5分でわかるブロックチェーン講座

ついに米国の銀行が暗号資産市場に参入、機関投資家の資金は流入するか

後塵を拝する日本ではCBDC専門組織が発足

(Image: Shutterstock.com)

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

日本銀行がCBDC専門組織を発足

 日本におけるデジタル通貨およびCBDCへの取り組みが、頻繁に報道されるようになってきている。

 日本銀行は20日、決済機構局にデジタル通貨の専門組織を立ち上げたと発表した。主に、デジタル決済システムやCBDCに関する調査を担当する組織だという。まずは数名体制からスタートとなる。

 決済機構局は元々、「決済サービスの高度化」と「決済システムの安全性確保」を担当している組織だ。今回正式に立ち上げられた組織は、以前より研究チームとして発足されており、こちらの寄稿で紹介したCBDCに関する技術課題レポートの作成などを行ってきた。

 日本銀行はこれまでに、雨宮副総裁による声明「中銀デジタル通貨と決済システムの将来像」や、欧州中央銀行およびイングランド銀行などとの共同調査事業などを行ってきた。背景には、Facebook主導のLibraに始まる一連のCBDC論争がある。既に後塵を拝しているあたり、やはり日本だなという感想が正直なところだが、米国および中国にこれ以上後れを取らないよう、危機感を募らせていることを願いたい。

参照ソース


    日銀、「デジタル通貨グループ」を新設 CBDCの検討推進
    [ロイター]
    Bank of Japan sets up digital Yen division to “expedite” CBDC research
    [Decrypt]

米国の銀行が暗号資産カストディを開始

 米国通貨監督庁(OCC)が、国立銀行と米貯蓄貸付組合に対して暗号資産の取り扱いを許可する方針を公表した。これにより、ついに米国の銀行が暗号資産市場に参入してくることが予想される。

 Web3.0の決済・送金シーンにおいては、帳簿型(口座型)を採用する現状の銀行システムは、生存が難しくなる可能性が極めて高い。通貨供給の二層構造(*1)は維持すべきとの考え方も理解できるが、現状のままでWeb3.0に対応できるはずがないといえるだろう。日本でも迅速な変革が求められている。

 なお、昨今のデジタル通貨およびCBDCの流れを鑑みると、今回の米国の動きはとても明るい材料だ。今のうちに、銀行システムをデジタル通貨やCBDCに対応できる状態にしておくことで、実際に開発が始まった段階でスムーズな移行が可能となる。

 タイムマシン経営ではないが、米国の後を追う日本でもこの流れが起こることを期待したい。

*1 中央銀行が現金と中央銀行預金からなるマネーを供給し、民間銀行がそれを核として信用創造、預金通貨を供給する構造

参照ソース


    米通貨監督庁が声明、米国民貯蓄銀行などで仮想通貨カストディ提供可能に
    [CoinPost]
    National Banks and Federal Savings Associations as Lenders
    [Federal Register]

今週の「なぜ」銀行の暗号資産市場参入はなぜ重要なのか

 今週は日銀CBDC専門組織の発足と米国OCCの暗号資産についての方針に関するトピックを取り上げた。ここからは、「なぜ重要なのか」解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

銀行口座で暗号資産を提供できるのが理想
機関投資家が市場に参入するには一部の中央集権主体が必要
ブロックチェーン基盤の通貨システムは銀行に透明性と効率性をもたらす

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

銀行口座で暗号資産を提供できるのが理想

 本連載でも度々取り上げてきた暗号資産を含むデジタル通貨およびCBDCだが、超えなければならない大きな壁が存在している。その1つが銀行の参入だ。

 米国でも日本でも、やはり銀行が貨幣流通のハブとなっている。銀行口座の開設数は、暗号資産ウォレットのユーザー数の比ではない。できることなら、銀行口座で暗号資産を管理したいと誰もが願っていたことだろう。(当然だがネットバンクが前提である)

機関投資家が市場に参入するには一部の中央集権主体が必要

 今回、米国OCCにより公表された方針は今後の暗号資産市場を確実に成長させる。機関投資家による参入が一層期待できるからだ。

 これまでの暗号資産市場は、秘密鍵の紛失による資産凍結やハッキングによる資産流出が重なり、決して良い印象を持たれているとは言えない状況が続いてきた。この印象を払拭するには、とにかく安全な資産管理方法と信頼できる事業者の参入が必要だといえる。

 前々回でお伝えした通り、完全な非中央集権は困難であり、市場の拡大には一部の中央集権主体が必要なのかもしれない。これは顧客にとっての選択肢となり、顧客にオプションを提供することは競争激化の観点からもポジティブなことではないだろうか。

ブロックチェーン基盤の通貨システムは銀行に透明性と効率性をもたらす

 先述の通り、将来的なCBDCの発行を考慮すると、民間銀行は暗号資産の管理に現時点で対応できるようにしておく必要がある。先を見据えて、変化の激しいWeb3.0の時代に今から備えておかなければならない。

 なお今回のOCCの発表は、暗号資産に関する特別な法律を制定したわけではない。1988年より、銀行はデジタル資産の管理資格(免許)を有しているため、暗号資産もデジタル資産として見做されたという結果だ。

 暗号資産やCBDCを含むブロックチェーン基盤のデジタル通貨は、言わずもがな銀行に透明性をもたらす。また、帳簿型からトークン型の資産管理システムへと移行することにより、オペレーションの効率化も期待できるだろう。

 GDP第3位の国としては、インターネットの波に乗り遅れたことで付いてしまった米国および中国との差を、ブロックチェーンでさらに広げられるのだけは避けたいところだ。

編集部より: 当連載は、第9回(3月末掲載)まで仮想通貨 Watchにて掲載していたものです。第9回以前はこちらからご覧ください

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami