位置ゲームの位置登録データで携帯の通信可能エリアをマップ化「コロプラ」


 東日本大震災において、携帯電話のパケット通信は被災地での数少ない通信手段だったが、基地局が破壊されて利用できない地域も多かった。

 株式会社コロプラの「コロニーな生活☆PLUS」(コロプラ)は、携帯電話の位置ゲー(位置情報ゲーム)のパイオニアといえるサービスだ。これを元に同社は震災直後の3月18日、被災地から位置登録があった地点を地図上で示すことによって、携帯電話が使える地域がわかるサービス「位置登録実績マップ」を公開した。3月29日には計画停電情報と位置情報を組み合わせたサービス「停電チェッカー」を公開。さらに、3月31日から始まった、位置登録の統計情報から人々の移動や活動の傾向を分析しレポートする「おでかけ研究所」でも、震災後の関東や東北の経済活動の様子を読み解いてみせた。

 位置登録実績マップをはじめとする震災関連サービスについて株式会社コロプラ 取締役 サービス統括部長 吉岡祥平氏に、おでかけ研究所について株式会社コロプラ 取締役CSO(最高戦略責任者) 長谷部 潤氏に話を聞いた(以下、本文中敬称略)。

 

位置登録実績マップを24時間で開発

株式会社コロプラ 取締役 サービス統括部長 吉岡祥平氏

――まず、震災当日からサービスを開発するまでどう動いたか聞かせてください

吉岡:震災当日は全員自宅に帰宅しまして、翌日の3月12日の土曜日に、来れる人だけ会社に来て対応に当たりました。まずやらなくてはと社内で議論になったのが義援金で、弊社から寄付するとともに、アイテム課金の仕組みを使ってユーザーさんからの寄付を集めるサイトを作りました。

 次に、コロプラを連絡手段にできるようにしました。ユーザー一人一人がコロニーを持っていて、コロニーどうしでコミュニケーションがとれる機能があるんですが、普段は遠く離れていると連絡がとれないゲームシステムになってるんですね。これを、被災地の方とは誰でも通信できるようにしました。また、被災地のユーザーさんが維持してきたコロニーを、アクセスできない間は時間を止めてあげる凍結機能も追加しました。

 そこまで、土曜の夕方に始めて、一晩で対応を完了させました。

――何人ぐらいで作業されたのでしょうか

吉岡:20人か30人ぐらいだったと思います。

 週明け月曜日(3月14日)はいちおう出勤としたのですが、まだ動いていない路線も多く出勤できない社員も少なくありませんでした。大きな余震も続いていたため、火曜日からは全員自宅作業となり、その中から「位置登録実績マップ」のアイディアが生まれました。

 ニュースを見ていると、被災地では携帯の電波が入らず、身内で安否確認もできないような状況と報道されていました。コロプラは位置ゲームで、移動距離に応じてポイントがもらえたり、また位置登録した場所によって、その場所でしか取れない特産品のようなアイテムがあるんです。ユーザーの方は、位置登録するのが生活の一部になっているので、被災時でも習慣のひとつとして位置登録をされる。

 ユーザーの方が位置登録されたところは、つまり電波が通じているということです。地域によって携帯電話も含めた通信インフラが壊滅状態にあるようだとの報道を見て、被災地のどこで携帯電話が使えるのかというデータを公開したら役に立つんじゃないかと、位置登録実績マップを開発しました。

――自宅作業ではどのように連絡を?

吉岡:Skypeのチャットを使いました。位置登録実績マップも、どのようなサービスにするかとか、どのように公開していけばいいのかとか、技術的な内容とか、全社でチャットで話し合いながら開発しました。

 火曜日(15日)の夕方から2~3名で開発を始め、12時間で機能が完成しました。その後12時間で、全社スタッフがチェックし、ブラッシュアップしてリリースしました。社員全員が見られる社内のサーバーに公開して、ユーザーインターフェイスや、色覚障害の方への配慮も含めた色づかい、データの精度、集計する期間、あるいはどんな形で公開を告知すると認知してもらえるかなど、そういったことをチャットで情報共有しながらブラッシュアップしていきました。

 ただ、弊社で普段サービスを作るときには、画面を見ながらみんなで意見を出し合う形をとっているんですが、テキストのチャットだと相手の表情など細かい反応が見えないのがやりづらかったですね。

