特別企画

IoT技術者を目指す人の資格を取ろう「MCPC IoTシステム技術検定」

 近年、IoTシステムを活用して産業分野における生産性の向上、業務の効率化、サービス品質の向上や、社会インフラの安全確保などが進展しています。IoTは各種センサやスマートフォンなどから収集したデータの加工・分析などによって、製造業における設備の故障予測、製品品質の確保、農業の近代化や農作物の収量増、環境の管理、医療画像の処理、判断などさまざまな分野に適用されつつあります。一方で、遊休の資産をシェアして効率的に活用するシェアリングエコノミーなどの新たなビジネススタイルも生まれています。

 このようにIoTをうまく活用してシステム構築するためには、IoTの捉え方を明確に理解し、IoT全体を俯瞰できる幅広い技術を習得することが重要です。また、このような技術の幅、広範な知識を有する人材が多くの職場で求められています。

「MCPC IoTシステム技術検定」について

MCPC IoTシステム技術検定の背景

 「MCPC IoTシステム技術検定」は、MCPC(モバイルコンピューティング推進コンソーシアム)がIoT技術者育成を目的として実施する検定です。

MCPC IoTシステム技術検定の狙い

 「MCPC IoTシステム技術検定」は、IoTを活用して新たなサービスやビジネスを創出する方々のための資格制度です。対象としては、IT/ICT業界はもとより、製造業、医療、農業、建築・土木業、流通業、交通、金融などあらゆる産業にわたって、技術者をはじめとした幅広い職種の方々を対象としています。本検定では、センサ/アクチュエータ、通信技術、データ分析技術、セキュリティ対策などの、IoT導入・構築・活用にあたっての共通、かつ必須の技術を取り上げています。

MCPC IoTシステム技術検定の体系

 「MCPC IoTシステム技術検定」は、基礎、中級、上級の3段階で構成されます。各検定のレベルに応じた習得技術の内容、習得した技術により実務に適用できる技術レベルを表1に示します。MCPC では、IoTシステム事例集、各種講習会・セミナーを通して、継続的に関連情報を提供しています。ここでは基礎について記載します。

基礎

  • IoTに関する基礎知識を保有していることを認定
  • IoTに関する基礎用語の理解、IoTシステム構築、各構成要素の概要を理解
  • IoTシステム全体の構成、用語を理解でき、IoT に取り込むことができるレベル

 以降で検定のテキストから抜粋したものを掲載します。参考として御覧ください。

IoTの概要を知る

 モノとインターネットをつないでさまざまなサービスを提供するIoT(Internet of Things)の実システムへの展開が進んでいます。IoTでは、各種センサなどから集めたデータをクラウド上のサーバにビッグデータとして蓄積します。このビッグデータを使って機械学習などの分析ソフトが学習し、データの分類やデータ分析による予測などのサービスを提供するモデルを構築することができます。

 IoTと、ビッグデータ/人工知能との関係を明確にし、収集されたデータがどのような処理フローを経て、サービスに結び付けることができる仕組みを理解します。IoTシステムの例として、ドイツが提唱している第4 次産業革命、製造業におけるIoT、また、新たな事業分野を創出したシェアリングエコノミーの例として、UberやAirbnbなどを取り上げて、その仕組みを説明します。

IoTの本質とは

 あらゆるモノをインターネットにつなげることにより、新たな価値の創出を図るIoT(Internet of Things)が広まっています。IoTにはいろいろな解釈や考え方があり、IoTへの取り組み方もさまざまですが、IoTの本質を見極め、効果的にIoTを活用することが重要です。IoTを活用して、産業構造、企業の仕組み、個人のライフスタイルなどを大きな変革に導く可能性も高まってきます。IoTを取り巻く大きな流れを捉えて、IoTを効率よく活用するための基本的な考え方を概観します。

IoT出現の背景

 AI(Artificial Intelligence:人工知能)がいろいろな場面で活躍しています。AIによる機械翻訳、画像検索や、音声認識による音声アシスタントなどの便利なツールが身の回りにあふれています。AIの歴史は古く、現在、第3 次AIブームといわれています。

 第1次AIブームは、1960年代に起こりました。人間の脳の機能をコンピュータで実現しようという試みでしたが、期待に応えられず低迷します。いったん低迷したAIブームは、1980年代のエキスパートシステムを中心とした第2次AIブームで再び盛り上がります。エキスパートシステムは専門家の知識をもとに推論計算により問題解決しようというアプローチでした。しかし、人間の知識のデジタル化の困難さ、コンピュータ処理能力の不足などもあり大きな進展は望めませんでした。

 その後、2012年にコンピュータで画像認識をする国際コンペティションで、カナダのトロント大学のチームが深層学習(ディープラーニング)を使って圧倒的な認識率を達成し、これが転換点となって第3次AIブームを迎えています。第3次AIブームでは、クラウド環境でのコンピューティングの進展や、ビッグデータにより大規模なデータを学習データとして使用できる環境が整ったことも、AIがブレークした要因として挙げられます。

