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家庭用インクジェットとビジネスインクジェットは何が違う? 藤山哲人が実験してみた

あなたにオススメのプリンターはどれ? キヤノンのインクジェットプリンター3モデルを体当たり比較!!

家庭用インクジェットプリンターとビジネスインクジェットプリンターはなにが違うのか? キヤノンの3つのモデルを家電ライターの藤山哲人が比較してみた

 コロナ禍以降、「ビジネスインクジェットプリンター」の注目が高まっている。個人で購入するインクジェットプリンターといえば、これまでは家庭用モデルが主だったが、「ビジネスモデル」では、どう違うのか?

 より速くなる印刷速度や、ビジネス文書ならではの高い普通紙印刷クオリティ、そしてランニングコストの低さなど、気になるポイントを家電ライター、藤山哲人氏に比較検証してもらった。


藤山哲人が家庭用とビジネス用のインクジェットプリンターを比較テストするのはキヤノン「PIXUS TS8430」「G6030」「GX7030」

 コロナ禍で仕事のやり方が大きく変わった。毎日オフィスに出向くことはなくなり、通勤途中で買っていたコーヒーは自宅のコーヒーメーカーで淹れるようになり、ランチは定食屋ではなく自宅で取るようになった。

 オフィスに行かなくなったことで大きく変わったことのひとつが、プリンターとコピー機事情だろう。今まで会社のレーザープリンターでバンバン印刷していた資料も、自宅の家庭用インクジェットプリンターで印刷すると遅い上に、すぐにインク切れしてインク代もかさむ。

 さらにコピーやスキャンだって、会社の複合機なら資料の束もADF(自動原稿送り機)を使えばまとめて読み込めたが、家庭用インクジェットプリンターではそうはいかない。

 そんなお悩みを解決する存在として今注目されているのが、ビジネス用インクジェットプリンターだ。カラーレーザープリンターよりもお手軽で、部長決済でもいける10万円以下といった価格帯の製品も多い。それでいて印刷速度はレーザー並に速い機種も。ラインアップも豊富でコピーやスキャナー、FAX機能も持っている複合機から、パーソナル向けでビジネス用途に使えるコンパクトな機種まであって、価格帯もさまざま。逆にバリエーションが多すぎて選ぶのになやんでしまうほど。

 そこで今回はキヤノンのインクジェットプリンター3台を使って、ビジネス文書の印刷の仕上がりや印刷速度、印刷コストなど、家庭用インクジェットプリンターとビジネスインクジェットプリンターの違いを比較してみた。比較用に用意したのは以下の3モデルだ。

【GX7030】~ビジネス向け本格派、特大容量タンクに加え耐久性も重視~

ギガタンク搭載で4色顔料インク採用。最新ビジネスインクジェットプリンター「GX7030」

 「GX7030」は2021年5月に発売されたばかりの最新ビジネスインクジェットプリンターで「GX」シリーズの筆頭。小規模オフィスなどでの利用も想定したモデルで、特大容量タンク「ギガタンク」を採用し、4色ともに顔料インクを採用しているのが特長。染料インクを持たないため、写真印刷はやや苦手だが、ビジネス文書においては、カラーの表組みなどもすべて顔料インクで印刷でき、まさにビジネスユースに特化したモデル。3機種の中で一番印刷速度が速いのもその特長のひとつだろう。またFAX機能内蔵で、ADF付きスキャナーは両面読み込みが可能。キヤノンオンラインショップでの販売価格は7万9750円。FAX機能などを省いた「GX6030」もある。

