インタビュー

JTBが目指す、超スマート社会の「ツーリズム」とは?CEATECで見せるそのストーリーを聞く

株式会社JTB常務執行役員法人事業本部副本部長の古野浩樹氏

 CEATEC JAPANの目玉展示のひとつが、主催者特別企画の「IoTタウン」だ。最新テクノロジーを活用し、社会課題の解決と、新たな産業を創造する先進ユーザーによる展示エリアとして多くの来場者を集めている。そのIoTタウンのなかでも、毎年注目を集めている1社が、JTBである。

 今年の「CEATEC JAPAN 2018」でも、3年連続で、IoTタウンへの出展を決定。「人と、人の望みをつなぐJTBのデジタル」をテーマに、最新テクノロジーを活用し、3つのゾーンに分けながら、「ツーリズム」への取り組みを紹介。ストーリー性を持った展示を行うという。

 JTBは、CEATEC JAPAN 2018において、どんな未来を提案してくれるのだろうか。株式会社JTB常務執行役員法人事業本部副本部長の古野浩樹氏に、CEATEC JAPAN 2018への出展の狙いと、展示内容などについて聞いた。

デジタル+ヒューマンタッチで、新たな「ツーリズム」を

――JTBは、2016年、2017年と過去2回に渡ってCEATEC JAPANに出展しました。その成果はどうでしたか。

 2016年は、JTBのグループ会社であるJTBプランニングネットワークとして出展をしました。まだ手探りの状態ではありましたが、その出展をきっかけに、ビジネスの広がりが生まれるといった成果がありました。そこで、1年目の実績をもとに、2017年は、本社が主導する形で、JTBグループ全体として出展しました。

 JTBは、ヒューマンタッチを強みに、お客様が求めている「望み」を、旅行などを通じて実現する企業です。昨年の展示では、JTBが提供するソリューションを展示して、テクノロジーを旅行にどう生かすのかといったことをお見せできたと考えています。また、JEITAの会員各社や、出展企業からもお声掛けをいただき、一緒に社会課題の解決に取り組むきっかけを作ったり、“Society 5.0”を実現するための共創に向けた話し合いを進めたりといった成果がありました。

 毎年9月には、ツーリズム業界最大の国内イベントである「ツーリズムEXPOジャパン」が開催されていますが、このイベントは、ツーリズム業界全体として、旅行に対する機運を醸成するという役割があるのに対して、CEATEC JAPANのJTBブースは、共創の場として、あるいは「ツーリズムによる社会課題解決の道筋を示す」という役割を担うことになります。

 昨年展示したものは、多くが「共創モデルの構築を目指す」という段階でしたが、その一方で、パナソニックおよびヤマトホールディングスと共同で推進している、訪日外国人旅行者を対象にした国内向け「手ぶら観光」支援サービス「LUGGAGE-FREE TRAVEL(ラゲージ・フリー・トラベル)」は、2018年4月にサービスを開始しており、成果も上がってきています。

 2018年度末までには、21万1000個の取り扱いを目標にしており、JTBとしても数十人体制で目標達成を目指しています。ディファクトスタンダードにするためにしっかり数値目標の達成にこだわりたいと思います。こうしたサービスがあるという認知を、外国人観光客の間で高めることに力を注いでいるところです。

――昨年のCEATEC JAPANのJTBブースでは、キオスク端末によるリモート接客システムや、立体映像による新感覚の旅行体験提案のほか、車椅子型VRレーサーの「CYBER WHEEL」も展示していました。展示の幅の広さを感じましたが。

 そうですね。JTBのイメージからすると、例えばCYBER WHEELの展示には、「なぜ、これを展示しているのか」と驚いた方がいらっしゃるかもしれません。しかし、これも「新たな技術を使って、相互理解を進める」という点で、「スポーツツーリズム」の取り組みのひとつだといえます。

 いま、JTBが取り組んでいるのは、単に「旅行」を提案するというだけではなく、旅行などを含んだ「ツーリズム」全体を対象にビジネスをしよう、ということです。旅行を意味する「トラベル」だけでなく、深さと広さをもたらす「ツーリズム」まで、JTBはビジネスの対象にしています。また、スポーツツーリズムのほかにも、エコツーリズムやヘルスツーリズム、アドベンチャーツーリズムといったように、それぞれに特化したツーリズムの形もありますし、広い意味では、難民の問題もツーリズムの観点で捉えることができます。

