インタビュー

LIXILの「スマート宅配ポスト」は、いま手に入る未来? CEATECの展示予定を聞いてみた

「名もなき家事」もスマートホームで削減、「快適・安心・安全な住宅」に

 住宅設備機器や建材の業界最大手である株式会社LIXIL。その名前をよく見る人も多いと思う。

 家庭で言うなら洗面所やお風呂、トイレから、サッシ、外構、システムキッチンなど多岐に渡り、そのカバー範囲も戸建住宅・マンションからオフィス・商業施設などの非住宅向けまでと幅広い。

 そんな同社だが、近年は、政府が打ち出しているスマート社会のコンセプト「Society 5.0」にもフォーカス。昨年大ブレイクした「宅配ボックス」でも、LIXILの名を知る人がいるかもしれない。これは、玄関の外に配置し不在でも宅配の荷を受け取り、荷物の到着をスマートフォンにお知らせするというものだ。

 住宅建材という縁の下の力持ちだけに会社名が表に出ることは少ないが、私たちの身近にあるコンビニ各社の外装もLIXILが手がけていると言えば、そのすごさが分かるだろう。

昨年出展の宅配ボックス「リンクスボックス」

 住宅建材メーカーとIoTやSociety 5.0は不釣合いと感じる人も多いと思うが、住宅も太陽光発電のHEMS以来、IoT化が加速している。つまり、「住まいと暮らしの総合住生活企業」と掲げ、あらゆる住宅建材を持つLIXILは、未来のスマート住宅に一番近い存在なのだ。いや、オンリーワンと言っても過言ではない。

 Google HomeやAmazon Echoがスマートホームの姿と思う人の方が多いだろう。しかし、これらのスマートスピーカーは、スマートホームを実現するための、単なるデバイスの1つでしかないのだ。

 ここでは、その研究成果や新しい製品を「CEATEC JAPAN 2018」で披露するとしているLIXILに、未来の住宅のビジョンを伺った。

玄関をトリガーに、家全体が連動へ「快適・安心・安全な住宅」を根本から見直し

――昨年、初めて「CEATEC JAPAN」に出展され、大盛況だったと聞きました。今年は2回目ということですが……。

株式会社LIXIL Technology Research本部 システム技術研究所 所長の三原 寛司氏

 おかげさまで、昨年はJEITAさんの「IoTタウン」というブースの一角をお借りして「スマートエクステリア」という住まいの外構をメインにデモさせていただきました。これは、スマートフォンと連携し、住宅の外まわりの映像の確認や、録画、音声のやりとり、カーゲートの操作ができるもので、会場で実演を行ったところ、たくさんのお引き合いを承り、大盛況のうちに終わりました。

 ハウスメーカーやビルダーさんなどもたくさん来場されますが、普段お付き合いのない部署の方ともつながりができ、ご採用いただくなんてこともあり、うれしい限りです。

 そこで今年は、LIXIL単独でブースを出展します。LIXILの考える「Society 5.0」や近未来の「快適・安心・安全な住宅」なスマート住宅のかたちをご覧いただけます。

昨年の「CEATEC JAPAN 2017」での展示の様子
今年の「CEATEC JAPAN 2018」での展示ブースのイメージ

――経済産業省が推進する「超スマート社会」「Society 5.0」ですが、自動運転や工場のIoT化など具体的なかたちが見えてきた一方で、単身世帯の増加や高齢化に伴う介護問題、さらには宅配問題など家を取り巻く環境にも変化がありました。LIXILでは「Society 5.0」について、現状、どうとらえているのでしょうか?

 近年、顕著なのは、グレーゾーンが加速しているという点です。以前は家の中か外か? 自宅か会社か? 出先なのか在宅なのか? はっきり分かれていました。しかしIoT化が進んだ今、これらがあいまいになっています。また、サービスの多様化や働き方、家族構成の変化によって、さまざまな変化や問題も浮かび上がってきました。

 例えば宅配の問題です。不在時の荷物の受け渡しの問題は皆さんご存知でしょう。しかし世の中はさらに先へ進んでいます。そのため米Amazonは、玄関を開けて荷物を置いて行くというサービスを始めています。また、クリーニングやデイケアサービスなど、自宅に業者を上げて受けるサービスも増加しています。