【G6030】~ビジネス用と家庭用のいいとこ取り、特大容量タンク搭載~

ギガタンク搭載ながら低価格のビジネスインクジェットプリンター「G6030」

 特大容量タンク「ギガタンク」を搭載したビジネスインクジェットプリンター「G6030」。ADFやFAX機能を省くことで、ビジネスインクジェットプリンターでありながら5万円を切る実売価格とコンパクトな本体サイズを実現。印刷が多い職種の個人利用も視野に入る低価格でコンパクトなモデルだ。黒を文書印刷に強い顔料インクとしつつ、カラー(CMY)は染料インクとすることで、写真用紙への印刷も美しく、家庭用インクジェットプリンターの置き換えにもなりそうだ。キヤノンオンラインショップでの販売価格は4万3868円。なお、本体色は写真のホワイトのほか、ブラックもラインアップ。また、同じ「G」シリーズの上位にはFAX付きで、片面読み取りのADFを搭載した「G7030」もある。

【PIXUS TS8430】~家庭用の最上位、顔料ブラックで文書印刷も強い~

家庭用インクジェットプリンターの最新最上位モデル「PIXUS TS8430」

 家庭用インクジェットプリンターの代表として選ばれたのは、キヤノンの最新最上位モデル「PIXUS TS8430」。家庭用インクジェットプリンターでは一般的に苦手とされる普通紙への印刷だが、同モデルでは、写真印刷向けの染料インク5色に加えて、普通紙への文字の印刷に向いた顔料インクの黒を搭載。家庭用インクジェットでありながら、写真印刷も文書印刷もキレイな仕上がりが特長。スキャナーの解像度や写真印刷の美しさは3台中でナンバーワン。本体のカラーバリエーションは、写真のホワイトのほかブラックとレッドをラインアップ。キヤノンオンラインショップでの販売価格は3万2450円。

 このようにスペックだけ見ても、三者三様に目指しているところが違って見えるこの3モデルは、実際どれくらいの違いがあるのか? それぞれの印刷速度や印刷の仕上がり、特長や用途について、実際に検証してみよう。


家庭用とビジネス用プリンター、最大の違いはインクの量と種類にアリ!!

 まずこの3台で決定的に違うのはインクだ。家庭用であるPIXUS TS8430は、インクジェットプリンターとしては一般的な「カートリッジ式」。交換がカンタンな上に、ICチップが内蔵されていてインク残量などが細かく分かるようになっている。無くなった色だけカンタンに交換できるが、タンク式と比べるとインクの容量が少なく、書類を大量に印刷するようなシチュエーションではインクの交換頻度が高く、ランニングコストも上がってしまう。

PIXUS TS8430のインクカートリッジ。大きなカートリッジは、顔料インクの黒(PGBK)。このモデルはカラーのシアン、マゼンタ、黄色に加え、黒とグレーの染料インクも持つことで、より写真の表現力を向上している

 一方ビジネス用のG6030とGX7030は「タンク式」。あまり見かけないかもしれないが、滋養強壮ドリンク並みの特大容量インクを本体のタンクに充填して使う。大量のインクを注ぎ込めるので、インク代が格段に安くなるのが特長だ。しかも特大容量タンクなので、書類を大量に印刷してもインク切れしにくく、インク充填の頻度も少なくて済む。

ビジネス用は大量印刷でき、かつ印刷コストが安くなるようにボトルに入ったインクを本体のタンクに充填する。インク残量はタンクの窓から確認する

 実は同じギガタンクといってもG6030とGX7030では使うインクが異なる。GX7030ではカラーも顔料インクを採用しているという違いもあるが、ビジネス向けモデルとして進化したポイントとして、インクボトル1本あたりで印刷できる枚数がアップしているほか、ボトルの口の形状を鍵状にすることで、違う色のボトルが刺さらないようになっている。入れ間違いなどそうそう起きることでは無いと思うが、より確実性が高まっていると言えるだろう。このあたりは動画でも紹介しているので参照していただきたい。

キヤノンの最新ビジネスインクジェットプリンター「GX7030」のギガタンクにインクを入れます
GX7030ではボトルの口を鍵状にすることで入れ間違いを防ぐ工夫がされた
ギガタンクの場合、インクの残量は目視でも確認できる