 ツーリズムという観点から、SDGs(Sustainable Development Goals)で示された17項目の全てに貢献できると考えています。ただ、そのためには、我々単独ではなく、様々な企業との連携や、我々がこれまで得意としてきたリアルと、今後不可欠となるサイバーとの融合が重要になります。いわば、Society 5.0への取り組みを通じて、SDGsの実現に貢献するということになります。ツーリズム業界が果たせる役割はなにかといったことを、CEATEC JAPANの出展において模索しています。

――昨年のCEATEC JAPANのJTBブースには、JTBの高橋広行社長自らも見学に訪れたそうですね。

 社長の髙橋は、2時間ほどかけてブースや、CEATEC JAPAN全体を見学していたのですが、実はほぼ全ての役員がCEATECを訪れています。今年も、社長や役員がJTBのブースを訪れたり、各社のブースを見学したりする予定です。

 CEATEC JAPANへの出展は、社内に対しても大きな意味がありました。JTBは、経営改革ビジョンとして、「デジタル×ヒューマンタッチの融合によるJTBならではの新たな価値提供」を掲げていますが、当社が取り組んでいるデジタルテクノロジーの活用や、テクノロジー企業との共創への意思を、具体的な事例を示しながら、社内にも見せることができたからです。

 例えば、国や地方自治体が推進する事業案件は、単に旅行の提案や、観光地への誘致だけでなく、デジタルとセットにした提案が不可欠であるケースが増えており、自治体などの活性化にデジタルを活用することは、いまや当たり前になってきています。

 例えば、鳥取県境港市では、外国人観光客を対象にした「AI相乗りタクシー」の実証実験を開始したり、福島県会津若松市では、「AI運行バス」の実証実験を行ったりといった例があり、JTBもそれに参画しています。

 デジタルの知識を持っていること、データが持つ意味を理解していること、そして、これをお客様にどう展開していくかという仮説やアイデアを創出できることは、JTBグループの全ての社員に不可欠な能力になってきています。CEATEC JAPANでの展示を通じて、JTBグループの社員が、デジタル×ヒューマンタッチの具体的な取り組みを理解し、提案活動などにもデジタルを積極的に活用しようという機運が高まり、それが日々のビジネスのなかにも生きています。

「人の感情や希望、そして、達成したい目的にどう寄り添うか」超スマート社会を見据えた、JTBの答えとは?

――今年のCEATEC JAPAN 2018のJTBブースの展示内容はどうなりますか。

 「人と、人の望みをつなぐJTBのデジタル」をテーマに、最新テクノロジーを活用しながら、「Living Zone」「Forest Zone」「Digital Marketing Zone」の3つのゾーンに分け、新たな「ツーリズム」を体験していただく展示をします。

 昨年は、あれもこれも展示したいと欲張ったこともあり(笑)、盛り沢山の展示内容となってしまいましたが、今年は展示内容に「ストーリー性」を持たせ、3つのゾーンを通じて、「テジタルテクノロジー×ヒューマンタッチ」の融合による、JTBならではの新たな価値をお見せしたいと考えています。

JTBブース全体イメージ

――それぞれのゾーンではどんな展示を行いますか。

 まず、旅行の「入口」となる「Living Zone」と、旅行の「体験」となる「Forest Zone」から説明させてください。

 Living Zoneでは、自宅のリビングにいながら、画面に現れるオペレーターと、リラックスしながら旅行相談ができる「My Travel Living」を参考展示します。今、お客様が旅を想起したとき、実現のためには電話、スマートフォン、PCなど、あらゆる便利な方法がありますが、それでも店舗にきて、直接、相談をしたいというお客様も多くいらっしゃいます。

 それを一歩進めて、自宅にいながら、店舗に訪れるのと同じ体験を、デジタルによって実現するサービスとして提供するものになります。ぜひ、多くの来場者に体験していただきたいですね。また、スマートスピーカーを活用して、リビングから手軽に旅行の申し込みができるといったデモストレーションも行う予定です。

