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Google「命令などはなく、全員ができることを一斉に始めた」

安否サイト「パーソンファインダー」などの取り組み


災害関連情報を掲載している「クライシスレスポンス」のサイト

 東日本大震災では、安否情報や救援情報、避難所情報など、インターネットを使ったさまざま支援活動が試みられた。

 Googleでは、震災当日から震災関連情報を集めたサイト「Crisis Response(クライシスレスポンス)」を立ち上げ、消息情報を登録・確認できる「パーソンファインダー」を提供した。パーソンファインダーでは、ボランティアによる情報入力も呼びかけて、多くの情報を集めた。その後も「Google避難所情報」など、さまざまな支援サービスを公開している。また、YouTubeでも同様に、震災当日からニュース番組のライブストリーミングを始め、テレビ局が撮影した被災者のメッセージを集める「YouTube消息情報チャンネル」を公開した。

 さらに、4月末には東日本大震災で被災した地域の店舗や企業の最新情報を提供するサービス「ビジネスファインダー」を公開。5月にはビジネスファインダーを含めて、被災した企業の営業活動を支援する「東日本ビジネス支援サイト」を開始した。被災地にまつわる写真や動画などをユーザーが投稿して共有できるサイト「未来へのキオク」も発表している。

 一連の取り組みについて、グーグル株式会社でウェブマスターを務める三浦健氏と、YouTubeを担当するプロダクトマーケティングマネージャーの長谷川泰氏に話を聞いた。

YouTube担当プロダクトマーケティングマネージャーの長谷川泰氏(左)とウェブマスターの三浦健氏(右)

現場からボトムアップでサイトを立ち上げ

三浦健氏

――震災当日から「パーソンファインダー」が立ち上がりましたが、そのときの活動から教えてください

三浦:Googleではもともと「クライシスレスポンス」という、大きな災害が起こったときに緊急対応のサイトを立ち上げる活動をしていて、昨年のハイチ地震や今年のクライストチャーチ(ニュージーランド地震)などでもサービスを提供しました。クライシスレスポンスの本部は米国の本社にありますが、クライシスレスポンスのサイトを作っているのは世界中のウェブマスターチームのメンバーで、24時間更新していく方式をとっています。

 私もこのローテーションに加わったことがありまして、そのため、3月11日に大地震があったときにはすぐにサイトの準備をしました。時を同じくして、米国のクライシスレスポンスチームも状況を察知しましたので、パーソンファインダーの立ち上げをすぐに準備してくれました。ただ、完全なローカライズはできておらず、最低限、日本語化だけをした状態での開始となりました。

――米国と日本とで並行して活動していたのでしょうか

三浦:はい。並行して作業して、連絡がついた段階で同期する形です。また、チャットしながらアップデートしていったりもしました。

――日本語化も、少しずつ進んでいきましたね

三浦:そうですね。パーソンファインダーの仕様は基本的に欧米圏と中華圏を想定したもので、日本の独特の仕様、例えばふりがなの機能などはありませんでした。ただ、そういう機能が必要だという要望はすぐに上がってくるので、社内のエンジニアたちが実装していきました。

震災直後に開設された「パーソンファインダー」には多数の消息情報が登録された 「クライシスレスポンス」では、これまでもハイチ地震やニュージーランド地震など多くの災害に対応してきた

――社内の人はどう集まったのでしょうか

三浦:非常事態でみんなが敏感になっていたので、社内のほとんど全員がそれぞれ自分の得意な分野、例えばサーチの技術を持っているエンジニアはその部分を改善するというようなことを手掛けました。こちらがこういう機能を作れないかと頼みに行くと、すでに考えて手を動かしていたり。本当に有機的にやっていましたね。

 また、エンジニアだけではなく、マーケティング部門や営業部門でも、外部にパーソンファインダーへの情報提供をお願いしたり、普段扱っているプロダクトがクライシスレスポンスで利用できないかといったことに知恵をしぼりました。

――そうした対応やサービスの開発に、指揮系統や命令系統などはあったのでしょうか

三浦:命令の形は一切ありませんでしたね。それぞれ声の届く人たちと話し合って、すべてボトムアップでやってきました。みんながそれぞれ、自分ができることをやり始めたという形です。

 とはいえ、ある程度落ちついてからは、プロジェクトがあまりに多くなったので、スプレッドシートにまとめて、メンバーを洗い出したり、プロジェクトにプライオリティを付けたりもしました。プライオリティの低いものをやってはいけないということではなく、高いプライオリティのものから重点的にやっていこうというガイドラインです。

――日本以外のエンジニアも参加されたのでしょうか

三浦:ウェブマスターの仕事は、日本、ヨーロッパ、米国の3交替で、24時間更新してきました。また、クライシスレスポンスの本部も、ほとんど日本時間で寝起きするぐらいの感じで、日本のスタッフにぴったり付いてサポートしてくれました。

 中でも、海外にいる日本人や日本滞在経験者が中心になって、献身的に活動してくれました。日本のグーグルではみな1日に十数時間働いていたのですが、それと同じぐらいPCの前で作業していたとも聞いています。

