日本からのIPv6接続が今後遮断される可能性も? 遅延問題についてISPが議論


セミナーの模様はUstreamでも中継された(Ustreamより)

 社団法人日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)は21日、6月8日に実施された「World IPv6 Day」の総括セミナーを開催した。

 「World IPv6 Day」は、GoogleやYahoo!など多数の企業が参加し、6月8日の24時間に渡って行われたIPv6の大規模試験。日本では、NTT東西のフレッツ光サービス回線を利用している場合に、IPv6対応サイトへの接続が遅くなる問題が発生することが確認されていたため、ISP各社などが対応やユーザーへの注意喚起を行なっていた。

 株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)の松崎吉伸氏は、フレッツサービスで発生する「IPv6-IPv4フォールバック」問題について解説した。

 NTT東西のフレッツ光サービスでは、電話サービスや映像配信サービスなどで利用するためにIPv6アドレスをユーザーに割り当てているが、このIPv6アドレスはフレッツ網内での利用を前提としているため、外部のネットワークには接続できない。一方OS側では、IPv4アドレスとIPv6アドレスの両方が割り当てられている場合にはIPv6接続を優先するため、IPv6によるアクセスがタイムアウトしてからIPv4でアクセスすることになり、ウェブサイトの表示に時間がかかるなどの問題が発生する。

 この問題への対処策としてNTT東西では、閉域網内に存在しない宛先に送信されたパケットに対しては、TCPコネクションをリセットするRSTビットをセットしたTCPパケットを返信することで、早急にフォールバックを行わせるようにしている。TCP RSTが受信できない状況では、Windowsで約21秒、Mac OSで約75秒フォールバックまでにかかるが、TCP RSTを受信することでWindowsでは約1秒、Mac OSでは約0.01秒でフォールバックするという効果があるという。

 これにより、タイムアウトまでの時間は短縮されるが、TCP以外のプロトコルでは動作しないという問題があり、またWindowsの約1秒という遅延も許容範囲と言えるかどうかが論点となるとした。

IPv6によるアクセスが失敗した後、IPv4でアクセスすることから遅延が発生する「IPv6-IPv4フォールバック問題」(Ustreamより)TCP RSTパケットを送信することで、フォールバックを早める対策が行われている(Ustreamより)
TCP RSTにより、Windowsでは約1秒、Mac OSでは約0.01秒でフォールバックする(Ustreamより)TCP以外のプロトコルへの対応や、Windowsでは依然約1秒ほど遅延することが論点に(Ustreamより)

 日本マイクロソフト株式会社の田丸健三郎氏は、この問題に対するマイクロソフトとしての見解を説明。マイクロソフトでも、World IPv6 Dayの実施にあたっては日本のユーザーの0.1%以上に問題が発生する可能性があると見積もり、MSNやBingなどのサイトでユーザーへの周知を実施したが、当日のユーザーサポートへの問い合わせ状況などからすると、「特に何も起こらなかった」と言っていいレベルだとした。

 大きな問題が発生しなかった理由としては、TCP RSTによる対策や、ISP側でもIPv4によるDNSへの問い合わせにはIPv6アドレス(AAAAレコード)を返さない「AAAAフィルター」と呼ばれる対策を実施していたことなどで、ユーザーは特に問題に気付かなかったのではないかとした。

 一方で、「これで日本でもWorld IPv6 Dayは成功だったと言えるだろうか」と疑問を投げかけ、AAAAフィルターのような対策はむしろIPv6への移行に逆行するもので、短期的には有効な対策だとしても、永続的に取るべき対策ではないと考えていると説明。「ユーザーが気付いたらIPv6を使えるようになっていた」となるのが理想的な解決策で、そこに向けて実施可能な対策を技術者以外も含めて議論していくことが必要だと語った。

マイクロソフトでも日本のユーザーにWorld IPv6 Dayに伴う問題の周知を実施(Ustreamより)結果的に大きな問題は発生しなかったが、成功だったと言えるかは疑問だと説明(Ustreamより)

遅延問題が続けば、日本からのIPv6アクセスは遮断される可能性も

GoogleのLorenzo Colitti氏(Ustreamより)

