「ペッパー警部」「サウスポー」のカラオケ使用料を義援金に、JASRACが基金


JASRAC会長の都倉俊一氏
JASRAC理事長の菅原瑞夫氏

 一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)は24日、定例記者会見を開催し、東日本大震災への対応や、2010年度の音楽著作物使用料の徴収額について説明した。

 東日本大震災への対応としてはまず、被災地域の飲食店やホテル・旅館、カラオケボックス、CDレンタル店、フィットネスクラブにおける音楽著作物使用料について、2011年4月から9月まで徴収しないことを決めた(年間包括利用許諾契約を締結している場合)。JASRACでは、その総額は半年間で10億円程度になるとみている。10月以降については、復興状況を見ながら対応する予定。

 このほか、被災地支援や被災地復興を目的として開催するチャリティコンサートについて、音楽著作物の演奏利用およびチラシなどの出版利用について無償許諾する。

 さらに、図書館が閉館している地域の個人からの求めに応じ、公共図書館が蔵書の複製やメール・ファックスでの公衆送信を行う場合にも無償許諾する。期間は9月までを予定しており、復旧状況により延長を検討する。なお、期間経過後は複製物は廃棄する必要がある。

 音楽著作物使用料を、復興支援のために活用するための「JASRAC震災復興支援基金」も設置した。これは、JASRACの会員・信託者が、作品と利用範囲、期間を指定することで、自分に分配される著作物使用料を寄付できるスキームだ。具体的には、著作物使用料の分配請求権をJASRACに譲渡するか、分配される著作物使用料相当額を基金に寄付する流れ。基金からは国や自治体、日本赤十字社などに寄付するほか、JASRAC独自の復興支援にも役立てるという。

 JASRAC会長で作曲家の都倉俊一氏もこれに賛同。自身の作曲作品のうち「ペッパー警部」と「サウスポー」の通信カラオケでの使用料を、9月分配分から1年間にわたり基金に拠出することを決めた。

 都倉氏によると、この2曲は、同氏の作品において直近の著作物使用料が多いものだという。「東北でも全国でも、ピンクレディーで育った若いお母さんがたくさんいる。若い時を思い出して歌って踊ってもらい、元気を付けてもらいたいという思いもある。カラオケで歌ってもらえれば、(著作物使用料が寄付されるため)被災地支援にもなる」とコメントした。

 JASRAC前会長も務めた作詞家の星野哲郎氏の遺族からも賛同を得ており、楽曲などの詳細を今後詰めるという。賛同者の氏名や作品名はウェブサイトで公開していく予定だ。

 JASRAC理事長の菅原瑞夫氏は、基金のスキームについて、今後3~4年の長いスパンで見た時にJASRACとして何ができるか考えて導入したものと説明する。「JASRACの会員・信託者は、音楽を作るプロの集団。JASRACだからこそできること、音楽による支援を考えて実施していきたい」と強調した。また、「震災直後は放送での広告自粛やコンサート自粛、パッケージの発売延期もあったが、これからは復興に向け、単に悩んで待っているだけでなく、業界含めて動いていければ」とも述べた。

2010年度の音楽著作物使用料、動画サイトが伸び

 演奏や放送、CD、出版、レンタル、インターネット配信など含む音楽著作物使用料は、2010年度は1061億6052万円(対前年度比97.3%)。これに私的録音補償金9339万円(同68.2%)、私的録画補償金3億1047万円(同133.2%)を加えると、徴収額の合計は1065億6438万円(同97.4%)となる。前年度から28億9000万円減少したが、目標額である1036億5000万円はクリアした。

 種目別で見ると、CDなどの「オーディオディスク」が12年連続で減少し、154億4713万円(前年度比91.2%)。「ビデオグラム」はアニメなどが好調だった反面、ゲームソフトやパチンコ機器などでの利用が低調で、164億9283万円(同95.2%)へと減少した。また、有線テレビ放送の入金が2011年度にずれ込んだことも減少の理由として挙げている。

 インターネットによる「インタラクティブ配信」は91億4260万円(対前年度比96.8%)。内訳は、PC向けの音楽配信や着うたフルを含む「音楽配信(ダウンロード)」が46億9145万円(同91.6%)、携帯電話向けの「着メロ・着うた・着ムービー」が19億6504万円(同84.5%)、「音楽配信(ストリーム)」が7億4396万円(同121.4%)、「動画等配信(ダウンロード)」が4億8497億円(同257.3%)、「動画等配信(ストリーム)」が8億2610万円(同107.7%)、その他(楽譜・歌詞の配信、非商用の配信など)が4億3108万円(同99.3%)。

 「動画等配信」には、GyaOなどの動画配信サイトのほか、YouTubeやUstreamをはじめとする動画共有系サイトが含まれる。比率としてはまだ動画配信サイトのほうが大きいが、動画共有系サイトの徴収額が伸びているという。複数の動画共有系サイトとの音楽著作物利用許諾契約の締結が進んだことに加え、レコード会社などによる公式動画配信での利用増加、動画共有系サイト事業者の売上増加とともに使用料も増加しているかたちだ。

 さらに2011年度は、「動画等配信」で2割増の16億円規模を見込んでいる。引き続き動画共有系サイトとの契約締結を進めるほか、今後、映画やアニメなどのダウンロード売り切り方式のコンテンツから著作物使用料を徴収する新しいモデルについて協議中だとしており、規模が拡大する見込み。

 なお、「音楽配信(ダウンロード)」については、PC向けが好調を維持しているが、大手事業者での2010年度の使用料について、処理上の理由により入金が2011年度に持ち越されたために、結果として減少しているという。

 徴収額全体における各種目の構成比を見ると、最も大きいのが「放送等」の25.5%で、2002年度ど比べて8.5ポイント拡大した。一方、2002年度に最多の29.1%を占めていた「オーディオディスク」は今回14.5%で、14.6ポイント減少した。このほかの種目は、「演奏等」が17.8%(2002年度比1.7ポイント減)、「ビデオグラム」が15.5%(同5.9ポイント増)、「インタラクティブ配信」が8.6%(同1.4ポイント増)、その他が18.1%(同0.5ポイント増)。


関連情報


(永沢 茂)

2011/5/24 19:16