――クライシスレスポンスとしては、今回は過去と比べてどのぐらいの規模だったのでしょうか

三浦:パーソンファインダーで言えば、今日(取材日は5月中旬)までに67万件以上のデータが登録されました。過去の登録数は、チリが7万7100件、ハイチが5万5000件、クライストチャーチが1万1500件ぐらいですね。今回は特に、ITがこれだけ普及している国の災害ということから、支援活動にもインターネットが今までにないほど使われたのではないかと思います。また、被災地と同じ言語と文化を持っているところに開発拠点があることを、今後の復興支援にもつなげられればと思います。

YouTubeとテレビ局が震災直後から手を組んだ理由

長谷川泰氏

――YouTubeでも、震災当日からTBSのニュース番組のライブストリーミングを始めたり、後にテレビ局の映像による「YouTube 消息情報チャンネル」を立ち上げたりしていましたね

長谷川:私も、クライシスレスポンスの議論に加わった後、自分の席に戻って、YouTubeでできることを考えました。YouTubeは公式コンテンツパートナーの協力で成り立っているプラットフォームなので、日頃からパートナーとお話をしています。そこで、パートナーの協力でできることから考え始めました。

 ちょうど、別のプロジェクトでテレビ局と話をしていたんですね。TBSさんと連絡がついて、ライブストリーミングできないかという話になりまして、その日のうちにYouTube上でニュースのライブストリーミングが開始されました。

 YouTubeのライブストリーミングは日本ではまだ正式サービスを開始していなかったのですが、海外では既にサービスを行っていたので、その仕組みを使ってすぐに中継を開始しました。このページにはクライシスレスポンスのサイトからもリンクしたのですが、そのお願いも直接ウェブマスターのチームのところに歩いて行って話しました。通常であれば、こうしたプロセスにはもっと時間がかかるのですが、短時間ですぐに決まって実現できました。

――YouTubeは、放送局などとは提携の道を少しずつ進めている印象があったので、一気に中継という形での協力になったのが印象的でした

長谷川:後から考えると、非常事態だったからかなと思います。放送局としても大きな出来事ですし、グローバルに影響する事態ですので、報道機関の使命として世界に向けて日本から現地発の情報を伝えるためにご協力いただけたということもあったと思います。

 TBSさん側でも、技術担当の方が1人張り付いてくださって、メールで何度もやりとりしたり、電話をつなぎっぱなしにしたりして作業を進めました。

――海外との協力は、スムーズに進んだのでしょうか

長谷川:YouTubeではクライシスレスポンスの経験がなかったので、完全に手探り状態で、できるかどうかもわからないままスタートしました。まずはヨーロッパにいるエンジニアと日本にいるエンジニアで始めて、翌日以降は米国のエンジニアや、米国で政府やNPO関連のマーケティングを担当している部隊なども交えてテレビ会議をしました。ライブストリームの立ち上げは英国のエンジニアがやったのですが、日本と米国と英国で連携をとりあって、CDNをつなげたりしました。

YouTubeの「TBS News-i チャンネル」では、地震関連ニュースのライブストリーミングが行われた メッセージ動画を紹介する「YouTube 消息情報チャンネル」

――今回、YouTubeの動画やPicasaの写真から、安否情報をテキスト化したりパーソンファインダーに入力したりという動きがありましたね

長谷川:YouTubeは、パーソンファインダーに比べると、安否情報に関連するような動画の本数は限られていて、そのために何かボランティアを組織するといった活動はしていませんでした。しかし、ユーザーの間で自然発生的に、動画からコメント欄にテキスト情報を書き出したり、パーソンファインダーに入力してくださったりする動きが現れたんですね。

三浦:Picasaによる避難所名簿共有サービスも同じような感じですね。最初は、避難所に避難されている方の情報を、どうやったらうまく集められるだろうと考えました。避難所にはFAXもおそらくないでしょうし、インターネット回線もない。でも、携帯電話で写真を撮って、メールを送ることならできるかもしれないということで、避難所名簿を撮影してPicasaに送ってもらおうという話になりました。

 これを手動でパーソンファインダーに入力するわけですが、自分たちでがんばればなんとかなるだろうと判断して始めたら、予想を上回る反響がありました。最初は社内のボランティアが入力していたのですが追いつかなくなり、一般からのボランティアを募集しました。ここでもYouTubeと同じように、ボランティアの方がマニュアルまで整備してくださるという動きもありました。それらを一度、グーグルが整理して公式ブログでボランティアを募集したところ、またたく間にパーソンファインダーへのデータ登録が進みました。

パーソンファインダーへの入力ボランティアを募る公式ブログの記事(3月17日付け)

地元の新聞社と協力して被災地の商業活動を支援

――4月末には「ビジネスファインダー」、5月には「東日本ビジネス支援サイト」と「未来へのキオク」を発表しました。これらも同じように始まったのでしょうか

長谷川:さまざまなアイデアは、社内の議論で出てきていたのですが、震災直後はその中から特に緊急性の高いものから優先して取り組みました。

 一方、復旧復興のフェーズになってきたときに、何をすべきなのか、現地の方に本当に役に立つことは何か、社内で議論を重ねました。震災発生からある程度時間も経ってきていますので、より多くの方の意見を求めたり、承認を得たり、あるいは実際にどう実現するかといった吟味も必要になります。そこから出てきた取り組みが「東日本ビジネス支援サイト」です。なので、震災直後の取り組みとは、プロセスが少し違いますね。

