6.6年以内に半数以上がIPv6に、Googleが「正常動作するIPv6」の必要性訴える


 17日に開催された総務省の「IPv6によるインターネットの利用高度化に関する研究会」の第18回会合で、グーグル株式会社の及川卓也氏が、世界におけるIPv6の状況について説明した。

 Googleが同社サイトで公開している「IPv6 Statistics」のデータよると、Google検索のユーザーのうち0.5%がすでにIPv6接続になっているという。前年比で140%に増加しており、及川氏は、現在のペースで進めば「6.6年以内に半数以上のユーザーがIPv6を利用することになる」と述べた。

Google検索におけるIPv6接続の比率(IPv6 Statisticsより)

 IPv6 Statisticsでは、国別の比率も世界地図で色分け表示している(以下の数字は、いずれも記事執筆時点のもの)。これによれば、導入率が最も高いフランスが4.68%、次いでルーマニアが2.97%でそれぞれ緑色で表示されている。他は、例えば米国で0.77%、中国で0.54%など、各国ともまだそれほど導入が進んでいるわけではないことがわかる。

 一方、日本は1.55%で、オレンジ色の表示。これは、IPv6接続ユーザーが比較的多いが、同時に、IPv6サイトへの接続で遅延や信頼性の面で問題ありと判定された国だ。問題があるものの、IPv6接続が少ないということで赤色になっている国は南米などを中心にいくつかあるが、オレンジ色は日本だけだ。

国別のIPv6接続比率(IPv6 Statisticsより)

 すでに本誌でも何度か伝えているように、NTT東西の「フレッツ 光」では全ユーザーに対してIPv6アドレスを割り当てている。しかし、それは網内(地域IP網またはNGN)での映像配信サービスやIP電話サービスに利用するためのもので、インターネットには接続できない。

 こうした環境からIPv6対応サイトにアクセスしようとすると、Windows 7/Vistaなど最近のOSではまずIPv6でアクセスを試み、タイムアウトしてからIPv4でアクセスすることになるため、遅延が発生する。「IPv6-IPv4フォールバック問題」というもので、Googleが日本を問題ありと判断した原因だ。

 及川氏によると、こうした正しく動作しないIPv6インターネットアクセス環境のユーザーが、日本には最大30%存在するという。そのような状況の中で、日本においてGoogleがIPv6を有効にした場合の影響は、平均で最大0.35秒の遅延。問題をかかえる最大30%のユーザーにおいては、最大0.89秒になるとしている。接続の失敗率も、IPv4のみの場合に比べて8倍に悪化するという。

 このほか、Windows 7のInternet Explorer 9でシミュレーションした結果では、Googleのホームページにアクセスするのに、正常なIPv6では0.9秒だが、IPv6-IPv4フォールバックがあると3.3秒で、3.67倍の時間がかかるという。特にページの表示のために複数のドメインにアクセスするサイトにおいて影響が大きいという(詳細は、本誌2011年11月22日付の関連記事を参照)。

IPv6-IPv4フォールバック対策に「IPv6無効化」

 IPv6-IPv4フォールバックについては、ISPのキャッシュDNSサーバーにおいて、ユーザーからのDNSクエリーに対してIPv6アドレス(AAAAレコード)を返さないいことで、無用なIPv6アクセスを発生させないようにする「AAAAフィルター」という手法がある。

 6月6日には「World IPv6 Launch」が世界規模で実施され、以降、GoogleやFacebookなどのサイトが、IPv6を恒久的に有効にしていくことになる。これを前に、日本のISPやNTT東西が連携して、AAAAフィルターなどによるIPv6-IPv4フォールバック対策を進めることが決まっている(詳細は、本誌2012年4月19日付の関連記事を参照)。その結果、IPv6-IPv4フォールバックによる影響は、発生したとしても局所的になることが予想される。

 しかし及川氏は、こうした手法は問題となる現象を回避するにすぎず、根本的な解決ではないと説明。また、そもそもDNSの応答にフィルタリングをかけるなどということは、DNSの透明性を侵害することになる。DNS応答が改ざんされていないことなどを検証するための技術として普及が予想されている「DNSSEC」とも干渉が懸念される。

 World IPv6 Launchに際しては、とりあえずはIPv6の無効化によってIPv6-IPv4フォールバックを回避するにしても、長期的には世界のネットワークやウェブサイトなどはIPv6を採用していく方向にあると説明。例えば10年後といったスパンでみれば、IPv6を有効にしなければ機能しなくなる機器やサービス、アプリが出ている状況も考えられるほか、反対にIPv4の対応を維持するキャリアレベルの通信機器ベンダーやアプリベンダーがどれだけ残っているかとの疑問も提示。IPv6無効化による日本へのダメージは大きいとして、「正常動作するIPv6の導入が唯一の解決策」とした。

 昨年5月からは、「フレッツ 光ネクスト」のユーザー向けに、ISPがIPv6インターネット接続サービスを提供できる仕組みが提供されている。しかしまだ利用者が少ないということで、費用や申し込み手続きの面などを改善し、ユーザーにとって「正常動作するIPv6」をより導入しやすい状態にしていく必要性を、及川氏は訴えた(KDDIでは「auひかり」の加入者にIPv6アドレスの割り当てを順次開始しているが、これにあたっての申し込みや追加費用、特別な設定変更や機器の交換は不要となっている)。

「IPv6によるインターネットの利用高度化に関する研究会」第18回会合の様子

 なお、IPv6-IPv4フォールバック対策はあくまでも当面の回避策であり、最終的には「正常動作する」IPv6インターネット接続サービスの利用を増やすことが重要との認識は、グーグルのみならず、研究会に出席したNTT東日本および日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)でも一致しているところだ(詳細は、本誌2012年5月23日付の関連記事を参照)。

 日本における今後のIPv6の利用率については、及川氏は「2けた台」が必要だとして、進ちょく状況を評価できるような具体的な「数値目標」を研究会の場で設定するとともに、目標が達成できたかどうか、あるいは達成できなかった場合は原因は何なのかといったことをきちんと検証していくことを強く求めた。


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(永沢 茂)

2012/5/18 20:24