特集
確定申告に「自作Excel帳簿」のデータを活用、会計ソフトで「e-Tax直接送信」までやってみた
個人事業主・青色申告e-Taxへの道<後編>
2020年3月4日 11:00
青色申告で「65万円控除」を目指す個人事業主がつまずきそうなポイントを解説する特集、その後編をお届けする。前編のまとめに書いたとおり、確定申告初心者であっても「会計ソフト」さえ導入していれば、青色申告はカンタンだ。今回は、もう少し具体的な内容に迫ってみよう。
また、後半では、税金にまつわる話題として、2023年10月スタートの新制度にも触れたい。経営規模の小さな個人事業主でも、消費税との付き合い方がだいぶ変わることになりそうだ。
これは使える! 取引記録を「Excel」でインポート
筆者にとっての青色申告は、令和元年分(2019年1~12月分)の申告を行う今回で通算3回目。これまでは「やよいの青色申告 オンライン」を使っていたが、比較のために今回は「freee」のクラウド会計ソフトをチョイスした。
どんな会計ソフトを使うにしても、基本となるのは「日々の取引の記録」――これに尽きる。仕事現場へ行くために電車賃を払った、備品を買った、仕事用に契約している携帯電話の料金を銀行口座から自動で引き落とす等々、お金の流れをつぶさに記録し続けていさえすれば、確定申告を円滑にこなすことができる。
逆説的にいえば、この記帳こそが本当に大変なのである。最近だとスマホアプリを使って隙間時間に入力したり、銀行口座の明細を会計ソフトと自動同期させるといった方法もあるため、ハードルが下がってはいる。
ただ筆者の場合、白色申告の時代から10年近く、「自作したExcelシートに取引を記録する」という方法をとってきた。簡単な集計はできるし、OneDrive経由でマルチデバイスからの編集も可能なので、白色申告には十分な方法だったのだ。
しかし青色申告だと、作成すべき帳簿が増えるため、この方法ではムリ。そこで従来のExcel記帳は続けつつ、確定申告の時期になると手動で転記する方法にした。「青色申告はカンタンだ」と言いつつも、この作業だけは本当に大変で、1つ1つ確認しながら、それこそ2~3日がかりで行っていた。
もちろん、過去のしがらみなくゼロから会計ソフトを使う人であれば、こんな手間は発生しない。特にクラウド型会計ソフトを選択していれば、電車で移動している際にスマホからチョイチョイっと記帳してしまえばいい。
とはいえ、やはり汎用性などを考えてExcelに取引を記録したいという人もいるはず。そこでオススメしたいのが、インポート機能だ。
freeeの場合、ExcelもしくはCSV形式のデータファイルを取り込む(インポートする)機能が備わっている。調べたところ、「やよいの青色申告 オンライン」「マネーフォワード クラウド会計」にも同様の機能があるが、対応フォーマットの幅広さなどの観点では、freeeがかなり優位なようだ。
freeeでのインポート機能については、ヘルプを見るのが一番早いが、筆者の場合は「支出データをfreeeに取り込む」というメニューがピッタリだった。項目が「発生日」(要は日付)、「金額」だけ、あとはデータがズラッと並ぶようなごくシンプルなExcelデータでも、読み込めてしまう。
細かいところでは、ブラウザーからExcelファイルをアップロードしたあとに、「A列は日付」「E列は金額」などのように柔軟な取込設定ができるのが二重マル。freeeの無料アカウントでも、制限付きながらインポート機能を利用できるので、とにかくまず、手元のExcelファイルで試してほしい。それでもし読み込めなければ、コピー&ペーストでインポート用のExcelファイルを作るのもアリ。筆者は実際にそうした。
このインポート機能のおかげで、データ登録時間をグッと節約できた。体感としては、それまで完全に2日間はかかっていた転記が半日で済んだかも、というほど(あくまで個人の感想です)。まさに“神機能”だ。
……そもそも青色申告は「複式簿記」という仕組みが原点となっており、白色申告の「単式簿記」に比べて複雑で、より多くの書類を作らなければならない。
しかし会計ソフトを使えば、ほぼ白色申告と同様の取引記録で、複式簿記のための書類・帳簿をほぼ自動で作ってくれる。これが会計ソフトの真髄――というわけである。
いざ、「確定申告」スタート
こうして300件超のデータ入力を短時間で終わらせることができたので、続いては年に一度の締め作業。確定申告に必要となる氏名、住所、マイナンバーなどを入力していく。また、個人事業主の場合、国民年金・国民健康保険に加入しているだろうから、支払った保険料を登録すれば、その分だけ所得額が減算され、税金も安くなるので忘れず登録する。
freeeの場合、トップページのメニュー上部から「確定申告」→「確定申告書類の作成」を選び、あとはフォームの質問事項に従って追加入力を行っていく。ここの数値を入力するにあたっては、役所から送られてくる「控除証明書」などが必要なので、ご注意を。
また、これも個人事業主に多いが、取引先から報酬をもらうにあたって税金の「源泉徴収」がされているかもしれない。税金に相当すると見込まれる額が、あらかじめ減額されて支払われるのが源泉徴収だ。年によっても変わるが、10%前後引かれている。10万円の仕事だと、1万円が源泉徴収され、9万円の現金が支払われるといった感じだ。
ただし、年収100万円の人と、800万円の人では、所得税の税率が最終的には違ってくる。1万円のうち8000~9000円程度は“税金の払いすぎ”になる可能性が高く、これを返してもらうのが確定申告の大きな意義。これがつまり“還付”である。
この源泉徴収額の証明となる「支払調書」は、取引先から年1回(1月下旬ごろ)、郵送されたり、最近だとPDFで電子的に送られる場合もあるようだ。また、取引額が極めて少額な場合には、発行が省略されることも。なので、月々の支払いを受けるときの支払い通知書もしっかり整理して、源泉徴収額を見逃さないようにしたい。
まだまだ煩雑な「e-Tax」、とにかく準備が多い!