三浦:「ビジネスファインダー」も同じですね。発生から1カ月以上経って、復興に向けてできることのいろいろな可能性を考えて、その中でベストと思われるものを慎重に選びました。

 震災直後のニーズは、物資が足りないといった、直接的なものが多いですよね。でも、我々もチームの者が何度も現地に行き、本当に多様化しているニーズにどう応えられるかをリサーチする活動の中から、手の打ちかたも変わってきました。

――現地の人が仕事をできるようになるのが大切、という意見もしばしば耳にしますね

長谷川:そうですね。実際に4月上旬にクライシスレスポンスチームの何人かが現地入りして、その様子を社内で広く共有しましたが、現地に行かないとわからないことが本当にたくさんありました。たとえば、仙台市内などのお店は営業されていたりとか。実際に、被災地の状況が刻々と変わる中で、中長期的に東北の様子や現地の方の声を発信するお手伝いができないかと考えました。

 たとえば、気仙沼でバッグを作っている会社の事例を紹介したのですが、ここはもともとバッグを作る会社ではなく、震災後に新しい事業として立ち上げられたそうです。工場が流されてしまった状況でも、新たに事業を立ち上げてがんばっている方もいらっしゃることを、日本全国に伝える手助けをしたいと考えました。

東日本のビジネスの復興を応援する「東日本ビジネス支援サイト」 被災地の店舗などの動画を公開している「YouTubeビジネス支援チャンネル」

――「東日本ビジネス支援サイト」では、地元の新聞社がお店などの紹介動画を撮って、YouTubeで公開するというコンビネーションに驚きましたが、どのようないきさつでこうしたサービスが実現できたのでしょうか

長谷川:普段から広告主や取材対象として、様々な事業主さんと接している新聞社さんが、震災後の営業状況などを把握していることを、東北地方に既に入っていた社員のレポートから知りました。YouTubeの公式コンテンツパートナーとして既に動画を掲載している新聞社もいらっしゃったので、ご協力をお願いしてみようと考えました。

 動画を撮影していない新聞社も多く、クオリティを心配される方も多かったのですが、テレビのような品質を求める必要はないので、まずは、カメラを回していただきたいとお願いしました。上がってきたものをご覧いただくとわかると思いますが、通販の宣伝などとは違う、お店のみなさんの暖かみや情熱、がんばっていらっしゃる姿が伝わってきましたね。

 最初に公開した動画は60本ぐらいですが、これまでに150本を超える動画が寄せられています。被災された事業者はたくさんいらっしゃいます。まずはできるところから始めて、こんな取り組みがあるということを知っていただき、より多くの地元の事業者のみなさんに、試してみようかな、参加してみようと思っていただけたらと考えています。

――コンテンツは完全に新聞社が作って、YouTubeは場所を提供する形でしょうか

長谷川:簡単な動画のフォーマットとして、お店の現状や商品の宣伝、今後の意気込みを語っていただくということをお願いしていますが、動画の中身はすべて新聞社におまかせしています。動画のサイトで、ECサイト、ホームページやGoogleプレイスページに飛べるリンク画面がありますが、こちらは共通で我々が提供しています。

――パーソンファインダーもその他のサービスも、かなりシンプルな作りになっていますが、今後提供するサイトもあのような形になるのでしょうか

三浦:極力シンプルでわかりやすいように作っていきます。今後コンテンツを追加していくときにも、決してユーザーを混乱させることのないようにしたい。ここに来たら何でもあるというよりは、ここに来たら行きたい情報に早く行けるというようにしたいと考えています。

 「東日本ビジネス支援サイト」のような新プロジェクトも始めていますが、クライシスレスポンスの活動も今後とも続きますし、少しずつですがアップデートもしていきます。

情報をオープンにすれば多くの人とつながる

――今回の活動から、教訓を得たことや思ったことなどを教えてください

三浦:なるべく情報をオープンに、外部からも利用できる形にしていくことが重要だなと思いました。

 例えば、貴重なデータが公開されても、読み取りが困難なPDFの形で配布されると、人間が手を動かす必要が出てきます。それが、コンピューターで処理しやすいフォーマットでいろいろなサービスから利用されるようになれば、“データ”が“インフォメーション”に変化すると思うんですね。それを一番感じました。

長谷川:YouTubeとしては、改めてユーザーの力を感じました。YouTubeでは、通常は、海外のユーザーと比べて日本のユーザーコメントの頻度は低いのですが、震災のときには動画内の情報や話されている内容をコメントに書き出し、それがパーソンファインダーでも共有されるという活動が自発的に行われていました。ユーザーコミュニティと協力することで、より大きなプロジェクトができるのではないかと思いましたし、それは今後の課題でもあります。

――ありがとうございました


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(高橋 正和)

2011/6/6 06:00