ESETのCTOが来日、新製品のロードマップ示す、年内にAndroid版投入


2011年1月にESETのCTOに就任したPavel Luka氏

 ウイルス対策ソフト「NOD32」で有名なスロヴァキアのセキュリティベンダーESETから、CTOを務めるPavel Luka氏が来日し、新製品のロードマップなどを語った。最新版となるバージョン5を年内にリリースする予定だが、Windows版に加え、Mac OS版、さらにはAndroid版も投入する。また、企業向けのDLP市場に参入する考えも示した。

 Luka氏によると、同社ではウイルスを検出する仕組みとしていち早くヒューリスティックエンジンを開発し、1993年までにプログラムに実装。現在、世界中のユーザーにおいて1日30万件の脅威を検出しており、定義ファイルベースの他社ベンダーでは検出できないマルウェアもあるという。

 現在開発中の「ESET NOD32 Antivirus 5」および「ESET Smart Security 5」では、増大する脅威に対応するための新技術として、クラウドベースのレピュテーションの仕組みを新たに導入する。

 Luka氏はまた、ESETの製品開発の哲学として「Detection」「Performance」「Stability」の3点を提示。バージョン5では、いくつかの新技術によって検知率を高めるが、だからといってPCへの負荷が高まり処理が遅くなるわけではなく、検知率とパフォーマンスをうまく最適化できるよう開発した。検知率を保ったままパフォーマンスを高めているとし、社内テストの結果からは、PC起動後のスキャン完了までが、バージョン4と比較して40%高速化されたとしている。


ESETの製品開発の哲学「ESET Smart Security」新旧バージョンのパフォーマンス比較

 「ESET NOD32 Antivirus 5」と「ESET Smart Security 5」は、Windows版を今年の第3四半期に、Mac OS版を第4四半期にリリースする。Windows版はすでにパブリックベータ版が公開されており、Mac OS版も第3四半期にパブリックベータ版を公開する予定だ。

 クラウドベースのレピュテーションの新機能のほか、Windows版では、HIPS(Host-based IPS:ホスト型侵入防止システム)、ゲーマーモード、ペアレンタルコントロールといった機能が示されている。Mac版では、クラウドベースのレピュテーション、HTTP/POP3スキャン、ファイアウォール、ペアレンタルコントロール、GUIの改善という項目を挙げている。

 なお、リリース時期についてはESET本社が想定しているものだ。日本ではキヤノンITソリューションズ株式会社がESET製品を販売しているが、日本語版のリリース時期については別途正式なアナウンスがある見込み。

「ESET NOD32 Antivirus 5」「ESET Smart Security 5」Windows版のロードマップ「ESET NOD32 Antivirus 5」「ESET Smart Security 5」Mac OS版のロードマップ

今後の重要領域は、企業向けとモバイル向け

 Luka氏によると、ESETはこれまでコンシューマー向け市場や、企業向けでもSMB市場では成功を収めているという。一方で、今後重要になる領域としてはより大きな規模のエンタープライズ市場を挙げ、この領域に向けた取り組みが重要であると考えているとした。

 具体的には、エンドポイントの管理機能に改善の余地があるとし、「Remote Administrator」ツールの第2世代製品を開発中であることを明らかにした。現在も企業向け製品では管理ツールが用意されているが、北米市場では1万~10万ユーザーをより簡単に管理できるツールが必要とされているという。第2世代のツールでは、スケーラビリティと機能の強化を図る。

 企業向けの「ESET NOD32 Antivirus」「ESET Endpoint Security」の新バージョンは、Windows版が2012年第1四半期、Mac OS版が第2四半期のリリース予定。

企業向け「ESET NOD32 Antivirus」「ESET Endpoint Security」Windows版のロードマップ企業向け「ESET NOD32 Antivirus」「ESET Endpoint Security」Mac OS版のロードマップ

 エンタープライズ領域ではこのほか、仮想化プラットフォームのセキュリティ強化製品や、DLP(Data Loss Prevention:データ損失防止)分野への製品投入も検討しているとした。ESETのウイルス検知技術をDLPにも応用できると説明している。

 エンタープライズと並んでもう1つの重要領域として挙げるのがモバイル領域だ。特にAndroidについてはオープンな環境であるがゆえにウイルスも作成されているとし、Android版の「ESET Mobile Security」を投入する。