 一方で、Forest Zoneでは、非日常の体験づくりの場として、森をイメージして、旅行の新たな姿や旅行に留まらない取り組みをお見せします。

 そのひとつが、「ヘルスツーリズム」です。

 JTBは、岡山県玉野市が推進している「たまの版CCRsea」の取り組みに参画し、「生涯活躍のまち」の実現を支援しています。玉野市は、人口約6万人の自治体で、社会減と自然減により、毎年700人の人口減少があります。これは、年間約1%の人口減にあたり、10年経過すれば、10%もの人口が減ることになります。「たまの版CCRsea」は、アクティブシニアだけでなく、若者を軸とした構想に沿って、医療施設や温浴施設を活用したヘルスツーリズムを実現し、玉野市を活性化するものになります。個々の体調を確認するIoT、ウェアラブル端末も活用して、カスタマイズした健康プログラム提案も可能になるでしょう。この内容については、ブースでの展示だけでなく、講演のなかでも紹介する予定です。JTBでは、昨年、「JTBヘルスケア」のロゴを作り、ヘルスツーリズムに対して力を注ぐ姿勢を明確にしています。そうした取り組みもご紹介します。

――それでは、その2つの真ん中にある「Digital Marketing Zone」はどんな内容なのでしょうか?

 Digital Marketing Zoneでは、その「入口」と「体験」をつなぐ、ということで、JTBが行っているデジタルマーケティングの実例をご紹介します。

 特にご注目いただきたいのは、「Area Analyzer(エリアアナライザー)」というシステムを展示する予定なのですが、これは各種統計データや行動データ、地域のオリジナルデータを収集・分析し、地域の課題解決を行うためのマーケティングシステムです。この仕組みをご紹介するのは、今回のCEATEC JAPAN 2018が初めてになります。

 このシステムを使用することで、ウェブやソーシャルメディアの情報も活用しながら、観光客のニーズを捉え、具体的なコンテンツ開発や改善を行い、誰に向けて売っていくかを考える助けとなり、地域への経済波及効果も推し量ることができます。

 旅行者には、旅行で訪れる際に、どのサイトを見るのがいいのか、どんなクーポンを入手できるのかといった点で利便性を提供できますし、自治体や観光地は、いつ、どこで、どのクーポンを使ったのか、どんなところを訪問したのか、満足度はどうなのかといったデータをリアルタイムで把握し、次の適切な対策を考えることができるでしょう。

 このArea Analyzerは、クラウドサービスを活用したDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)です。自治体がDMPを構築しようとするとかなりの投資になりますが、Area Analyzerによって、JTBがDMPの基盤をクラウドサービスとして提供できますから、迅速に、効率良く利用することができるようになります。汎用性を持ったクラウドサービスとして提供できますし、これによって、地域のデジタルマーケティングを推進することもできます。

 JTBブースでは、これらの3つのゾーンを通じて、まずはリビングで旅行の相談をする個人向けサービスを体験してもらい、顧客にとって異なる旅の価値観によって旅の行き先やプログラムのマッチングを目指すデジタルマーケティングを表現。そして、旅行先においては、顧客にとって最高のエクスペリエンスを、地域とテクノロジーと共に創り出していく、というストーリーで展示します。人を中心に、人の感情や希望、そして、達成したい目的にどう寄り添うか。JTBとしての答えを、CEATEC JAPAN 2018でお見せします。

――どんな人たちに、JTBブースを訪ねてほしいですか。

 JTBブースでは、テクノロジーとの融合で、ツーリズムを通じて、人の望みをかなえられる、ということを表現したいですね。それを体験していただきたいと思っています。

 また、テクノロジーやアイデアをお持ちの企業の方々にも来てほしいですし、共創が生まれるきっかけになればと思っています。さらに、地域活性化に携わる方々にもJTBの活動を伝える場にしたいですね。旅行を切り口にすることで、共創の内容をワクワクするものにできますし、地域の活性化につなげたり、人の生活を豊かにしたりできる。地域の課題解決は簡単なことではないですが、その可能性を、JTBブースで感じてほしいですね。そして、昨年同様に、JTBグループの社員に向けた情報発信の場という役割も果たしていきたいと考えています。

