インタビュー

SMBCグループが目指す未来~「銀行が扱うものは、お金だけではなくなる」、金融サービスの枠を超えた挑戦とは?

「将棋AI+証券」、チャットボットなどをCEATECに出展

三井住友フィナンシャルグループ ITイノベーション推進部の中山知章部長

 SMBCグループといえば、日本の代表的な金融グループのひとつだが、グループの持ち株会社である株式会社三井住友フィナンシャルグループが、2年連続でCEATEC JAPANへの出展を決めた。

 昨年の展示では、アイデアや技術の展示に留まらず、具体的なソリューションを数多く展示し、多くの来場者の関心を集めていたが、2年目となる今年も、その姿勢を堅持し、これまで同社が取り組んできたオープンイノベーションやフィンテックへの取り組みを、具体的な事例を通して紹介する予定だ。

 三井住友フィナンシャルグループ ITイノベーション推進部の中山知章部長は「一緒にビジネスを作ることができる共創パートナー候補の方々に来場していただき、共創のきっかけを作りたい。また、SMBCグループは、金融サービス以外にもさまざまなことに取り組んでいる実態を知ってほしい」と語る。中山部長に、CEATEC JAPAN 2018への出展の狙い、今後の取り組みなどについて聞いた。

「我々が目指しているのは、プラットフォーマー」「金融サービス」の枠を超え、世の中の人が欲しがっているものを……

――SMBCグループは、昨年、CEATEC JAPAN 2017に初出展し、大きな話題を集めました。どんな成果がありましたか。

 ひとことでいえば、想定以上の成果があったといえます。

 我々の独自集計では、7000人以上の方々に、SMBCグループのブースに来ていただきましたし、CEATEC JAPAN事務局の集計では、メディアへの露出件数は、出展企業のなかで1位になりました。

 金融機関であるSMBCグループが、CEATEC JAPANに出展して、なにをするんだという話題性もありましたし、出展内容に関心を持って、ブースを訪ねていただく例もありました。

 我々がやっていることを多くの方々に知っていただく機会になると同時に、ブースを訪れていただいた企業の方々と、具体的な協業の取り組みを開始するといった成果が、この1年の間にあがっています。

――どんな来場者が、SMBCグループのブースを訪れていましたか。

 あらゆる業種の方々に来ていただきました。ITおよびエレクトロニクス業界の方々はもちろんこと、スタートアップ企業や海外企業の方々など、CEATEC JAPANへの来場者の幅の広さを感じました。我々もCEATECの場で、さまざまな方との出会いがあったと感じています。

――どんな展示が注目を集めましたか。

 昨年の展示では、具体的なソリューションを中心にお見せする形にしました。また、金融サービスには直接関連しないようなソリューション、銀行グループらしくない展示も行いました。そうした展示も含め注目していただけたと思っています。

 例えば、農業系ソリューションは、銀行らしからぬ取り組みとして注目されましたし、リース物件をセンサーで見える化するといった具体的なソリューションにも関心が集まっていました。「CEATEC AWARD 2017」で、経済産業大臣賞を受賞した「顔認証を活用した決済サービス」も、協業に向けたさまざまな提案をいただきました。

 展示を通じて感じたのは、実証実験やアイデアというよりも、具体的なソリューションとして、いかに実用化できるか、マネタイズできるかというところに注目が集まっていたという点です。大きく注目されることも必要ですが、具体的なビジネスをイメージできるところにこだわった展示をした点が、来場者の関心を集めたのではないでしょうか。

――CEATEC JAPANへの出展において、中心的役割を担っているのが、ITイノベーション推進部ですが、この1年はどんな取り組みをしてきましたか。

 ITイノベーション推進部は、2015年10月に、ITを用いたイノベーション推進を目的に、グループを横断的に強化するための組織として設置しました。それ以前からの活動を含めると、すでに5年半を経過しています。

 現在、約40人で構成していますが、そのうち半数が異業種からの転職者であり、さまざまな経験を持ったメンバーで構成しています。オープンイノベーションの発想のもと、外部知見の積極活用や、異業種との提携などによる新ビジネスモデルの追求に取り組んでおり、新たなビジネスの企画立案から試作開発、実用検証、実用化まで、スピード感を持って取り組んでいます。