 このようなAIの展開を契機として、いま、さまざまな分野でビジネスモデルが変わろうとしている変節点にあるといえ、世界規模でのIoTの推進、各企業のIoTへの取り組みの強化、IoTを生かした新たな技術やアイデアなどが、超高速で展開しています。

IoT・BD・AIの関係

 IoTに関連する重要な要素として、BD(Big Data:ビッグデータ)、AIがあります。これらの関係はどうなっているのでしょうか。その関係を図1に示します。IoT、BD、AIは以下のような相互の関係を持ちながら、高速に成長していると考えることができます。

図1:IoT・BD・AIの関係

① IoTでセンサからの大量のデータを集めることが容易にできるようになりました。また、スマートフォンなどを使用してSNSや画像共有サイトなどによりWeb上に画像、音声、テキストなど、大量のデータが氾濫し、またそれらの保管、加工などができる技術や環境が整ってきています。

② 集められた大量のデータは、コンピュータの処理能力の飛躍的な向上、仮想化技術などの技術的な進歩、画像や音声などの非構造化データを扱えるデータベース技術などを背景として、BDを扱えるようになりました。一方、AI分析、特に機械学習においては大量のデータを必要とします。クラウド上のBDを活用してAI分析(機械学習)は急速に学習能力を高めています。

③ AIで分析されたデータは、IoTを構成するロボットの駆動や、欲しい情報・予測値などの情報をIoTにフィードバックします。フィードバックすることにより、さらに精度の良いデータを効率よく収集できます。

 このようなIoT、BD、AIのサイクルは、収集したデータを「価値あるデータ(情報)」に変換する仕組みであり、データを価値に変えるデータ循環、データ駆動によるモデルといえます。

IoTのビジネスへの展開

 図1に示したIoT、BD、AIのデータ循環だけではマネタイズするのが困難です。この循環から得られる価値あるデータをうまくマネタイズする必要があります。すなわち、AI分析で得られた価値を、予測情報や製品の付加サービス、あるいは新たなサービスとして提供できる形にする仕組みを構築する必要があります。

技術トレンド上にあるIoT

 IoTシステムを構築するに当たっては、IoT特有の仕組みやデータの効果的な使い方など留意する点はありますが、コンピュータシステムの構成という点では、特段IoTだから従来のシステム構成とは異なっているということはありません。技術トレンドに沿って、その時々で活用できる技術を組み合わせることにより、最適なシステムやサービスを提供することが重要であり、IoT においても幅広い視点で技術のトレンドを見極め、サービスに結び付けることが重要となります。本節では、コンピュータ技術の付加価値がどう変遷してきたか、IoTでは何を付加価値とするのかを見ていきます。

付加価値はどこにあるか?

 コンピュータ技術により提供される付加価値は、図2に示すように技術の進歩に合わせて変遷してきました。コンピュータが登場した時点では、コンピュータのハードウェアそのものが高額なこともありハードウェア(H/W)中心、中央集中処理が中心でした。次に処理の分散を図ったC/S(クライアント/サーバ)システムでオープン化に向かい、1990年代半ばより一般ユーザに広まったインターネットの普及、そして、2000年代はユビキタスコンピューティングの考え方に基づき、スマートデバイスなどによるモバイルコンピューティング環境が整いました。2010年代になり、M2M、CPSなどのキーワードに代表されるデータ有効活用への流れを経て、いまIoTの時代を迎えています。

 M2Mは、人間の介在なしに機械同士が通信しあって自律的に制御するシステムのことをいいます。必ずしもインターネットを前提としているわけではありません。一方、IoTはオープンを特色とするインターネットを介してあらゆるモノがクラウドに接続され、モノから収集したデータを分析して活用する仕組みといえます。またCPSは、クラウド等の上に構築された仮想的な空間(Cyber)と、工場などの現実の空間(Physical)とを、データを循環させて効果的に融合させる仕組みといえます。

図2:付加価値の変遷

革新的ブレークスルー

 技術トレンドにおいては、新規の技術、新しいビジネスモデルなどが引き起こす革新的なブレークスルーにより、技術の流れが大きく変わります。例えば、革新的なブレークスルーとして次のようなものがあります。

① インターネットの普及
古くは軍事目的で生まれたインターネットは、Microsoftの1995年のWindows 95の発売などを契機に企業内での使用だけでなく一般ユーザにも広まり、データの取り扱いにおける時空間の制約から解放したといえます。また、双方向の通信ができることにより応用分野も広がりました。

② スマートフォンの普及
2007年にAppleから発売されたiPhoneは、生活スタイル、ビジネススタイルを大きく変え、社会へ大きなインパクトを与えました。「いつでも、どこでも」使えるコンピューティング環境により、それまでの業界の枠組みを超えて新規のビジネスモデルが生まれています。例えば、コンパクトデジカメ、ビデオカメラ、ゲーム機、カーナビ、POSレジ、電子書籍リーダーなどの機器が、スマートフォンで代替できるようになり、業界を越えて機器の統廃合、業界間の技術やデータの新たな組み合わせによる動きが活発化しています。

③ 第3次AIブームとIoT によるビジネスモデルの変革
上記のインターネット技術やスマートフォンの普及と、さらに、高度化が進む機械学習などのAI 技術、小型化・低価格化が進むセンサ技術などを背景として、ビジネスモデルの変革が加速されています。また、世界規模を前提としたマーケットと、国境を越えた大規模データの収集が可能になったことも、変革加速の要因の1つと考えられます。

IoTにおける付加価値は?