 なお「顔料」インクは、ポスターカラーや「ポスカ」という不透明のマジックのようにムラのない発色が特長。イラストやグラフをキレイに印刷でき、にじみが少なく小さな文字も読みやすい。また発色が紙に依存されにくいのも特長で、インクジェット用紙以外の普通紙や普通はがきでも、にじみなくきれいな印刷が可能だ。

 一方「染料」インクは、水性ペンや墨汁と同じように、透き通ったカラーインクが紙にしみ込んで印刷されるタイプ。だからインクのしみこみ具合で発色が異なるので、印刷する用紙によって仕上がりに差が出やすい。

 光沢のある写真用紙に印刷すれば、印画紙のようにカラーが際立つ光沢のある仕上がりになるし、インクジェット用紙に印刷すれば、光沢のないマット調の印刷に仕上がる。普通のコピー用紙の場合は、インクが染み込みやすいため、小さな文字のにじみや、両面印刷したときの裏写りがやや気になるが、これもインクジェット用普通紙を使うことで、はっきりとキレイな印刷できるのが特長だ。

顔料インクは絵の具のようなインク
染料インクは透明なカラーインク


印刷速度はどれだけ違う!?電源OFFからでも印刷が速い「GX7030」

 ビジネス用途のプリンターに求められる性能のひとつが、印刷速度だろう。特に共有プリンターで頻繁に印刷する場合は、印刷物が出るまで時間がかかるとそれだけで時間の損失になる。そこでここではビジネス用プリンターとして求められる、印刷速度について比較してみる! 想定するシーンは、次の3パターンだ。

  • 電源OFFからの印刷
  • 前の印刷を終え休止状態(電源はONのまま待機)からの印刷
  • 印刷した直後に続けて印刷

 キヤノンのプリンターは省エネ設計になっているので、印刷を終え何分か経過すると自動的に電源を切るようになっている。通常のプリンターは、電源OFFの状態で印刷しようとすると「プリンターの電源が入っていない」などの警告が表示されるだろう。しかしキヤノンのプリンターは電源を自動的にONにして印刷を開始することができるのだ(設定が必要)。といっても起動するのには当然少し時間が必要になる。

キヤノンのインクジェットプリンター3モデルを比較してみた

 さらに印刷を終えてしばらく経過すると節電のために休止状態に入る。この状態は電源を切っていないので電源OFFの状態からより速く立ち上がって印刷が可能だ。さらに誰かが印刷した直後に印刷する場合は、すでに起動中で即印刷が可能なので、結果として印刷速度はさらに速くなる。

 この3つの状態から印刷を3台で試したところ、結果は以下の通りになった。なお印刷したのは、写真なども入ったINTENET Watchの記事ページで、条件を統一するためにA4サイズ1ページのPDFにしたもの。PCから印刷指示を出してから印刷し終わるまでの時間を測定している。

PIXUS TS8430G6030GX7030
電源OFF44秒46秒24秒
休止状態21秒26秒17秒
アクティブ(休止前)17秒21秒14秒
印刷ボタンを押してからA4カラー1ページのPDFが印刷し終わるまでの実測時間

第1位【GX7030】

 とにかく印刷が速い!! 印刷が始まるのも早い上に印刷速度も速い。特に電源OFFからの自動起動~印刷までの速さが群を抜いている。

第2位【PIXUS TS8430】

 とにかく写真がきれいに印刷でき、ビジネスプリンターにも迫る速さを誇る。カートリッジインクだけに、印刷準備がG6030より速いようだ。

第3位【G6030】

 G6030も速い印象だったが、比較してみるとPIXUS TS8430に僅かに遅れを取る形だった。印刷する内容によっても差が出るのかもしれない。


普通紙への印刷でキレイなのは?文字も写真もオトクでキレイな「G6030」

 ビジネス用プリンターで主に使われるのは普通紙だろう。普通紙はトナーを使うレーザープリンターには最適だが、インクが染み込みやすいのでインクジェット方式には少し不向きだ。ここでは3機種を使って普通紙に印刷した仕上がりを比べてみた。

