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会計ソフトがあれば「青色申告」は難しくない

個人事業主・青色申告e-Taxへの道<前編>

 個人事業主の節税手段として、よく知られている「青色申告」。いろいろ面倒そうなイメージがあるが、令和2年分(2020年1月~12月)の確定申告(2021年2~3月に申告)から仕組みが変わり、税額の計算にも影響を与えそうだ。今からどんな備えをしておくべきか、詳しく解説する。

令和元年分(2019年)の確定申告がスタート、個人事業主は何をすべきか?

 毎年2~3月は確定申告のシーズン。会社勤めで毎月給料をもらっている方の場合、例えば家族が入院して医療費がたくさんかかったり(概ね10万円以上)、住宅ローンを組んで家を買った場合などに、所得税の還付(払い過ぎていた分を返してもらう)手続きを行うことになる。

確定申告シーズンがいよいよ本格スタート。今年(令和元年分)は3月16日が締め切りだ(画像は国税庁のウェブサイト)

 では、給料ではなく、フリーランスのプログラマーやデザイナーなど、会社に属さず個人で仕事をし、作業料などのかたちでお金を稼いでいる人はどうだろう? また、会社を作らずに個人で飲食店を切り盛りする場合は?

 こうした形態で働く人々は「個人事業主」と呼ばれるが、やはり確定申告を行わなければならない。2019年1月1日~12月31日の間に発生した経費や収益を計算し、支払うべき所得税を「確定」させ、国税庁(税務署)に申告するのが、今まさにこのタイミングというわけだ。

 個人事業主による確定申告は、なかなか骨の折れる作業である。日々帳簿を付けているならそこまででもないが、経費の領収書をほったらかしにしているともう大変。 判型がバラバラの帳票をそろえ、合計額を計算し、所定の書類に書き写す。また、「交通費」「消耗品費」「通信費」のような形式で項目を分類する必要もある。恐らく、作業をするうちに「あるはずの領収書が見つからない!」と、慌てて探す人も多いのでは?

あれほど億劫がっていた「青色申告」を、実際に2回やってみて……「やらなきゃ損じゃん!」

 筆者はそれこそフリーランスのライターなので、ここ10年以上、個人事業主として確定申告を行ってきたが、実は2年ほど前にちょっとだけ“ステップアップ”した。いわゆる「青色申告」をするようになったのだ。

 細かい話で恐縮だが、個人事業主による確定申告は「白色申告」「青色申告」の2種類がある。

 あえて分かりやすく断じるなら「白色申告は簡単、青色申告は難しい」。確定申告用の書類を作らなければならない点はどちらも同じだが、白色申告のほうが相対的にその書類の数が少ない。作業量も少ないと考えていい。

 これは筆者の心からの実感なのだが、それでも青色申告にチャレンジする価値はあった。青色申告を選択すると「青色申告特別控除」が適用され、条件さえ満たせば65万円の控除を受けられる。要は「所得が65万円少なかったという前提で税金を計算してくれる」ので、大抵の場合は所得税が減る。また、それに連動して市県民税(住民税)や、国民健康保険の保険料も減る。

 この低減効果は本当に、本っ当ーーーーに大きい。正確な金額は伏せるが、筆者はこのおかげで年間に支払うべき税金・保険料が10万円を超えるレベルで減った。年収300~600万円くらいの個人事業主であれば、金額の大小はあれど効果はかなりあるはずだ。ましてやフリーランス初年度で例えば年収200万にとどまるようなケースだとすると、65万円の控除はさらに大きな意味を持ってくるだろう。

 ただ、青色申告をする上では必ず「所得税の青色申告承認申請手続」を事前に済ませておかなければならない。所定のフォームに氏名・住所等の必要事項を記入・捺印し、税務署へ提出(郵送も可)するだけなのだが、あくまで「青色申告したい年の3月15日まで」に申請する必要がある(該当年の途中に開業した場合は別途規程あり)。

 よって、2020年2月17日現在、まだ青色申告の承認申請を行っていない人は、2019年1~12月分の所得を青色申告することはできない。なので、2020年3月15日までに承認申請をまず行う。その上で、2020年1~12月分の確定申告を、2021年2~3月に行うのが、青色申告の最短ルートになる。

 筆者の場合、この承認申請がとにかく億劫で避けていた。締め切りが3月15日と、年度末のちょうど忙しい時期ではある。しかし青色申告のメリットを享受したいまとなっては、「なぜ少しでも速くやらなかったのだ!」と、ちょっと後悔している。

会計ソフトを使えば青色申告はカンタン

 この青色申告承認申請にまつわるエピソードは、2017年3月に記事にした。その際は「承認申請は出したものの、肝心の確定申告用書類が作れるか不安……」などと口にしたが、完全に杞憂だった。その後の2年は青色申告を行い、65万円控除のメリットを2度にわたってしっかりと受けることができた。

