っても、何百km、何千kmという距離でデータをやり取りするには時間がかかり、わずかではあるが待ち時間が発生する。一般的には「遅延」と呼ばれるこの待ち時間によって、ウェブページの表示待ちや動画の再生待ち、ゲームのレスポンスなどに影響が発生する。

 そこで、われわれが普段見ているウェブページや動画など、多くのコンテンツは、CDN事業者が各地に設置したキャッシュサーバー経由で配信されるのが一般的だ。

 通常、海外事業者が提供する動画配信サービスは、海外のサーバーに直接アクセスしているのではなく、日本に設置されたキャッシュサーバーに動画のデータが蓄えられ、そこからユーザーに向けて配信される。しかし、日本と言っても北海道から沖縄までそのエリアは広いため、キャッシュサーバーまでの距離によって実際のアクセス時間は変わってくる。

 もう少し具体的に考えてみよう。例えば、大阪のユーザーが東京に設置されたサーバーにアクセスするケースを考えてみる。大阪-東京間のネットワーク上で通信が折り返すまでにかかる時間(つまりpingの値)が、仮に14~16msとしよう。しかし、東京ではなく、同じ大阪に設置されたサーバーにアクセスしたとすると、この時間は4~6msで済むと考えられる。つまり、東京ー大阪間の約500km(ネットワーク的にはもう少し長い距離になる)を経由する時間にかかる「10ms」を短縮し、より短時間で情報を取得できることになる。

OC1の存在により、大阪のユーザーがこれまで16ms要していたサーバーへのアクセスを、10ms短縮して6msにできる可能性がある

 詳しくは後述のインタビューで明らかになるが、これを「わずか0.01秒の差」と切り捨てるべきではない。遅延がユーザー体験にもたらす影響は、特にオンラインゲームにおいてよく語られるが、それだけでなく、情報の鮮度、AIアプリケーションの体感速度など、その影響範囲は広がりつつある。

 オプテージが、今回、大阪に新設したコネクティビティデータセンター「OC1」は、日本全体のネットワーク基盤としての意義や法人ビジネス市場への貢献など、さまざまな意味合いを持つ通信拠点であるが、ユーザー視点では、この「10ms」という、ユーザー負担している余計な時間的コストを削る、非常に興味深い存在となっている。

「コネクティビティ」の正体:曽根崎を核としたオプテージの優位性

 そもそも、コネクティビティデータセンターとは何か? というと、簡単に言えば、通信事業者間やCDNサーバーへの「接続性」を高めることを目的としたデータセンターだ。

 詳細は先日公開の記事「大阪中心部に都市型データセンター『OC1』開所、オプテージが提供する『コネクティビティ』とは?」を参照してほしいが、オプテージの広大なネットワークに加え、他事業者のネットワークなどとの相互接続性を高めている。従来のデータセンターは、サーバーを安全に保管し、データを処理すること主目的であったが、OC1が掲げるのは単なる「ハコ」ではなく、多様なネットワークが交差する「接続の要衝」としての意義や機能性となる。

 上記記事で言及している通り、現在、日本のネットワークリソースは東京一極集中の状況にあり、関東と関西のトラフィック量の比率は、おおよそ7:3となっている。接続の要衝を大阪に新設することで、この東京一極集中に伴うリスクの回避(BCP)を実現するとともに、同等に全身への血流をコントロールする「第2の心臓」となる施設を関西に確保することで、関東と関西でトラフィックを同等に分散させる目的がある。

 ただし、大阪のデータセンター市場には、古くから通信の要所として知られる堂島エリアを中心に事業を展開する国内大手通信事業者や、グローバルな接続性を誇る巨大な海外データセンター事業者などのプレイヤーが存在する。その中で、オプテージの「OC1」はいかにして独自の存在感を示すつもりなのだろうか?

 オプテージの津田和佳氏(執行役員 ソリューション事業推進本部 副本部長)は、既存の事業者と比較した際のOC1の立ち位置について、静かに次のように語った。

株式会社オプテージ 執行役員 ソリューション事業推進本部 副本部長 津田和佳氏

 「海外データセンター事業者は、基本的にサーバーの設置がメインですが、われわれはネットワークと一体でサービスを展開するのが特徴です。一方、国内大手通信事業者のデータセンターとの違いは『キャリアニュートラル』である点です。お客様は回線を自由にお選びいただけます。われわれの回線だけでなく、お客様のご要望にそった他キャリア様の回線をご利用いただくことも可能です。また、われわれはデータセンター事業だけではなく、クラウドサービスやセキュリティ、サーバーのシステム構築といった、トータルなシステムのお手伝いもできます。ワンストップでお客様のサービスを提供できるというのが、大きな違いになると考えています」。