【GX7030】で普通紙印刷した場合

 GX7030は顔料インクを使っているので、印刷した直後でもそれほど紙に染み込むことはなく、インクジェットプリンターで印刷したしっとり感がなかった。1~2分も置いておけば、レーザープリンターと変わらないパリパリした紙の状態になる。

 特に印刷の速さを追求している印象で、文字は非常にきれいだが、写真の解像度が3機種の中では低かった。テストでは印刷品質を「標準」にしたが、写真もきれいに印刷したい場合は、印刷品質を「きれい」にするとよいだろう。

記事の中の写真部分のアップ。普通に見れば気にならないレベルだが、近くに寄ってほかの2機種と比べてみると、全体にざらざら感がある。印刷が速いため、解像度が粗くなるのは仕方がない
裏側から見ると、透けてはいるがにじみ出てきていないのが分かるだろう。裏写りが少ないので両面印刷しても、読みやすい資料が印刷できる

【G6030】で普通紙印刷した場合

 黒い文字は顔料インク、写真部分は染料インクを使うので、印刷直後の紙のしっとり感は画像まわりだけだ。黒い文字は顔料インクで印刷されるため、はっきりと読みやすい文字が印刷できる。一方写真部分については、染料インクが使われる。染料インクは、字のごとく紙に染み込むインクため、裏写りがわずかだがGX7030より目立つ印象。写真が多い文章を両面印刷したい場合は、少し厚めのインクジェット用普通紙を選ぶとよいだろう。

GX7030に比べると、染料インクで写真もきれいに印刷できるオールマイティプリンターだけに写真もきれい。見方によってはPIXUS TS8430よりもそつのない印象だ
染料インクのため裏写りがGX7030より強い。写真の多い資料は片面印刷にするほうがよさそうだ

【PIXUS TS8430】で普通紙印刷した場合

 家庭用インクジェットプリンターながら、黒い文字には顔料インクを使うので、文字部分のしっとり感はない。ただ、写真部分は染料インクを使うので少ししっとりとするが5分もすればパリッと乾燥する。G6030と違う点は、写真印刷用の黒い染料インクがあることで、黒をより黒く表現できる。ただし、その分染み込みやすいのか、今回の普通紙印刷のテストでは、特に写真の黒い部分の裏写りがG6030よりやや強くなった。

G6030と同じ染料インクを使うが、こちらは染料のブラックとグレーを持つため、排出トレー部の中間色の表現力に差が見られる。ただ、普通紙が相手だとそこまで明確な差が出なかった印象だ
PIXUS TS8430は黒とグレーの染料インクを持っているため、黒い部分の裏写りがやや目立つ。こちらもインクジェット用普通紙を使うことで解消されるだろう

 次に試したのは、印刷直後のマーカーでのにじみテストだ。おそらく読者の多くも経験している通り、印刷した書類の重要事項を蛍光ペンでマークしようとしたら、印刷した文字が滲んでしまったことがあるだろう。

 一般的に、染料インクで普通紙に印刷すると輪郭ににじみが見られ、生乾きの状態でマーカーを塗ると文字がにじんでしまう。しかしキヤノン製の顔料・染料インクは、いずれもにじみが出ず、耐マーカー性能が高いようだ。

 印刷してしばらくして乾いた状態でマーカーテストをしたところ、どのモデルでもにじみが見られなかったので、あえて印刷直後の乾く前にマーカーを引いてみたのが以下の写真だ。

【GX7030】
GX7030は全色顔料インクで、黒もカラーの文字もはっきりとしている。さらにマーカーを塗ってもほとんどにじまなかった
【G6030】
G6030は黒が顔料、カラーが染料となっている。そのため黒い文字はマーカーをしてもにじみがほとんどない。カラーの文字は、若干「約」の部分ににじみが見られるが一般的なプリンターに比べると、にじみは少ない
【PIXUS TS8430】
PIXUS TS8430も文字は顔料インクで印刷されており、マーカーを塗ってもにじみはほとんどない。また染料のカラーの文字もにじみが少ない。染料インクにしては非常に健闘していると言える