 最終的には、SMBCグループとして、どうマネタイズしていくかということは重要ですが、まずは、領域を絞らずにアイデアを創出し、それを形にすることを心がけています。

 ITイノベーション推進部という部では、先を見据えて、どんな未来があり、そこでどんなことが起こるのか、ということを考えていくことができます。むしろ、そこに役割があると思っています。言い換えれば、新事業開発部、未来創造部のようなイメージですね。「銀行員であることを忘れる」という姿勢で取り組んでいますよ。

 我々が目指しているのは、プラットフォーマーです。ある日、気が付いたら、SMBCグループが提供するソリューションの上で、便利で、豊かな生活ができているといった状況を作りたいと考えています。

――それは、SMBCグループが直接、個人ユーザーにサービスを提供することが基本となりますか。

 個人ユーザーに向けて、ダイレクトに製品やサービスを提供するということもあるでしょうが、その多くは、パートナーとなる企業や自治体などと組んで、BtoBtoCという形で、法人や個人のお客さまに製品やサービスを提供する方法もあると想定しています。

 ただ、それらを考える上で大事にしているのは、“ニーズオリエンテッド”のものでなくてはならないということです。

 ITイノベーション推進部においても、当初は、ベンダーから持ち込まれた素晴らしい技術を見て、それを使ってどんなことができるかということを考えていました。しかし、あるとき、それだけでは不充分だということに気が付いたのです。技術があっても、ニーズがないと意味がありません。“技術オリエンテッド”ではなく、世の中の人が欲しがっているものはなにかということをベースにした、ニーズオリエンテッドの発想でやらないと駄目だと実感したのです。

 いま、ITイノベーション推進部では、社会課題解決型の新たなビジネスを創出するために、どんな人が、どんなことを不便に感じているのかといったことや、将来を想定したときに、どんなニーズが生まれてくるのかということを、ワークショップなどを通じて、ファクトを積み上げて検証したり、テーマを掘り下げたりする活動に力を注いでいます。ファクトを積み上げて、ニーズを想定し、その課題を解決するソリューションはなにか、それをいち早く実用化するには、どんな技術が必要なのか、その技術はどこにあるのか、なければどのパートナーと協業して作るのがいいのか、というように、ニーズオリエンテッドでやっていこうというわけです。

 場合によって、金融サービスの枠を超えるものがあるかもしれません。最初から「金融サービス」という枠組みをはめてしまうとアイデアにも限界ができてしまいます。また、我々だけでやっていると発想やできる範囲には限界がありますが、パートナーとの協業によって、アイデアが広がったり、付加価値が生まれるといったことが可能になります。

「将棋の人工知能」と「SMBC日興証券」が出会って生まれたイノベーションとは?「醸造」の成果をCEATECで披露

――2017年9月に、東京・渋谷に、オープンイノベーション拠点「hoops link tokyo」を開設しましたね、この成果はどうですか。

 hoops link tokyoでは、SMBCグループが持つ知見やネットワークを活用しながら、スタートアップ企業、自治体、大学、大手企業などが集まり、ハッカソンや勉強会などを積極的に展開してきました。

 2018年8月までの累計利用者数は1万人に達していますし、ハッカソンや勉強会は、すでに200回以上開催しています。ほぼ毎晩のように、なにかしらのイベントを開催している計算です。そこでは、ユニークなアイデアが数多く生まれています。

 2018年8月31日までは、オープンスペースとして運営してきたのですが、9月10日からは会員制へと移行し、日中の時間帯を「link time」として運営することにしました。これは、hoops link tokyoの当初の目的である「新たなビジネスの創出」に焦点を絞り込むのが狙いで、新規事業の開発に熱意を持って取り組んでいる方々や、SMBCグループとの共創に関心を持っている方々とともに、より緊密な活動をしていきたいと思っています。

 hoops link tokyoを拠点とした取り組みのひとつに、オープンイノベーションワークショッププログラム「SMBC BREWERY」があります。

 このプログラムを、新たなビジネスアイデアを「醸造」する場に位置付け、これまでに4回開催しました。ITベンチャーや外部の有識者、SMBCグループの社員なども参加し、1回あたり4、5チームに編成して、SMBCグループと外部企業のアセットを掛け合わせて新規事業アイデアを創出する仕組みで、ここで意見をぶつけあうと、半日で30個ぐらいのアイデアが出てきます。そのうち、1割程度のアイデアは実証実験や商用化に向けて、検討を続けている段階にあります。