 この柔軟性の高さこそが、OC1の真髄と言える。すでに、主要なIX事業者(インターネット相互接続点事業者)やISP事業者、クラウド事業者などとの接続も開始されており、OC1は「接続の要衝」としての特徴を十分に発揮している。

 それだけでなく、国内外のキャリアとの相互接続を図ることで日本のネットワーク全体を嚙み合わせる役も担っている。津田氏によると、「前述した大手通信事業者や海外データセンター事業者の設備に対しても、自社の光ファイバーを直接引き込むことで、物理的に離れた場所にありながら、あたかも同じ建物内にあるかのようなシームレスな接続環境を実現しています」という。

 現代のデータセンター、特にAI時代のデータセンターには膨大な電力供給能力や冷却能力も求められるが、そのニーズにも対応できるという。

 津田氏によると、「われわれのデータセンターの供給電力は12kVAまで対応しています。昨今はサーバーの負荷、電力容量が増えてきていますので、そういった高負荷に対応できるというのは特徴の1つだと思っています。古いデータセンターでは『電気が足りないのでお断りせざるを得ない』という状況も、OC1なら、そうしたニーズにしっかりと応えられます」という。

 また、現在はまだ工事中とのことだが、新たなフロアでは水冷に対応したサーバーの設置にも対応できるという。津田氏によると、「当初の計画にはありませんでしたが、市場の急激な変化やニーズに対応するために、新しく拡張するフロアについては水冷対応を視野に入れた設計を進めている」ということだ。こうした俊敏な判断と行動力もオプテージならではの特徴と言えそうだ。

 さらに、津田氏は、全体的なネットワーク計画として、国際接続の方向性についても語ってくれた。「現状、関西(伊勢志摩)の陸揚げ局のファイバーも、結構、帯域が埋まりつつある状況です。海外の事業者様やゲーム会社、動画配信会社様からは、もっと関西経由での接続を増やしたいというニーズが非常に強い。災害などを考えても2拠点化は通信の世界では必須と言えます。関西・大阪のインフラを強靭化することは、そのまま日本の強靭化につながるので、そのための投資を検討したり、他の組織との連携も図ったりしています」という。

現場潜入! ラック上部を経由して「インターネット」につながる様子を見た

 さて、ここからはデータセンターの内部に視点を変えていこう。通信系のデータセンターで、何が、どうつながっているのか? という疑問を持っている人も多いはずだ。

 1月29日のOC1の開所式の当日、報道機関向けに内部の見学会が実施された。この見学会では、データセンターの建物の耐震性能や冷却設備なども披露されたが、特筆すべきなのは、実際のラックや光ファイバーの引き込み構造などが公開されたことだ。

 OC1では、外部から引き込まれた光ファイバーは、まず「ミートミールーム」と呼ばれる集約設備に引き込まれる。ミートミールームには、パッチパネルというケーブル同士を相互接続するための集約基盤が設置されており、そこから天井に引き回された光ファイバーを通じて、上部から各ラックへと配線される。天井からの光ファイバーは、ラック内へと引き込まれ、ラック最上部のパッチパネルを通じて、ラック内の通信機器やサーバーへと配線されるしくみだ。

ミートミールーム
天井経由で各ラックへと配線される

 前述したように、OC1には、すでにISPやメガクラウド、IXが設備を設置しているため、ラック内の通信機器やサーバーは、ダイレクトにインターネットやクラウド事業者、他のデータセンターと相互接続される。天井を走る無数のファイバーが、そのままインターネットの動脈として世界へ直結している様子は、まさに「インターネットの交差点」そのものと言ってもいいだろう。

 例えば、このOC1に、仮に筆者がラックを借りて、ニュースサイトを開設したとしよう。ラックに設置されたウェブサーバーから記事を配信するには、インターネットに接続する必要があるが、これは前述したように通信事業者(ISP)のラックとデータセンター内で直接接続できる。そして、そのISPのラックは、他のISPやインターネットとの接続点となるIX事業者のラックへとつながる。

 同様に、システム開発に利用するクラウド事業者、CDN事業者など、必要に応じて多様なネットワークへと接続できる。OC1を利用する企業は、このようにして、必要なネットワークへと簡単に接続できるわけだ。

OC1で実現するコネクティビリティのイメージ

日本のネットワークの「正しい姿」、東京一極集中からの脱却とActive-Activeの提言

 続いて、OC1の技術的な特徴について、オプテージの福智道一氏(執行役員 Chief Strategy Officer 国際事業担当)に聞いた。

株式会社オプテージ 執行役員 Chief Strategy Officer 国際事業担当 福智道一氏

 福智氏が、まず話題に上げたのはOC1だけでなく、日本のネットワーク全体の現状や未来、つまり日本のネットワークの「正しい姿」だ。

 日本のトラフィックが東京に集中している現状に、福智氏はエンジニアとして、そしてインフラを担う者としての危機感を抱いている。

 具体的には、内閣府も警鐘を鳴らしている大規模災害のリスクを例に挙げる。「仮に大規模な地震や火山の噴火などが発生した場合、通信設備や電力設備に大きな影響が及ぶことが予想されています。首都圏への過度な通信の集中は、災害時の国家レベルの麻痺を意味する可能性があります」という。