 写真をご覧になっていただければ分かると思うが、予想以上に差が出なかった。キヤノンは染料インクでもマーカー耐性は高い印象だ。


光沢紙で写真印刷を比較。6色インクで鉄壁「PIXUS TS8430」、でも「G6030」も健闘

 続いてのテストは光沢紙を使った写真の印刷だ。これにも大きな違いが現れた。まず断っておきたいのが、PIXUS TS8430とG6030は写真のフチなし印刷に対応しているのに対し、ビジネスユースに主眼を置くGX7030は、光沢紙には対応しているもののフチなし印刷は対応していない。そのためGX7030のみフチありの写真になっている。

 そして実際に印刷してみたのがこちらの写真。

左上がPIXUS TS8430、中央下がG6030、右上がGX7030で印刷したもの。

 画像では分かりにくいかもしれないが、右上のGX7030は、顔料インクを使っているため光沢紙に印刷してもツヤは控えめになり、一般的な写真のイメージとは異なる絵の具で描いたような質感の写真になる。一方でイラストやグラフなどは、G6030やPIXUS TS8430と比べて発色がよく見やすい資料になるので、店舗で使用するメニューやPOPにもオススメだ。

 中央下段のG6030はとてもシャープに印刷できた。カラーインクに染料を採用することで、光沢のある仕上がりだ。左上の6色インクのPIXUS TS8430もさすがと思える仕上がりだが、テストで印刷した写真では、G6030もPIXUS TS8340に見劣りしないクオリティになったと言える。

 ただし、これは今回テストで印刷した写真が、比較的明るい写真だったからのようだ。実はG6030は染料のブラックインクを持っていないため、写真印刷の時にはCMYを混ぜて黒を表現している。そういったこともあって、黒が多い写真だとPIXUS TS8430との間で差が出るそうだ。

 ということで、やはり写真の美しさを求めるなら断然PIXUS TS8430がオススメだ。発色がよく鮮明な写真を印刷できる。黒とグレーの染料インクを持ってるため、黒の強い写真であっても、漆黒の黒と細部までシャープな仕上がりの写真になる。ただし、後述するが印刷コストはG6030が圧倒的に安いため、大量に印刷するビジネス文書やお得意様向けの年賀状印刷などの使い方であればG6030が有力な選択肢となるだろう。


「GX7030」と「G6030」はギガタンク採用で経済的!A4カラー1枚で8円以上お得、さらに高耐久でロングライフ

 ビジネス用プリンターで気になるのは、印刷のランニングコスト。実験からコストを算出するのは難しいので、ここではキヤノンの資料を参考にした。なお、PIXUS TS8430はカートリッジが標準のほかに大容量タイプと小容量タイプがあり、それぞれコストが異なる。

GX7030G6030PIXUS TS8430
A4モノクロ約0.8円約0.5円***(未計測)
A4カラー約2.2円約1.0円約10.8円/10.9円/16.3円(大容量/標準/小容量)
L版フチなしカラー写真フチなし印刷不可約6.2円約19.9円/21.4円/30.7円(大容量/標準/小容量)
ギガタンク搭載のGX7030は、A4カラーで約2.2円/枚。コンビニで印刷すると約50円なので格安!
同じくギガタンク搭載のGX6030。こちらはさらに印刷コストが安く、A4カラーで約1.0円/枚!