 以前は玄関を閉めるだけでよかったセキュリティですが、Society 5.0をベースに考えると、「あれ? そんなセキュリティでいいの? そんな玄関や外構でいいんだっけ?」と変わってきました。つまり、「どの業者がどこまで入れるか?」というエリア単位のセキュリティが必要になってくるわけです。

 また、従来からのHEMSによるエネルギー管理やZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)も引き続き対応します。しかしLIXILは、HEMSで管理できない建材もあるので、これらのIoT化も研究中です。

 私たちがモットーとする「快適・安心・安全な住宅」は、根本から見直さなければなりません。それができるのは住宅設備機器・建材メーカーのLIXILだけなんです。

――「根本的な住宅の見直しが必要」ということですが、LIXILが考え提供できるソリューションとは、どんなものなのでしょうか?

 水まわりからサッシ、玄関や門まわり、太陽光発電にタイル建材など住宅建材を全部持っているLIXILなので、総合的なソリューションを提案できます。

 Society 5.0において「快適・安心・安全な住宅」とは、シャッターや玄関、門や太陽光発電といった個々の対応もさることながら、それら全体を組み合わせて「家という空間をどう作るのか?」を考えることです。

(内閣府総合科学技術・イノベーション会議の参考資料「Society5.0実現に向けて」より)

 つまり最上位のレイヤーには「快適・安心・安全な住宅」というサービスが掲げられます。その基礎技術として、IoT対応の建築部材=デバイスがあります。つまり、自動シャッターであったり、水の使用状況が分かる水栓、家の温度管理、ドアの開閉状況が分かるセンサーなどです。また、エネルギー管理システムや空調システム、トイレや各種センサーを利用したヘルスケアなども含まれます。

 そして最下層には、これらのデバイスから上がってきた膨大なデータがあります。この実験施設では、データを蓄積・解析し、上位デバイスが「快適・安心・安全な住宅」になるように研究しています。

 窓や玄関、トイレといった個別の話ではなく、家全体をトータルで考える。例えば玄関を開けるなど、何かのトリガーをきっかけに、家全体が連動できるような仕組みを考えています。

 ただ、建材すべてがLIXILなんていう住宅はありません。なにより私たちは家電を作っていません。基本的には新築住宅を想定していますが、場合によってはリフォームという場合もあるでしょう。そのため、既存商材の組み合わせに加えたIoT化だけでなく、どんな家電にも対応できる住宅という空間の研究・開発をしています。

研究施設「U2-HomeII」

最新の「スマート宅配ポスト」をCEATECで体験デモスマートフォン連動で集荷依頼もOK、1日複数回受け取れる……

「スマート宅配ポスト」の発表会の様子

――宅配問題などの社会問題解決に向けて、新商品を発売すると聞きました。これも広義の「住宅(建材)の見直しが必要となった」ということでしょうか?

 昨今の宅配問題を踏まえ開発した「スマート宅配ポスト」を(2018年)10月に発売します。

 家にポストがあるのは当たり前ですが、そこに宅配を受け取れるボックスも付けて、「宅配ポスト」を当たり前にしていこうと思っています。住宅建材メーカーとして「ポストってなんだっけ?」ともう一度考え直し、時代に合わせたポストのあり方を提案していこうというわけです。おっしゃる通り、新しい住宅建材のあり方、住宅設備のあり方を提案していく一環です。

 さらに旧来はHEMSをはじめ、家の中は家にあるサーバーなりで管理するというのが中心でした。しかし近年はそれぞれのデバイスがクラウドにつながり、もっと論理的なサービスとして連携し合うというようになっています。代表はGoogle Homeなどのスマートスピーカーです。

 LIXILが提供するソリューションの1つは、IoTホームLink「Life Assist」(以下、Life Assist)です。これまでHEMSはHEMS、セキュリティはセキュリティで分かれていたシステムを、クラウドサービスとして連携させ2つを統合するシステムを開発しました。

 Google HomeやAmazon Echoのようなスマートスピーカーともクラウド経由でサービスを連携できます。HEMSもクラウドにつながるIoTデバイスの1つとなり、他のIoTデバイスとクラウド経由で連携させる。これまでにない新しいバリューが生まれると確信しています。

(IoTホームLink「Life Assist」カタログより)

――チラチラと製品名が出てきたので、具体的な製品について伺います。「CEATEC JAPAN 2018」に出展されるということですが、どのようなものを持ち込まれるのでしょうか?