 その経験を踏まえた上で結論を申し上げたい。「会計ソフトを使えば青色申告はカンタン」である(もちろん、個人の感想ではあるが……)。

 会計ソフトとはつまり「やよいの青色申告」「freee」「マネーフォワード クラウド」「みんなの青色申告(ソリマチ)」あたり。Windowsにインストールして使うタイプもあれば、ウェブブラウザーから使えるクラウド型もある。スマホアプリから使える例も増えている。

 使い方も、基本的には“小遣い帳”と同じ。「1月14日、東京駅から新宿駅へ電車で移動。片道198円」「4月20日、取引先A社から振込あり。作業料10万円」といったお金の動きを、専用フォームから入力していく。

会計ソフト「freee」の取引入力画面。経費や収入を、ここから入力していく

 もちろん取引の回数だけ入力する手間はかかるが、裏方作業をほぼ全てソフト側で行ってくれる。また、表計算ソフトでお金の出入りを記録していれば、それらのデータをCSVファイルなどに変換して一括取り込みする機能もある。

来年からは「電子申告するか、しないか」で、控除に「10万円」の差

 会計ソフトを利用した青色申告をオススメする理由はいくつかあるが、第一に挙げられるのが、令和2年分(2020年1月~12月)の確定申告(2021年2~3月に申告)から適用が予定されている、青色申告特別控除の控除額変更だ。

 令和元年分(2019年)の確定申告では、青色申告特別控除は前述の通り65万円である。これが令和2年分(2020年)の確定申告からは55万円に下がる。ただし、「電子申告または電子帳簿保存(仕訳帳・総勘定元帳)を行った」場合は、引き続き65万円の控除が適用される。

 確定申告の書類というと、所定の様式に手書き入力して、税務署の窓口に持参する方法がまず最初に思いつくかもしれないが、最近はもっと便利になっている。会計ソフトを使って全て電子的に帳簿を作成し、確定申告書類もそのままオンラインで送信してしまえる。この電子申告が、いわゆる「e-Tax」である。ちなみに「e-Tax=青色申告」ではない。白色申告をe-Taxで行うケースもある。

税務署からのお知らせ書類にも、青色申告特別控除の要件変更の件が記載されていた。それだけ影響が大きいと予想されるのだろう

 もちろん、完全に紙の帳簿だけ=PC不使用で青色申告をすることは不可能ではない。とはいえ、会計ソフトに年1万円前後のコストをかけたとしても、作業の軽減効果は計り知れない。つまり、来年に65万円控除を受けるには、会計ソフトを用いた青色申告とe-Taxをセットで進めるのが最も早道なのだ。ましてその時期も、5年後や3年後ではなく、来年からである。

こういった紙様式に書いていく方法もあるが、会計ソフトを使った方が圧倒的にラクだ

 とにかく書類作りがイヤだから、あえて白色申告を選択する人もいるかもしれない。しかし、白色申告者であっても、最低限の帳簿作成が2014年1月から義務化されており、メリットは年々少なくなっている。

 重い腰を上げて会計にしっかり取り組む以上は、会計ソフトを使ったほうが時間効率は格段にいい。それでいて、会計ソフトさえ使っていれば、青色申告はカンタンにできる。ならば白色申告を選択する必要はないのでは……というのが、筆者の心の底からの意見である。

“スマホで事業所得のe-Tax”には未対応なのでご注意を……

 では、個人事業主がe-Taxを行うには何が必要か? ズバリ、以下の4つである。

  • マイナンバーカード
  • e-Taxおよびマイナンバーカードに対応したICカードリーダー
  • 上記ICカードリーダーを利用できるPC(Windows/Mac)
  • 会計ソフト(必須ではないが、青色申告をやる上ではほぼマストアイテム)
筆者が使っているICカードリーダー。同等品が3000円程度で買える

 まず大前提として、“スマホでの確定申告”は今年(2020年2~3月)の段階においては、“個人事業主”には縁がない。個人事業主の収入は「事業所得」という区分にあたるのだが、これはサラリーマンが毎月もらう「給与所得」とは異なる。

 スマホでの確定申告ができるのは、この「給与所得」に加え、「雑所得」「一時所得」などしか得ていない人に限られる。よって「事業所得」がある人は、スマホ確定申告に非対応。いくらiPhoneでマイナンバーカードが読み取れるようになったとはいえ、ダメなのである。残念だが、来年以降に期待したい。