――このマップで携帯が復活していくのを実感しましたか

吉岡:はい。更新したあとにマップを自分たちで見るんですけど、日に日にマップの空白が埋まって色が増えていくのがわかって、うれしかったですね。隅々までスクロールして、ここは昨日だめだったの今日は通信できてる、とか。ユーザーさんもマップを見て電波の入るところに移動されたりしていたようです。

位置登録実績マップはキャリア別に見ることができる。これは震災前日、3月10日のドコモ震災当日(3月11日)のドコモユーザーの位置登録実績震災から5カ月以上経った8月21日の位置登録実績。かなり戻ったが、沿岸部では人がいなくなったこともあり、元通りではないことがわかる

――この1マスの単位は

吉岡:位置登録が1回でもあれば色がつきます。実は、最初は、位置登録件数によって色を変えるという案も出ていたんですよね。でも、「基地局が生きているかどうかがわかることが重要なんだ」ということがSkypeでの議論から出てきて、シンプルで見やすい形にしました。

――あの壊滅的な状況下の被災地でも、ユーザーの方はコロプラで位置登録をされていたんですね

吉岡:ユーザーさんの書き込みを見ると、辛い状況の中でコロニーにアクセスできてほかの人と連絡をとれたということで、心がなごんだという声もありました。エンターテイメントというより、コミュニケーションのツールとして使っていただけたかなと思っています。

――数少ない心の休まる場ということもあったかもしれませんね

吉岡:そうですね。「コロプラにアクセスできて安心しました」というユーザーさんの声もありました。日常がすべて失なわれた状況で、ひとつでも震災前と同じものが残っていると安心する、そういうお気持ちなのではないかと思いました。

 また、ふだんよく位置登録をしているユーザーさんの場合、ある程度移動したら登録するというのが生活の一部として習慣になっている方も多いので、それだけでもやっている方も多かったんじゃないかと想像しています。その結果を、基地局として使えるかどうかの情報として還元できて、お役に立てたかなと考えています。位置登録実績マップについては、キャリアさんからもお問いあわせをいただきました。

震災当日のマップ。1マスで1回でも位置登録があれば、通信実績ありでマスが表示される8月21日のマップ。宮戸島や松島は、まだ位置登録がない航空写真と重ね合わせて見ることもできる

――それから少し経って、「停電チェッカー」も公開されたんですね

吉岡:はい。電力問題から計画停電が実施されて、うちも位置情報を使ったツールを提供しようということで開発して、3月29日に公開しました。東京電力さんからデータが公開されるようになったタイミングですね。

 大変だったのが、東京電力さんが毎日毎日データの出し方を変えて。

――しかも、最初はデータ抽出ができない形のPDFでしたよね

吉岡:3~4人ぐらいのプロジェクトを作って、まずPDFからデータを入力する人を割り振ってデータベース化しました。間違った情報を公開するのがいちばん怖かったので、ダブルチェックの人を追加したりとか。

 その後、Excel形式で公開されるようになったと思ったら、今度はどんどんエリアの区分が変わるんですよね。それも手作業でやるしかないので、手作業で更新しました。可能な限りリアルタイムで、なおかつ正しいデータをユーザーさんにお届けするというところに苦心しました。

――位置情報も合わせて

吉岡:はい。位置登録したところの停電情報を出すようになっています。たとえば、出掛けた先で位置登録をすれば、事前に計画停電情報をチェックしていなくてもわかるようになります。あと、自宅と勤務先など特定の場所の情報がわかるように、一度位置登録したところをお気に入りとして登録して、そこのデータが一目でわかる、という仕組みも作りました。

 停電チェッカーはもう少し拡張しまして。お店に行くとき、そこが当日の計画停電エリアに該当するなら臨時休業する可能性もありますし、お店の場所が停電エリアなのかを知りたいと思ったので、お店のホームページに停電チェッカーを載せていただけるようにAPIも公開しました。

停電チェッカーの画面イメージ停電チェッカーはパソコン用ウェブページでも提供

――話をうかがうと、少人数で次々スピーディーに開発されているようですが

吉岡:普段から、なるべくプロジェクトを小さくして、コミュニケーションをとりながら開発する体制を作っています。毎朝の5~10分程度の立ちミーティングで今日は何をやろうと決めて動くなど、そういう文化を作ってきたというのがありまして。突発的に停電チェッカーを作るとなったときも、同じように人を集めてプロジェクトを立ち上げました。