 GoogleでIPv6対応を進めているネットワークエンジニアのLorenzo Colitti氏は、World IPv6 Day当日に観測されたデータを紹介した。日本からのアクセスでは、1.4%のユーザーがIPv6アドレスを持っており、フランスに次いで世界で2番目に高い割合だったが、そのうち33%のユーザーにIPv6による影響が見られたと説明。特に、IPv4のみの環境に比べて平均0.87秒の遅延が観測されたことが日本特有の現象で、IPv6-IPv4フォールバックの影響が見られるとした。

 Colitti氏は、IPv6-IPv4フォールバックが起きる実験環境を用意し、Windows 7上のFirefox 7でサイトの表示にかかる時間を計測した結果を紹介。IPv6環境ではGoogleのホームページは1.5秒で表示されたが、IPv6-IPv4フォールバックが起きると表示には3.5秒かかり、GmailやYouTubeなど他のサービスでも1.1倍~3倍程度表示に時間がかかるというデータを示した。また、Windows 7上のInternet Explorer 9で行った実験でも、同様の傾向が見られたという。

 一方で、今回の「World IPv6 Day」を受けて、2012年6月には「World IPv6 $NEXT」としてさらに大規模なイベントが予定されており、このイベントを機に、Googleを含む多数のサイトがIPv6への対応を今後永続的に行うことを検討していることから、問題がさらに拡大する可能性を指摘。こうした状況への対策としては、短期的にはフレッツのホームゲートウェイなどでAAAAフィルタリングを行うことや、ウェブサイト側でもAAAAフィルタリングを行うことが考えられるとした。

 Colitti氏は、特に日本のユーザーに遅延の影響が見られる現状では、多数のサイトが日本のユーザーに対してIPv6によるアクセスを利用不能にする可能性があると説明。ただし、こうしたフィルタリングによる対策は問題を緩和しても解決するものではなく、長期的にはISPがIPv6接続サービスを提供することが最良の解決策だとした。

日本からのIPv6アクセスに特有の現象として、平均0.87秒の遅延が観測された(Ustreamより)2012年6月にはより大規模な「World IPv6 $NEXT」が予定されている(Ustreamより)
Windows 7上のFirefox 7による実験結果(Ustreamより)Windows 7上のInternet Explorer 9による実験結果(Ustreamより)
影響が続けば、日本からのIPv6アクセスは利用不能にする可能性があると説明(Ustreamより)IPv6接続サービスの普及など、長期的な対策の必要性を訴えた(Ustreamより)

 NECビッグローブ株式会社(BIGLOBE)の南雄一氏は、BIGLOBEではISPとしてAAAAフィルターの対策を取ったことで、フォールバック問題の発生数は約10分の1に減り、絶大な効果があったと説明。一方で、ISPとしてAAAAフィルターを実施することは、不具合時の問題切り分けが複雑になることや、IPv6利用者に対してはオーバーブロッキングになることなどから、「効果は高いが、本来は適用すべきでない対策」だとして、フィルターをIPv6非利用者だけに確実に限定して実施できる仕組みを作ることなどが急務だとした。

 また、コンテンツ事業者としての立場からは、フォールバック問題は依然として約1%の割合で発生しているため、コンテンツ配信や広告事業の観点からは安心してIPv6には踏み切れない状況だと説明。このため、BIGLOBEのトップページも現状ではIPv6には非対応となっているとした。

 南氏も、来年に予定されているWorid IPv6 $NEXTに触れ、ウェブ以外のサービスもIPv6対応を行う可能性や、フレッツ光でもIPv6接続サービスの提供が開始されたため、ISP側で一律にAAAAフィルターをかけるといった対策も困難になっているといった状況の変化もあることを紹介。恒久的な対策としては利用者にIPv6接続サービスへの移行を推進することだがすぐに普及するものではないため、フォールバック発生の可能性がある利用者のみにAAAAフィルターを適用する仕組みなど、フォールバック問題を抑制する手段の確立が必須だとして、「一社だけで解決するのは困難。日本全体の問題と捉え、皆さんで協力して進めましょう」と来場者に呼びかけた。

AAAAフィルターによりフォールバック問題は10分の1に改善(Ustreamより)AAAAフィルターは効果は高いが、本来は適用するべきではなく、適切な仕組み作りが必要(Ustreamより)
コンテンツ事業者としては、現状では安心してIPv6に踏み切れない(Ustreamより)ユーザーのIPv6接続サービスへの移行と、適切なフィルターの仕組み作りが必要(Ustreamより)

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(三柳 英樹)

2011/11/22 06:00