こうしてfreeeを使いこなすことにより、事業体としての収益状況を示す「青色申告決算書 (一般用)」、そして個人としての保険料・医療費などが勘案された「確定申告書B 第一表」「確定申告書B 第二表」が完成する。これらを税務署に提出すれば、晴れて「申告完了」となる。
提出方法も複数あり、ここからあえて書類を印刷して郵送することもできる。ただ今回は、freeeから直接、国のe-Taxへと電子的に送信してみた。
e-Taxは技術上の仕様制限が多く、サービスサイトへのアクセスがWindowsの場合はMicrosoft Internet Explorer 11およびMicrosoft Edgeだけに制限されていたりと、とても使いやすいとはいえない。その点、freeeのような民間サービスから直接送信できれば、相当ラクができそう……と、期待していたのだが、まだまだ難点も多いというのが、申告を終えての本音である。
まず、e-Taxであろうがfreeeであろうが、「マイナンバーカードをWindowsで読めるようにする」までのソフトウェアセットアップ手順は、それほど変わらない。
具体例を挙げてみよう。筆者が使っているICカードリーダー(マイナンバー読み取り用)は、ソニーの「RC-S330」。だいぶ前に販売が終了しているが、ドライバーの提供は続いており、今回もなんとか利用することができた。
まず、RC-S330をセットアップするために「NFCポートソフトウェア」をインストールする。これで基本的な機能は動くのだが、e-Taxを利用するためには「PC/SC アクティベーター for Type B」がさらに追加で必要になる。これらのソフトは、ソニーのウェブサイトからダウンロードする。
しかし、これで終わりではない。今度は「公的個人認証サービス ポータルサイト」へ行き、「利用者クライアントソフト」をダウンロードする。名前が地味すぎて区別が付きづらいうえ、いざインストールすると、以後は「JPKI利用者ソフト」という表記が前面に出てくる。
このあたりの係り受けはよく分からず、インストールの順番が違ったり、インストール中にICカードリーダー本体を接続したままだと挙動が不安定だったり、とにかく煩雑なのだ。億劫でも、インストール前にガイド記事をよく読んでおいたほうがいい。
また、freee内での手続きの中で、やはりfreeeでe-Taxを利用するための専用ソフトウェアをダウンロードすることとなる。
パスワードは「いろいろ」ある! 数回間違えたら、役所に行ってリセット必須
そして、e-Taxの利用には16桁の「利用者識別番号」を国税庁のウェブサイトなどを通じて入手しておかなければならない。組み合わせとなる「暗証番号」という名のパスワード(英小文字と数字の組み合わせが必須)も設定する。
当然、マイナンバーカードも作っておかなければならない。ウェブで手続きしても発行には約1カ月かかる。また、e-Tax的には、マイナンバーカード内に保存されている電子証明書が重要で、やはり利用のためのパスワード設定が必要となる。
そして最も怖いのが、マイナンバーカード内電子証明書のパスワードを3~5回連続で間違えるとロックされ、回復させるためには市役所・町役場の窓口に足を運んでパスワードをリセットしてもらわなければいけない。
年度末を控えたこの最中、パスワードロックが発生するともう目も当てられない。筆者は住基カード時代に1回、このミスをやらかし、顔面蒼白になった。くれぐれも注意してほしい。
freeeの画面の指示に従って書類を送信しようとするとき、パスワードを入力する場面がいくつかあるのだが、メッセージを読んだだけでは「マイナンバーカードのパスワードなのか」「利用者識別番号の暗証番号なのか」分かりづらい場合がある。このあたり、freeeの申告用アプリもまだ完璧とはいえない印象だ。
最悪、調子に乗ってパスワードを何度も入力し直していると、ロックがかかってしまう。あくまで2つの違うパスワードを使い分けなければならないことを、念頭においておこう。
なお、e-Taxの書類送信にかかる時間はものの数秒~十数秒。正しく提出されたか確認することもできるので、郵送より圧倒的に快適だ。