 例えば、将棋人工知能の開発を行っているITベンチャーのHEROZ(ヒーローズ)と、SMBCグループの1社であるSMBC日興証券が、SMBC BREWERYで出会ったことで、HEROZの技術をSMBC日興証券のビジネスで高い親和性を持って活用できると両者が感じ、SMBC日興証券が提供するオンライントレードサービスで人工知能が顧客の投資行動をサポートするというアイデアが生まれました。

 実は、この内容は、CEATEC JAPAN 2018のブースで展示する予定です。ゲームの要素を交えた見せ方を予定しており、来場者にも体験してもらうことができます。また、SMBC BREWERYもブース内に再現する予定です。その場で、一緒にアイデアを考えるといったこともやりたいと思っています。

「銀行が扱うものは、お金だけではなくなる」「フリーランスが経済圏を席巻」会場案内チャットボットなども展示予定

――SMBCグループブースでは、どんな展示を予定していますか。

 いまお話ししたSMBC BREWERYの展示のほかに、初めて公開するものも数多くありますが、昨年の展示同様に、具体的なソリューションをお見せしたいと考えています。

 ひとつは、チャットボットの展示を行います。これは、2017年8月から、銀行内で利用しているチャットボットで、人事手続きにおけるさまざまな業務を照会したり、PCの操作に関する質問を受け付けるといったことに利用しています。日本マイクロソフトのAI技術を活用したものですが、チャットボットによる照会完結率は極めて高い数値になっています。この技術は、CEATEC JAPAN事務局との連携によって、「会場案内チャットボット」として、会場内の6カ所に展示することになります。会場で、訪問したい企業のブースが分からなかったりした場合には、すぐに回答してくれます。ぜひ多くの来場者に体験してほしいですね。

 また、日本総合研究所が取り組む農業ロボット開発や自動運転の実験を、ポラリファイが提供する生体認証サービスなどを展示します。ポラリファイでは、先ごろ、大手金融機関のスマホアプリと認証連携を開始しましたが、このように新たな技術を活用した協業が、CEATEC JAPANをきっかけに生まれることを期待しています。

 一方で、ITイノベーション推進部では、現在、「私たちが考える2025年の世界」を制作しています。いま、世の中ではどんなことが起き始めているのかといったトレンドを捉え、2025年にはどんなことが起きるのかといったことを導き出し、これを、7つのカテゴリーに分けて、SMBCグループとして、どんなお手伝いができるのかといったことを示します。この内容をパネルで展示する予定です。

――7つのカテゴリーとはどんなものなのですか。

 詳細は、ぜひCEATEC JAPAN 2018のSMBCグループのブースで見ていただきたいのですが、一例をあげると、「法人は、いまの法人の形態のままであり続けるのか」ということをテーマにしたカテゴリーがあります。

 例えば、エッジの効いたスキルを持ったフリーランスの個人がコミュニティを作り、そこで製品を開発、生産をして、企業に納品するような世界も想定されます。こうした動きが拡大すれば、フリーランスが作るコミュニティが、経済圏を席巻していくような未来が想定されます。我々はそうした人たちと一緒になって、さざ波を起こすことができないかということを考えているわけです。

 これから、銀行が扱うものは、お金だけではなくなります。データも銀行が取り扱う重要な資産になってきます。そうした時代において、SMBCグループはどんなことができるのか、どんな企業とパートナーを組むべきか、といったことも考えていく必要があります。ブースでは、そうした未来に向けた提案もしたいと考えています。

――CEATEC JAPAN 2018の出展によって、どんな効果を期待していますか。

 ひとつは、一緒にビジネスを作ることができる共創パートナー候補の方々に来場していただき、共創のきっかけを作りたいと考えています。展示内容を見て、いい驚きを感じてもらったり、SMBCグループとなにか一緒にできそうだ、ということを感じてもらったりしたらいいですね。

