不満噴出の「基本問題小委員会」、著作権見直しの行く末は


「基本問題小委員会」第2回会合の様子

 著作権制度の根本的なあり方を議論する文化審議会著作権分科会の「基本問題小委員会」第2回会合が6月30日に開かれた。

 同小委員会は、昨年度まで開かれていた「私的録音録画小委員会」で扱っていた補償金制度、同じく「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」で議論されていた著作権保護期間延長など、結論が出なかった問題の“そもそも論”を議論するために設置された。法改正に向けた検討ではなく、「大所高所の議論」(文化庁)で著作権制度のあり方を見直すことが狙いだという。

 今回の会合では、文化庁が同小委員会で想定される論点を整理するとともに、議論の進め方を提示。今後は、著作権制度に関する利害関係者にヒアリングを行う方針を示した。文化庁が示した論点としては、次の3つだ。

 1)文化振興に関する施策の体系の中で、著作権制度が担っている意義、役割はどのようなものか
 2)表現手段、流通手段の変化(例えば、昨今であればデジタル化、ネットワーク化の進展)などのもとで、著作権制度の果たす役割に変容が生じているのか
 3)これらを踏まえ、これまで解決の得られていない課題を含め、今後の著作権関連施策について、どのような方向性をとるべきか(その際、著作権制度とその他の文化関連施策、ビジネススキーム、技術的手段などとの関係をどう考えるのか)

 今後の議論の進め方としては、これらの論点について、有識者やコンテンツ関連事業者、情報技術関連事業者、文化関係団体、経済団体などの担当者にヒアリングを実施することを提案した。なお、現時点でヒアリングの対象は未定だという。

「議論のスピードが遅い」「議論が抽象的すぎる」「目標を持った議論を」

 文化庁が示した提案に対しては、議論のスピードが遅いと指摘する意見のほか、著作権制度の見直しについて早急に結論を出すべきという意見が、主に権利者側の委員から多く上がった。また、文化庁がテーマとして掲げる「大所高所の議論」が抽象的過ぎるという苦言も上がった。

 例えば、日本文藝家協会副理事長の三田誠広氏は、「ネット配信などの事業は、新しい機器やシステムが確立されるまでの時間の流れが非常に速い。それに対して、著作権の議論は追いついていない。日本版フェアユース規定のような暴力的な提案がなされるのも、技術の進歩に著作権の改革が即時的に対応できないためだ」とコメントした。

 「今日も議論を開始するまでにかなりの時間がかかったが、それまでになされたことといえば(事務局が)配付資料を読み上げただけ。会議の1週間前に配付資料を各委員に送付していれば、会議がスタートした時点から議論が始められた。何をどう変えるかを踏まえた上で問題点を議論し、必要であれば法改正を進めるなど、目標を持った議論をすべきだ。」

 また、日本音楽著作権協会(JASRAC)理事のいではく氏は、「年度内に結論を出してもらいたい項目は数多くある。小委員会では総論を言い合うだけでなく、早急に解決すべき問題の結論を導き出せるような会議の進め方をすべき」、漫画家の里中満智子氏は「あいまいな感じで事が進めば、あっという間に(任期の)1年が過ぎる」と漏らした。

 こうした意見に対して、主査を務める学習院大学教授の野村豊弘氏は、「この委員会は『基本問題』ということで、具体的な問題は法制問題小委員会が扱っている」と説明。例えば、日本版フェアユース規定の問題については、「基本問題小委員会で全体的な議論をしてもらい、法制問題小委員会の議論と融合することで、(両小委員会の上部組織である)著作権分科会として具体的な結論が出せればいい」と話した。

 このほか、ヒアリングのあり方については、主婦連合会常任委員の河村真紀子氏が「(権利者と利用者の)双方の立場の人を呼んでほしい」と要求した。「小委員会の名簿を見てもわかるが、多数(権利者側)が一致しているテーマばかりが出てくる。フェアユースにしても、三田委員のような『暴力的な制度』という立場だけでなく、『そうではない』という立場の人の意見も聞かなければ、促される結論は見えている」。

 小委員会での議論の進め方が模索される中で、慶應義塾大学教授の中村伊知哉氏は「我々がすべきことは優先順位を付けること」と指摘した。「優先順位は、著作権制度を変更する実需の強さとも言い換えられる。フェアユースや著作権保護期間延長の問題でも、制度変更を提案する側は、定量的なデータで(実害を)立証した上で議論を進めていくべきだ」。

 次回の会合は未定だが、今後さらに小委員会の進め方を検討するとともに、著作権制度に関する利害関係者らを対象にヒアリングを行う予定だ。


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(増田 覚)

2009/6/30 17:20