――プロジェクトの人集めはどのように

吉岡:提案者が声かけた人のほか、その人と相性のいい人とか、その人が足りないスキルを持った人とかを私のほうでアサインしたりしています。

――さきほどのPDFからのデータ入力のような地味な仕事もありますよね

吉岡:停電チェッカーの入力では、いつもテストをやってる人にお願いしたんですね。データをチェックして、これは間違っているとか、他社さんのサービスのデータも含めてクロスチェックしたりと、言わなくても細かいところまできっちりやってもらえました。

――普段の開発も同じような感じでしょうか

吉岡:そうですね。朝にサービスの変更について話して、その日のうちにリリース、次の日に数字でユーザーさんの反応を見て、やっぱり違ったといって直す、というサイクルをずっと回していく感じです。SIerさんなどでの開発はゴールが決まっていますが、携帯サービスの開発では正しいゴールを知っている人はいない。ユーザーさんのそのときの気分によっても変わるので、それに合わせてすばやく開発して出せる体制を大切にしています。

 

位置登録データから経済の復興状況を分析

株式会社コロプラ 取締役CSO(最高戦略責任者) 長谷部 潤氏

――続いて「おでかけ研究所」について話を聞かせてください。どのような狙いで、いつごろから始めたのでしょうか

長谷部:サービス開始から蓄積してきたデータを加工して分析するという試みは、今年に入ってから始めました。当初は、それをサービスの改善に役立てたり、カジュアルな「おでかけランキング」を発表したりというイメージで考えていたんです。

 しかし、実際にデータをとってみると、個人を特定しない統計データなんですが、思った以上に詳しく人々の動きが読み取れて、さらにその先の、社会の動向や経済状況まで読み取れる。そこで、もう少しアカデミックな形でやっていこうということで、「おでかけ研究所」として3月31日から始めました。

――震災後ですね

長谷部:そうです。震災がきっかけになった面もあって、当時自粛ムードがあったんですが、そもそも人が動かないと経済が回らず復興にもならない。そこで、レポートの1回目から、人が動くことが経済の源泉、と啓蒙するのをテーマにしました。

 3月31日に掲載した1回目のレポートでは、全体として動きは回復してますというデータを紹介しました。特に、関東から被災3県への人々の移動が回復してきていて、東北自動車道が開通したり、東北新幹線が開通したりといった動きに合わせて、階段状に移動量がはね上がっている、ということを伝えました。

 2回目が東京の夜の繁華街の回復です。花見のシーズンでもあり、メディアではさかんに自粛自粛という言葉が聞かれた時期ですが、実際にはみんな飲みに行ってたんですね。人間、いいときだけ飲みにいくわけではないですしね。

 ちなみに、不安に思われるユーザーの方がいらっしゃるといけないので、これはいつもお断りしているのですが、位置情報などのデータは個人情報とは切り離して、統計的に処理しています。ですから、データを分析しているわれわれも、ユーザーの方の個人情報を知ることはありません。その点については、ご安心いただきたいと思います。

コロプラお出かけ研究所
http://colopl.co.jp/odeken/
被害の大きさに全国が自粛ムードに覆われていたが、実際には3月下旬の連休明けから、東京の夜の繁華街には震災前に近いレベルまで人が戻っていた

――これはデータで見るとかなり意外ですね

長谷部:震災から1週間過ぎて、3連休明けからは、都心はほぼ通常どおりに出てる感じですね。やっぱり、飲みに行ったりしてお金を使っていかないと、回復もないですから。自粛ばかりでは経済全体が萎縮してしまっていいことはないと後からずいぶん言われましたが、実際には3月下旬から都心部の繁華街には人はかなり戻っていたんです。

 3回目のレポートはお花見の自粛の影響をまとめました。これは実際に前年比マイナスになっていましたね。ただ、千鳥ヶ淵だけは、桜をキーホルダーにして被災地へ寄付する、という企画が実施された結果、前年比プラスなんですよ。

――プラスですか。ほかの場所へ花見に行く人が流れたのもあるかもしれませんね

長谷部:続く4回目は4月27日に発表したのですが、千円高速がおでかけに及ぼす影響をまとめました。。調べているうちに、弊社のデータと経済指標との相関性が高いということに気付きました。国の経済指標は2カ月遅れぐらいで発表されるので、それに比べると「おでかけ研究所」のレポートは速報性が高いと言えます。

