クチコミマーケティングの協議会発足、「誠実さ」など基本理念に
クチコミ(WOM:Word of Mouth)マーケティング市場の発展を目指す業界団体「WOMマーケティング協議会」が29日発足した。協議会では発足にあたり、WOMマーケティングに「誠実さ」「消費者の利益」「自由意思の尊重」を求める基本理念を発表。同日行われた設立イベントでは、ドワンゴ取締役の夏野剛氏が講演を行った。
●ガイドラインを2010年2月までに策定、イベントも開催
WOMマーケティング協議会の理事長を務めるビルコムの太田滋氏 |
WOMマーケティング協議会は、WOMマーケティングに携わる企業や団体、個人が集まり、クチコミマーケティング市場の健全な育成と情報共有、啓発などを目的として発足した団体。2008年2月に開催されたPR系ブロガー懇親会での議論から、クチコミマーケティング研究会という有志の勉強会が開催され、そこでの議論から正式な業界団体の設立が必要だという機運が高まり、2008年12月に設立準備会を立ち上げて準備を進めてきた。
協議会の理事長には、ビルコムの太田滋氏が就任。理事は、アサツーディ・ケイの井上一郎氏、東急エージェンシーの小川丈人氏、CGMマーケティングの佐々木智也氏、アジャイルメディア・ネットワークの徳力基彦氏、電通パブリックリレーションズの細川一成氏、博報堂DYメディアパートナーズの森永真弓氏の6人が務める。
協議会では、WOMマーケティングに関わる法人および個人を対象として、会員募集を開始。法人年会費は10万5000円、個人年会費は2万1000円。会員には、協議会が主催するイベントに無料で参加できるなどの特典がある。
協議会の活動としては、9月からWOMマーケティングに関するブロガー向け・マーケッター向けのガイドラインの策定に着手し、2010年2月までの策定を目指す。また、毎年1回の全体的なイベント「WOMマーケティングサミット」を2010年2月に開催するほか、事例研究のセミナー・ワークショップを毎月開催する。また、2010年2月からは、WOMマーケティングの定義・分類、効果測定指標の基準測定などを手掛けるメソッド開発委員会も設ける。
ガイドライン策定プロジェクトのリーダーは、ブログ「ガ島通信」を運営する藤代裕之氏が務める。藤代氏は、設立準備会での議論をまとめたWOMマーケティングの基本理念を発表。基本理念は、「WOMマーケティングに関わるあらゆる人、組織は、正直に、良心に基づいて行動しなければならない」「消費者の利益にならないものは、WOMマーケティングではない。消費者が正しく、多様な情報を得る権利を最大限尊重する」「クチコミは自発的なものである。金銭で生み出されない。誰からも強要されず、発信者の自由意思が尊重される」という3項目からなる。
プロジェクトでは今後、基本理念をさらに具体化したブロガー向け・マーケッター向けのガイドラインの策定に着手。基本理念は設立準備会で出された様々な意見を集約したもので、ガイドラインの策定にあたっても参加者の意見をまとめていくとともに、基本理念やガイドラインは随時見直しを行っていきたいとした。
協議会の概要 | WOMマーケティングの基本理念 |
●クチコミは「見えないものが見えるようになっただけ」
ドワンゴ取締役の夏野剛氏 |
設立イベントでは、ドワンゴ取締役の夏野剛氏がWOMマーケティングについての基調講演を行った。夏野氏は「今だから言えるが、iモードも最初は渋谷の女子高生200人に配った」と語り、iモードの普及にもクチコミは大きな役割を果たしたと説明。今回、「WOM」を考えるにあたって思い出したこととしては、「ニコニコ動画とYouTubeの違い」についてよく質問を受けるが、両社の違いは「コメントの有無」だけではなく、YouTubeは動画を多人数で共有しているが、ニコニコ動画は動画に加えて感想も共有する「みんなのたまり場」的な存在だと表現した。
夏野氏は、「こうした場にあるものは、まさに『Word of Mouth』、生活者同士のコミュニケーションだが、必ずしも昔から言われてきたクチコミではない」と説明。かつてのクチコミに比べて、インターネットのクチコミの規模や影響力は極めて大きくなったことに加えて、「企業が思っているほど『こちらの話』はしてくれない。なんだか悪口もたくさんあるし、ちっとも制御できない」といったWOMマーケティングの難しさを挙げた。
ただし、こうした消費者の意見は、「昔はみんなが勝手にテレビに向かってぶつくさ言っていたり、商品に愚痴を言っていたりした。見えなかったものが見えるようになっただけで、昔から不満はそこにあった」として、マーケティングの観点からはこうした声に耳をふさぐべきではないと語った。
また、WOMマーケティングでやりたいことは「クチコミをさせる」ことだが、ユーザーがクチコミをする動機は、ユーザーがもともと期待していたレベルから良い方向(ポジティブ)や悪い方向(ネガティブ)に感情が触れた時に起こるもので、この期待値とのギャップがクチコミの原動力になると説明。作ったメッセージをそのまま伝播させようという考え方は間違いのもとで、マーケッター側にできることは「人に話したくなるネタを提供すること」「語り合える人がまわりにいない人のために、ネタを語りあえる場を提供すること」だとした。
ただし、現在ではブログやSNS、ニコニコ動画などの場で、生活者自身が「人に話したくなるネタ」を日々生み出しており、企業側もこうした「ネタ」と勝負しなければならなくなっていると説明。場を提供していくという点についても、生活者自身が既にコミュニティの「お作法」をゆるく定めている中に企業側がどう入っていくのか、あるいは用意したコミュニティにどう入ってもらえるかを真剣に考えなければならないとした。
夏野氏は、WOMマーケティングでは、企業から一方的に情報を伝える広告・広報ではなく、生活者と企業が価値やテーマを共有し、共にブランドを作っていく共創関係の輪に入っていくことが重要だと説明。それは普通の人付き合いと同じで、生活者を話し相手として相対する覚悟が必要であり、「成功の鍵は、どのコミュニティがいいとか、ブログがいいとか、インフルエンサーをつかまえろとかいう手法ではない。初対面の人ばかりの中で、『仲良くしてもらえるかな』と思う緊張感と誠意を、企業も持つべきだ」と語った。
クチコミは「期待値とのギャップ」から生まれる | 「ネタ提供」はプロ同士の戦いではなくなった |
生活者と企業が「輪に入ること」が重要と説明 | 成功の鍵は手法よりも緊張感と誠意 |
関連情報
(三柳 英樹)
2009/7/30 16:05
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