 福智氏は、こうしたリスクに対する解として「Active-Active」という考え方を強調する。「大切なのは、冗長性ですが、関西を予備(Standby)として眠らせる必要はありません。東西双方を常時稼働させる「Active-Active」な体制にすることで、冗長性だけでなく、トラフィックの分散も図れます。これは、大阪、関西、西日本、だけでなく東日本や日本全体にとってのメリットになります。国内のコンテンツ事業者で、こうした対策をしているのは一部の事業者に留まりますが、今後は、ユーザーの所在地に関わらず東西の拠点を柔軟に活用できるような設計が、全ての組織に求められています」という。

 東西のトラフィック比率を「7:3」から「5:5」に近づけることは、単なる同社の数値目標ではなく、日本のデジタルインフラという、より広い視点で考えたときの戦略的な目標と言えそうだ。

 こうした関西のネットワークの強化は、冒頭で触れた10msの話題、つまり西日本のユーザーが普段インターネットを利用する際のメリットにもつながる。福智氏は、この点について、次のように語った。

 「10ms違うとだいぶ違うと思います。CDNの役割はコンテンツを“速く”届けるということもありますが、それに加えて、情報をリフレッシュする役割も担っています。例えば、刻刻と状況が変化するニュースなどの場合、キャッシュされている情報が古いと、間違った情報が伝わってしまう可能性があります。こうした情報をいち“早く”更新しようとしたときに、遅滞がなく、きちんとアクセスできる環境は非常に重要になります」。

 もちろん、よく言われるゲームの通信にも恩恵がある。福智氏によると、ゲーマーにとっての遅延(ラグ)は致命的なので、特に速さを求めるケースでメリットがあるという。

 さらに、福智氏は、将来的なAIの利用シーンにおいても、OC1が実現する通信の「近さ」が重要になると語る。「AIの場合、Inference(推論)のシーンは、先に述べたCDNのケースと近いと言えます。レスポンスの速さが求められるうえ、AIエージェントがデータや他のクラウドサービスと連携する場合、通信のレスポンスが重要になります。例えば、将来、AIが画像データを多く扱う場合には、本当にCDNと同じで距離やレスポンスが重要になってきます」。

 AIの推論サーバーをユーザーに近い大阪に置くことで、まるでCDNからコンテンツを受け取るように、スムーズなAI体験が可能になるわけだ。

 ちなみに、オプテージは、AIの「学習」と「推論」を分離し、それを同社の高速なネットワークでつなぐという戦略を取っている。

 同社は、2026年度中に、福井県美浜町に同社初となる生成AI向けコンテナ型データセンターの開設を予定している。膨大な電力を消費する「学習」は、都市部に比べて電力調達が比較的容易で、同社が光ファイバーを提供できる郊外エリアに設置し、一方、低遅延が求められる「推論」は他の通信設備に近いOC1のような都市型データセンターに設置することになる。

 いずれも「近さ」というのが同社のネットワーク戦略のひとつのキーワードになりそうだ。

いずれは宇宙も

 さらに、福智氏はより広い視点で、日本のインフラのあるべき姿にも視線を向ける。「インターネットのトラフィックは指数関数的に増大しています。関東に集中する海底ケーブルの陸揚げ局を関西にも拡充し、シンガポールや米国と直接つながる環境を整備することは、日本がアジアのデータハブとして生き残るためにも必要です」という。

 また、これは余談だが、福智氏の個人的な雑談として、非地上系ネットワーク(宇宙通信)にも話題が及んだ。オプテージ自身が人工衛星を打ち上げるというのは、なかなか難しいかもしれないが、宇宙との地上のトラフィックをどう連携させるのかといった話題や、データセンターが将来的に「宇宙コロニー化」するような世界など、ネットワークの未来への興味は尽きないようだ。

 以上、オプテージが大阪に開設したコネクティビティデータセンター「OC1」の意義やしくみ、メリットなどを紹介した。われわれ一般ユーザーからすると、データセンターというと、どこか他人事のように感じてしまうが、ユーザーにとっても大きなメリットがあることがよく分かった。東京一極集中という「デジタル日本の弱点」を克服し、AI時代、そしてその先の未来を見据えた、日本ネットワークのOSをアップグレードするための第一歩と言えるだろう。

OC1屋上から見る大阪の街並み(写真提供:オプテージ)
清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。YouTube「清水理史の『イニシャルB』チャンネル」で動画も配信中