「スマート宅配ポスト」の説明をしていただいた株式会社LIXIL エクステリア事業部 エクステリア商品開発部 第三商品開発室の向中野 雄彦氏

 はい、この「スマート宅配ポスト」の展示が目玉の1つです。

 以前発売した宅配ボックスは、ボックスに荷物が届くとスマートフォンに通知が届くというものでした。しかし、ボックスに入れられる荷物は1つです。2個目の荷物を受けるには、入っている荷物を出さなければなりませんでした。

 新しい宅配ポストは、郵便物も宅配荷物も1台で対応できます。中が空の場合は、そのまま荷物を入れてもらいます。これで電気的にロックがかかり、スマートフォンに荷物到着のお知らせが届きます。

 その後、別の荷物が届いた際は、スマートフォンを呼び出し、宅配ポスト内蔵のカメラから音声と動画映像が届くので、簡単に、安心して対応できます。出先から映像を見ながら宅配ポストのロックを解除。スペースがあれば複数の荷物を受け取れます。宅配ポスト内に、はんこも収納できるので受領印も押してもらえます。また、宅配業者のサービスを利用すると、集荷依頼も可能です。

 CEATEC JAPAN 2018の開催期間中はまだスマート宅配ポストが他でもなかなか見られないので、ぜひブースにお越しいただければと思います。

「スマート宅配ポスト」
(「スマート宅配ポスト」カタログより)

「あれ? カギ閉めたっけ? 電気消したっけ?」がなくなる!?「名もなき家事」を減らすサービス「Life Assist」

――先に説明のあったHEMSとIoTを連携させる「Life Assist」というサービスもデモされるのでしょうか? また、その機能やできることなどを教えてください。

ご自宅でも「Life Assist」を実際に使ってその効果を検証している、株式会社LIXIL ZEH推進事業部 ZEH推進営業部の佐藤 佑氏

 はい。こちらは「名もなき家事」を減らすというコンセプトのデモをします。

 ご自分の生活を振り返っていただきたいんです。「朝起きてシャッターを開ける」「暑くなったらエアコンを入れる(前に、リモコンを探す)」「暗くなったら電気をつける」「出かける前に戸締りと電気の消し忘れチェック」。これらの家事には名前がありません。でも、これら「細かいこと」を、まとめると1日でかなりの時間になります。

 Life Assistは、HEMSやIoT対応の建材、家電を連携して、これらの「名もなき家事」を少しでも自動化しようと考えました。

 Life Assistは、2つのサービスで構成されます。今までは別々に存在していた2つのホームシステムを連携させた商品です。1つは、エネルギーマネジメントや家電の遠隔操作を可能にする「HEMS」。もう1つは、見守りや防犯の「セキュリティ」。この2つを連携させることで、「より便利で安心な暮らし」を提供し、「住宅へのIoT導入」を促します。LIXILの住宅建材だけでなく、Google Homeなどのスマートスピーカー、家電メーカーやガスメーカーのエアコンや給湯、照明などに幅広く対応します。そして複数のサービスを連携し、新しい住宅のあり方を提唱するものです。

 例えば、考えごとをしながら家を出てしまった場合。「あれ? カギ閉めたっけ?」と不安になっても家に戻る必要はありません。遠隔で玄関ドアの施錠状態を確認し、開いていれば、施錠することもできます。

 「アシストルール」機能を使うと、ドアの開閉やスマートスピーカーへの特定の声がけをトリガーとして、いくつものECHONET Lite対応機器を自動で操作します。例えば、スマートスピーカーに「行ってきます!」と言えば、家中のシャッターを閉じ、LIXILの建材ではない、一般の家電メーカーのエアコンや照明なども自動で消します。これまでは、個々の家電をスマートフォンで遠隔操作できるだけでしたが、Life Assistを導入すると1つのアクションで複数の建材や家電を一斉に操作できます。帰宅時は、玄関を開けると出かけたときの逆の操作をします。トリガーには時間やHEMSのステータスなども指定できるので、「夜なら帰宅してもシャッターを開けない」という操作も可能です。