 コンピュータ処理能力の向上、機械学習などのAI分析環境の充実、サーバ仮想化技術、ネットワーク仮想化技術、分散処理技術、センサ技術の進展などにより、さまざまなデータの扱いが容易となり、データに価値を付加することが容易にできる時代となっています。さらに、大量のデータをもとにデータを有価値化するIoTが産業の構造を変えようとしています。

 IoT に取り組むに当たっては、業界、分野をまたがった技術やデータの組み合わせにより新たな価値を創出できることから、幅広い技術、知識に基づく組み合わせ技術が必要であること。また、技術のライフサイクルが短くなっていることから、技術トレンドの変化を素早く読み取り、新たなサービスに結び付けることが重要となっています。

データの価値を最大限に引き出すIoTの仕組み

 IoTシステムでは、データをうまく活用することがシステムを効果的に稼働させるための鍵の1つとなっています。本節では、IoTを使ってビジネスを展開するに当たっての基本的な仕組みについて解説します。基本は、データをどのような処理の流れの中で効率よく扱い、価値あるデータに変えていくかという点です。

データ中心のIoTシステム

 基本的なIoTシステムの構成は、現実の世界から収集したさまざまなデータを、クラウド上のサイバー空間に保管、蓄積して分析し、分析結果を現実の世界にフィードバックするCPS 構成をしています。この現実の世界とサイバー空間の関係を示したのが図3です。この両者の橋渡しをするのが、図に示すデータゲートウェイ(データの通り道)となります。IoT では、データを中心にしたデータ駆動型のシステム構成が基本となり、データを効率よく収集することが必要です。効率よくデータを収集するために、図に示すように、例えば、工場内の機械に取り付けられたセンサ、スマートフォン、クルマなどの現実世界からのデータを集約して、クラウドにデータを上げるデータのゲートウェイが重要になります。

 各分野のデータを大量に収集し、分析結果をサービスに変える仕組みはいろいろあります。収集するデータの種類は、例えば、購買履歴、映像データ、テキスト、Web の閲覧履歴などさまざまな分野におよんでいます。収集されたこれら大規模データを分析することにより、商品のおすすめ情報を提供したり、画像検索や個人向けの広告を出したりすることが可能となっています。

図3:現実の世界とサイバー空間

IoTシステムを構成する基本要素

 ここでは、標準的なIoTシステムの物理的な構成について説明します。IoTシステムを構成する主要な構成要素の役割と具体的な構成例を見ていきます。

IoTシステム構成

 標準的なIoT システムの構成を図4に示します。基本は、IoTデバイス、IoTゲートウェイ、IoTサーバの3つの要素より構成されます。IoTデバイスでセンサデータなどを収集し、そのデータを使ってクラウド上のIoTサーバでデータ蓄積、分析などを行います。分析の結果から得られたデータはIoTデバイスにフィードバックし活用します。IoTシステムをCPS に対応して考えると、IoTデバイスが「現実の世界」、IoTサーバ/クラウドが「仮想的な空間」に相当します。

 この中間に位置するのがIoTゲートウェイです。ゲートウェイは必ずしも必要ではなく、システムの構成、データのトラフィック量、データ集配信の間隔などにより、使用するかどうかを判断します。IoT ゲートウェイが有効なのは、例えば、センサから送られてくるデータを都度サーバに送信するのではなく、いったんゲートウェイに蓄積しておき、まとめて送信する場合などに有効に働きます。

図4:標準的なIoT システム構成

IoTの検定を受けるなら「MCPC IoTシステム技術検定」

 この記事では、MCPC IoTシステム技術検定とはなにか、また検定におけるテキストの抜粋を掲載しました。

 実際に、検定を受検するにあたり詳細は、モバイルコンピューティング推進コンソーシアムのウェブサイトにある以下の情報を参照してください。

書誌情報

タイトル:IoT技術テキスト基礎編 [MCPC IoTシステム技術検定基礎対応]公式ガイド
監修  :モバイルコンピューティング推進コンソーシアム 岡崎正一
定価  :印刷書籍版2500円(税別)
     電子書籍版2250円(税別)
ISBN  :9784295002468
発行  :株式会社インプレス

岡崎 正一(モバイルコンピューティング推進コンソーシアム)

 1975年3月東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。同年三菱電機株式会社入社、基本ソフトウェア開発、ネットワークシステム開発等に従事。主な著書『UNIX -基本操作から実践活用まで-』、翻訳『PCパーフェクトガイド』等。2012年より、MCPC(モバイルコンピューティング推進コンソーシアム)。電気学会会員。日本工学教育協会会員。技術士(情報工学)。