 ウイルス対策、スパム対策に加え、端末紛失時にデータを消去したり、端末の位置を検出する管理機能を搭載する予定。現在ベータ版を配布しており、製品版としては今年第3四半期にリリース予定だ。企業向けの「ESET Mobile Security Business Editon」も2012年第1四半期にリリースを予定している。

個人向け「ESET Mobile Security」Android版のロードマップ企業向け「ESET Mobile Security Business Editon」Android版のロードマップ

共産主義時代は製品を販売できずに友人に配布、現在は世界180カ国へ

 ESETの歴史は、会社設立前の1987年にさかのぼる。その年、ESET創業メンバーでもある2人のプログラマーにより、「NOD」の初期版が開発された。NODとは、スロヴァキア語で「ディスクの端にある病院(Nemocnica na Okraji Disku)」の頭文字。しかし当時は共産圏だったため、製品として販売されず、友人に配っていたという。

 その後、ウイルス対策ソフトの有用性が認識されるようになり、1990年以降は販売体制も確立。1992年に正式にESETとして会社を設立したかたちだ。社名は、エジプト神話の女神「イシス(=アセト)」のスロヴァキア語に由来する。

 現在は、スロヴァキアのブラティスラバに本社・開発拠点を置き、北米の販売拠点となるESET USAが米国(サンディエゴ)にあるほか、英国(ブリストル)、アルゼンチン(ブエノスアイレス)、チェコ(プラハ)などにオフィスを構える。最近では、シンガポールにESET ASIAを設立したほか、カナダ(モントリール)やロシア(モスクワ)にもオフィスを拡大中だという。

 従業員は世界で約700人おり、そのうち約350人がブラティスラバの本社に、約200人がサンディエゴにいる。また、リサーチラボの機能はほとんどが本社にあるが、世界に拡大していくとしており、ポーランドにも20~30人規模でリサーチラボを設けている。

 製品の販売は、本社・支社がある地域以外では現地ディストリビューターと提携して展開しており、日本で現在、キヤノンITソリューションズが総販売代理店となって販売している。

キヤノンITソリューションズの近藤伸也氏(セキュリティソリューション事業部事業部長)キヤノンITソリューションズの崎山氏秀文氏(セキュリティソリューション事業部ESET営業部部長)

 世界各地のディストリビューターの売り上げ規模では、ロシア、ポーランド、日本の3カ国がいつも上位を争っているが、2010年は日本がトップとなり、先日モナコで行われたディストリビューターのミーティングでキヤノンITソリューションズが表彰されたという。Luka氏は、2011年についても「東日本大震災後は売り上げが落ちると考えていたが、維持されている。日本人はタフだ」と語った。

 ESET製品は現在、世界180カ国で販売されており、ユーザー数は1億人以上。2010年の売り上げは1億3700万ユーロに上る。特に中央ヨーロッパの法人向けセキュリティ市場では、ESETがシェア31%を誇り、Kasperskyの23%、Symantecの10%などを上回りトップだという(Gartner調査、2009年度)。

 一方、日本の法人向け市場では、サーバー/クライアント型ウイルス対策ソフトのシェアで、トレンドマイクロの37.3%、シマンテックの20.0%、マカフィーの19.4%に次いで、ESETが10.5%(ミック経済研究所調査、2010年度)。キヤノンITソリューションズによると、2011年2月末時点の国内ライセンス数は約7万9000件で、企業、官公庁、教育機関などで導入されているとした。

ESETは、対日本市場の有力な輸出品

 15日の会見は、東京都内にあるスロヴァキア大使館で行われ、駐日スロヴァキア共和国特命全権大使であるDrahomir STOS氏があいさつした。

駐日スロヴァキア共和国特命全権大使のDrahomir STOS氏

 スロヴァキアは典型的な工業国であり、人口1人あたりの自動車生産台数が世界1位であることを紹介。実は独フォルクスワーゲンの生産拠点があり、対日本への工業製品輸出額ではフォルクスワーゲンが最大だという。そして、それに次いで2位がESETだとして、同社のセキュリティ製品が日本市場への有力な輸出品との位置付けにあることをアピールした。

 また、サムスンをはじめとする韓国や日本の外資も進出しており、IT産業で多くの雇用を生み出しているという。「政府としてはIT分野も伸ばしていきたい。共産体制では伸びる余地のなかったESETのような企業が成長していることをうれしく思う」とコメントした。


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(永沢 茂)

2011/6/16 15:00