「Life Assist」のデモ
シャッターや帰ってきたところのデモ

 屋内カメラと連動して、子どもが帰ってきたら「LINE」の通知とその動画を添付するといったことも可能です。最近は仕事関係はメール、揮発してもよい情報はLINEと使い分ける方も多いので、LINEにも対応しました。

 私が体験した中で最も便利だったのは、遠隔でのお風呂沸かし(お湯張り)です。うちには小さな子どもがいるのですが、ドライブの帰りに渋滞にはまってしまい、帰ったら急いで子どもをお風呂に入れる必要があったことがありました。帰ってからお湯張りをしたら時間がかかりますが、車の中から遠隔操作すれば帰ったときにはお風呂が沸いているという具合です。給湯システムと連携できるメリットは、このようなときにも役立ちます。

 もう一歩進んだ使い方は、「高齢者を監視しない」見守りです。高齢者だって、ずっとカメラで監視されるのは嫌なものです。それが身内であったとしても。しかし、シャッターや窓、トイレのドアなどのセンサーだけでも十分、見守りができます。また、HEMSのステータスも外から見られるので、電気やガスの使用状況、太陽電池パネルの発電状況、電気の消し忘れなども検知できます。

 これらはすべてクラウドサービスの連携になるので、IFTTT(イフト)に対応しているデバイスなら、自分独自の連携をさせることも可能です。また、いろいろなアプレット(トリガーや連携操作のモジュール)があるので、スマートフォンの位置情報で自宅から500m圏外に出たら、自動的に施錠するなど複雑な連携も可能です。

Life Assistの利用例

家が自ら考え家族を見守る――もっと未来の住宅とは?

――近未来の住宅を見せていただいた気がします。今後の課題となるのはどのような点でしょうか? また、もっと未来の住宅は、どうなるのでしょうか?

 近々の課題は、Life Assistと連携できる家電の強化です。我々は住宅建材メーカーなので家電を持っていません。そこで家電メーカーさんにご協力いただき、お互いを対応させ「ホワイトリスト」というかたちで対応家電をどんどん増やすことにあります。いろいろなジャンルのいろいろな家電やデバイスが増えれば、新しいバリューやサービスが生まれるはずです。

 もう少し先を見据えると、家族の行動パターン分析です。今は何かをトリガーにして、あれをやる、これをやると手順を設定しなければなりません。しかし未来の住宅は、住宅が家族の行動パターンを分析し、自動で学習するようになるでしょう。

 行動パターン分析は、家族の異変も検知します。今の技術でも「倒れた」ことは判断できます。しかし未来の住宅は「倒れる予兆」を見極めます。各種センサーからの値や普段の行動との比較から、住宅が「この人はいつもより調子が悪そうだ」「活動量が少なくなっている」「回復に向かっている」などのヘルスケアもアシストします。もし異常の兆しがあれば、それを検知して住宅が他の家族に連絡を取ります。家が知能を持ち、家族を見守る時代になるでしょう。

――今年のCEATEC JAPANのLIXILブースは、ちょっと先の未来を具体的なかたちで見られそうで楽しみです! 最後にその意気込みを皆さんにお伝えください!

 昨年はスマートエクステリアという外構をメインにデモさせていただきました。今年は、「スマート宅配ポスト」や「Life Assist」をはじめとした商品を通じて、住まいのウチと、ソト、そして社会とのつながりを感じていただけます。また、自宅の周りを鳥瞰映像(車の車庫入れ機能のアラウンドビュー)で確認できるデモも行います。

 さらに、LIXILが研究したヒートショックにおける事故やその予防についてのパネル展示もいたします。

 また、先もお話ししたとおり、対応していただけるパートナー様あってのものなので、いろいろお話しさせていただければと思います。IoT対応デバイスを開発されている異業種の方とも、新しい価値を生み出すために積極的にお会いしたいです。

 パートナー様が増えることで、LIXILのシステムが世の中に広く知っていただければと考えます。

 ちょっとしたドラマ仕立てのデモを行いますので、LIXILの考える「快適・安心・安全な住宅」の未来を分かりやすくお見せできるように工夫しましたので、ぜひご来場ください。

 それぞれの製品には、説明員が付きますので、お気軽にお声がけください。