 また、ギガタンク搭載のGX7030とG6030において、インクが満タンの状態から印刷できるA4カラー文書の枚数は、以下の通りとなっている。

GX7030G6030
ブラック(1本あたり)約6000枚(エコノミーモード 約9000枚)約6000枚(エコノミーモード 約8300枚)
カラー(各色1本あたり)約1万4000枚(エコノミーモード 約2万1000枚)約7700枚

 印刷コストは、パーソナル向けのカートリッジインクを利用した場合と比べると、4分の1~10分の1ぐらいに安くなる。先にも少し説明したとおり、ギガタンク搭載モデルは特大容量のインクタンクを持つためだ。

 ちなみにA4カラー印刷で比較すると、TS8430とGX7030では1枚8.4円以上の差となる。GX7030は標準モードでもカラー各色1本で約1万4000枚印刷できるので、カラーインク1本分を使い切るころには、実に11万7600円以上もオトクになっている計算だ。同じ計算でG6030の場合だと7万5460円オトクということになり、どちらもカラーインクが一巡するころには余裕で本体価格の元が取れてしまう計算となる。

 さらに本体の耐久性も高く、キヤノン独自の試験方法では、A4普通紙の連続印刷における耐久性がGX7030で約15万枚、G6030で約6万枚という高い耐久性も持ち合わせている。

 また、長く使うという点では、GX7030はプリンター使用時のインクを吸収するメンテナンスカートリッジが自分で交換できるようになっているというメリットもある。通常廃インクのカートリッジ交換は、メーカー修理扱いになるところが、本機は自分でメンテナンスできるので、ダウンタイムを最短にできるのがうれしい。

廃インクを吸い取らせる機構。一般的には修理に出さないと交換できないこの部品だが、GX7030では自分で交換できるので、ダウンタイムを短縮できる

 といっても、印刷コストや耐久性が優れるからといっても、すべての人にとってビジネスモデルがオトクとは限らない。というのも、インクの供給機構が複雑で、また耐久性も考慮したビジネス向けモデルは、本体価格が高くなる。それゆえ印刷する枚数が少ない場合は、印刷コストが多少高くても本体価格の安い家庭用インクジェットを買う方がお得ということもある。すでに家庭用インクジェットプリンターを使っていて、頻繁にカートリッジ交換をしているようなら、ギガタンク搭載モデルのインクジェットプリンターへの買い換えをオススメしたい。

カートリッジを使うPIXUS TS8430のヘッド回りの機構はシンプルな構造
同じ染料を使うG6030はインク供給機構が複雑になっているのが分かる


「GX7030」ならADFで同時両面スキャンも!!さらにストックできる給紙枚数にも差

 スキャナーとしての機能は、GX7030は一度に原稿の表と裏が読み取り可能なADFを搭載している。このためコピー機能は両面→両面のカラーコピーがワンタッチで可能だ。さらにA4サイズ幅(21cm)で最大120cmの長尺紙も印刷可能。長尺紙に印刷すれば大きなポップも印刷できるので、店舗などで大活躍するだろう。

GX7030のADF。解像度1200×1200(主走査×副走査)のCISセンサーを2つ搭載し、同時両面スキャンに対応。FAXとしても使える
ADFを使って両面カラーコピーもできるので、会社の大型複合機並みに便利に使える
操作パネルは2.7型TFT(タッチパネル)
店舗で便利に使える長尺印刷は、120cmの横断幕が印刷可能だ

 G6030はフラットベッドスキャナーを搭載。上位機種にはADF機能を持ったモデルもある。これらはビジネス用途がメインなので、PIXUS TS8430と比べると解像度はやや低めだ。

G6030は1枚1枚手差しのスキャナーを内蔵。解像度1200×2400(主走査×副走査)のCISで上位モデルはADFが付いている
操作パネルはかなり割り切ったシンプルな作り。パソコンに慣れている人向けだ
G6030は黒のみ顔料インクを採用する

 スキャナーの解像度は3機種の中でPIXUS TS8430がナンバーワンだが、ADFの選択肢はない。ただ大画面の使いやすい操作パネルは、パソコンが苦手な人でもアイコンやイラスト表示されるので簡単に使えるし、PCを使わずにプリンターだけで操作するのにも最適だろう。スマホから直接プリントするようなホームユースでの使い勝手がよく考えられている。