 実は、ゾーンのひとつを「Forest」にしたのは、旅という非日常の体験を感じてもらい、ワクワク、ドキドキしてほしいという思いを込めました。

 ブース内では、小鳥のさえずりも聴くことができますから、最新テクノロジーが集結するCEATEC JAPAN 2018の会場のなかで、ホッとするために、JTBブースに来てもらってもいいですね(笑)。

「バーチャルも、今後のツーリズムのひとつ」

――JTBブースでは、デジタルとヒューマンタッチの組み合わせを通じて、JTBが目指す新たな「ツーリズム」の姿を体験できそうですね。

 こうしたデジタルテクノロジーを活用した取り組みは、様々な機会を通じて、紹介していきたいと思っています。

 先日も、ロボットベンチャーのTelexistenceやKDDIとともに、テレイグジスタンス(遠隔存在技術)を活用した遠隔旅行体験イベントを、東京の竹芝桟橋と小笠原諸島の父島を結んで開催しました。竹芝桟橋の会場で、VRヘッドセットと専用グローブを装着すると、父島に設置したロボットが同じ動きをして、VRで景色を見たり、グローブを通じて、質感や温度などを感じることができたりするという内容です。都心部にいながら、島の魅力や雰囲気を楽しんでもらうことができます。

 こうした技術を紹介すると、「旅行の機会を失わせることになるのではないか?」という指摘が必ず出るのですが、私はそうは思っていません。旅行好きだが、身体や健康上の事情があって、旅行に行けない人もいます。「昔いったハワイが忘れられないが、行けない」という人もいるわけです。そうした人たちの望みを実現することが、デジタルテクノロジーの活用によって可能になります。

 さらに、旅行は「お試し」ができません。時間とお金を使って、行ってみたもの、どうも想定していたものとは違って、残念だったということもあります。このテクノロジーを、旅行に行く前のプロモーションに利用すれば、実感し、納得して、旅行に行ってもらうことができます。

 「ツーリズム」という概念からみれば、実際に移動することだけを指すのではなく、デジタルを活用して、バーチャルで移動することも、今後のツーリズムのひとつの姿になると考えています。

――CEATEC JAPAN 2018では、Society 5.0への貢献も重要なテーマになっています。JTBでは、Society 5.0の実現に向けてどんな取り組みをしていますか。

 JTBは、お客様の望みや目的に合わせて、旅行を提案し、手配し、サポートする企業ですが、役割はそれだけに留まりません。

 DMC(ディスティネーション・マネジメント・カンパニー)として、観光という観点から地域を活性化する取り組みだけでなく、少子高齢化や農業人口の減少といった地域の課題を理解し、その課題を解決するために、地域の魅力を発見し、それをどう発信していくかということにも取り組んでいます。それを実現するためには、デジタルテクノロジーは不可欠です。JTBが得意としてきた現場力だけでは我々が提供する価値を最大限にするには限界がありますし、お客様にも的確にリーチができません。その点でも、デジタルテクノロジーの重要性はますます高まってくるでしょう。

 とはいえ、JTBは、デジタルテクノロジーを直接持っている企業ではありません。様々なテクノロジーを持っている企業と、JTBが持つツーリズムの知見を組み合わせて、課題を解決しなくてはなりません。これはまさに、Society 5.0で打ち出されている姿と同じです。

 JTBには、もともと多くの企業とつながる文化はありますが、それはJTBとお客様という立場でのつながりがほとんどでした。パートナーというと、旅館や航空会社、鉄道会社など、旅行を一緒に作り上げて、提案する企業のことを指していました。ところが、最近では、様々な業種の企業と組んで、社会の課題を解決していく取り組みが増えてきました。しかも、そのパートナーシップの輪は、大手企業だけではなく、ベンチャー企業にも広がっています。

 これからは旅行の形も多様化します。そのなかで、共創は重要な意味を持ちます。CEATEC JAPAN 2018を通じて、共創のチャンスが生まれることを期待していますし、それによって、Society 5.0の実現に向けて貢献をしていきたいと考えています。