 マイナンバーカードも、個人事業主のe-Taxには事実上、必携だろう。税務署などで本人確認を行えば、マイナンバーカード不要でe-Taxが行えるID・パスワードを発行してもらえるのだが、あくまで暫定的な対応とされる。もちろん、締め切りが来月半ばと迫った令和元年分の確定申告を行うにあたって、マイナンバーカードの発行を待っていられない!とか、ICカードリーダー(おおよそ3000円程度)を買いたくない!という人には、ID・パスワードも意義がある。しかし、ある程度、継続的に事業所得を得ている個人事業主であれば、マイナンバーカードとICカードリーダーのどちらも持っていて損はないはずだ。

マイナンバーカードも、将来継続的に確定申告をする以上、発行しておいたほうがいいだろう。なお、取得には申請から1カ月くらいかかる

どの会計ソフトを選ぶ?

 さて、筆者が今回、確定申告にあたって選択した会計ソフトは「freee」である。これまで2回、青色申告を行ったのだが、そのどちらも「やよいの青色申告」を使ったので、今度は別のソフトを試してみたかったのが第一の理由だ。その他の理由は、以下のような感じである。

筆者が今回の確定申告に選んだのは「freee」。クラウド型、月額課金、会計ソフトから直接e-Tax機能などを勘案して決めた

クラウド型であること

 近年の会計ソフトの潮流として、まず大きいのが「インストール型」「クラウド型」のどちらを選ぶか、である。インストール型は、文字通りPCにインストールして使う方式。対するクラウド型は、ウェブブラウザーやスマホアプリなど、マルチデバイスで使えるのが強み。長年に渡って1つのインストール型会計ソフトを使い続けている人はともかく、これから新規に会計ソフトを利用するのであれば、クラウド型がベターではないだろうか。

月額プランがあること

 クラウド型会計ソフトは、インストール型会計ソフトと違い、月額・年額単位でのサブスクリプション契約なのが一般的だ。加えて、会計の世界は毎年のように法令変更とその対応が行われるため、古いソフトを延々使い続けるのはナンセンス。継続サポートのための料金が必ずかかると割り切ろう。

 freeeの個人事業主向けプランは3つあるが、筆者はごく初歩の確定申告さえできればいいので、最も安価な月額980円(税別)の「スターター」を契約した。2カ月分おトクな年額払いプランもあるが、本当に使い続けられるかの迷いもあったので、あえて月額払いを選択した。

※freeeの個人事業主向けプランは5月1日からの料金改定が発表されており、上記「スターター」プランは月額1180円(税別)に値上げされる。

会計ソフトから直接、電子申告が行えること

 ちょっと込み入った話になるが、会計ソフトは「青色申告書類の作成まで」を完結させられる。これはほぼ間違いない。しかし、「作った書類の電子申告作業」には非対応のケースが往々にしてある。

 というのも、作った書類の電子申告だけであれば、国税庁の「e-Taxソフト(WEB版)」か、あるいは同庁が配布するインストール型ソフト「e-Taxソフト」(どちらも字面は似ているが微妙に概念が異なることに留意)を使って行うことができるからだ。

 ただ、e-Taxソフトは推奨環境による制限がかなり厳密で、「e-Taxソフト(WEB版)」においてはChromeやFirefoxですら推奨外なほど。使いやすいとは到底、言い難い。

 その点、会計ソフトに電子申告機能があらかじめ組み込まれていると、一連の流れはスムーズになる。例えば「やよいの青色申告」は今年の確定申告時期に合わせて、初めてe-Tax直接利用に対応した。freeeも従来より、この機能を備えている。

次回は“青色申告e-Tax”を実践! ~2023年10月に始まるあの制度の話題も

 以上、青色申告にまつわる制度の変更を軸に、会計ソフトとの向き合い方について解説した。後編では、青色申告の方法をもう少し具体的に見ていく。また、個人事業主に極めて大きな影響を与えそうな、2023年10月実施予定の税制変更についても言及したいと考えている。

 本稿を読んだ方の中には「今すぐ青色申告をしてみたい」という人も少なからずいるだろう。ただ、途中でも述べたように、今年3月16日締め切りの令和元年分(2019年)の確定申告を、今から青色申告に切り替えるのは事実上難しい。まずは青色申告の承認申請を3月15日までにキッチリと出し、令和2年分(2020年)の確定申告からチャレンジしてほしい。

 もちろん、今年1月以降の経費や収入については、会計ソフトにどんどん記帳していこう。そうすれば、確定申告間際に慌てる必要はグッと減るだろう。後編は、来年の予習として活用してもらえれば幸いだ。

「INTERNET Watch」ではこのほかにも、サラリーマンと個人事業主がぜひ読んでおきたい税金に関する記事を多数掲載しています。まとめページ『サラリーマンと個人事業主の税金の話』よりご参照ください。