4.3型と大画面で操作しやすいタッチパネル
3モデルの中で唯一、CDやDVDのレーベル印刷に対応。さらにネイルの印刷もできる
フラットベッドスキャナーはADFのような連続印刷はできないがスキャナーのセンサーはCISで解像度は2400×4800(主走査×副走査)のと3モデルで最も高い

 大量に印刷する場合、インクの補充に加えて頻度があがるのが用紙の補充だ。ヘビーに使われることを想定したGX7030は、給紙も250枚カセット2段に加え、後トレイに100枚がセットできるので最大600枚をストックできる。おなじビジネスインクジェットでもホームユースを想定したG6030は250枚カセットが1段+後トレイ100枚なので最大350枚のストックが可能だ。

 PIXUS TS8430はカセットに100枚、後トレイに100枚セットできるので最大200枚となる。

GX7030の給紙カセットは250枚2段。サイズの違う用紙でもいいし、A4を大量にストックしてもいい。さらに後トレイにも100枚ストックできる
G6030は250枚の給紙カセットが1段。さらに後トレイも100枚ストックできる
本体を小さくした結果、A4用紙をセットすると本体からカセットが飛び出した状態になるPIXUS TS8430。カセットに100枚、後トレイに100枚セットできる


用途に合わせて個性が際立った3モデル。ズバリ、オススメは?

 さて、ここまで機能面を実験をふくめ解説してきたが、実際に触ってみると、単純に高価なモデルが全部優れているのではなく、それぞれの用途に合わせて性能を特化させている印象だった。では、実際に3つのプリンターを使ってみて感じた、それぞれのモデルをオススメしたいユーザー像を整理してみよう。


【GX7030】をオススメしたいのはこんな人

 スモールオフィスや店舗など、部署やフロアの共有プリンターとして使う人。ホームユースではないので、写真の印刷品質よりも印刷速度などの生産性を重視し、ビジネス文書やポップなど、文字とカラーのイラストやグラフの普通紙への印刷がメイン。

 さらにFAXや両面コピー、両面スキャナーも使いたい人。ただし、FAXや両面コピーが不要な場合は下位モデルのGX6030もオススメ。

GX7030
収納時の本体サイズは約399×410×314mm(幅×奥行き×高さ)
前面にUSBポートを持つ
背面のインターフェースはUSBと有線LAN、そしてFAX用の電話回線だ


【G6030】をオススメしたいのはこんな人

 少人数の部署・SOHOの共用プリンターとして、あるいは印刷頻度が高いテレワークのホームユースなど。

 文書中の写真品質も重要になる資料の印刷や、商品や現場の写真などを光沢写真用紙にきれいに印刷する、あるいはお得意様向けにはがきに写真印刷をする。印刷コストをとにかく下げたい人。さらに大量ではないがスキャン機能も使う人。なおADFやFAXが欲しい場合は、それらを持った上位モデル「G7030」もオススメ。

G6030
収納時の本体サイズは約403×369×195mm(幅×奥行き×高さ)
ギガタンク搭載。ブラックは顔料だがカラーには染料を使う
背面のインターフェースはUSBと有線LAN。Wi-Fi接続にも対応する


【PIXUS TS8430】をオススメしたいのはこんな人

 数人での共有、もしくは個人で使うプリンターとして。印刷頻度は高くないが、テレワークなどでビジネス文書を印刷することもある人。

 年賀状をはじめ、高品質な写真の印刷が必要な場合や、デザインやメニュー、製品カタログなど印刷品質が求められる資料の印刷に。また、写真の高解像度なスキャンやコピーが必要な現場にもオススメ。

PIXUS TS8430
収納時の本体サイズは約373×319×141mm(幅×奥行き×高さ)
前面にSDカードスロットがあり、ダイレクトに写真プリントできる
背面には電源ケーブルとUSB端子。Wi-Fiにも対応するが有線LANは非対応