ここまで記事を読み進めた方の中には「こんなに面倒ならやりたくない!」と思う人がいても当然。しかしそれでも、郵送・窓口訪問での申告が当たり前だった時代からは、相当便利になった。
「電子申告」または「電子帳簿保存」で、控除に10万円の差
e-Taxの利用をオススメするには、ほかにもまだ理由がある。その1つが、前編でも触れた「青色申告特別控除」の控除額変更。令和2年分の確定申告(来年2021年2~3月に申告)では、それまで65万円だった青色申告特別控除額が10万円減り、55万円となる。つまり、節税効果が減る。
ただし「e-Taxによる申告(電子申告)又は電子帳簿保存」を行えば、同控除は65万円のままとなる。複雑になるので詳細は省くが、同年からは「基礎控除」の額が全員10万円増えて48万円になるため、むしろ全体での控除額はトータルでは増えるのだ。青色申告するなら、(いろいろ文句も書いたが)e-Taxを使わないと実にもったいない。
想像以上に大きな影響? 2023年10月「インボイス」制度が始まる
さらにその先には、白色申告・青色申告どちらを選択する層にも、極めて大きな制度変更が予定されている。「インボイス」という制度について、聞いたことはないだろうか?
日本では2023年10月1日から、インボイス制度――正式名称「適格請求書等保存方式」が導入される。8%・10%という2つの消費税率が設定されている状況を踏まえ、企業・業者間取引においてやりとりされる請求書において、記載すべき要件が増えることになる。それが「適格請求書」である。
適格請求書では、軽減税率の適用状況などを明示する一方で、「適格請求書発行事業者の登録番号」の記載が絶対条件となる(参考:弥生のウェブサイト)。
この登録番号を取得するには、消費税の課税業者(消費税を納付している業者)でなければならない。一方、売上が年1000万円以下の事業者は、消費税の納付義務のない免税事業者であることが多い。特に個人事業主は免税業者の可能性が高いだろう。
しかしインボイス制度スタート後は、消費税課税事業者は、例えば外部からの仕入れの際、登録番号が記載された適格請求書でなければ、その支払った消費税分を自身の会計額から控除できない。
つまり、経営規模の大きな会社は、適格請求書以外の請求書を受け取りたがらなくなるのではないか。ひいては、消費税が免税されている小規模個人事業主との取引を拒否したり、排除するようになる恐れがあるのだ。
これを聞いて、「えっ」と思う個人事業主は多いだろう。自身の事業規模は小さくても、取引先は出版社・IT会社・ソフトウェア会社など、それなりに大きなはず。つまりは、適格請求書を欲しがるだろう。
かといって、現在は免税の個人事業主が、登録番号が欲しいがために、たった3年後までに消費税の課税業者になれるのだろうか。消費税を計算するための会計処理もしなければならないし、消費税を納付する以上、手元に残るお金は減ってしまう。しかも今の消費税は「10%」。3%の時代とはわけが違う。
当然、移行措置などはあるが、やはり経営規模の小さい個人事業主には心配が尽きないところだ。
個人事業主の確定申告、そろそろ会計ソフトが“必須”かも?
このように、個人事業主をめぐる税金の話題はしばらく尽きることがなさそうだ。節税のためには青色申告が必要で、そして会計ソフトが欠かせない。ましてや令和2年分(2020年1~12月分)の確定申告(2021年2~3月に申告)からは、条件がやや厳しくなるとはいえ控除を増やすチャンス。白色申告からの切り替えには絶好の機会だろう。
インボイス制度については、その全貌が判明しきってはいないが、仮に消費税の納税業者になるとして、その計算を行うためにはやはり会計ソフトが事実上不可欠。最近では、会計ソフトが請求書発行機能をオプション的に用意しているケースも多く、インボイス対策の有力手段にもなり得る。
ただ、返す返すも、青色申告に新たにチャレンジするかどうかは、まさに今、3月上旬締切で検討してほしい。今年3月15日までに手続きを行わなければ、2021年2~3月のタイミングでの青色申告がどうしたってできなくなる。青色申告承認申請書を提出し、申告スタイルはそのまま、10万円控除を狙うのも1つの手。変わりゆく税制に興味を持つための“予習”の手段として、会計ソフトの利用可否を検討してみてほしい。