 また、個人ユーザーだけでなく、法人のお客さまにも、SMBCグループがイノベーションに向けて、何に取り組んでいるのかを知っていただくきっかけになればと思っています。家電などの展示を見に来たが、たまたまSMBCグループが出展したので寄ってみたということでも構いません。いま金融機関はなにをやっているのか、どんなメリットをお客さまに提供しているのか、そして、SMBCグループは、意外といろんなことをやっているなぁ、と思ってもらったらいいなと。それを会社に持って帰ってもらって、なにか一緒にできないかということを考えてもらってもいいですね。そして、メディアの方々にもたくさん取材にきてほしい。

 最後に、これは少し異なる視点なのですが、SMBCグループの仲間に来てほしいと思っているんです。単に、ITイノベーション推進部がやっていることを知ってもらうというのではなく、SMBCグループは、こんなに幅広いことをやっているという視点を持ってもらいたいと思っています。これによって、グループ内同士のコラボレーションもより強化されますし、社外とのコラボレーションが積極化することにも期待しています。外に目を向けるきっかけや、お客さま目線で物事を決める重要性に多くの社員が改めて気が付いてもらえる機会になればいいですね。

 今年は、昨年以上に良い場所にブースを構えることができました。昨年の7000人を超える方々に、SMBCグループのブースを訪れてほしいと思っています。

「失敗を恐れず、また“金融サービス”という枠にこだわらず、さまざまなことに挑戦していきたい」

――CEATEC JAPAN 2018は、Society 5.0の実現をテーマにしています。SMBCグループでは、Society 5.0に対してどんな取り組みをしていますか。

 SMBCグループにおいて、オープンイノベーションに積極的に取り組んでいるITイノベーション推進部では、世の中にどんなニーズがあるのか、そして、どんな課題を解決しなくてはならないのかという問題意識を持っています。そのなかには、みなさんが当たり前に感じてしまっている不便はなにか、それをどう解決していくか、といった潜在的な課題解決も含まれます。

 日本では、高度な金融サービスが実現されています。これは世界のなかでも珍しい環境にあります。そのインフラを活用しながら、日本型のイノベーションはどうあるべきか、ということを整理し、それをもとに、課題を解決するサービスを創出することが、Society 5.0の実現に対する貢献につながるのではないでしょうか。先進国で多くの人に活用されているフィンテックの仕組みや、欧米で活用されているサービスをそのまま日本に持ち込んでも、必ずしも上手くいくとは限りません。日本が抱える課題とニーズ、日本が持つ高度なインフラなどを捉え、そこに無駄のない最適なサービスを提供することが大切です。

 さらに、今後は、データをどう活用していくのかという点にもフォーカスをしていきたいですね。銀行には多くデータがあります。これを利用して、さまざまなサービスが提供できます。AIをはじめとする最新の技術を活用しながら、保有するデータを世の中にどう役立たせることができるかを考えていくことが、これからの銀行グループに課せられたテーマだといえます。いままでは、保有しているデータを、ほとんど生かされていなかった反省があります。このデータを生かすには、当然、パートナーとの連携が不可欠になってきます。それによって、Society 5.0で示された経済発展と社会的課題の解決を両立し、人間中心の社会の実現に貢献できると考えています。SMBCグループは、Society 5.0の実現に向けても、プラットフォーマーとしての役割を果たしたいですね。

――ITイノベーション推進部は、これから1年、どんな方向に向かっていきますか。

 我々が目指しているプラットフォーマーとしての役割が果たせるような土台を作りたいですね。

 ITイノベーション推進部の基本姿勢は、「Fail Fast, Fail Cheap」です。従来の銀行サービスの創出のように、1年や1年半をかけ、ウォーターフォール型でやるのではなく、一度、世の中にサービスを出し、お客さまと一緒になって、いいものに仕上げていくことを重視します。失敗はしてもいいが、無駄なことはやりたくない、というのが私の基本的な考え方です。年間で、30~40個ぐらいのPoCを目標にしています。そのなかで、製品やサービスとして、5~10個ぐらいはローンチしたい。

 近々、AIを活用して、企業から決算書をもらわなくても、各種データをもとに企業の今後の方向性を予想することができるサービスをローンチする予定です。これは、すでに銀行のなかで利用しているもので、人が判断するよりも高い精度を実現しています。このサービスは、銀行だけでなく、さまざまな用途で利用できると思っています。やるべきテーマはいろいろとあります。失敗を恐れずに、また金融サービスという枠にこだわらずに、さまざまなことに挑戦していきたいと思っています。