 6月には、震災から100日の時点で、震災関連の調査をまとめたレポートを出しました。ゴールデンウィークのデータを見ると、仙台や岩手の観光地も戻ってきています。しかし、福島は戻らないんですね。これは、人々が引っ越してしまったのではないかと推定できます。政府のデータとあわせて分析すると、転出する住民票の移動は、単身赴任などでふつう男性のほうが多いんですが、福島では女性のほうが多い。これをレポートで「母子疎開」という言葉で解説しました。

――分析作業はお一人で担当されているんですか

長谷部:いえ、アクセスログなどを解析するチームにデータを整理してもらっています。まず私のほうで仮説を立ててテーマを決め、そのテーマに合わせてデータを整理してもらう。そのデータを見ると新たなストーリーが浮かんできますので、それに合わせてより細かくなどデータを再整理してもらって。キャッチボールのように2~3回繰り返しています。

――最初の仮説での読みが外れたりすることは

長谷部:ありますね(笑)。でも、読みが外れて、意表をついたデータだったりする方が、レポートとしてはかえって面白いものになりますね。そういう場合は、予想の範囲内ではないデータがまとまったという意味で、レポートとしての意義も大きいと思います。クロス集計などのデータ抽出がやり直しになってしまいますので、手間は余計にかかってしまいますが。

 たとえば、千円高速が終わって、同時に、被災者の方は東北のエリアの高速が無料になりましたよね。そうなると、人々の動きが落ちる一方、東北エリアは伸びるんじゃないかとなんとなく推測できますよね。

 ところが調べてみると、思ったより落ちてなかったんですよ。そこで、もうちょっと細分化してデータを見てみようと。すると、高速道路は落ちてるんですが、鉄道は上がってる。つまり、人々の移動手段が鉄道にシフトしたんじゃないか、ということがわかります。

 それを見て東北の移動を調べてみると、道路の利用も伸びているんですが、鉄道も伸びている。さらにその鉄道を細分化してみると、土日には東京に来ている人も多いことがわかりました。

――位置登録の情報から、高速と鉄道を見分けられるんでしょうか

長谷部:駅とサービスエリアの位置をプロットしてありますので、それと照合してわかります。東海道新幹線で面白いのが、熱海から三島の新丹那トンネルに、途中で一箇所だけ地上に出る部分があるんですが、ここが人気で登録する人が多い(笑)。そうしたクセなども手がかりに、移動を分析しています。

被災地3県は、ゴールデンウィーク以後、徐々に人の移動が多くなっていることがわかるコロプラの位置データから仮説をたて、総務省の統計にあたったところ、福島県では女性の転出が突出して増えていた。長谷部氏はこの移動をレポートで「母子疎開」と名付けた

――話を聞くと、やはり人の移動と経済が直結しているようですね

長谷部:東北の方のショッピングモール利用について調べたこともありますが、やはり高速道路の無料化以降、増えていますね。ですから、3月から4月の頃のレポートでは、関東から東北へという支援めいた動向を追っていたんですが、最近は東北自身の消費の回復などを追う方向に向かっています。支援にも、復興のための支援と、消費しやすくするための支援とあると思いますが、データを見ると後者の支援も重要だとわかりますね。

――これから、おでかけ研究所の向かう方向は

長谷部:こうした分析はデータの量が多ければ多いほど精緻になりますので、他社さんの位置情報もあわせて分析できればと思っています。

 通常のチェックインは、なにかしら特別な場所でやるんですね。一方、コロプラの位置登録は、ゲームとひもづいているので、移動の途中でも位置登録する。「ハレ」と「ケ」でいうと、ケ(日常)の場所も含めて登録するのがコロプラだと私は言ってます。なので、位置登録の回数が多い。

――今後もテーマは尽きないと

長谷部:そうですね。ですから、より社会の役に立つリサーチ活動をしていければと思います。改めて強調させていただくと、位置情報は統計処理をしていて、個人の特定はできないようになっています。そうしたことには最大限に留意しつつ、集まったデータの成果を社会に還元していければと考えています。


関連情報

(高橋 正和)

2011/8/22 10:00